冷艶素香

現ES21がいろんな人達から愛されていたり、割れ顎の堅物侍を巡って、藤と金の人外魔境神未満ズが火花を散らしたりしてます。

Amphitrite

2006年05月09日 | 筧×瀬那
昔々のお話。

大海を意のままに治める偉大なる海神ポセイドンは、一人の愛らしい海の精に
恋をしていた。だが自分より遥かに大きく、鋭い眼差しと厳めしい雰囲気を持つ
彼からの求愛に、小さな海の精は怖いやら恥ずかしいやらで、逃げ惑うばかり。
叶わぬ恋の苦しさには、さすがのポセイドンもかなり傷悴していた。
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つい先日、己の所属する巨深ポセイドンとの激闘の末、自分達から勝利をもぎ
取っていった泥門デビルバッツというチーム。その敵チームに所属する小早川
瀬那という少年に、筧はひっそりと想いを寄せていた。

初対面の時から瀬那の礼儀正しい態度、はにかんだような控えめな笑みに好感
は抱いていたが、デビルバッツの主務だとばかり思っていた彼が実は、現在高校
アメフト界を震撼させているスター選手「アイシールド21」だと分かった時の衝撃と
きたら……。

奇しくも中学時代に留学していたアメリカで、やはり「アイシールド21」と呼ばれて
いた、驚異的な強さを誇る選手と戦った経験のある筧にとって、その実力と正体
を知るまでは、日本のアイシールド21など道化以外の何者でもなく、彼は言葉と
態度の限りを尽くして日本のアイシールド21を罵倒した。

紆余曲折を経てようやく瀬那=日本のアイシールド21の図式が定着し、日本の
アイシールド21を侮る気持ちは綺麗さっぱり消えたものの、瀬那を手酷く傷つけて
しまった事実までは消えず、筧は過去の自分を絞め殺してやりたいと思い詰める
ほどに後悔していた。

試合後に一度だけ、筧は瀬那と街中で偶然に出くわした。思わず声をかけ、近くに
あったファミレスに瀬那を引っ張り込んだ筧は、改めて瀬那から
「自分が日本のアイシールド21である」との告白を受け、頭まで下げられた。
薄々感付いてはいたので、瀬那からのアイシールド21発言にはそれほど驚かな
かった筧がむしろ驚いたのは、自分が瀬那への気持ちを自覚したことだった。

激しい罵倒を覚悟の上で─運が悪ければ暴力を振るわれる危険すらも省みず、
他者の大切なものを、知らなかったとはいえ冒涜していたと、ひどい罪悪感に
小さな体を震わせていた瀬那。フィールドに於ける勇敢さと、目の前の庇護欲を
そそる儚げな姿とのアンバランスが、筧の「男」としての本能をひどく刺激した。

それからの筧は寝ても覚めても瀬那のことばかり。恋心を自覚したはよいが、
男同士、しかもついこの間まで敵同士として戦っていて、相手は自分に対する
後ろめたさ故に、常にオドオドとした怯えを滲ませている。

どうしたものか……。
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その日もやはり、海神から身を隠していた海の精のもとへ、一頭のイルカが
訪ねてきた。

「何故ポセイドン様の求愛を拒まれるのです?」
「あれほどご立派なお方ならば、相応の方を娶られるべきですわ。私のような
取るに足らぬ者など……」
「ご自分をそのように卑下されるものではありません。ポセイドン様は貴女様
の仰るようにそれは立派で、偉大なお方。そのようなお方に見初められた貴女
様が、何故取るに足らぬ訳がありましょうか? 私ども海の眷属も、日々貴女
様のお可愛らしさを目にしており、またあなた様がどれほどお優しい方かもよく
存じております。貴女様をこそ、我らが海の女王に戴きたい!ああ見えてポセ
イドン様は情愛細やかなお方。ぜひ一度お付き合いされてみては?」
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悶々と恋煩いに悩んでいたある日のこと。筧は母から、今度新しく彼の住む街
にオープンする、超大型水族館の無料入場券を手に入れた。

「いらねぇ。高校生の男にこんなモンどうしろってんだよ……?」
「お母さんだってあんたなんかにあげたくないわよ!でもその日、高橋さん達
との先約があってどうしても行けないから……。ほら、水町君だっけ?あの子
とか、部活のお友達と一緒に行ってくれば?勿体無いじゃない」

身長2m近くの野郎二人で水族館?視覚の暴力だ……。

額に手を当て、眩暈をやり過ごす筧の頭に突如、稲妻のようにある計画が閃い
た。

これだ!

