冷艶素香

現ES21がいろんな人達から愛されていたり、割れ顎の堅物侍を巡って、藤と金の人外魔境神未満ズが火花を散らしたりしてます。

大奥シリーズに関してのご注意!④(内容重複)

2007年12月23日 | 大奥(進×瀬那)
大奥シリーズ本編の『爪紅』及び『朱を奪う紫』、並びに現時点では題名
未定の進典侍編は、another storyである『April shower』とは、まったく
違う世界のお話です。

もともとパラレル小説である大奥シリーズですが、あの平行世界は複数
存在しており、本編の方は全体的に暗い長編連載、カテゴリー名「もう一
つの大奥」の方はそれとは反対にコメディー中心で、大抵Happy Ending
で終わる読切りが多くなる事と思われます。

上記以外は双方、大体同じ設定となっております。そして同じ設定の中
で最も重要なのは、拙ブログの大奥は、男子禁制ではないという事です。

将軍職だけはやはり男系襲職(相続?)ですが、香夜さんの捏造設定に
より(脳内ミキサーで何日も何日も攪拌致しましたけれど、やっぱり小野
不○美先生にだけは、やっぱり日本の方向に向かって土下座しておこう
……お許し下され……orz)、男でも子を生せる事にしてあります(詳しく
お知りになりたい方は、進典侍編③をお読み下さいませ)。

どちらにも有り得たかもしれない“過去”、有り得たかもしれない“未来”
そして決して交わる事の無い二つの“現在”。

以上の事をご理解の上、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

ちなみに、本編とanother storyの温度差は↓くらい御座います。

本編:
ttp://jp.youtube.com/watch?v=avGCYaYMAjs
(国が違いますけど/苦笑。チャングムと同じ舞台で、あんなにも違うもの
か……面白いけど)
ttp://jp.youtube.com/watch?v=CX4sCCfv23E&feature=related
これも国が違う上、香港で制作された作品だから違和感がなぁ……北京
の宮廷なのに皆、広東語喋っとる(苦笑)。衣裳やセット、大道具・小道具
の類なんかの時代考証もされ方、微妙な感じだし。でも、雰囲気的にはま
あ……(普通話Verの最終回は結構、感動出来たし)? が、やっぱし俳
優陣がどいつもこいつも好みに合わない……何故あれがモテる……?
一番笑ったのは側室の下着が、金太郎の前掛けが派手になったものにし
か見えなかった事(笑)。
ttp://www.neowing.co.jp/detailview.html?KEY=VICL-61548
(14番『奥女中』、17番『炎上』。無料で試聴出来ます)
ttp://jp.youtube.com/watch?v=rEmbtS10Yx4
(また国違いますけど、まああまり気にしないで下さい。赤御台→瀬那のイ
メージ。雰囲気と言い歌詞の意味と言い、愛っつーよりも呪いに近い気がす
るのですが、それでこそ赤羽×瀬那なのかも? ボーカルの人の顔がガ○
トっぽかったら更に良かったんですけどねぇ……)
ttp://jp.youtube.com/watch?v=fttNm0jeItY
(これも赤御台×瀬那将軍かな? 女声なのがちょっとアレかもしれません
が……)
他の大奥住人達×瀬那ソングもそれぞれにあったりするのですが、ま、
そちらのご紹介はまたいずれ。


another story:
ttp://jp.youtube.com/watch?v=yxESYh5K_h4
(↑本編も面白いのですが、以下に述べているのはOPについてです)

赤御台×瀬那将軍を中心として、こういった方向に持ってゆきたいと、日夜
精進を重ねているところです(だが方向が明らかに間違っている方向)。大
奥に限らず、赤羽×瀬那のギャグストーリー(without耽美要素)って、↑こ
れに集約されるんじゃなかろうかと真剣に考えている(でも「真剣」の解釈が
間違っている)今日この頃。ちょっと聞いた感じではカッコ良さげで、その実、
何言ってんだかサッパリ分からないカオス。でも耽美要素が入るとこれ、駄
目なんですよね。
ジャ/ガーさんも嫌いじゃないけど、やっぱりマ○ルさんを初めて読んだ時の
インパクトには及びません。瀬那は……め/そ(笑)?
ttp://www.neowing.co.jp/detailview.html?KEY=VICL-61548
(12番『美味に~』、18番『蝶のワルツ』、同じく無料)
ttp://jp.youtube.com/watch?v=RW42-c9_y5k
(映像は関係無いです[苦笑])
セレクトが微妙過ぎるのはまあ、勘弁して下さい(苦笑)。普段あんま、
音楽聴かない人間なんで……(苦笑)。

