冷艶素香

現ES21がいろんな人達から愛されていたり、割れ顎の堅物侍を巡って、藤と金の人外魔境神未満ズが火花を散らしたりしてます。

Sunstroke & Lovestruck

2008年05月04日 | 陸×瀬那
コンコンコン──

「ん~……?」
「俺、陸だけど……瀬那、入ってもいいか?」
「あー、陸……いらっしゃい~……」

ガチャリとドアを開けて視線を即、ベッドの方へと向ければ、そこには氷枕に
頭を乗せ、額には冷えピタ、そして溢さないようにとの配慮からベッド脇に置
かれた椅子の上にある、何本ものスポーツドリンク入りストロー付き水筒(瀬
那の母さんじゃなくて多分、まも姉が置いてったもんだろう、机や床の上にま
で所狭しと並べられたこの量は……)の半分以上を空にしていながら、それ
でもまだ火照った顔全体の薄紅色が抜け切らず、可哀相に、とても苦しそう
な恋人の姿。

「練習中にぶっ倒れたんだって?」
「うん、気が付いたらもうここに寝かされてて……よいしょっ……と……」

何とか体を起こそうとする瀬那に、陸は慌てて手荷物を床に置いて駆け寄る
と、フラフラと頼りなく揺れる相手の体をそっと押し止めた。

「無理すんなって。そりゃ風邪とかとは違ってこじらせるってことはないけどさ、
しっかり水分取っておとなしく寝てんのが一番早く快復する方法なんだから、
日射病は」
「ん……ありがと。陸んとこは……ワイルドガンマンズの人たち、は、大丈夫
な……の?」

氷枕に再び頭を横たえ、瀬那は陸に訊ねた。

「おかげさまで、今んとこは何とかな。瀬那たちのデス・マーチには及ばない
けど、俺らだって一応、去年の夏は猛暑のテキサスで一ヶ月特訓したんだ、
暑さにはそれなりの免疫が出来てるさ」
「そっか……良かった。でもホント、そっちも、気を……つけ、てね?」
「ああ」

たどたどしい声に相槌を打ちながら、陸はそっと、指先を瀬那の頬に伸ばし
てみる。平熱というものを考えれば成程、確かに今日の瀬那の体温はかな
り高い。そのまま指を何度か往復させたり上下させたりして、愛しい相手の
頬のふくふくスベスベとした感触を楽しんでみる。瀬那は瀬那で、嫌がる風
でもなく──熱の有る彼の身にしてみれば、さほど体温が低いという訳でも
ない自分の体温でさえ、今は大層心地良く感じるのだろう──、猫のように
頬を自分の手にすり寄せて来る。

(こんなとこまで似るもんなのか……?)

本日先程、小早川家玄関の呼び鈴を鳴らす前に「よっ」、「ニャア~」と互いに
挨拶を交わしたこの家の飼猫・ピットとそっくりな仕種を取る瀬那に、やや吊り
上がり気味でいつもキリッとしている陸の緑眼が柔らかく和む。優しい気持ち
の赴くまま、陸は左右の掌全体で、瀬那の両頬をさも大切そうに押し包んだ。

「り、く……?」

ボンヤリと虚ろではあるが、この上なく幸せそうな陸の顔を、瀬那は不思議
そうに見上げた。

「あ、ああ! そうそう、俺、いいもん持ってきたんだ! 瀬那好きだろ、桃の
シャーベット!」

怪訝そうな問いかけに対し、陸はハッと我に返ると、慌てて先程床に置いた
手荷物の内の一つを取りに行こうと立ち上がった。

瀬那の家に来る途中、見舞いの品として選んだ、“美味い”とメディアでもよく
取り上げられる、某洋菓子店の夏季限定商品。案の定、瀬那はパァァと顔を
嬉しげに綻ばせた。

「わ、嬉しい……」
「今開けてやるからな~」

ガサゴソと紙袋の中から、間に沢山のドライアイスを挟んだ包装材で厳重に
くるまれた物体を取り出すと、陸は手際良くその包みを剥がした。中から姿
を現したパイント容器は店名すら入っていない、素っ気無い無地のものだっ
たが、その蓋を開けた途端、甘くさわやかな果実の匂いが瀬那の鼻腔にま
でフワリと届く。ほんのりと微かにピンクを感じさせる乳白色の愛らしい色合
い。夕食を抜いていたことを思い出した瀬那の腹が、小さくキュルルル……
と自己主張を始めた。

「スップーン、スップーン、スプー……っと、あったあった、ホイ」

プラスティック製の小さなスプーンをグッと容器の内部に突き刺して一口分、
その中身を刳り貫くと、陸は真っ直ぐに瀬那の口元へとそれを差し出した。
パクリと瀬那がスプーンの中身をたいらげる度、もう一度同じことを繰り返す。
自分の家のオウムが昔、まだ雛鳥だった頃のようだと、陸は笑いをこらえる
と同時に、桃シャーベットを食べるよりももっと甘やかな喜びに浸っていた。

