冷艶素香

現ES21がいろんな人達から愛されていたり、割れ顎の堅物侍を巡って、藤と金の人外魔境神未満ズが火花を散らしたりしてます。

モノノ怪二次創作をお目当てにいらした皆様へ

2009年03月16日 | モノノ怪
初めまして、こんにちは。冴月香夜(さえづき かよ)と申します。

『化猫』と『モノノ怪』に☆.。.:*(萌´Д`萌).。.:*☆と、なりましたのは、つい最近
の事である上に、普段は海外で働いております為、アニメ本編に関しまして
は動画共有サイトにての断続的観賞と、ネット徘徊によって得た知識がごっ
ちゃになっており、時々変な事を言っていたり、これからUPされてゆく二次創
作作品の中にも、恐らくは多くのおかしな記述が見られるであろう、此処“冷
艶素香”の管理人で御座います。

拙ブログのモノノ怪カテゴリーに於けるCP傾向と致しましては、
・小田島×薬売り×小田島
・小田島×ハイパー
・薬売り→小田島←ハイパー
現在は簡単に申し上げて、この↑ような感じになっております。

先にも申し上げましたように、作品にハマッて未だ日が浅い為、キャラ達それ
ぞれの内面・外見とも、まだ把握し切れておらず、所々で矛盾が発生する可
能性・蝶・大で御座います(Ex. 薬売りの目や唇の色、一人称、性格・言動な
ど)。

また、管理人は大変な遅筆で、尚且つ凝り性です。加えて、モノノ怪カテゴリ
ーはあくまでもサブ・ジャンルと決めている為、更新速度は恐らく、否、きっと、
た○ぱんだの転がりです(新しい作品のUPが最近無いなぁと、その方のおみ
足が拙ブログから遠のかれた頃、ようやっと新作をUPしたり(タイミングはいつ
もわろし)、若しくはしばらく来ないでいると、いつの間にか更新が重ねられて
いたりする、と、いったような。ちなみに触るとゴワゴワしている)。←愛盾で以前
から御世話になっている皆様方からは、「そんなの、前からずーっとそうじゃん!」と、きっと、PCや
携帯画面の向こうから、かなりの数の突っ込みを受けている事でしょうね……(´‐ω‐)=з フー、まあ、
否定はしないよ。
←アンタは此処のカテゴリーじゃないっつの。


それでもOKというお優しい御方々は、拙ブログのトップページ一番上:『初めに
~』を熟読された上で、私・冴月香夜の二次創作物、果たして皆様のお気に召
すかどうかは分かりませんが、どうぞ、ごゆっくりなさっていって下さいませ。

以下、大して重要な事では御座いませんが、知っていると少し便利かも?とい
った事を、幾つか。

・雑記カテゴリーの記事と、作品の語釈等の中でのセルフ突っ込みに於いては、
 「私」と「香夜さん」が、何故かほぼ同じくらいの頻度で使われている。
・「超○○である」の「超」に代わり、「蝶」の字を使う事を好む管理人である。
・結果として、知ったか振りをしてしまう事のよくある管理人である(悪気は無い
  し、違法行為だけはしないよう心掛けてはいるものの)。管理人発言の内、約
  3分の2は、聞き流される事をお勧め致します。
・文章がくどく、そして長い。しかし二次創作に関しては、その悪癖を、管理人は
  最早、直す気が無い(趣味の場であるから)。
・愛盾の大奥シリーズ(本編とanother共に)は、字面と雰囲気の美しさを重視し
  ているので、リアリティーを求めてはならない。読者諸姉の精神衛生の為を思
  い、忠告させて頂きますが、間違っても三次元的想像などはされませぬよう。
  薬売りと違い、女物を着用していても、化粧までしてる人は居ません。髪の長
  さは皆様の御想像にお任せ致しますが。
・最後に和服を着たのは七五三で、勿論、他人に着せてもらいました(=服飾に
  関する記述・表現についての嘘八百大爆発)。
・弁当を作ろうとすると、あれもこれもと好物をギュウギュウ詰め過ぎて、結果と
  して弁当箱の蓋が閉まらなくなったり、無理矢理閉めても、後でカバンの中を
  色々な汁まみれにしてしまう事がよく有る(=本来、まったく関連性や関係の無
  い物事と物事を、自分の趣味でどんどんくっ付けたり、グイグイ捻じ曲げながら
  一本の房に編み込もうとしたりする)。
・自分にとって、最も都合の良い解釈をするのは日常茶飯事。
・頻繁に自分のブログから行方不明になる上、拍手メッセージとブログコメントへ
  のレスまでた○ぱんだの移動速度(しかもほんわか素敵メッセージを頂戴する
  と、感動と嬉しさのあまり、しばらく動けなくなる)。や、あの、仕事とか仕事とか
  仕事とか……ハァ━(-д-;)━ァ...すみませ……!

今の所は、こんくらいですか、ね……。

御心こそ、鬼よりけにもおはすれ、さまは憎げもなければ、え疎み果つまじ

2009年03月16日 | モノノ怪
「……漫ろ歩きなんて、俺とはして下すったことも無いのに、“あれ”とは
手まで繋いでただなんて……」
「く、薬売り?」
「しかも何ですか、於楽(おらく)……ですって? 名を与えるということが
どれほど重大な意味を持つか、小田島さま、アンタ御存知無いのか!?」
「いや、しかしお前……まさか往来で“薬叉どの”などとは呼べんし、あの
お方御自身も名など無いと仰るし、かと言って名無しではどうにも不便で
……」
「なら、俺の“薬売り”ってのだって、不便じゃあないです、か!」
「それはお前、かつてお前自身が俺に申したのではないか、自分はただ
の薬売り、それ以外の何者でもない、と……」
「煩い五月蝿いうるさーい!!!  あの時はあの時、今は今、なんです、よ
……!」

紅で隈取られた薬売りの白く涼やかな目元が、今日に限っては紅以外に、
珍しくもその感情の昂りによっても、仄赤く染められていた。

ああ、思い出すだに腸が煮えくり返るとは、まさにあのこと!
                      ・
                      ・
                      ・
「あらぁ、薬売りさん、いつまた江戸に?」
「どうも……ほんの二、三日前に、ね」
「そうなのぉ。に、してもこれからは、あのお武家さまトコにご厄介になれ
なくなるから、別に宿取んなきゃいけなくて毎回毎回、あんまし長くはいら
れなるってことなのかい? だとしたら残念だねえ」
「は……い?」
「いやぁ、それにしても意外だったわぁ、あんな厳ついナリでさ? あーんな
お綺麗な奥方さまがいらしたとはね!  新しい仕官先が見つかったから、よ
うやっと呼び寄せられたってことか」
「……………………ああ、分かった。おちかさんのお見かけなすったのは、
小田島さまの御妹さまです、よ……前に聞いたことがある、自分とは似て
も似付かぬ、綺麗な妹がいる、と、ね……」
「え、そうなのかい!? なぁんだ、“お楽、お楽”って、宝物みたく大切そう
に呼んで、いかにも大事に大事にしてますって感じでさ、奥さ……あ、妹さ
んか。そっちの方も、品のいい渋い色の黄八丈がこれまたよくお似合いで
ねぇ、しずしず歩いてたんだけど、そのうちお武家さま……小田島さまだっ
け? の、方がね、ヒョイって、妹さんのお手を取ってね、仲良くおんなじ速
さで歩き出したんだわさ。に、しても……変わったお家だねぇ、兄さん(あに
さん)が妻取る(めとる)前に、妹が先にお嫁に行ってるなんて」
「と、仰いますと?」
「だって、妹さん、眉無かったし、鉄漿(かね)付けてたもん」
「なるほど、ね……」

                      ・
                      ・
                      ・
「あん時の俺の気持ちがアンタに分かりますか!? おかしなことを勘繰ら
れないように、変な誤解を招かないように、でも事の真相は明らかにしなけ
りゃ気が済まなくて、けどそれが分かったら分かったで……」