大奥 進典侍編その④

2007年12月23日 | 大奥(進×瀬那)
「進さんは凄いですね」

無邪気な敬慕も今となっては時として、進典侍の心を酷く苛立たせる。
まさか“彼”に対し、このような冷ややかな眼差しを向けるようになる日
が来ようとは、昔の彼であれば到底信じられぬことではあったが、どう
しても素直に喜ぶ気にはなれないのだ。

「凄いことなど何一つ無い、無駄口を叩いている暇があるならば、一回
でも多く素振りをしろ」
「あ、はい……」

一瞬、叱られた仔犬のようにシュンと項垂れつつも、すぐに気を取り直し
て両手に再び木刀を持ち、自分が教えた型に倣って、懸命にそれを振る
小さな勇姿を見れば、今度は慙愧と憐憫が綯い交ぜになった感情が進
典侍の心の中に、複雑な渦を巻く。

(我ながら何と見苦しく、また聞き苦しきことを……進清十郎よ、そなた
それでも武士か?)

だが己を責めるのと同時にまた一滴──未だ諦め切れぬ、切ない想い
が典侍の心に、静かな波紋を広げる。

(だが今の彼は「瀬那」であって、「瀬那」でない……)

天は何故(なにゆえ)、我から我の“すべて”を奪い給うたか。

(ようやっと、進むべき道が見え始めたかと思うたに……)

愛しき者たちよ、そなたらと引き裂かれたこの恨みは綿々として、絶ゆる
の期、無からん──
                     ・
                     ・
                     ・
周知のように、紫苑御方ことキッドがやってくるまで、幼君より第一の
寵を得ていたのは、進典侍だった。実際のところ、※“小”樹公(しょう
じゅこう)は、稀な気高さを持つこの側室に対し、恋い慕うと言うよりは
多大な憧憬と尊崇の念を以って接していただけなのだが、彼のキラキ
ラと無邪気に輝く憧れの眼差しが傍からは、この御方に対する大層な
御寵愛と考えられていたのだった。

「ちい姫はいい子だね」

そして一年前、本人の真情はさておき、その上様よりの御寵愛(?)と
もう一つの理由に支えられて、進典侍の立場は一時ではあったが確か
に、大奥に並ぶ者無き確固としたものであった──あの蛭魔局でさえ、
しばらくは鳴りをひそめていたほどである。

(お腹さま)
(お腹さま)
(おめでとう存じ上げまする、お腹さま)
(ほんに愛らしき姫君)
(将来は光り輝くような佳人となられること、疑い無しに御座りますな)
(程無くしてお生まれになられましょう若君にさぞお優しい、良き姉君に
おなりあそばしましょうぞ)
(ま、お気の早いこと)
(じゃが、あながち間違ってもおらぬ)
(そうじゃ、そうじゃ)
(あ、お笑いになりましたぞえ、お腹さま、御覧じませ[ごろうじませ])
(我ら日夜、しかとお守り申し上げねば、このお可愛らしさに魅せられた
妖しの者に、攫われてしまうかもしれませぬなあ)
(これこれ、縁起でも無いことを)
(((((((ホホ、ホホホ……)))))))


囂しい(かまびすしい)周囲の祝福の声と笑いの中心にあって、乳母の
胸に抱かれ──乳をやることだけはさすが、男には無理であったので、
やはり乳母や子守を雇える財力のある家でしか、男からの産児は望め
なかった──、無邪気にスヤスヤと眠っていた嬰児(みどりご)。

自身も未だ、少年の域を抜け切らぬ風貌と性情の若き将軍は、自身の
血を分けた初子の誕生に、感情を隠すこと無く、素直に狂喜した。

「ちい姫、ちい姫」

その頃の彼は毎日、いつもの日課を可能な限りの速さで終わらせると、
お鈴廊下を御目見以上の者たちが平伏して出迎える中、威厳をもって
殊更にゆっくりと歩くようにとの蛭魔局からの教えも忘れ、いつも飛ぶよ
うに走って、この自分の局部屋へとやって来たものだった(※御太刀持
[おたちもち]に腰の物を預け忘れた時だけはさすがに、激怒した局にこ
ってりと絞られていたが)。

