以前の自分なら、決して有り得なかったことだ。
「有難う御座いました、またお越し下さいませ~!」
花屋の店員のやたらと愛想の良い挨拶にさっさと背を向け、再び帰路に
つく。腕にはひまわりの花束。別に、誰かへの贈り物という訳でもない。
かと言って彼──蛭魔には、花を活けて愛でる趣味がある訳でもない。
そもそも自宅には花瓶どころか、バケツの一つも無いのだ。
(流しに水張って突っ込んどきゃいいか)
野生のものや、小学生が理科の植物観察で育てるようなものとは違って
(ああも大きく頑丈に育ってしまったのでは花束等には出来ないし、室内
に飾るのも難しかろう)、多少ひ弱な感じではあるが、それでも、持てる限
りの力を尽くし、懸命に咲き誇るその健気な姿に知らず知らずの内、ボン
ヤリと誰かの面影を重ねていた。
気が付いた時には既に、黄金色で埋め尽くされた店先の一角を指差して、
店員に「あるだけ全部貰ってく」と、短い言葉を放つが早いか、店内のレジ
へ直行していた。
(Fuck! 一体何だってんだよ……)
花が太陽の動きを追って動くから「日回り」、或いは「向日葵」だなどとは、
こじ付けも良いところ。蕾の頃はともかくとして、開花した後の所謂「ひま
わり」として、人々に認識されるようになってからは、殆ど動かなくなると
いうのに。
けれど、自分の一言や一挙一動にいちいち過剰な反応を示す、あの人面
ひまわりの百面相は確かに、小さな“華”の集合体とは言えまいか?
そう思うと奇妙に胸がざわついて、思わず花束をしっかりと胸に抱きかか
え直した。何故だか、乱暴に扱ってはいけないような気がしたのだ。
(やっぱ花瓶買ってくるか。さっきの店戻って無けりゃ……100均でも行っ
て……どんなんでもいいから……)
そうして蛭魔が、今来た道を再び戻ろうと踵を返したところへ──
「あれ、蛭魔さん?」
(チッ、何つータイミングだ……)
蛭魔の睨めつけるような視線にたじろぐこともなく、ニコニコと駆け寄って来
る人面ひまわり──もとい、小早川瀬那。買い物の帰りなのか、スーパー
の袋を片手に提げている。
「あ、ひまわりの花ですね。蛭魔さんお花す「好きでもなけりゃ誰か
にくれてやる訳でもねーよ」」
瀬那の言わんとしていた内容をすべて先回りし、ぶっきらぼうな口調でおっ
被せるように相手の言葉を遮ると、フイと視線を逸らし、蛭魔は再び速足で
歩き始めた。蛭魔のつっけんどんな態度にはもうすっかり慣れっこの瀬那は、
特に気を悪くした風でもなく、遠ざかるスレンダーな後ろ姿に向けて叫ぶ。
「ちゃんと窓辺に置いてあげて下さいね! お水はやり過ぎないように……」
「テメェに言われるまでもねーよ、糞チビが! 明日の朝練忘れんなよ、遅刻
したらぶっ殺すかんな!!!」
「ははははははぃぃぃぃぃ!」
・
・
・
そうして自分の部屋にやって来たひまわりを、大きめの花瓶にきちんと活け
て、瀬那に言われた通り窓辺に置き、翌日からも何くれと無く瀬那がしてく
るアドヴァイスに従って、蛭魔は丹念に世話してやった。するとそのひまわり
は、切り花にしては意外と長くもち、そしてこれまた意外にも、日中の陽射し
に映えるその明るい色彩は、部屋の主の目をそれなりに楽しませ、彼の生
活にささやかな潤いを与えたのだった。
(花が枯れちまったら残った種、来年にでも蒔いてみっか)
(綺麗に咲いたらあいつにも見せてやろう、アドヴァイスの礼とでも言って)
(そーいやハムスターってひまわりの種が大好物とか何とかテレビで……
糞チビにも食わせてやったら喜ぶのか……?)
方向性の是非はともかく、蛭魔の意識は常に、瀬那を追いかけているようで
ある。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
タイトルはイタリアのあの有名なカンツォーネより拝借。
恋人に対しての呼びかけ、「我が太陽」。
ひまわりの花言葉は沢山ありますが、このお話の中では、「私は貴方
だけを見つめている」と、いうのを思い浮かべてみて下さい。
↑青春が甘酸っぱ過ぎて胃液どころか、小腸だとか大腸だとか心の臓だと
か、大切なものを色々吐き出してしまいそうな感じなんですが……魂魄とか、
トカトカ∪・ω・∪ やがて我らは沈み行かん、深く冷たき闇の最中(さなか)
に……さらば、一瞬のめくるめく烈しき(去年の香夜さんの)夏の光よ!