薬売りの雪白の両頬を、水晶の欠片の如く、清らに透明な雫がハラハラと、
幾粒も幾粒も、とめどなく流れ落ち始める。

「お、落ち着け、薬売り、な……?」
「俺の……俺だけの……この広い世界で、俺、だけ、の……小田島さまな
の、に……」
「まったく、何を童子のようにぐずって……おお、そうだ、これを見ろ、薬売り!
さすればお前の機嫌も必ず治ろう」

小田島がゴソゴソと懐を探り、取り出したるは──

「……何ですかい、こりゃ?」
「※金緑石(きんりょくせき)、と言うらしい。縁日で買うには少々、値の張る
ものであったが……あまりにも美しかったのでな」

ほれ、と差し出された、小田島の武骨な掌の上。暗赤色に輝く宝玉は黄昏
時の光を受けて──

「な、珍奇であろう?」

青緑の色に、変じた。

「……小田島さまにしちゃあ、いい買い物を、しました、ね……」

つい今しがたまでの大泣きも忘れ、薬売りも一時、宝玉の妙なる変化に目を
細める。

「お前にやる」
「俺に……です、かい?」
「斯様に美妙な色、お前のために在るとしか思えぬゆえな」

特に深い考え有って口にした訳では無いのだろう、衒いも無い、明るく朗らか
な笑顔を、小田島は薬売りに向けた。

(ずるいです、ぜ……小田島さま……)

そこで終われば、後は薬売りがススス……と小田島に、猫が甘えるように擦
り寄って、身をもたれ掛けさせ、スリリと頭をこすり付ければ、ファサリ、と、菫
色の頭巾と亜麻色の髪が解けて──鴛鴦の襖の向こうで二人、元の鞘に収
まったであろうものを──

「うむ、そしてこちらの赤は薬叉殿の色じゃな! まこと、お主ら両名を思わせ
「小田島さまの馬鹿ぁぁぁ!!!」

そろそろ日暮れかと、書見台のすぐ傍、とりあえずは一本だけと点けた紙燭の
近くに宝玉を近付け、再び暗赤色へと変じる宝玉の変化に、自分こそ子どもの
ようにキラキラと目を輝かせ、興奮する小田島の、青々とした割れ顎に──

ドゴォッ!!!


薬売りの、見事な裏突きが決まった。

「……絶対アンタは分かってない、分かってません、よ……!」

                                  <落ちぬまま終了>

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

語釈

薬叉…「夜叉」の別表記。

黄八丈…
八丈島の名産品。黄色の地に縞模様や格子柄が特徴の絹織物。江戸
後期には町娘たちの間で大流行したが、地の色が渋めのものであれば
幾つの人にも着られるし(必ずしも黄色と決まっている訳ではない)、奥
女中たちの間でも贈答品として人気が有ったそうです。

鉄漿…お歯黒の事。

金緑石…
宝石のアレキサンドライトの事。広義にはキャッツアイ等の他の鉱物類
も含むようですが(クリソベリル系)、キャッツアイは猫目石って和名が有
るので、こちらではアレクサンドライトの事とさせて頂きました。
太陽光の下では青緑色、人工の光(白熱灯など、要するに電気?)の下
では暗赤色に変わるのだそうです。発見は確か19世紀ロマノフ朝下ロ
シア帝国だったかな?(うろ覚え) 江戸まで流れてくるとは到底思えま
せんが(ってか縁日で売ってねーだろ普通、そんな珍しいモン、幾ら的
屋が価値知らないからって)、まあ、捏造という事で一つ(苦笑)。


このSSの前提となる小田島×ハイパー小説(まだ小田←ハイに近い、小+ハ
イですかねぇ、どちらかと言うと?):『金神の間日』のUPは、時間泥棒の出現
により、本日は不可能となってしまいました。でもその時間泥棒は、実は……
私、自身……ガクゥ━il||li(っω`-。)il||li━リ…(お蝶さんみたいだ)。
別にハイパー、そんな怖い存在じゃないとは分かっておりますが(>金神)、本
来の言葉の意味は敢えて捻じ曲げ、『ロ/ー/マ/の/休/日』風にしちゃろうと考
えていたのですが、そしたらあの二人、私に断りも無く勝手に蝶・シリアスな二
人の世界に入っちゃって……まったくもう、それならそれで取材班を入れさせて
よ!ε=(。・`ω´・。)プンスコプンスコ!!

で、先にUPの運びとなりましたこちらの小薬SSなのですが、執筆中はずっと、
某青ネギ娘の歌う『全世界は我がもの也』を笑笑動画エンドレスにしていたの
ですが、「おひめさま」を「くすりうり」に変換して考えた時、最後の辺りで、男:
「轢かれる、危ないよ」が、香夜さんの場合、小田島:「危ない、落ちてしまう
ぞ」となり、そして何故彼がそっぽを向いたかというと、要するに頭に血が上っ
てズンズン歩いてた薬売りさんが(ちなみに二人旅中)、高下駄のまんま、肥
溜めに踏み込もうとしていたからだという……恋のときめきと煌めきの欠片も
存在しない、酷い歌に……所詮、香夜さんに甘酢パイ……じゃなく、甘酸っぱ
い恋の何たらかんたらを書くなんてこと、成層圏から地上へDive♪並みに無
謀な試みだったという事か……il||li _| ̄|○ il||l

タイトルはあんまり合ってないの選んじゃったかニャー?(時代がまず違……)
でももう時間無かったし、しょうがニャかったんですよぅ……...φ(。。*)イジイジ...。

魅惑のバスト

2009年03月16日 | モノノ怪
ある雨の日のこと、会社帰りの小田島は、二匹の仔猫を拾いました。

片方は絹鼠(きぬねず)の毛並みに、しっとりとした色合いの藤色の瞳、もう
片方は山吹色の毛並みに、キラキラと輝く金眼(きんめ)。

春先の雨とは言え、箱の中に寄り添って二匹、ブルブルと震えているのは何
とも哀れです。

「うーん……」

小田島は本来、さほど動物好きという訳でもないのですが、このまま見なかっ
たことにして帰路を急げば、後で必ず嫌な思いに捕われるだろうと思いました。

「ま、これも縁ってやつか……」

傘を首と肩で器用に押さえ、アタッシェケースを膝の上にバランスを取って置き、
両手を伸ばしてやれば、二匹の仔猫はミュイミュイミュイと、嬉しそうに擦り寄っ
てきます。

「よしよし、じゃあ一緒に行こうな」

そうして、男物の大きなハンカチにすっぽりと、余裕で収まるほどに小さかった
二匹も、色々と紆余曲折を経た末に、不完全ながらも何と、人身形成の術を心
得るようになり、やがて再びの“春”を迎えて──
                        ・
                        ・
                        ・
「ん……」
「小田島、起きたのか?」

上から覗き込んでくる双眸と、そして微かな笑みを湛えた口許はとても優しいけ
れど、人間で言うところの白目の部分に始まり、虹彩の色も、瞳孔の色も、自然
界の生き物には滅多と見られるものではなく、何よりも、その焦点が、俺に合わ
せられていない──いや、正確にはこいつの場合、合わせたくとも、合わせられ
ないのだ。

一年ほど前に拾った二匹の仔猫の内、“薬売り”と名付けた方は、初めこそ冷え
と栄養失調のせいで衰弱していたものの、獣医の指示に従った世話をきちんとし
てやることで、程無く健康を回復し、そしてスクスクと育った。

だがもう一方、“ハイパー”と名付けた方は、薬売り同様に峠を越えてホッとした
のも束の間、動きや物事に対する反応が、薬売りのそれと比較すると、どうもお
かしく、ある日、ハイパーだけを動物病院へ連れて行った。

