人間の体に糖分は必要不可欠なものだけど、別にそれをお菓子から摂取する
必要は無い。
果物、錠剤、点滴……今の世の中に糖分摂取の手段はいくらでもある。
じゃあどうして、この世にお菓子というものが存在するんだろう?
俺は思うんだ。
お菓子っていうのはその存在に感謝や愛情、祝福、称賛といった「いい」想いが
たくさん込められていて、人々を幸せな気持ちにさせるからなんじゃないかって。
「陸、お誕生日おめでとう!」
満面の花のような笑みと共に差し出された、中くらいの箱。白地に銀色の砂粒の
ようなものが所々にキラキラ光っている特殊な紙で出来たそれには、緑色をした
絹地のリボンが結ばれていた。心なしか、微かに甘い匂いが漂ってくる。
「ありがとう、瀬那。開けてみていいか?」
もちろん!と快諾してくれた瀬那から箱を受け取り、丁寧にリボンを解く。
中から出てきたのは……焦げ茶一色でシンプルではあるが、上品な感じのチョコ
レートケーキだった。
驚いた表情で見やれば、ちょっと恥ずかしそうな表情の瀬那。
「瀬那、これもしかして……お前が?」
「まもり姉ちゃんに教わって作ったんだ。陸はそんなに甘いもの好きじゃないっ
て知ってるけど、僕はお誕生日にはやっぱりケーキがあった方が、それらしくて
いいと思って……」
それに……陸にはお金で買えるものじゃなくて、僕の“気持ち”を受け取って
ほしかったから……
俯いた顔はほんのりと赤く染まり、最後の方は消え入りそうな声だったけど、その
部分に限って俺の心に一番強く響いた瀬那の言葉。
嬉しい!心の底からそう思った。手を洗うのももどかしく、一緒に入っていたプラス
チック製のフォークで一切れ、ケーキを口に放り込む。
美味い……甘さ控えめだけど、濃厚なカカオの味がしっとりと口内に絡み付く。
まも姉の指導のおかげもあるんだろうけど、このケーキの美味しさの理由はそれ
だけじゃない筈だ。その理由に思いを至らせると、ケーキの食感や香りとも相俟って、
何だか凄くエロティックな気分になった。
「陸?どうしたの?」
知らず知らずの内に俺の口元はだらしなく緩んでいたらしい。自分では見えなかっ
たけれど、目尻もみっともなくヤニ下がっていたに違いない。
美味しくなかった?という瀬那の不安そうな声で、ハッと我に返った俺は、慌てて
表情を引き締めた。いけないいけない、危うく瀬那の俺に対するイメージが崩れる
ところだった。
「いや、あんまり美味いもんだからビックリしちゃって……」
ニッコリと、「瀬那が憧れている甲斐谷陸」の微笑みを顔に浮かべ、瀬那に返事を
する。
瀬那は俺の言葉にホッとしたようで、よかった!と嬉しそうに声を弾ませる。
可愛いな。
こんな可愛い恋人と素敵なプレゼント、今年の誕生日は今まで生きてきた中で
間違いなく最高のものだ。
「なあ瀬那、俺、お前にお返しがしたいんだけど……?」
ゆっくりと呟きながら、もう一切れケーキを口に放り込み、少しだけ味わう。
瀬那が、え?と不思議そうな顔をして無防備になった瞬間、彼の両頬を強く自分の
両手で挟み、可憐な唇に口付ける。
「○×△□★♯♪†~¥@※!!!???」
驚きのあまり、瀬那が金縛り状態なのをよいことに、口に含んだチョコレートケーキ
を瀬那の口内に押し込んだ上で、俺は瀬那の口内を舌で存分に弄った。
むせ返るように濃艶なカカオの香りと口端から零れる銀糸が、いやが上にも気分を
昂揚させる。
・
・
・
ずっとこうしていたいと思いつつも、俺の胸を両の拳で叩いて抗議する苦しそうな
瀬那に、俺はしぶしぶ彼を解放した。口元を拭いながら、潤んだ目で睨み付けて
くる瀬那。
……怒った顔も可愛いとはよく言ったもんだ。
「り、陸っ!」
「なぁ、瀬那……?」
抗議と誘惑の声が重なる。だが誘惑の声には相手の頬を指先でゆっくりと辿ると
いうオプションが付いていた。途端、瀬那の瞳に弱々しいながらも、妖しい光が
宿る。
君という甘い甘い「お菓子」が、幸せな気持ちで一杯にしてくれた僕の心。
ねぇ、お願い?
今日一日は、僕だけのものでいて?
他の人に食べられちゃダメだよ。その代わり僕も、君以外の「お菓子」は
絶対に食べないから。
人間が生きてゆく上で必要不可欠な糖分。
僕達はそれをわざわざお菓子から摂取する必要は無い。
でも僕は叶うことなら、これから先の糖分摂取は全部、
君から摂りたいんだ……。
必要は無い。
果物、錠剤、点滴……今の世の中に糖分摂取の手段はいくらでもある。
じゃあどうして、この世にお菓子というものが存在するんだろう?