「可愛いちい姫、今、生きている人たちの中でまもり姉ちゃん以外に、
僕と血が繋がってるたった一人の大切な家族。きっときっと、幸せに
なってね」

                     ・
                     ・
                     ・
正式な命名の儀までは未だ日が有り、便宜上、「ちい姫(さま/君)」と
呼ばれていた進典侍の娘は、その仮の呼び名に相応しい、大層小さな
身体付きではあったが、まだ両目も見えぬ内からニコニコとよく笑い、両
手両脚をバタバタと元気良く動かしては、誰しもを温かく優しい気持ちに
させた。

加えて、その愛らしさだけでなく、彼女の体内には直参旗本の中でも名
門中の名門・進氏の血が流れている。

次代の天下人の長姉となるやもしれぬ御方(その上もし、同腹の弟御が
将軍家の跡目を継がれた暁には?)。不幸にして御当代に男児出生有
らずとも、彼女が持たされるであろう莫大な額の※御化粧料、並びに進
氏との姻戚関係締結を考えれば──将軍家の姫君方との御縁組はこれ
まで、何かと面倒な事になりやすく、先代一の姫であったまもり姫のよう
な例外を除いては、先代の他の娘御たちを押し付けられた諸国大名家と
京の公家衆は、将軍、姫君方とその母君たち、大奥に仕える人々を除い
ては、結納・婚儀の手配を行なった役人たちでさえ、陰ではブツクサと不
平をこぼしていたものだったが、先代の薨去に伴ってうら若き少年将軍が
立つと、彼の背後から白い両手で幕政のすべてを操るようになった、「悪
魔」の異名を持つ某・大奥総取締の辣腕によって、国力・国家財政共に
急激に充実するようになり、将軍家と幕府の威光と権力は再びあまねく
世を照らすようになった。

このような御世に於いてならばと、当代将軍家一の姫の婿君の座に、己
が血縁を据えたいと願う大名・公家衆は、姫君御出生の報せを耳にする
と、たちまちにして色めき立った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

語釈

小樹公…
『後漢書』に記されている話の一つ、将軍達の誰もが己の軍功を
誇る中、唯一人、一言も発せず、大きな木の下、静かに佇んでい
た、謙虚な(実は作戦だったんじゃなかろうか?)馮異に付けられ
た敬称・「大樹将軍」が後世、日本で征夷大将軍の異称として使
われるようになった。
瀬那ちっちゃいし、時々謙虚が行き過ぎて卑屈スレスレになって
る事もあるんで、ここは敢えて「“小”樹公」にしてみました(笑)。

御太刀持…
主君の太刀を持ってその傍に控えていたり、主君が何らかの作業
を行う際、邪魔になるようであれば一時的に、その太刀と小太刀を
預かっておく役職。

御化粧料…
高位の既婚夫人乃至は未亡人のお小遣い。嫁の持参金を指す事
も。

大奥 進典侍編その③

2007年12月23日 | 大奥(進×瀬那)
女子はその胎内で子を育み、十月十日の後にこの世へと送り出す。が、
男の身で同性の“つま”となった者の場合、その住まいの庭先に、“夫”
と契りを交わした翌日、明らかに周囲の他の植物とは異なった、神秘的
雰囲気を漂わせる、小さな若芽が発芽したかと思うと(逆に言えばその、
※琅汗(ろうかん)を思わせる独特の緑色をした芽が地上に頭を擡げて
こない場合、それは媾合の未完成、乃至は不完全を意味する訳である)、
それは驚異的な速さで成長し、あっという間に一本の木となる。

そして女子の場合と違い、この時代の医術では未だ詳しい経緯は分か
らぬものの、ある日突然、その木は実を結ぶ。結実して十月十日の後、
“母”がその実に手を触れるとその瞬間、それは“母”の手に落ちてくる
のだ。それから一刻後に“母”が再びその実に手を触れると、鳥の雛の
ように内側より外皮を己が手で破りながら、人間の赤子がこの世に生ま
れ出でてくる。