そして、判明したのは──

「お前、年頃の娘がまた、そんなに胸をはだけさせて……でも帯はちゃんと一人
で結べたんだな、偉いぞ」
「我の結び方、おかしゅうは無いのだな? 良かった、今日は起きたらもう、薬売
りも外に遊びに行ってしまった後だったから、常の何倍も時を要して身仕舞いをし
たのだが……やれ嬉しや、小田島が褒めてくれた」

嬉しや、嬉しやと、人形(ひとがた)を取っているハイパーは、褐色の滑らか(すべ
らか)な頬と、サラサラとした白銀(しろがね)の長い髪を俺に摺り寄せ、その存在
の全てを以って、自らの幸せな気持ちを俺に伝えようとしてくる。

光の恩恵を受けられぬ両の瞳以外にも、ハイパーには、猫にとって重要なアンテ
ナの役割を果たす眉毛とヒゲが、病のせいなのか、それとも誰ぞの心無き仕業に
よるものなのか、とにかく存在しない。

そのことと目のこと、加えて花唇の中から時折垣間見える、綺麗に並んだ歯が
しかし、それらを丈夫に保つための、落ちにくく特殊な薬液を塗られているが為
に、黒曜石を連ねたかのように見え、ハイパーの姿形はまさに、俺の日常生活
の中に在っては相当の“異彩”を放っている。

けれど、こいつの心はきっと、この世の誰よりも、清らな白に近い。

だが、それゆえに困ることも──

「で、ハイパー。何で俺の頭はお前の膝の上に在るんだ?」
「あのな、昨日な、あの箱が申しておったのだ。人の男は、若いおなごの膝を枕
にして寝るのが好きなのだと。我と薬売りもそなたの膝の上で眠るを好むが、そ
なたらにも我らと似通う習性が有ったとは、意外であった」

ゆえにの、常の礼をと思うてな、けふは我がそなたをこの膝に憩わせようと考え
たのじゃと、ニコニコ笑うハイパーの顔は、本心からの善意に満ちていて──
計に叱れず、ますます困る。

何故ならば。

「のう小田島、心地良きか? 嬉しいかえ?」
「ああ、お前の“気持ち”が凄く嬉しいよ……ただな、ちょっと苦、し……」
「って、アンタら何やってんですかー!?」

外出から帰ってきたらしい薬売りの、金切り声に近い絶叫が、リビングに響き渡る。
まあ、奴の驚きも分からんでもない。

何しろ今の俺は──

「すぐ! 今すぐ小田島さまから離れなさい! 気付いてないんでしょーけど小田
島さま今アンタのその無駄にデカい乳房の下で窒息死しかけてますよっっっ!!!」

とりあえず、明日からはテレビの電源ちゃんと切ったかどうか、しっかり確認してか
ら出勤するようにしよう……うん。

                                             <終>

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

Bast…
女神バスト、「バステト」(Bastet)や「ブバスティス」(Bubastis)の表記も有り(個人
的には「バステト」だろーなーと思うのですが、今回は敢えて「バスト」で/笑)。
エジプト神話に於いて、豊穣・多産・繁栄を司る、猫の頭部(顔)をした女神。時とし
て情愛や悦楽を司る事もあり、また家庭の守護女神とされる事もあるそうな。
父を同じくする(=太陽神ラー)、雌ライオンの顔をしたセクメト女神としばしば同一
視され、或いはバストは、そのもう一つの姿であるという説も存在(その場合は「戦
うバステト」と「静かなバステト」、おまけに「陽気なバステト」の3verになるらしい)。

Bust…まあ要するに、胸(笑)。

アラビア語だろうが英語だろうが、日本語表記はどっちも「バスト」という、死ぬほど
くっだらない言葉遊びです(苦笑)。……神罰が下るかしら;(ヒヤヒヤ)

膝枕してる状態で小田島しゃまに頬擦りしようとしたハイパー、普通に上半身曲げ
りゃいいもんを、恐らく、嬉しさのあまりに勢いをつけ過ぎてしまい、ハイパーの顔
は実際には小田島様の顔そのものというより、顎か、その少し先に当たってしまい、
小田島フェイスに直撃したのは、二つの脂肪の塊だった、みたいな……?(ニヨニヨ)

にゃごのハイパーは箱入りならぬ、鞘入り娘。外の世界を殆ど知らないので
(どうしても外出しなければならない時、或いはしたい時は、“小田島さまと一緒”
が鉄則)、お薬みたくスレてたり余計な知識を持ってたりせず(や、お薬にゃんこ
も大好きですよ、私/苦笑)、穏やかな性格で聞き分けも良く、その上努力も厭わ
ない子。大好きな小田島に褒められたい一心で、多少のハンディ・キャップの有る
体でも(私、別に差別意識を持っている訳では御座いませんので、皆様どうか、誤
解なさらないで下さいね)、いろんな事を頑張ろうとします。ただ、如何せんお嬢様
育ちなせいか、時々っていうか結構しょっちゅう、常人の理解を超えた言動を取って
しまう事が、みたいな……(本猫はまったく悪気無し)。
ちなみに、中身はホワホワお嬢ですが、巨乳を通り越して、爆乳って言うか轟乳っ
て言うか、暴乳みたいな(何それ)。その肉置きの豊満さはもう、「男殺し」なんぞと
いう一言では到底括れない、最終兵器ハイパー(何それ)。和服用ブラを買ってや
るべきなのか、あーゆーのってオンラインで買えたっけか、でもこいつのサイズに合
うのなんてこの世に存在すんのかと小田島様、悩んでいる内にいつも仕事が忙しく
なって時間が足りなくなり、結局、薬売りが四苦八苦しながら、サラシを巻いてあげ
なければならなくなる、と(何で俺が、こんなこと……(っ`Д´)っ と思いながら、ギュ
ウギュウギュウと)。

以上、お粗末様で御座いましたm(_ _)m

猫を殺せば七代祟る

2009年03月16日 | モノノ怪
ある雨の日のこと、会社帰りの小田島は、二匹の仔猫を拾いました。

片方は絹鼠(きぬねず)の毛並みに、しっとりとした色合いの藤色の瞳、もう
片方は山吹色の毛並みに、キラキラと輝く金眼(きんめ)。

春先の雨とは言え、箱の中に寄り添って二匹、ブルブルと震えているのは何
とも哀れです。

「うーん……」

小田島は本来、さほど動物好きという訳でもないのですが、このまま見なかっ
たことにして帰路を急げば、後で必ず嫌な思いに捕われるだろうと思いました。

「ま、これも縁ってやつか……」

傘を首と肩で器用に押さえ、アタッシェケースを膝の上にバランスを取って置き、
両手を伸ばしてやれば、二匹の仔猫はミュイミュイミュイと、嬉しそうに擦り寄っ
てきます。

「よしよし、じゃあ一緒に行こうな」

そうして、男物の大きなハンカチにすっぽりと、余裕で収まるほどに小さかった
二匹も、色々と紆余曲折を経た末に、不完全ながらも何と、人身形成の術を心
得るようになり、やがて再びの“春”を迎えて──
                        ・
                        ・
                        ・
「……過去の恩を仇で返すようなことしてんだぞ、お前は。分かってんのか、薬
売り」
「いえいえ、これはね、恩を仇で返してんじゃなく……」

祟ってるんです、よ……と、“薬売り”と呼ばれた猫──ではなく、どう見ても人
の姿をした、しかしピクピクと器用に動く、肌から直に生えているので掴めば痛
い痛いとわめく、絹糸のような毛で外側を覆われ、中には薄桃の柔肌が覗く耳
と、スルリと小田島の脚に絡みついてくる、優雅な動きの尻尾──これまたウ
ッカリ踏もうものなら、怒髪天を突く勢いで怒るのである──は、どう考えても、
人間の持ちものではない。