早速筧は瀬那にメールを送った(らしくもなくイルカのマークをあしらったデコレー
ション・メールだ)。先日ファミレスでメルアドを交換したはよいが、メールを送る
きっかけが無く、これまた悶々としていたところだったのだ。

瀬那君、こういうの好きだといいんだが……。

そわそわとしていたところへメールの受信音。液晶画面を覗き込んだ筧の表情
は、巨深の仲間達が見れば間違いなく「逃げろ!大地震か津波が来んぞ!」と
叫ぶこと請け合いの、普段の彼からは想像も出来ないほどニヤけたものであっ
た。
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デート(あくまで筧視点)当日。待ち合わせ場所で筧は一時間も前からソワソワ
していた。

あんまリキんだ格好してっと瀬那君に引かれちまうだろうけど、だらけた格好も
なぁ……と、昨夜散々に悩んだ末に選んだ、深いブルーのジーンズと淡い水色
のシャツ。それらの上に白い薄手のジャンパーを引っ掛けた彼の姿を見て、周囲
を通る女性達からは華やかな嬌声が絶えない。だが彼にとっては百万の女性から
の称賛よりも、瀬那一人からの評価だけが気になるところであった。

「かっ、筧君ごめんね!?待った!?」

試合の時の光速の走りとは違って、その小さな姿により相応しい、可愛らしい
小走りで駆けてきた瀬那に、筧の胸は思わず高鳴る。

「いや、全然……」

待ってないよ、俺もさっき来たばかりだから……そう言いかけた筧の傍を通り
過ぎた親子連れの、子どもの方が放った痛烈な一言に、筧は
「子どもなんて大嫌いだ!」と心の中で叫んだ。

「ママー、あのおっきなお兄ちゃんさっきもいたねぇ~!」

しばしの沈黙の後、凍りついた筧を「解凍」したのは、苦笑気味の瀬那の
「行こっか?」という、すべてを聞かなかったことにしてくれた、温かな一言
だった。
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出だしで少々躓いた分を取り返そうと、水族館に入ってからの筧は必死だった。
瀬那から水族館行きのOKを貰った日からずっとリサーチを繰り返していたおかげ
で、瀬那のふとした疑問の呟きにも(何故イワシ、カブトガニ、伊勢海老が同じ
水槽に住んでいるのか、ウーパールーパーは何を餌としているのか、アザラシと
オットセイとアシカはどう違うのか……など)スラスラと淀み無く答える事が出来た
ので、瀬那の瞳の中に驚きと称賛の光が煌めく度、筧は心の中でガッツポーズ
を繰り返していた。

しかし人生は楽もあれば苦もあるもの。午後から海獣ショーが行われることに
なっているプールを眼下に見下ろすレストランでの昼食時。

「筧君、今日は本当にどうもありがとう!でもどうして他校生の僕なんかを誘っ
てくれたんですか?」

目の前でフランベしてもらったオレンジ風味のパンケーキに、嬉しそうに齧り
付きながら、ハタと気が付いたように疑問を投げかけてくる瀬那。これまでの
「うみのおともだち」関係の質問とは一線を画する問いに、筧は緊張しながらも
一世一代の勇気を振り絞って答えようとしていた。

「それは……瀬那君がす「「ザッパーン!」」

好きだからと、一番肝心な言葉を唇が紡ごうとした瞬間、瀬那の聴覚と視線は
プールで水飛沫を上げた鯨のクーちゃんに奪われた。午後のショーのためのリハ
ーサル中だったようである。

「筧君、今の見た!?スゴイね、スゴイね!」
「ああ……」

はしゃぐ瀬那とは対照的に、筧は両肩を落とし、どんよりとした雰囲気を漂わせ
る。

鯨なんて大嫌いだ……!