“庭先に”と言うくらいであるからして、長屋住まいの庶民や、国民の大
半を占める貧しい農民たちが男同士で祝言を挙げることは、皆無と言っ
てよかった。何しろ同性を“つま”とするには、大層な手間隙と金がかか
ったので──古式に則った多くの繁雑な行事をすべて終わらせたところ
で初めて、男同士での生殖が可能となるのは、これまた、この世界この
時代の人智の及ばぬ範囲であった。しかし奇妙なことに、女子と女子と
の交わりからは何故か子が生まれず、よって女子の同性婚は認められ
ていなかった──、男同士の同性婚が可能なのは将軍家・大名家・禁
中並びに一部公家、妻帯が認められている宗派の寺社、豪商、庄屋と
いった、限られた富裕層のみであった。

当然のことながら、富裕層の“奥方”が、供連れも無しに出歩くなど、滅
多なことでは有り得ず、高位の武家・公家・皇室の人間であればそれは
尚更のことだった。“彼ら”は外出時には馬でなく、同じ階級の婦人たち
のように輿、または駕籠に乗り、或いはやはり彼女ら同様、外出の機会
そのものが少なかった。

それは唐土以西の国々の人間が知れば腰を抜かし、両目が飛び出で、
開いた口が塞がらなくなるであろうほど仰天するに違い無い生態、並び
に慣習・文化だったが、江戸幕府初期に発布・施行された厳格な鎖国
令により、正式に国が閉じられ、“黄金の国ジパング”の国情が、世界
の国々の大部分に知られなくなってゆく中にあって、通商や、新将軍の
襲職など、幕府の慶事に際して祝賀の意を伝えるため、時折派遣され
ていた通信使などによって、細々と、しかし古代や中世に比べればずっ
と平和的且つ良好な国交関係を、幕府創設の頃より保ち続けていた韓
(から)と中華には、今でこそかつてほどでは無いが、この二国の一部
地域には未だ、男と男の同性婚制度が残っており(そもそもこの特異な
婚姻形態は彼らより伝えられたものであった)、日韓中の三国間に於い
ては現在、日ノ本では男同士の同性婚が著しく発展し、またそれによっ
て結ばれた“めおと”の割合も三国中、最も多い、しかしだから何だと言
うのか、取り立てて話題にするほどのことでもあるまいにとまるで、息を
するのは生者として当然のことではないかと考えるのと、ほぼ同じ感覚
で以って、平然とこの事実を受け止めていた。

よって、韓・中華に於いてさえ、殆ど話題らしい話題にもならなかったこの
話は、陸路と海路を旅するそれらの国々の商人たちなどの口から東洋各
国に伝えられても、距離の隔たりも有ってか、与太話・御伽噺の類としか
受け取られなかったという。

加えて、日ノ本を実地に見聞出来た西洋人の数が、あまりに限られて
いたということもあった。

かつて日ノ本に切支丹の教えをもたらした西班牙(いすぱにや)・葡萄
牙(ぽるとがる)など南蛮よりの宣教者・パドレ(padre)、即ち伴天連(ば
てれん)たちも、ジパングの人々の特異な生活について──その中で
も、彼らの奉ずる唯一にして絶対の神、及びその御子の教えに大いに
反する一部階層の特殊な婚姻形態に関する記述は、他のどの話題よ
りも多くの頁を割いて、詳細に記されていたらしい──数多くの資料を
母国、並びにローマ教皇庁へ送ったが、彼らの多くはジパングの権力
者たちの心変わりによる処刑・追放・強制的棄教を経て、国許へ無事
に帰ること能わず(あたわず)、ほんの一握りの生還者たちが、上司た
ちの前で神の御名にかけて嘘偽りを申さぬと誓った上で行なった目撃
証言も、「乱心者めが、異国の邪教にかぶれ、かの地の悪魔に魂を売
り渡したか!?」と、改めて火刑などに処せされ、後世、真実が判明す
る時には既に、興味深い資料はすべて、“異端者たち”と共に火中へ
投ぜられたか、或いは散逸し、それを書いた者たちも、彼らの報告を目
と耳にした者たちも等しく全員、彼ら言うところの“神の国”に旅立つか、
若しくは生前に犯した罪の重さに応じて煉獄で浄罪の大火に焼かれる
ため、地の底へ下るかして、どちらにしてもこの世から姿を消していた。
ちなみに誰が昇天し、誰が今も浄めの焔の熱さに苦悶しているかはそ
れこそ、“神のみぞ知る”ところである。