「祟る、だとぅ!?」

あまりにも心外だといった風に小田島は、その団栗眼を目一杯かっ開いて、抗
議の視線を相手に投げ付ける。

「おお怖い、怖い、そんな顔しちゃ、嫌、です、ぜ……」

クスクスと悪戯めいた笑みを乗せた、柔らかな藤色の唇が近づいて来て──
チロリと蠢いた赤い舌は、紅の差されていない下唇をなぞると、次いで小田島
の、いっそ見事なほど真っ二つに割れた顎の割れ目に侵入し、ベロリ、ベロリ
と執拗にねぶってくるのだった。

「だって、アンタに拾われたあの雨の日、俺はアンタに、殺されちまったんですか
ら、ね……」
「な、に、を、言って……」
「アンタは俺の、ここを……」

飼い主のゴツゴツとした手を、押し戴くようにそっと取ると、美しい“猫”は、その
掌へ、恭しい口付けを一つ、落として──そして己が身にまとう、浅葱の着物の
胸元、その合わせ目の中へと、ゆっくりと導いた。

トクリ、トクリと、鼓動の音。

「ここを、俺の心を……ああ、今の時代、心の動きってのは皆、頭ん中にあるん
でしたっけ、ね……なら……」

“猫”はニヤリと、牙を剥き出し、笑ってみせた。その双眸に香る青紫の花は、ゾ
ッとするほどに妖冶で──同時にまた、恐ろしいほど真摯な想いを湛えていた。

「……なら?」
「七代どころか八代、九代……いんや、未来……永劫……俺は、アンタの……
小田島さまの、お傍を……離れません、ぜ……」

だってアンタが殺したのは、俺の──脳、だったのだから。

                                           <終>

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

尊敬する小×薬×小の某大手サイト様にて先月開催されていた、にゃんこ祭に、
投稿しようかどうしようかと迷って結局、勇気が出せなかった小品です。
本当は詳細設定が色々と有るのですが、時間泥棒の出現により、今回は仔猫
時代を光速と言いますか、神速でぶっ飛ばして成長した、お薬にゃんことにゃん
こハイパー。ちなみににゃんこハイパーの方はおにゃごとして御座いますので、
対のSS『魅惑のバスト』)をお読み下さる場合、そういったもの(どういったもの?
/笑)がお嫌いな方はどうか、ご注意下さい。

眠れ緋の華──序の幕その五──

2009年03月16日 | モノノ怪
「フー……蛭魔、事の仔細は未だ明らかでないが、君のその表情から察するに、
そちらでは今、どうやら相当、厄介なことが起きているようだね」

己の配下でない薬売りが舞い始めた辺りから、下々の者たちの遣り取りに対し、
夫君の袴の裾をガッチリと掴んで放さぬまま、しばらくは高みの見物を決め込ん
でいた御台所が、物憂げに呟いた。

「事が瀬那君の安否に関わる、というのであれば……手を貸さないでもない」
「……」

猫目石と紅玉が刹那、剣呑且つ華麗に交錯した後──、二人の遣り取りを面
白そうに眺めていた薬売りへと、同時に向けられる。

「「一月(ひとつき)以内に事が(を)解決しなかったら(しなけりゃ)、そこな(御内
証付きの/糞割れ顎)侍を──」」

白檀の骨の扇と、静脈うっすらと透ける、白蝶貝内面の切片を鋭く磨いたかの
如き爪がそれぞれ、薬売りの隣の小田島を指し示す。

「「(お上/上さま)の御寝所に送り込んで、二度と(君/テメー)の許には返し
て(あげないよ/やらねーかんな、覚悟しとけよ)?」
「「えええぇぇぇぇぇ!?」」

脅迫された薬売りよりもまず、勝手に脅迫ネタにされた小田島と少年将軍の方
が、驚愕の叫び声を上げた。

なれど、どう言ったところで、将軍御母公も将軍姉君も在さぬ(いまさぬ)奥御殿
に於いては、片や当代御正室、片や当代大奥総取締、この御二方の双方合意
に基づく決定は、たとえ将軍と言えど、容易に覆せるものではない。

「……」

御内証の方は、渋面を更に険しくさせると、腰の物に我知らず手を伸ばし──
その柄に、ビシリと皹を入れた。

粉砕するところまでゆかなかったのは、その寸前に彼の手首の辺りを──それ
は、目にも映らぬ早業であった──ポンポンと軽く叩いた、多少節くれだっては
いるが、どこか優雅さを偲ばせる指と、それに繋がる、乾いた掌のおかげであっ
た。

「「そんな(ぁ)……!!」」

気付けば、廊下に正座を命じられていた筈の御手付き中臈二人が、上つ御方々
の許可も得ぬままに、いつの間に部屋へと入り込んでいたものやら、この邦の男
としては結構な身の丈を誇る小田島をさえ凌ぐ、立派な体格の若者二人は、水
晶の櫛を御台さまに取り上げられて、塩を振りかけられた青菜の如くになってい
た先程の状態に輪をかけた、酷い顔をして、ヘナヘナと力無く、清しき香りの畳の
上に、紺碧と黄金、共に中途半端な長さの髪を、藻草のように広げ、打ちひしが
れていた。

「それが嫌なら、さっさと御台さまに罪を謝して、これからの事に協力を惜しまな
いことだねぇ」

穏やかな声が、諭すように響く。

「で、薬売り、テメーの答えは?」

御取締が冷笑を浮かべ、薬売りに訊ねた。
                         ・
                         ・
                         ・
「……本当にまぁ……この世で一番、厄介で、恐ろしいのは、生きてる人間です、
ね……」

鋭い牙がギュッと、血の出そうなほどに強く、薬売りの薄い唇を噛み締める。

(けど、今の俺にはもう、このお人らを蔑む資格が無い……もし同じ立場に立た
されたとしたら……今の俺は、小田島さまを守る為だったらきっと、どんな卑怯
な手や、非道な手段も辞さない……)

げに、すまじきものは──恋。

「く、薬売り……?」

誰も、誰かを縛ったり、命じたりは出来ないと、かつて薬売りが言った言葉を、小
田島は今も鮮明に覚えている。

(此奴のこと、まさか短気を起こしたりはせぬだろうが……)

御方々に対し、何か辛辣な振舞に及ぶのではないかと、小田島は、気が気では
なかった。

しかし──

「これまでに得た感触では、なかなかに手強そうな感じでは御座いますが……
よござんす、俺も、出来る限りのことは致しやしょう……では、まず」

聞こえるか聞こえないかの、小さな溜息を吐くと、薬売りは何も含むところの無い、
澄んではいるが、底知れぬ冷ややかさと静謐さを湛えた、いつもお役目を果たす
時の瞳で、周囲を見渡した。

「こちらの皆様方の、真(まこと)と、理(ことわり)……お聞かせ願いたく候!」

眠れ緋の華──序の幕その四──

2009年03月16日 | モノノ怪
鞘も含めて全体に、数多の宝玉を散り嵌められ、柄頭には鬼の頭をかたどっ
たような、変わった細工を施され、懐剣と小太刀の中間ほどの長さをした、奇
妙な剣──と、思しきを舞扇代わりに、改めて舞い出そうとする薬売りに、こ
れはもう、拳骨で黙らせるしかないかと、小田島が、甲にモサッと毛の生えた、
武骨な拳を握り締め、最後の叫びを解き放つと同時に、それに呼応するかの
ように響いた甲高い怒声、そして銃声。

「これはこれは、わざわざのお運び……」

御台所と御内証の方はともかく、薬売りが眉一つ動かさず、それにしてもとん
だ御挨拶、と、口辺にうっすらと笑みを漂わせたまま言ってのけたのは、これ
また妖美な発砲者にとって、分かっていたこととは言え、やはり少々、不満だ
ったようである。

