広子「うちの近藤光一、由井弓菜の近藤真子の兄貴なんだよ」
弓菜「私のクラスの近藤真子さんのお兄さんが、大木先生のクラスにいらっしゃることは存じております」
広子「存じてるのは当然だろ。で、どうだい?近藤真子は?」
弓菜「はい、とてもいい子です」
広子「あのな、いい子なのは当然だろ、新入生なんだから。他に気付いたことはないのかよ」
弓菜「特段、ありません」
広子「山本華子が酒癖悪いって言いふらしてんじゃねえのか?」
弓菜「あ、それは」
広子「なんだよ、あるんじゃねえか。そういうことを聞いてるんだよ」
弓菜「それは誤解であることを近藤さんには伝えました」
広子「事実なんだけどな」
弓菜「そういう大人の事実を1年生に聞かせる必要はありません」
広子「だけど、兄貴が家でそう言ってたら、また聞くハメになるだろ?」
弓菜「では、お兄さんの光一くんにも、誤解であると伝えなくては」
広子「誰が?」
弓菜「担任、あ、だから、その、大木先生が」
広子「その大事なことをこの大木に黙っていたのはどこのどいつだ?」
弓菜「すみません、私のミスです」
広子「わかりゃいいんだよ」
弓菜「次からは気をつけます。でも、どうしてその事をご存じなんですか?」
広子「学校中に盗聴器を仕掛けてあるんだよ」
弓菜「え?まさか」
広子「機械じゃなくってね、情報網があるってこと」
弓菜「わかりました」
広子「いいか、なんでもひとりで抱え込もうとするな。教師なんて無力なんだよ、全員集まってやっと、一人前なんだよ」
弓菜「はい、肝に銘じておきます」
季来子「あら、お茶会ですか?」
広子「人がさぼってるような言い方をするねえ、仕事してんだよ」
摩央「新垣指導員、あちらで事務職の方がお待ちかねです」
優季子「新垣先生も、お茶、飲まれます?」
季来子「自分で入れます」
摩央「西野さん、先程の件、直接、仰られたら」
優季子「そうですね、あの、新垣先生、大変お忙しいところ、申し訳ありませんが、出勤簿への捺印をお願いします」
出勤簿?そういえば、毎朝、事務室に行くと出勤簿が置いてなくって、困ってたんだった。
季来子「出勤簿、今年度は随分、出来上がるのが遅かったんですね」
優季子「いえ、4月1日から、ずっと事務室にありましたけれど」
季来子「私が毎朝、事務室に行った時にはなかったわよ」
優季子「あら、いらしてたんですか?おかしいですね、出勤簿はずっといつもの場所にあったはずですが。あ、そんなことどうでもいいです。さあ、まとめて捺印してください」
季来子「はあ、一週間分、押しました」
優季子「明日からは毎日、きちんと押してくださいね」
なによ、その嬉しそうな顔は?
摩央「西野さんも事務室と職員室の行き来、大変ですものね」
ゆっこ、私が事務室に行く時だけ、隠してやがったな、この野郎
優季子「いえ、私はそれが仕事ですので構いませんのよ。でも、児童の模範たる先生が出勤簿に捺印しないなんて、担当されている児童達が気の毒です」
摩央「そうよね、児童が一番ですものね」
優季子「あら、新垣先生、お加減でも悪いのかしら。目がつりあがってますわよ」
広子「ははは、おもしれえ」
ゆっこ、覚悟しときなさいよ