そしてまた、宗教関係者以外でジパングを訪れた西洋人たちも、長期
に渡る船旅の様々な過酷さ故に命を落としたり、或いは当人の意志で
母国へは二度と戻らず、異国──人によっては第二の故郷となってい
たのかもしれないが──の故郷の土と化すことを選んだりするなどして、
どうであれ母国の土を再度踏んだ人間は少なかった。

西洋諸国の中では唯一、長崎の出島に商館を構えることを許され、一
年に一度は江戸へ上って、当代の将軍より謁を賜っていた※阿蘭陀カ
ピタンも、行動の自由を完全に制限されていて、長崎の町方の様子す
ら滅多に目にする機会を与えられず、故にカピタン始め、彼の部下に当
たる阿蘭陀商館員たちも、彼らがしばし暮らした小さな島国の、不思議
な婚姻事情に関しては、定住を決めた者たちでさえ、妻としてあてがわ
れたのがすべて女子であったこともあり──同性を求めるオランダ商館
員はいなかったし、いたとしても異人の“つま”になりたがる日ノ本の男
を見つけ出すのは至難の業、子どもを持ちたがるようであればそれ即ち
祝言、日蘭双方の関係者共に物入りとなっていたであろうし、生まれた
子はやはり、その一生を出島から出ること無く、ひっそりと終えていたこ
とだろう。結局、すべては想像と心配の域を出なかったが──、衝撃の
事実の欠片たりとも、知る術を持たなかった。

逆に、これまた奇妙な縁(えにし)に導かれ、日ノ本から海を越え、山を
越え、異国の地へ渡った、腰も身分も軽い人々はまず言葉の壁にぶち
当たり、また自分たちにとっての常識──同性婚は上流階級の特権な
のだ──にさして疑問を抱くことが無かったが故に、婚姻にまつわる故
国の複雑なしきたりの数々について説明することなど、殆ど無かった(し
たらしたで、土地の人々からホラ吹き呼ばわりされた)。

故国で負った何らかの心の傷を忘れて心機一転、誰も自分とその過去
を知る者のいない異国で、真っさらな生活と人生のやり直しを望んだ者
も多かったし、また別のある者たちは訪れた、或いは根を下ろした国で
の後援者・保護者がその地域の宗教界の最高指導者、乃至は最高権
力者などであったがため、交わすことの出来た言葉自体が少な過ぎた。

斯くしてやはり、極東の不可思議な小国の実情は、そちらから見て遥か
西方の諸外国には、正確に伝わらなかったのである。

だがしかし、真実が伝われば韓と中華以外の諸国からは、奇異と恐怖
の目で見られること間違い無しであったろう、男子と男子の結婚は、先
にも述べたような無数の手間隙、出費から、当の日ノ本にては、この上
無きお家の誉れと考えられていた。

しかも、“母”が世話する不思議な木に生を享けた子どもたちは、概して
美しく健康、且つ聡明であり、また善良な気質であった。男が“受胎”す
る確率は、健常な女子でさえ人によって皆、各々異なり、はっきりとしな
いそれの、十分の一以下と低かったにも拘らず、日ノ本に於ける同性婚
が長きに渡って廃れなかった一番の理由は、そこにあった。

同性を娶ることによって良き子孫に恵まれれば、彼らによってお家の繁
栄は末長く安泰、仏壇と墓前の香煙も絶やされぬとあって、筋目正しき
高貴な血統に連なる男たちや、彼らに身分でこそ及ばずとも、有り余る
富と蓄財の才を持つ男たちは、釣り合う相手を見つけられた場合、破産
する恐れが無く、そして愛する“女”が存在しない限り、或いはいたとし
ても家同士の釣り合いが取れない、若しくは自身の感情を押し殺すこと
が出来るというのであれば、迷わず同性を“つま”に選んだ。

が、ために生じた大小様々の悲劇の痛ましさもまた、限り無いものだっ
た。もっとも、老若男女問わず、当事者たちにとっては絶大なる不幸も、
所詮、他人の何とかは蜜の味とやらで、少なくともこの時代の演芸界に
とっては天からの恵みであったらしく、人々は自分に関係無い限り、現
世に於いては結ばれ得ぬ薄幸の恋人同士の心中物、或いは愛の情熱
の赴くがままに新天地へと駆け落ちする“二人”の物語に、こればかり
は身分に関係無く、等しく誰もがうっとりと、心地良い涙を流したのだっ
た。

