瞳は驚いた。「随分と若い証券会社の方ね」
パスモがため息をつく。「あーあ、いちいち真に受けるなよ。これだから役人さんは困る」
「え?」ドンキーも驚いている。「なんで役人さんがこんな廃墟にいらっしゃるわけ?」
パスモは視線を外した。「俺達の監視さ」
「ちょっとニュアンス違うんだけどね。彼らの安全を確認しにきているの」
「頼んだ憶えはない」
「それが私の仕事なの」
ドンキーは嬉しそうに笑った。「ほほお、なるほど。こりゃ、面白い話がかけそうだ」
パスモはドンキーを睨んだ。「ありのままに書くだけで10万は高い」
「ちゃんと脚色するって。例えば、この瞳さんは、お役所でなくキャバレーで働いていて、その給料を全額、この家に渡している」
「ふーん」
「それでもお金が足りなくて、女子プロレスラーになって、その賞金まで持ってくるようになる」
「タイガーマスクかよ」
「いや、まさか。ライオンクイーンさ」
「変わらないって」
「じゃあさ、プロレスラーじゃなくてAV嬢にでもなってもらうか?」
瞳が怒鳴った。「ちょっと、やめてよ。本当だと思われちゃうじゃない」
パスモが吹いた。「信じるかよ」
「知らない人が読んだらってこと」
「安心しろ。その物語はこの家の外には公表しない」
「イヤよ。私がAV嬢なんて、絶対にイヤ」
「だそうです」
ドンキーは首を傾げた。「プロレスラーとAV嬢以外に金を稼げる仕事なんてあるかな?」
「いくらでもあるじゃない」瞳はムキになった。「IT企業の社長とか、お医者さんとか」
「そんな当たり前の職業じゃ、話が盛り上がらない」
「平凡で結構です」
「さすが、お役人」
瞳はドンキーを睨みつけながらうっすらと紅い頬を膨らませた。