(何つーか、寝込んでる瀬那には申し訳無いんだけど……今日みたく弱って
て呂律もあんまよく回ってない時の瀬那って、昔みたく無条件? それとも無
制限って言うのか? とにかく俺しか見てない、見えてないって感じに甘えて
きてくれて……ぶっちゃけ嬉しいんだよな、最近の頑張ってる瀬那には絶対
言えないことだけど)

暑さにやられたのは自分も同じらしいと自嘲しながら、それでも決して餌付け
(?/笑)の手は休めない、自宅のご近所と学校、及びフィールドに於いては、
冷静と情熱がイイ感じに混ざり合った男前と評判の甲斐谷陸(17歳)であった。

                                      おしまい☆★

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

香夜さん、陸×瀬那はお菓子抜きには語れないらしい。何故?(苦笑)
“lovestruck”は形容詞なので、名詞の“sunstroke”と並べるのはど
うかと思ったのですが、“lovesickness”よりこっちの方が語呂が良い
というか(?)、韻を踏んでるというか(?)……ブ/ル/ー/ス/・/リ/ー
風に言うなら(は?)、“Don’t think, feel……!”みたいな(え?)。


↑と、拍手に入れていた時は後書き(?)に入れておりました。リサイクルし
ようと思い立ったのは、今回日本に戻ってきて最初に口にした甘味である○
ーゲンダッツの白桃味の美味しさに「ふおぉぉぉ……orz!」と感動したから。
何だあの美味さ、蝶・ネ申だ。

狼(男)なんか恐くない?

2006年11月26日 | 陸×瀬那
銀色に無地の、ありふれた家庭用調理ボウルでそのまま出されたのでな
ければ、洋菓子店から買ってきたのかと勘違いしていしまいそうになる程、
芳醇な味わいに満ちたパンプキン・プディング。繊細なデコレーションまで
はさすがに無理だったのか、泡立てた生クリームが別のボウルにこれまた
山と盛られ、キャラメルシロップが瓶入りのまま出された大雑把さは、男子
高校生ならではのご愛嬌と言ったところであろう。

プディングの濃厚で滑らかな舌触りを楽しみながらも、未だコーヒーが苦手
な甘党の自分のためには特製カフェ・オ・レ、そして彼自身が飲むブラック・
コーヒーを、それぞれ手際よく淹れてくれている陸の、無駄の無い、いっそ
洗練されていると言いたくなるような手の動きに、瀬那はただただ、溜め息
をつくばかりだった。

「僕、今日がハロウィンなんてことすっかり忘れてた。まさか陸がこんな用意
しといてくれるなんて思わなかったなぁ……覚えてたら、僕も何か手土産持
ってきたんだけど……。ごめんね、気を使わせちゃって?」
「気にすんな、俺が勝手にやりたいと思っただけだから。それよりどうだ、味
の方は?」
「すっっっごく美味しい!!!」

瀬那の、今にもとろけそうな、幸せ一杯の笑顔に、陸はここ毎晩、深夜まで
ネットの製菓サイト巡りをした甲斐があったと、畑違いの苦労がすべて報わ
れた気がした。人一倍プライドが高く、男としての体面を気にする彼のこと、
書店で菓子作りの本を買ったり、まもりに教えを乞う訳にはゆかなかったの
である。

「あ、そだ、ちょっと待ってろ」
二種類の飲み物をテーブルに置き、唐突に身を翻してキッチンを出ていった
陸。軽やかに階段を昇降する音がして、五分と経たず戻ってきた彼の手に
あったのは、片手に納まるほどの手頃な大きさをした、愛敬たっぷりのジャ
ック・オー・ランタンだった。

「ほい、やる」
「これも……陸が作ったの?」

目をまんまるくして、瀬那は相手を凝視した。刳り貫かれた装飾用カボチャの
中には、ご丁寧にも小さなキャンドルまで置かれている。自分の恋人はまあ、
何と器用で用意周到なことだろう!

キリリと引き締まった顔立ちに怜悧な頭脳。体つきは自分とそれほど変わら
ない筈なのに、そこからはち切れんばかりの闘志と、実力に裏付けられた矜
恃、そして何よりその自立心が陸を、彼の属する“フィールドの開拓者”集団
の猛者たちに少しも見劣りしない、立派な一人前の“男”に見せていた。

それだけでも十分に魅力的であるのに、加えてこの細やかで気の利いた心
配りに代表されるような、鈍い自分にも分かりやすいよう、言動にハッキリと
した形で、惜しみ無く示してくれる愛情……恋人志願の少女たちはさぞかし
多い筈だ。恋人への惚気と、彼を奪われはしまいかという不安の間で、瀬那
は胸を締め付けられるような思いに駆られた。

(いやいや、今は考えないようにしよう。こんな暗いことばっかり考えてるって
知られたら、きっと陸に嫌われちゃうよ……)