と、いう訳で、当世日ノ本の実質的頂点に立ち、朝廷に代わって天下を
統べる公方さまが住まうこの江戸、その中心に位置する巨大な城の後
閣たるここ、大奥に、武家政権の次代を担う、健やかにして優秀な子孫
を、“少しでも多く作り出す”ため、運悪く男の室からの男児出生が無
かったとしてもそれはそれ、とにかく血筋を絶やさずにと、女子も男子も
双方、侍ることを許されていたのはむしろ、当然のことであった。

事実、歴代の将軍たちの中では少数派であったが、男を“母”とする者
たちの治世は概ね、豊かで平和なものであったと史書に記され、また、
後世から称賛されること、ひっきりなしであった。

さて、それでは長くなってしまったが、ある一人の、先代が気紛れに手
を付けた平凡な女子の、その腹から生まれた少年将軍の話に戻るとし
よう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

我ながらよくもまあここまで、嘘八百どころか嘘五千(文字)近く並べ立
てたものですねぇ、香夜さん……(苦笑)。そりゃ本やネットでも調べ物
しましたし、脳内ミキサーでの攪拌は何十日にも及びましたけど、結局
は全部、捏造設定ですので、そこのところはどうか一つ夜露死苦お願い
申し上げますm(_ _)m>読者諸姉
あ、でも小野不○美先生にだけは特に念入りに謝っとこう……すみませ
ん、ごめんなさい……orz(←日本の方向を向いて)


語釈

琅玕…ビルマ(ミャンマー)産の最高級翡翠。

阿蘭陀カピタン…
長崎のオランダ商館長を指す言葉。オランダ語“kapitein”(=船長?
多分、英語で言うところの“captain”なのではないかと)から来た
言葉で、当て字は「甲比丹」、「甲必丹」など。

大奥 進典侍編その②

2007年12月23日 | 大奥(進×瀬那)
「フー……大分冷え込んできたな……」
「火鉢にもっと炭足す?」
「いや、やめておこう。僕は耐えられるが、コイツが可哀相だから……
暖かくし過ぎると、音がだれてしまう……」

口では冷えてきたと言ってもその実、赤御台が今日この日の寒さをさほ
ど辛く感じている訳ではないのだということは、防寒具どころかお掻取も
身に付けていない、敢えて白のままではなく、薄紅色に染められた羽二
重の※下御召(したおめし)と、その上に重ねられた赤地に※六花(りっ
か)──と思いきや、雪では決して有り得ない、妖艶な黒糸で丹念に刺
繍された、※蜘蛛の振舞(くものふるまい)によって作られる繊細な彼ら
の巣と、色だけを異にする奇抜な模様、そしてやはり黒糸で以って表着
(うわぎ)全体に不規則に散らされた、※飛白(かすり)の織り文様──
幾筋もの折れ線はこれまた、蜘蛛の長い脚のようだった──でまとめら
れた※お楽召し(おらくめし)の装いに、改めて視線を移さずとも、この世
の赤という紅は悉く、彼のためだけに存在しているのだろうと誰にも思わ
せる山里の丸の主に仕える者たちの中では、最古参に当たる老女の樹
理と、山里の丸の小姓頭を務める光太郎だけが知っていた。

彼ら三人の故郷である西の都の冬は、江戸のそれに輪をかけて寒いの
である。

「お前、もともと体温低い上に寒さ強かったもんなー」

両手に息を吹きかけて擦り合わせながら、ある意味、感心したように呟く
と、光太郎はクシュン!と、盛大なくしゃみを一つした。樹理はやれやれ
とばかり、火鉢の傍へ見張り役の侍女と共に、この日の朝からずっと置
きっ放しにしていた風呂敷包みに手を伸ばしたかと思うと、それをお弾き
のように、ただし指だけではなく、片手全体の力を使って、光太郎の膝下
へと弾き飛ばした。

「こっちにまで風邪移されたらたまんないからね。せいぜい感謝してよ?」

中身は暖かそうな綿入れ羽織と、別珍の手套だった。多少、縫い目が
粗くて糸のほつれが目立つのと、それらを“弾いて”寄越してきた人間
の両手から、軟膏の匂いが仄かに漂ってきていたのは、分かる者たち
にだけ分かる御愛嬌と言ったところだ。