「チッ、相変わらず喰えねぇ野郎だ……」
「どうも……」
「んで、どーなんだよ、何か手がかりは見つかったのか?」
「いえ、それが未だ……」
「……」

今度は最早、不機嫌などという一言で括れるような、生易しい表情ではなかっ
た。なまじ、大層整っている顔立ちであるがゆえに、血の気の薄い、真白(まし
ろ)の肌に、鮮やかな青い筋がゾワリ、ゾワリと何本も浮き出てくる様の凄絶さ
は、眦のつり上がった対の金眼(きんめ)より放たれし、鋭利に過ぎたる眼光と
も相俟って、筆舌に尽くし難いものがある。

((ヒィィィィィ))

少年将軍と、御内証の方付き近習として勤め始めて、日もまだ浅い、割れ顎
の男のみが、勿論、心の中に限定してではあるが、真正直にその恐怖を、見
事な二重奏で以って、表現していた。

閑話休題(それはさておき)──

「捜査の邪魔してた不心得者二人、捕まえてきたよ~」
「ちっくしょー、鉄馬の馬鹿力っ、はーなーせーよーっっっ! ンハーっ!」
「ちょ、紫苑の方さま、俺は関係な……」

三者三様の声に、ズルッ、ズルッと、何やら重たげな“もの”を引き摺る耳障り
な音が、近付いてくる。

「ん~……、でも積極的に関わらなかったってだけで、知ってたのに止めようと
はしなかったんだよねぇ?」
「それは、その……」
「筧君、水町君、※奥仕え誓詞の一番目と四番目、それと※大奥法度の五番
目、暗唱してみよっか?」
「「……」」
「一、二の三、ハイ」

「「“御奉公の儀、実義を第一に仕り、少しも御うしろぐらき儀致すまじく候、よろ
ず御法度のおもむき堅く相守り申すべき事”」」

「うん、悪いことはしません、真面目にしっかりお役目果たすし、決まりもちゃん
と守りますって、意味だよねぇ」


“諸傍輩中のかげごとを申し、或いは人の仲を裂き候ようなる儀仕るまじき事”
「陰でコソコソ人の悪口言ったり、誰かと誰かが仲悪くように仕向けるなんてこと、
絶対しませんみたいな意味だったって、俺は記憶してるよ」


“衣服諸道具の音物、振舞事に至る迄、随分驕りがましき儀之無く、惣じて分限
過ぎたる品持ちまじき事”

「着るもんとか、いろんな御道具の類とかで分不相応な物はなるべく持たないよ
うにして、あと、誰かをおもてなしする時も万事控えめに、だったっけかねぇ……
はい、よく出来ました……“人”ならぬ割には」


部屋の入り口に立った、奇妙な一行の先頭は、苦笑を浮かべていた。
                        ・
                        ・
                        ・
「蛭魔氏、お待たせー。形は物の怪“二枚舌”と、“三猿”(さんえん)。あー、猿の
方はもしかしたら物の怪じゃなかったかな? んー……ま、いっか。で、その真は、
こないだ御台さまが瀬那君から象牙の櫛贈られたのが羨ましくて妬ましくて憎ら
しくて、そんでチラっと見かけた蛭魔氏似の人のことを、水町くんがお半下時代の
ツテ辿って山里の丸の御末とお半下たちのトコまで本当のこと捻じ曲げた噂流し
て、最終的に御台さまのお耳にまで達すれば、御台さまと瀬那君が仲違いするっ
ていう予定で色々やってたのを、筧君は全部“見ざる聞かざる言わざる”で通して、
自分の手を汚さずに……みたいな、そんな理だったみたいだよ」
「「……」」
「え……筧君も水町君も、櫛が欲しいなら丁度……」

少年将軍は懐をゴソゴソと探ると、匠が一体どのような妙技を用いたのか、水晶
で作られた櫛の、その歯の上、飾りを施す部分に、その小さささえ考えなければ、
まるで本物とも見紛う水草や砂利や水車がきちんと配置され、それらの間を、こ
れまた色鮮やかなびいどろ製の小さな金魚たちが、楽しそうに泳いでいるという
意匠の逸品、まったく同じものを二つ、そこから取り出した。

「ね、二人にピッタリだと思って、去年の御歳暮の……えっと、どこの藩からのだ
ったかな? うん、とにかくね、二人のために取りよけておいたんだ」
「瀬那(君)……!」
「フー……正室として、それを許す訳にはいかないな」

感涙にむせび泣きかけた御手付き二人に対し、冷静さを取り戻しはしたものの、
此度は静かな、それゆえに一層激しい怒りによりて、季節はずれの霜に覆われ
た言の葉を、赤御台はその薄い唇から紡いだ。

「櫛は夫が“つま”に贈るもの……君ら二人は……いや、そこな進とキッドも
含めて、君たち四人は、結局は瀬那君の使用人に過ぎない。他の、どのように
粋と贅を凝らした櫛は使えようとも、瀬那君から君たちに櫛が贈られるなどという
ことは……フー、夢のまた夢と思いたまえ」

何よりもまずそんなこと、この僕が許さないし、認めないからねと結びながら、最
後に御台所は、御取締の方をチラリと睨め付けるのを、ちゃんと忘れていなかっ
た。
                         ・
                         ・
                         ・
「ったく……生きてる馬鹿どもの方が物の怪なんぞよりよっぽど厄介だな……」

顳顬の辺りをピクピク震わせながら、皆から「蛭魔」と呼ばれる男が、今度はドス
を効かせた声で低く呟いた。

(お、おい、薬売り、まさか……此処にも、も、物の怪が、いると言うのか!?)
(もともとは小田島さま、アンタを迎えに来ただけ、なんですが、ね……ついで
に見つけちまって、そして見つかっちまった……)

互いの顔を近付け、ヒソヒソと言葉を交わす小田島と、やけに嬉しそうな薬売り
の様子にまず、目を止めたのは、「鉄馬、もういいよ、放してあげて」と、小田島
に負けず劣らず、厳つい容貌をしたお付きの者に指図をした後は、「よっこらせ」
と、爺むさくその場に腰を下ろした男だった。

「おや、小田島さんのお隣に、見慣れぬ御仁がいるねぇ……ああ、つまりおたく
が蛭魔氏似の、例の人か……で、実際にはどこのどちら様?」

驚いたことに男は、その仕立ても趣味も良い形(なり)から、罪びととも思われぬ
に、この城中に在って、自分の髭を、茂らば茂れおのがままとばかり、殆ど手入
れせずに過ごしているようであった。しかしその枯れ色の瞳の中に見え隠れする
理知の光に畏敬の念を抱く者の数、この大奥では決して少なくない。

「初のお目文字致します、進典侍さま、紫苑の方さま、わたくしめは一介の旅す
る薬売り……」

真っ直ぐで曇りの無い、強靭な視線と、濁ってこそいないが、微かな虚無と疲労
を滲ませた穏やかな双眸が、ジッと、珍客を見つめる。

「……詳しくは知らぬが、旅の行商人というのは皆、そなたのように、飛び道具で
突如攻撃されたとて、毛筋の先ほどにも驚かず、冷静且つまた迅速に逃げること
が出来るものなのか? 俺の知る限りでは、昨今の世に於いて※“縮地”(しゅく
ち)の心得有りしは上(うえ)のみ、もし他にも存在するようであれば直ちに報告せ
よと、表より諸国諸藩へ命じてあった筈だが……」

常人であれば、たとえ後ろめたいことが何一つ無くとも、思わず逸らしたくなるよ
うな、物事のすべてを見通そうとするが如き清冽な目と、威厳辺りを払う声音が、
薬売りに問うた。

「※奇し(くし)、奇し(くし)、奇し(くすし)、薬売り……」

茫洋として掴みどころの無い雰囲気を漂わせ、無精髭に囲まれた口から飄々と
した声で静かな歌を紡ぐ、年齢不詳の男。だのに、その背筋はしゃんと伸び、不
思議と品の良い顔立ちに加え、生まれ育ちの確かさを感じさせる端正な物腰は、
いずれ菖蒲(あやめ)杜若(かきつばた)──薬売り並みに矛盾だらけの存在
感を、人に強く印象付ける。

「さて、ね……?」

対する薬売りの答えはと言えば、この一言と──あとは、人を喰ったような笑み、
ばかりであった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

語釈

奥仕え誓詞、大奥法度…
奥仕え誓詞の方は、正しくは「奥女中誓詞」。繰り返しますがウチの場合、
殿方も居りますんで(苦笑)。どちらも享保年間のものより。

縮地…
手許の辞書には、中国の仙術の一種で、瞬間移動のようなものといった
感じに書かれていますが、香夜さんのイメージしたのは、『る/ろ/う/に/
剣/心』の瀬○宗次郎が使ってみたいな、アレ。

くし、くすし…
どちらも「不思議である」という意味。「奇しくも」を思い浮かべて頂ければ。
歌は実在しません、念の為。

眠れ緋の華──序の幕その三──

2009年03月16日 | モノノ怪
タン!