「有難う御座いました、またお越し下さいませ~!」
花屋の店員のやたらと愛想の良い挨拶にさっさと背を向け、再び帰路に
つく。腕にはひまわりの花束。別に、誰かへの贈り物という訳でもない。
かと言って彼──蛭魔には、花を活けて愛でる趣味がある訳でもない。
そもそも自宅には花瓶どころか、バケツの一つも無いのだ。
(流しに水張って突っ込んどきゃいいか)
野生のものや、小学生が理科の植物観察で育てるようなものとは違って
(ああも大きく頑丈に育ってしまったのでは花束等には出来ないし、室内
に飾るのも難しかろう)、多少ひ弱な感じではあるが、それでも、持てる限
りの力を尽くし、懸命に咲き誇るその健気な姿に知らず知らずの内、ボン
ヤリと誰かの面影を重ねていた。
気が付いた時には既に、黄金色で埋め尽くされた店先の一角を指差して、
店員に「あるだけ全部貰ってく」と、短い言葉を放つが早いか、店内のレジ
へ直行していた。
(Fuck! 一体何だってんだよ……)
花が太陽の動きを追って動くから「日回り」、或いは「向日葵」だなどとは、
こじ付けも良いところ。蕾の頃はともかくとして、開花した後の所謂「ひま
わり」として、人々に認識されるようになってからは、殆ど動かなくなると
いうのに。
けれど、自分の一言や一挙一動にいちいち過剰な反応を示す、あの人面
ひまわりの百面相は確かに、小さな“華”の集合体とは言えまいか?
そう思うと奇妙に胸がざわついて、思わず花束をしっかりと胸に抱きかか
え直した。何故だか、乱暴に扱ってはいけないような気がしたのだ。
(やっぱ花瓶買ってくるか。さっきの店戻って無けりゃ……100均でも行っ
て……どんなんでもいいから……)
そうして蛭魔が、今来た道を再び戻ろうと踵を返したところへ──
「あれ、蛭魔さん?」
(チッ、何つータイミングだ……)
蛭魔の睨めつけるような視線にたじろぐこともなく、ニコニコと駆け寄って来
る人面ひまわり──もとい、小早川瀬那。買い物の帰りなのか、スーパー
の袋を片手に提げている。
「あ、ひまわりの花ですね。蛭魔さんお花す「好きでもなけりゃ誰か
にくれてやる訳でもねーよ」」
瀬那の言わんとしていた内容をすべて先回りし、ぶっきらぼうな口調でおっ
被せるように相手の言葉を遮ると、フイと視線を逸らし、蛭魔は再び速足で
歩き始めた。蛭魔のつっけんどんな態度にはもうすっかり慣れっこの瀬那は、
特に気を悪くした風でもなく、遠ざかるスレンダーな後ろ姿に向けて叫ぶ。
「ちゃんと窓辺に置いてあげて下さいね! お水はやり過ぎないように……」
「テメェに言われるまでもねーよ、糞チビが! 明日の朝練忘れんなよ、遅刻
したらぶっ殺すかんな!!!」
「ははははははぃぃぃぃぃ!」
・
・
・
そうして自分の部屋にやって来たひまわりを、大きめの花瓶にきちんと活け
て、瀬那に言われた通り窓辺に置き、翌日からも何くれと無く瀬那がしてく
るアドヴァイスに従って、蛭魔は丹念に世話してやった。するとそのひまわり
は、切り花にしては意外と長くもち、そしてこれまた意外にも、日中の陽射し
に映えるその明るい色彩は、部屋の主の目をそれなりに楽しませ、彼の生
活にささやかな潤いを与えたのだった。
(花が枯れちまったら残った種、来年にでも蒔いてみっか)
(綺麗に咲いたらあいつにも見せてやろう、アドヴァイスの礼とでも言って)
(そーいやハムスターってひまわりの種が大好物とか何とかテレビで……
糞チビにも食わせてやったら喜ぶのか……?)
方向性の是非はともかく、蛭魔の意識は常に、瀬那を追いかけているようで
ある。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
タイトルはイタリアのあの有名なカンツォーネより拝借。
恋人に対しての呼びかけ、「我が太陽」。
ひまわりの花言葉は沢山ありますが、このお話の中では、「私は貴方
だけを見つめている」と、いうのを思い浮かべてみて下さい。
↑青春が甘酸っぱ過ぎて胃液どころか、小腸だとか大腸だとか心の臓だと
か、大切なものを色々吐き出してしまいそうな感じなんですが……魂魄とか、
トカトカ∪・ω・∪ やがて我らは沈み行かん、深く冷たき闇の最中(さなか)
に……さらば、一瞬のめくるめく烈しき(去年の香夜さんの)夏の光よ!
筧セナには過敏に反応するリンカで御座います。
蛭魔さん、恋してますね。甘酸っぱいですね!
誰かに重ねて花を買っちゃう、きちんと自覚が
あるところが蛭魔さん。
文句を言いながら、結局好きな子の世話したがる
タイプと見ました。
これ『Amphitrite』的ですね。
大好きです!