「樹理~vv やっぱお前、俺と付き……」
「はいはい、いつものことながら何バカ言ってんの」

だが腹心二人のほのぼのとしたやりとりを目にしても、彼らの主の何も
刷かずとも生来、今、この山里の丸の広大な庭に降り頻る雪よりも尚、
白く玲瓏としている顔色と、※能面の如く整って、底知れぬ“何か”を湛
えた表情には、雪の反射光が眩しいと言って掛けている舶来の日除け
眼鏡で、口ほどに、時として口よりも物を言う目付きが隠されていること
もあって、何の変化も見られなかった。

その状態はこの貴人が、もとはあまり持っていなかった※柔情を惜しみ
無く注ぎ、そしてそれを何倍にも増幅させた上で彼に返してきてくれた、
唯一無二の存在が、この御殿を訪れなくなってしまった“あの日”以来、
ずっと続いているものだった。

元来、生気に乏しく、作り物めいていた美貌は、愁いが加わって更に
しっとりと磨かれ、また生気の更なる減少に反比例して、その不気味
なまでの完璧さを日々、増している。
                     ・
                     ・
                     ・
ピーン……

「……」
「にしても、こんな日にまで音曲かぁ? 大奥からは離れてっからいいけど
よ……」
「ちょ、黙ってなよ光太郎!」

自分の傍に置いた唯一の暖房器具、※呉須赤絵(ごすあかえ)に似せ
て作られた※錦手(にしきで)の※お手焙り(おてあぶり)に時折、かわ
るがわる左右の手をかざしながら、※紅(くれない)の御方は無心に琵
琶を爪弾く手を決して止めようとはせず、しかし樹理と光太郎に問うた。

「こんな日、とは……?」

他のお付きたちをすべて下がらせた幼馴染三人だけの空間とて、彼ら
の会話は昔ながらの砕けた口調で交わされている。

「はぁ……だからさ、今日はほら、進典侍さまの所の……」
「ああ、そう言えばもう一周忌か……」

ピィーン……と、弱めに弾かれた弦の音色と、御台所の哀婉極まりない
声音の和声は、※梁塵(りょうじん)どころか、地上に厚く積もった雪、そ
の悉くを再び宙に舞わせるのではと、彼の演奏を聴きなれた樹理と光太
郎をさえ、瞠目させるものだった。

「早いものだな」

ピン……ピピピン……ピ────ィン……

「瀬那君、あの時はホントに可哀相だったよね……」
「今日は嫌でもまた思い出しちまうだろーからなー……また塞ぎ込んだ
りしねえといいけど」
「……」

次第に冷たくなってゆく小さな小さな亡骸を抱いたまま、細い両肩を震
わせて、あの子は三日三晩、嗚咽し続けていたと、人伝に聞いた。

ピィ……ブツッ!

物思いに耽って、手元から意識を逸らし過ぎていたのが災いした。鋭利
な象牙の琴爪に必要以上の力と角度を以って、ブツリと断ち切られ、生
まれて初めての自由を得た弦は勢い余って、演奏者の長い、白魚の如
き指の一部分を傷付けた。

「……っ!」

みるみる内、鮮麗な赤色をした命の液体がプックリと玉状に吹き出した。
御台所の指の白さとその鮮赤の対照は紅白と言えども、吉祥と言うより
は何やら、不吉めいたものを感じさせる取り合わせだった。

「うぉい、大丈夫かよ!?」
「い、今、薬箱持ってくるから! 舐めたりしちゃ駄目よ!?」
「……」

慌てふためく腹心二人を尻目に、当の負傷者は何やら、己の鮮血を見つ
める内、何を思ったか、夢見るような目付きで、ふと両の口角を上げた。

「吾子……」
「ん?」
「赤羽、何か言ったぁー!?」
「……いや、別に」

フー……と、しかし此度のものはいつものような憂わしげなものではなく、
何やら楽しげな、期待の色を微かに滲ませた溜息をつきながら、赤御台
は、両端に※京紅(きょうべに)が軽く点じられた、艶冶滴り落ちんばかり
に悩ましげな光を宿し始めた両目を、日除け眼鏡の内でゆっくりと細め始
めた。