※花喰鳥(はなくいどり)の描かれた絵襖が、乾いた音を立てて、開かれた。

「御台さま、そこまでにしておいて頂こう。上さまが怯えておられる」
「し、進さ~ん……」

少年の蒼褪めていた顔に、微かではあったが生気が戻り、嗚咽交じりになり
かけていた声に今度は、安堵の震えが加わる。

「無事か」
「な、何とか……あ、でもどうして、僕がここにいるって……」
「……気配だ」
「へ?」
「庭も含め、城内でお前が居そうな場所すべてを回り、お前の気配を探した」
「そ、そうですか……(け、気配って、どんな?) ……って、城の敷地内全部
ってそれ、相当走り回ってきたってことじゃ……!?」
「良い鍛錬にもなった」
「「「……」」」

微妙な沈黙を破ったのは、呼吸一つ乱れている様子の無い御内証の方の背
後にユラリと立った、大柄な影の存在であった。

「せ……せいじゅう、ろう、どの……や、やっと、ゴホッ! お……い、つき、も
うし、た……」

青々と剃り上げた月代から、これまた青々として且つ先端が何とも雄々しい
割れ顎の先まで、滝のような汗を滴らせ、息も絶え絶えながら、その忠義心
と武士(もののふ)としての矜持は見上げたもので──

「う、上、さ、ま……御、無、事、で……何、より……」

刻限になっても道場にお出で無きゆえ、典侍さま甚く案じられ、御自らお迎え
に参上致すと仰せ出されて──といった内容を切れ切れに、それでも何とか
主の、そのまた主にお伝えして、ふうと一息、ようやっと顔を上げたその強面
の武士が、眼前に見出したるは──

※黒髪の 結ぼれたる 思ひをば
(結んだ髪みたく、解けにくい想いにゃ、耐え難いもんが有るが)


ひいらり、ひらり、ふわふわり。

解けて(とけて)寝た夜の 枕こそ
(アンタと寝た夜だけは、日頃のそれも、淡雪が融けてくみてぇに、心弾む
ものになった)


両袖が、春の風を受けて軽やかに翻り、白い掌と白魚のような五指がそれ
を摘まみ、たたみ、閉じては再び、孔雀の羽広げるが如きに開く。

独り寝る夜の 仇枕(あだまくら)
(だからこそ、独り寝の夜はやり切れない)


「く、く、く、くす、り、う、り……何故、お前が、此処、に……」

袖は片敷く 褄(つま)じゃと言ふて
(体の下に敷いた袖をアンタだと、自分に言い聞かせる)


江戸っ子たちの間では、野暮の代名詞として通っている、浅葱色。しかしそ
れも、不思議と、この薬売りの男が──雪膚(せっき)の上の、稀有の美貌、
細くしなやかな両手指の先端、綺麗に整えられた十枚の指甲の上には、紫
藤(しどう)か、はたまた※紺桔梗(こんききょう)の花弁を載せて、何とも匂や
かな佇まいではあったがこの者、ほっそりとした首の白い喉には小さな仏を
住まわせており、また、傍近く置かれた、これまた大きな目玉模様が、金泥
か何かで描かれた、商品の詰まっているのだろう、木製の背負い箪笥の大
きさより察するに、チラと覗く白い項からたとえ、どれほどの艶冶滴ろう(した
たろう)と、胡蝶の羽とも蛾のそれとも見紛う着物に包まれた撫で肩が、いか
に華奢に見えようと、この者は、己が身の内に新たな命を宿す性ではないと
知れた──身にまとえば、何とも粋な色合いとなり、彼の婀娜めいた動きや
表情に到っては、花街のあでやかな玄人衆(くろとしゅう)も、裸足で逃げ出
す勢いだ。

愚痴なおなごの 心と知らず
(馬鹿みたいな俺の心も知らねぇで)


だが、割れ顎の侍は知っている。

しんと更けたる 鐘の聲(こえ)
(静かに更けてゆく夜半に、どっかの寺の、鐘の音が聞こえてくる)


片袖を口に加えたり、両袖で口許を覆う所作などは、※お鳴物所(おなりもの
どころ)に属する若造や小娘たちなんぞには逆立ちしても出せぬ色香が、匂い
立たぬばかりであり、山袴と脚絆にきっちりと包まれている脚も、それが浅葱
の裾からスィ……と覗けば、美女の白い素足にも勝る艶を放つのだが。

昨夜(ゆうべ)の夢の 今朝覚めて
(辛い辛いと、悶々と寝返りを打ちながら、ようやっと眠りに落ちて……アン
タが傍に居る、嬉し楽しい夢を見れたと思った矢先……畜生、もう、目が覚
めちまった)


たとえ悋気の青き焔揺らめいていようともその艶めかしさ、些かも損なわれ
てはおらぬ絶世の流し目で、ジッと見つめられようと。

ゆかし懐かしやるせなや
(ああ、思い出すだに遣る瀬無い、この想い)


此奴は、毒蛾──生半可な覚悟で、そのなよらかに動く白い手を取ろうもの
なら、たちまちに我が身はおろか、心の奥底をさえもズタズタに爛れさせられ
てしまうであろう──毒の、蝶なのだ。

積もると知らで 積もる白雪
(いつの間にやら外には雪が積もってた)


部屋に焚き染められた伽羅の香、貴人らの御召物・御持物より漂う個性溢れ
る様々の馨りに、床の間に活けられた薔薇(そうび)の花、そして──あの甘
く、ほろ苦く、不可思議な数多の薬種の匂いが渾然一体となって、頭の奥がク
ラリと痺れてゆきそうになるも、それを必死で堪え、何とか頭の中をシャッキリ
させようと、小田島は、頭をブンブンブンと勢い良く振ると──

「つもる……しらゆ「過ぎしあの日に雪山の猟師小屋でお前と一つ床に寝たは、
薪が足りなかったから仕方無く、だっっっ! 共に眠っただけで、俺は、お前
と契った覚えは、
断っっっじて、無いっ!
「お見限りとは情けなや……積もってた雪はねぇ、俺の、物思いが、凝固した
もんなんです、よ……?」

よよと泣き伏す薬売りに、少年将軍はオロオロとし始め、紅毛赤眼の御台所
は先程までの、相手を睨み殺さんばかりの視線もどこへやら、仲間か同志を
労わるような眼差しを薬売りに向け始めていた。そして小田島の仕える主はと
言えば、眉間に深い縦皺を十数本、そして何故だか、手指をゴキゴキと──
さながら、「分かる、分かるぞ、その気持ち」と、薬売りに同調するかのように、
鳴らしている。

薬売りの唄と舞は、お上方は※一度として目にしたことも、耳にしたことも無い
ものではあったが、士農工商という身分の別、過去のどの時代よりも厳しきこの
蝙蝠の御世にあっても、“美”というのはやはり、階級社会の厳然として厚く高
い壁を、軽々と飛び越えられる、数少なきものの一つであったようだ。