俺は思うんだ。
お菓子っていうのはその存在に感謝や愛情、祝福、称賛といった「いい」想いが
たくさん込められていて、人々を幸せな気持ちにさせるからなんじゃないかって。
「陸、お誕生日おめでとう!」
満面の花のような笑みと共に差し出された、中くらいの箱。白地に銀色の砂粒の
ようなものが所々にキラキラ光っている特殊な紙で出来たそれには、緑色をした
絹地のリボンが結ばれていた。心なしか、微かに甘い匂いが漂ってくる。
「ありがとう、瀬那。開けてみていいか?」
もちろん!と快諾してくれた瀬那から箱を受け取り、丁寧にリボンを解く。
中から出てきたのは……焦げ茶一色でシンプルではあるが、上品な感じのチョコ
レートケーキだった。
驚いた表情で見やれば、ちょっと恥ずかしそうな表情の瀬那。
「瀬那、これもしかして……お前が?」
「まもり姉ちゃんに教わって作ったんだ。陸はそんなに甘いもの好きじゃないっ
て知ってるけど、僕はお誕生日にはやっぱりケーキがあった方が、それらしくて
いいと思って……」
それに……陸にはお金で買えるものじゃなくて、僕の“気持ち”を受け取って
ほしかったから……
俯いた顔はほんのりと赤く染まり、最後の方は消え入りそうな声だったけど、その
部分に限って俺の心に一番強く響いた瀬那の言葉。
嬉しい!心の底からそう思った。手を洗うのももどかしく、一緒に入っていたプラス
チック製のフォークで一切れ、ケーキを口に放り込む。
美味い……甘さ控えめだけど、濃厚なカカオの味がしっとりと口内に絡み付く。
まも姉の指導のおかげもあるんだろうけど、このケーキの美味しさの理由はそれ
だけじゃない筈だ。その理由に思いを至らせると、ケーキの食感や香りとも相俟って、
何だか凄くエロティックな気分になった。
「陸?どうしたの?」
知らず知らずの内に俺の口元はだらしなく緩んでいたらしい。自分では見えなかっ
たけれど、目尻もみっともなくヤニ下がっていたに違いない。
美味しくなかった?という瀬那の不安そうな声で、ハッと我に返った俺は、慌てて
表情を引き締めた。いけないいけない、危うく瀬那の俺に対するイメージが崩れる
ところだった。
「いや、あんまり美味いもんだからビックリしちゃって……」
ニッコリと、「瀬那が憧れている甲斐谷陸」の微笑みを顔に浮かべ、瀬那に返事を
する。
瀬那は俺の言葉にホッとしたようで、よかった!と嬉しそうに声を弾ませる。
可愛いな。
こんな可愛い恋人と素敵なプレゼント、今年の誕生日は今まで生きてきた中で
間違いなく最高のものだ。
「なあ瀬那、俺、お前にお返しがしたいんだけど……?」
ゆっくりと呟きながら、もう一切れケーキを口に放り込み、少しだけ味わう。
瀬那が、え?と不思議そうな顔をして無防備になった瞬間、彼の両頬を強く自分の
両手で挟み、可憐な唇に口付ける。
「○×△□★♯♪†~¥@※!!!???」
驚きのあまり、瀬那が金縛り状態なのをよいことに、口に含んだチョコレートケーキ
を瀬那の口内に押し込んだ上で、俺は瀬那の口内を舌で存分に弄った。
むせ返るように濃艶なカカオの香りと口端から零れる銀糸が、いやが上にも気分を
昂揚させる。
・
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ずっとこうしていたいと思いつつも、俺の胸を両の拳で叩いて抗議する苦しそうな
瀬那に、俺はしぶしぶ彼を解放した。口元を拭いながら、潤んだ目で睨み付けて
くる瀬那。
……怒った顔も可愛いとはよく言ったもんだ。
「り、陸っ!」
「なぁ、瀬那……?」
抗議と誘惑の声が重なる。だが誘惑の声には相手の頬を指先でゆっくりと辿ると
いうオプションが付いていた。途端、瀬那の瞳に弱々しいながらも、妖しい光が
宿る。
君という甘い甘い「お菓子」が、幸せな気持ちで一杯にしてくれた僕の心。
ねぇ、お願い?
今日一日は、僕だけのものでいて?
他の人に食べられちゃダメだよ。その代わり僕も、君以外の「お菓子」は
絶対に食べないから。
人間が生きてゆく上で必要不可欠な糖分。
僕達はそれをわざわざお菓子から摂取する必要は無い。
でも僕は叶うことなら、これから先の糖分摂取は全部、
君から摂りたいんだ……。