筧の目から発射された殺人光線をまともに喰らったクーちゃんが、本日のショー
に不参加決定となるのはこれから数分後のことである。
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鯨のクーちゃんは突然の不参加だったが、その分まで他の海獣達が頑張ったこと、
また今日は開館初日ということで、ショー会場への入場時に配布されていたカード
に印刷されている番号が抽選に当たった場合、イルカのルーちゃんと握手が出来る
という特典があったため、海獣ショーの盛況ぶりにはいささかの翳りも見られなかっ
た。

それ故に入場者数も大変なもので、座席はギュウギュウ詰め。案内員の
「申し訳無いのですが弟さんはお膝の上に乗せて頂けますかぁ~?」という能天気
な声のお願いに、筧は一も二もなく飛び付いた。

「わぁっ!」
トレーナーを乗せたままシャチが豪快なジャンプが決める度、オットセイ達がピタリ
とダンスのポーズを決める度、瀬那は本当に嬉しそうに、楽しそうに歓声を上げる。
そして決まってこう言うのだ。

「筧君、今の見た!?」

最初こそ幼児のように抱えられることに羞恥の抵抗を示した瀬那だったが、ショー
が始まってしまえば興奮のあまり、筧のシャツをギュッと握り締め、眩しいような
笑顔を惜しげもなく筧に向けるのであった。
神様アリガトウゴザイマス……!!!
筧の方はといえば別な意味での興奮と幸福のあまり、昇天しかけていた。

そしてクライマックス。見応えのあるショーを終わらせたイルカ達が頭だけを
プールサイドに乗せ、お行儀良く整列している中、司会者の女性が抽選番号を
読み上げる。

「421番の方、おめでとうございます!」

筧と瀬那は二人して顔を見合わせ、筧の手元にあるカードを見つめた。その番号
は筧が貰ったカードの番号だったのである(ちなみに瀬那は422番だった)。

「瀬那君が行ってこいよ」
「筧君が当たったんじゃない!」
筧としては好意のつもりで瀬那にカードを譲ろうとしたのだが、瀬那は遠慮して
か、受け取ろうとしない。しばしの押し問答の末、当選者が出てこないのでは
ショーが終わらないのと、抱きかかえている瀬那を下ろすのがこの人混みでは
無理ということから、仕方なく筧は瀬那を抱えたまま、一番前の席まで歩いて
行った。モデルのように見栄えのする長身の青年が、可愛らしい弟(?)を抱いて
階段を下りてくる光景に、若い女性や子ども連れのお母様方は我を忘れたように
キャアキャアと携帯のカメラのシャッターを切るのであった。

「ご当選おめでとうございま~す!さあ、真ん中の子がルーちゃんです、どうぞ
握手を!」
「えっと……」

当選者は筧君なんだけど……と戸惑いながらも、背中を押さんばかりの司会者
の勢いに圧され、瀬那はソロソロとルーちゃんの傍へ歩み寄る。初めは恐る恐る
だったが、キュキュキュッ♪と嬉しげに鳴くルーちゃんの想像以上の可愛らしさに、
瀬那は徐々に顔を綻ばせ、最後にはルーちゃんをギュッと抱きしめて握手していた。
つややかな質感の哺乳類はお返しに、瀬那の小さな唇にキスをする。何とも微笑
ましい光景であった。

……瀬那の背後でドス黒いオーラを発散させている身長191㎝の美丈夫を除けば。

瀬那の抱擁を受けた上、あまつさえその唇までも奪ったイルカに、筧は再び
「○○なんて大嫌いだ……!」と叫びそうになっていた。しかし今回に限っては、
その憎悪の対象と偶然か必然か、目が合ってしまったのである。
イルカの双眸は好奇心と人懐こさと賢さで、キラキラと輝いていた。

我らが王、どうかご心配無く。

声ならぬ声を確かに聞いた驚きで筧がしばし呆然としている間に、瀬那はルー
ちゃんから名残惜しげに離れた。すると、瀬那が心配でやはりプールサイド近く
に佇んでいた筧の長い脚を、ルーちゃんは少し背伸びして頭で払い、危うく転び
かけた筧の顔の下に素早く顔を潜り込ませると、その唇に軽くキスをしたのだっ
た。