けれど、小田島だけはもう慣れたもので、特に心の琴線を掻き鳴らされた風で
も無く。

「嘘泣きやめーっ! そもそもお前は女子(おなご)でもなければ黒い髪でもな
いではないかっ!」
「(チッ……この野暮天が!) ……亜麻髪の、結ぼれたる、想いをば……」
「唄うな、舞うな、誤魔化すなーっっっ!!!」
「そしてテメーも廊下や他の部屋にまで
響いてくるような糞うるせぇ大声で絶叫
繰り返してんじゃねーよ、このファッキン
割れ顎っ!!!」


パァン!……パラパラパラ……

物騒極まりない短筒の銃声、辺りに立ち込める火薬の臭い、壁に開いた無残
な穴よりハラハラと、白い花びらのように零れ落ちる、漆喰の欠片。

小さな天下人の顔が、みるみる内に再び、サーッと音を立てて、蒼褪めてゆく。

「ひ、ひるま、さ……」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

語釈

花喰鳥…
縁起の良いとされる鳥(鶴だとか鳳凰だとか鷲、鷹だとか)が、花の咲い
た枝や、松の枝を嘴に加えた図案。

黒髪…
舞とセットの地唄の方でお願い致します、notめりやす!  薬売りさんなら
お三味や筝の伴奏無しでも、唄うのと舞と、全部一人で難無くこなせてし
まうような気がするんですが……何となく(?)。以下はお座敷舞のようで
すが(?)、御参考迄に(本当は流派によって微妙に動きとか異なる?)。
ttp://www.youtube.com/watch?v=Jvnmu1QixHU

紺桔梗…←こんな色です。

お鳴物所…
一種の宴会場。大奥の催事で音楽が演奏される時に使われる、和楽器
を保管しておく場所も併設されている。ここに配属されるのは確か、歌舞
音曲の嗜みと、レクリエーション係の才能を持った人達……だったように、
記憶しております(あやふや!)

一度として~…
『黒髪』も日舞(狭い意味での)も歌舞伎と深い繋がりが有り、そういう系
(←どーゆー系だ)は下方(したかた)のものとして、昔は、武家が嗜むも
のとはあまり考えられてなかったようです(絶対に、という訳ではなかった
と思われますが。特に女性は)。

眠れ緋の華──序の幕その二──

2009年03月16日 | モノノ怪
移ろい往く四季の中に在っても、その大半を自らの盛りとし、あでやかに咲
き誇る※長春花(ちょうしゅんか)。

九重ならぬ八重のかぐわしき奥深くにて独り、孤高を守り、超然と在るべき
花々の女王が、何を思うてか奇怪なことに、その優艶なる白き手をもて、俗
界のあどけなき支配者に触れようとする、数日前のことであった。

「フー……浮気者は……相手と重ねて、四つに斬らねば……ならぬ……」

細く優美な刀身はさて、福岡一文字即ち則宗か。

生ける般若の──但し、男であるが──白く端麗な貌には、ありとあらゆ
る負の感情を通り越した上での、世にも凄艶なる無表情が浮かんでいる。

「う、浮気なんてしてません、僕はただ、薬売りさんのお手伝いをするように
って、蛭魔さんから言われたから……!」
「フー……面妖な尖り耳と言い、牙と言い、胡散臭い形(なり)と言い、似て
る似てるとは思っていたがやはり、あの男の差し金か……古典的で使い古
されたやり方ではあるが、抜け目無い奴のこと、効果がよく知られているか
らこそ、何度も用いられてきた手を、と、いうことか……血縁の者を差し向け
てくるとはね……フー……いかにもあの古狐が考え付きそうな、あざとい方
法だ……」
「あの……赤羽さん、人の話聞いてます?」
「フー……瀬那君……あれほど僕が、知らない人に着いて行ったり、知らな
い人から物を貰ったりしてはいけないよと注意しておいたのに……残念だよ、
僕の与り知らぬところで、拾い食いの摘み食いだなどと……」
「だからそんなことしてませんってさっきから何度も言ってるじゃないですかぁ
ぁぁ! これは“天秤”で、貰ったんじゃなくて、物の怪との距離を測るのに使
うから、一つずつ薬売りさんに投げて、並べてもらうために……」
「フー……姿形(かたち)が蛭魔に似通っているというだけでも疎ましい
というのに、※蝶で君を釣ろうとは、あの枯れ芒までをも思い出させる、“真”
(まこと)
にもって不快千万だ……」
「お願いですから僕の※理(ことわり)聞いて下さいよぉぉぉ!」

一体、誰が信じられよう?

羽織の胸に染め抜かれた紋所は確かに※蝙蝠、とは言え、おいどで後退り
する黒茶の跳ね髪、鼈甲のまあるい双眸の淵は零れんばかりの泪珠に満ち
満ちて、それゆえに両目の両端を痛々しくも赤に腫らした怯え顔の少年がま
さかまさか、この壮麗な城に於ける絶対唯一の主にして、日ノ本を統べる天
下人──当代の、公方さまであろうとは。

そしてまた一体、誰が信じられよう?

※金赤地※疋田(ひった)の総絞りに、金糸銀糸で※源氏車煌びやかに縫い
取られた単衣の上、敢えて横糸も縦糸も同じ色にした無地の※綴れ錦の帯
を締め、※薄桜(うすざくら)の帯紐と※血珠(ちだま)の※帯留めを用いた華
麗な装いにも拘らず、白磁の繊手に人殺しの道具を握り締め、年端もゆかぬ
子どものような相手に対し、鬼気迫るような眼差し以て(もて)、ゆっくりゆっく
り一歩ずつ、決して逃さじと近付いてゆく麗人が、その少年の“つま”即ち──
御台所で、あろうとは。
                       
「は、こいつぁ火事場……いや、修羅場、修羅場♪」

練り絹の肌触りの如く、耳に心地良き声音で眼前のその“修羅場”を揶揄す
るは、目も眩むような極彩色の華美に満ちたこの大奥に在ってさえ、ひときわ
異彩を放つ、鮮やかな浅葱の地に色とりどりの大きな目玉──としか、表現
のしようが無い奇妙な柄の着物に身を包んだ、一人の行商人。

良い具合に色褪せていることが、却って風情を感じさせる、菫色の頭巾を結
んだ頭と、女結びの派手な帯が目に付く背中を、平伏の姿勢から、激昂して
いる方の相手へ気取られぬ程度に上げれば、これまた派手な色合いを重ね
た衿の中に埋もれること無く自己の存在を主張する、柘榴石か何かと思しき
宝玉を連ねた首飾りと、縫い付けてでもあるのか、商人(あきんど)の胸の辺
りでピタリと固定された、恐らくは裏返しにした鏡が、それぞれにキラと、鋭い
光輝を放つ。

大奥御用とて通行手形を持ち、堅実な装いで以って日々、※七つ口(ななつ
ぐち)を訪い、その脇にて大奥の者たちに様々の品物を売る大店の人間でな
いことは、一目で明らかだった。

「く、薬売りさんからも言って下さいよ、誤解だって……」
「いやいや、男だけの表御殿ならいざ知らず、※品(しな)変わるこちら大奥で
その首座におわします御方に対して、アタシ如き一介の薬売りが直接口を利
くなんざぁ、畏れ多いにも程が有る」
「そ、そんなぁ……!」
「フー……思っていたより礼儀の弁え有る者のようだね……別御殿住まいの
この身に向かって、“大奥の首座”と口にするその度胸もなかなかのもの……
許そう、面を上げるといい」
「どうも……」

貴人に対する作法を守り、たとえ相手からの許しを得ていても、正視とまでは
ゆかぬ角度にて、上体を起こすのを止めた商人(あきんど)の艶容を目にして
──

(これ、は……!)