「……」
(っちゃ~……自分の世界に移行開始しちゃったよ……)
(夏場じゃねえんだし、ちょっとくらいならほっといても平気だろ? 別に
痛みとかはねーみてーだしよ)
(そだね。じゃ、薬箱と包帯だけここに置いといて……っと、これで良し。
んじゃ光太郎、私ら下がろ。音立てないようにね)
(うぃ~っす)

気を利かせた二人が、足音を立てないようにそぉっと御台所御座所から
出てゆくのと、彼らの主の血の気の少ない目蓋に先んじてまずは、曼珠
沙華の※花蕊(かずい)のように細長く、綺麗に反り返った豊かな睫毛が
すべて伏せられて、その視界が闇一色に支配されていったのは、完全な
同時進行だった。
                      ・
                      ・
                      ・
(間違いは一体、いつ正されるのだろう……)

この“”に、狂おしさのあまりドス黒くなった僕の想いを混ぜた、黒褐色
の髪(漆黒のは駄目だ、奴とは関係無い、僕と“彼”の間にだけ存在すべ
き存在なのだから)と、
同色で胡桃のように真ん丸、けれど清らかに澄んだ目(父御に似れば幸
せになれると聞いた)。
僕が嵌めているこの琴爪と同じ色・質感の肌(これも“彼”と同じのがいい
……雪白は奴の色だから駄目だ)に、
我が指から流れ出ずるこの血より、もっと鮮烈にい色の※花唇(かしん)
を持った……

可愛い、やはり女の子として──

「良い子だから……」

天を見つめて地の底で、自らの選択とは言え、※貪愛染着(とんあいせ
んじゃく)の業火に身を焼かれながら、それでも尚、力強く咲き誇ることを
止めようとはせず、今日も艶やかに匂い立つ紅き華。

「良い子だから……」

業が深まり、焔の勢いが強まるほどにその強さ、麗しさを増してゆくのは
一体──

「良い子だから早く、早く戻っておいで? “僕たち”はもう、待ち切れない
……」

誰がため?

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語釈

下御召…
上物な着物の尊敬語を「御召」と言う。御召縮緬(昔は貴人がよく着用
していた、先染めと先練りをした縮緬地)の略称でもあるが、「羽二重」
と本文に書いたように、今回は縮緬では御座いません。「下」が付いて
いるのは、表着の下に着るものだから。

六花…雪の結晶。

蜘蛛の振舞…
「蜘蛛の行い」とも言う。直接には、蜘蛛が着物に這い寄ってくる動作、
或いは巣をかける動作を指し、後にそれを、愛する人が自分の許を訪
れる前兆とする俗信が生まれた。……赤い御方の願望なんでしょうね
え、多分(苦笑)。

飛白…
「絣」とも言う。所々を掠ったような文様。染めるものと織るものがある。
その文様の布それ自体を指す事も。

お楽召し…
午後三時半からの御台所の普段着(御台所は一日に何度も着替えを
する決まりになっていた)。

能面の…
別に無表情の醤油顔という意味ではなく(苦笑)、顔立ちがずば抜けて
美しい事の例えです。

柔情…
すみません、これ日本語じゃないんですよ。日本語だと何て言ったら
いいんでしょ……優しい気持ち? 心? 日本語でピッタリ来る言葉
が見つけられなかったもんで、つい(苦笑)。

呉須赤絵…
明末清初に福建省南部の漳州(しょうしゅう)で発明された、同地を代
表する大胆な図柄の染付磁器・呉須手(ごすで)の中で、赤い彩釉を
塗られたもの。

錦手…
表面に透き通った色絵具で模様を描いた陶磁器。もとはやはり中国か
ら伝えられたもので、「錦手」は京都に於ける呼称。

紅の御方…
赤色と「伽羅の御方」を掛け合わせた造語。「紅」は伽羅の銘の一つ。
いかに赤御台様と言えど、そうそういつも蘭奢待使えるもんじゃありま
せんから。anotherの方では使い切っちゃってるし。

梁塵…
「梁塵を動かす」という、歌声が美しい事や、音楽に長じている事を意
味する故事成語より。

京紅…京都で作られた上等の化粧紅。

貪愛染着…
煩悩の一つ。仏教用語。愛に執着し過ぎて何もかもが見えなくなって
しまう事。愛染(あいぜん)。……「あいぞめ」とも読める事に今、気付
き、蝶・愕然……orz あーさーきー♪ゆめみじとわーにー♪(ヒィィィ)

花蕊…雄しべと雌しべの総称。