あっという間の出来事ではあったが、目敏い女性達から怒涛のような嬌声が
上がったのは言うまでもない。
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「筧君、筧君?どうしたの?」
気が付けば心配そうに覗き込む瀬那の顔。イルカとのキスの後、自分はどうやら
放心状態に陥っていたようで、あれからどうやって水族館を出たのかまったく覚え
ていない。

微かに潮臭くはあったものの、あれは間違いなく瀬那との間接キスだった。
瀬那君、嫌だったんじゃねぇかな……?

筧の瞳の焦点がしっかりと定まり、像を結んだことを確認すると、瀬那は安堵の
笑みを浮かべた。
「よかった!僕と間接キスになっちゃったから、筧君気持ち悪くなっちゃったのかと
思いました」

まじまじと瀬那を見て、頭の中がまだボゥっとしている筧は、素直な想いを口に
する。

「嬉しかった……」
「え?」
「瀬那君とキス出来て……嬉しかった……」
「か、筧君……?」

ふわりと上から優しく抱きしめられ、瀬那は驚きのあまり硬直した。しかし、その
厳つい雰囲気からは想像も出来ない柔らかな抱擁と、微かなオーデコロンの香り
に酔いしれて、いつしか瀬那の両腕も筧の腰に回されてゆく……。
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その後、夕陽眩しく輝く中で改めて、筧は瀬那へ、想いの丈を告白し、瀬那も
「こんな僕で良ければ……」と、戸惑いながらも筧の想いに応えた。

そして水族館は二人の行きつけのデート場所となり、逢瀬の度に「うみのおともだち」
の何らかの協力によって、二人の絆はますます深まってゆくのであった。

ちなみに最初のデートの日、海獣ショーでイルカのルーちゃんとの握手記念に
貰ったイルカの縫いぐるみ型リュックを、瀬那はそれからの筧とのデートには
必ず背負ってくるようになる。縫いぐるみ型リュックのタグに書かれた名前は
「トリトン」と言うそうだ。
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イルカの説得に押し切られ、改めてポセイドンと対峙してみれば、確かに彼は
その外見に似合わず、細やかな愛情と優しさを示してくれた。いつしか海の精
─アンフィトリテもポセイドンを愛するようになり、やがて二人は盛大な華燭の
典を挙げる。そして月満ちて彼ら夫婦の間には息子・トリトンが生まれたので
あった。

海神の想いを遂げさせた功労者のイルカは、星々の海を泳ぐ「イルカ座」として
の栄誉を与えられ、彼の一族は海神一家の車を牽く聖獣として、末永く海の眷属
の尊崇を受けるようになったそうである。

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2 コメント

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Unknown (リンカ)
2008-08-04 11:59:51
いつも楽しませてもらっております。
なかでもAmphitriteが楽しくて可愛くて大好きです。筧の気合の入りようと空回りようが素敵!そうして
海の神と絡め、結ばれるところがロマンチックですよね!
このような筧セナ、或いはヒルセナ(何故)をまた是非描いてください。
蝶・嬉しいですvv (冴月 香夜)
2008-08-11 21:19:30
>リンカ様

こんにちは! 度々のお出でと、この度頂戴した有難きコメントに対し、心より
御礼申し上げます、多謝!(嬉)
『Amphitrite』を気に入って頂けたようで、とっても嬉しいですvv か、「可愛い」
という誉め言葉を頂いたのは、私の記憶に誤りが無ければ、ももももしかして
初めて、か・も……(胸キュン☆)? うっひょおい、わっひゃぁぁぁぁあ~♪……
ゴロゴロゴロ(((〃。ω。〃)))♪
果たしてリンカ様の御期待に添えられるものかどうか、甚だ心許無くは御座い
ますが、貴女様の御言葉を励みに、『Amphitrite』系(?)の筧セナとヒルセナ、
今後も挑戦だけは続けてゆきまする……(>Д<)ゝ敬礼っ!

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