御自身の貌を筆頭に、美しいものを見慣れておられる筈の御台所が、思わず
一瞬、息を呑む。

(蛭魔の眼鏡に適った者である以上はと、予想はしていたがまさか、これほど
までとは、ね……加えてこの僕を前にして、この落ち着き払った態度……あな
がち、身贔屓というばかりでもないと……いうことか)

その大半は頭巾の中にまとめてあるが、白い額の上には一房、二房、柔らかな
曲線を描き、また顔の両側でもゆるやかに波打つ、商人の亜麻色の髪は、向か
って右頬にかかる部分だけが、青い紐で中途半端に束ねられていた。

髪と同色の三角眉の下、※滅紫(けしむらさき)の切れ長の瞳は、その深淵の
優しくも冷たき光、とても“ひと”の持ち得るものとは思えず。

加えてその周囲には、歌舞伎役者の如く、鮮やかな朱を点じ──もっとも、目
元のそれだけは趣を些か異にして、寺社の呪符や御守りの類に記されている
ような文様を描いていた──、ますますもって得体が知れぬのだが、その割に
はあたかも高貴の御方の如く、スッと綺麗に通った鼻筋で──しかしそこにも、
おまけの一刷け。

口元には常にそこはかとなき微笑を湛えているように見えるが、それは上唇に
だけ差した藤色の脂(べに)の両端──間もなく没しようとしている、下弦の月
の魔力だ。

そして最後に件の派手な着物で、まさに胡散臭さの権化とも言うべき風体なの
だが、それらの部分部分が繋がって結んだ全体像に出会うと人は、大抵の者が
商人のことを、“美しい”と感じてしまうのである──ただし、理由の分からぬ若
干の寒気と共に。

「……御尊顔を拝し、恐悦至極に存じ奉りまする。御台さまに於かれましては
御機嫌「フー、君を此処に招き入れた狐のせいで麗しくない至りだよ、心
にも無い挨拶など無用だ。
だが……蛭魔の縁の者ということを差し引いても、
君から感じる音楽性は、とても只者のそれとは思えないな」
「いえいえそんな、滅相も無いこと。御城下では“蛭魔さまには及びも無いが、
せめてなりたや将軍さまに”
とまで言われる、“あの”御取締の御局さまと血
の繋がりだなんて。俺は……」

突如として一人称を変えると、ク、ク、ク……と、鋭い鬼歯を剥き出しにして商人
は、その綺麗な顔には何ともそぐわぬ、奇妙な笑い方をした。

「ただの、薬売りで、御座います、よ……」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

語釈

長春花…庚申薔薇の別名。

蝶…投扇興の的。

理…
瀬那が使ったところでの意味は、理由・訳・事情。要するに、話ちゃんと
聞いて下さいという事。ちょっと強引な使い方をしてしまったなぁとは、自
分でも反省しています(苦笑)。

蝙蝠…拙ブログに於ける、葵の御紋に代わるもの。

金赤…←こんな色です。

疋田の総絞り…
布全体を大変に細かい一部分、一部分に分けて括り(隙間無くびっちり
と)、そのすべてに、これまた小さな四角形の絞り染めを施すという、物
凄く手間隙のかかる上に高価な逸品。そのあまりの贅沢さから、史実の
大奥でも時折、着用禁止令が出されていたという。

源氏車…
牛車の車輪の模様。そのままの円形と、半円型の二種類があるらしい。

綴れ錦…
西陣織の一種。文様構成用の横糸と、地の部分構成用の横糸をそれぞ
れ、折り返して使う為(=二重になって厚みが出る?)、その二種類の横
糸が境界を接する部分に於いては、縦糸に沿って間隔が生まれる。

薄桜…←こんな色です。

血珠…赤い珊瑚を研磨した珠の事。

帯留め…
現在のような帯留めが作られるようになったのは、実は、明治時代に入
ってからなのだそうです。もとは江戸後期~末期にかけて、女性達が愛
する人の持ち物で、帯締めに通せそうな何か(刀の鍔など)を用いた、シ
ンプルなものだったのだそうな。今回使ったのは単に、香夜さんが「あー、
赤羽に使わせたいなー」と思ったからです。ビバ捏造。

七つ口…
大奥の出入り口の一つで、夕方四時(=七つ)に閉められる。

品…事情。

滅紫…←こんな色です。

眠れ緋の華──序の幕その一──

2009年03月16日 | モノノ怪
「いや、某(それがし)は本当に、あの男のことなど何とも思っては……!
それどころかむしろ、あやつめの傍若無人な振舞にはいつも、辟易させら
れる思いで御座りまして……」
「小田島さんは僕と同じで、嘘が下手ですね」

ふふ、と笑いながら、少年は小さな手を一振り。

リン──

何も知らぬ者が見たのなら、一種のカラクリかと思うような、左右に銀鈴の
付けられた白い、不思議な物体が一度に五つ、少年の五指それぞれから
飛び立つ。それらはまるで生き物のように、綺麗に四方──否、“五方”へ
と着地すると、行儀良く少年に一礼した。

リン──リリン、リン、リン……

「こちらこそ、どうぞ宜しくね」

リン、リリ、リ──ン……

(ふむ……加世といい、この御方といい、よくよく妙なものに気に入られるも
のだ)

アンタ、人のこと言えた義理ですかいと、呆れたような声の空耳が、何とも
雄々しい割れ顎の侍に聞こえたかどうかはともかくとして。

「だって、本当に嫌ってるのなら、相手にしないでしょう?   無視すれば済む
話ですもの」

そう言って、少年は再び、柔らかく微笑んだ。

けぶる春の陽射しの如くに温かく、綺麗なその笑顔と、まさに“清浄無垢”
そのものといった御心の持ち主に──少年の傍に仕え始めて未だ日も浅
い小田島には、無理からぬことながら、少年の心の中の最も柔らかにして
繊細な部分に、彼の実年齢と、それよりも更に年若く見え、「いたいけな」
とさえ形容し得る容姿には、いかにも不釣合いな、数多の複雑な“思い”と
“想い”が秘められていることに、まだ気付けないでいた──対し、一体誰
が反論出来ようか。

ましてやこの御方は──

「ねえ、小田島さん、天秤さんたちを入れてきた籠、空になっちゃいましたか
ら、帰り道に何か、綺麗な花でも摘んで帰りませんか?」

ほら、あの藤の花なんか、薬売りさん喜ぶんじゃありません? 白いのと青
紫のを両方とか……あ、別に全然問題無いですよ、好きなだけ持って行って
下さいね。えっと、僕は……ああそうだ、今の時期はまずこれ──

そう言って少年は、誰を想ったか、大輪の赤い庚申薔薇に、そっと手を伸ば
した。

(コチラ、ヘ……)

穢れを知らぬ手に応えようとするかのように、白い──白過ぎる、優美な手
──

「上さまっ!!!」

甘美にして馥郁たる香りを放つ、見事な八重咲きの花の奥深く、常には見え
ぬ其処──

底の闇より、連なり来たりて──
                        ・
                        ・
                        ・
チリーン──

「ほう、これは……」

藤花の色に彩られた形の良い唇を、男は、嗤うでなく、驚くでもなく、しかし他
人から見れば不吉としか感じられぬ風に、薄く歪めた。

ピィン、ピピン、ピ──ギャイーン!

「って、おい、何だ今の変な音は? スマートじゃねえな」
「ホント、珍しいわね、アンタがそんな変てこな音出すなんて……って、赤羽、
血ィ出てる、血!」
「……」

ひび割れた象牙の義甲の隙間から、紅(くれない)鮮やかな細き流れが、一
筋。

「フー……どうやら……僕と合わないなどと生易しいものではなく……“人”で
は有り得ない音楽性を持つ、何かが……瀬那君の近くに、現れたようだ……」