脳裏にちらつく不安を振り払おうと、瀬那は陸に気付かれぬ程度に頭をそっ
と、左右に振った。所有者とは正反対に自由奔放な髪の一房一房、一本一
本が音も無く揺れ、同時にシャンプーの仄かな香りが、彼の生来の体臭と
相俟って、テーブルの上の菓子や飲み物とはまた異なった、甘い誘惑を発
する。

その誘惑に酔い痴れることを楽しんですらいる銀髪の恋人が、瀬那のこの
甘やかな憂いを知れば、自分の陰日向無いアプローチがようやっと、他者
からの好意には相変わらずまるで疎い少年の、幼い心の蕾を開花させたか
と、嫌うどころか逆に、感極まって喜びの涙を流していただろう。そしてその
愛情はより一層深まること間違い無しなのだが、晩熟な瀬那にはそのよう
な、人間の微妙に過ぎる心情の機微など、知る由も無かった。

閑話休題(それはさておき)──

夕方近くになり、やや薄暗くなってきたのを機に、二人は早速キャンドルに
火を点じた。可愛らしかっただけのお化けカボチャの提灯に、ほんのちょっと
だけ、不気味さが加わる。ピクリと身じろぎをした瀬那にさり気なく身を寄せ
ると、陸はわざと淡々とした声で語り始めた。

「知ってるか、瀬那? 今でこそハロウィンはアメリカ流のが主流になって、
子ども向けの楽しいお祭りって風に日本でも解釈されてるけど、本来は古
代ケルト族の、日本で言うお盆と大晦日を一緒にしたような神聖な日だっ
たんだってさ。11月1日からはいよいよ厳しい冬、暗黒の季節の始まりって
ことで、その前日からもう暗い雰囲気に包まれちゃって……お盆っつっても
日本みたいに、ご先祖の霊魂を家の中にお迎えして祭る習慣は無いから、
死霊は単なる怖いものでしかなかったし、それ以外の闇の生き物たちも含
めて、ヤバイ奴らが家の中に入って来ないようにって、篝火焚いたり魔除け
の供え物したり……化け物の仮装すんのだって、そいつらに自分が、か弱
い生身の人間だってことがばれたら、取り殺されちゃうからなんだと。
そうそう、このジャック・オー・ランタンにも、永久に生死の境を彷徨わなきゃ
いけなくなった男の伝説が……」

瀬那の顔色が次第に蒼ざめてくる。計算通りと心の中でほくそ笑みながら、
陸はパッと、キッチンの蛍光灯のスイッチを入れ、アメフト以外では未だ臆
病なところが数多く残る愛しい恋人に、明るい笑みを向けた。

「あ~んしんしろって、瀬那!ここ日本だぜ?自分たちの国のお盆だって
忘れがちなのに、今じゃもう先祖の祟りとか別に聞かないだろ?」
「あ、安心って何さ……別に僕は怖がってなんか……」

ハッと口元を押さえる瀬那を、陸はテーブルに両手をついて上から意地悪
そうに覗き込んだ。彼の両目のエメラルドには、小さな子どもが悪戯に成功
した時の、愉快で得意そうな光がキラキラと躍っている。

「♪♪♪~」
「……」

鼻歌を歌い始める陸に対し、口をへの字に曲げた瀬那。その膨れっ面すら
愛おしいと、上機嫌の陸は気付かなかったが、瀬那にだとて多少の自尊心
はあるのだ。しばしの沈黙を経て、彼は捨て身の反撃に打って出た。

「陸の馬鹿……もういいよ、僕、今日は進さんのとこ行く……新しい効果的
なトレーニング方法教えてくれるって言ってたから……それにあの人ならき
っと、相手が何でも関係無くやっつけてくれるだろうし……」

呟くが早いか、「ごちそうさまでしたっ!」と叫んで立ち上がると、瀬那は光
速の速さでキッチンを出て、靴に両足を突っ込むと、つむじ風のように、あっ
と言う間に甲斐谷家を出て行ってしまった。

「え……ちょ、瀬那!待てって……ゴメン俺が悪かったからっっっ……って、
フギャァァァア!!!」

事態の唐突さと、一瞬の後に気付いたその深刻さに、すぐ瀬那を追おうと
した甲斐谷陸少年16歳だったが──恋人に構いきりで、自分には一向に
“treat”してくれる気配の無い造物主に痺れを切らしたお化けカボチャの
“trick”か、キッチンと廊下の境目に足を取られ、当初の予定にあった柔
らかな桜色の唇とは、似ても似つかぬ硬いフローリングの廊下と接吻する
羽目に陥ってしまった。歯が折れたりして、“血染めのハロウィン”(どこの
ホラー映画だ)にならなかったのが、せめてもの救いか。

今宵はさぞかし美味なディナーにありつけようと、期待に胸ふくらませ、緑
の瞳を爛々と輝かせていた銀色の毛並みの人狼が、逃げてしまった愛く
るしい小動物を、果たして再びその腕に取り戻せたのか、それとも聖なる
騎士の、(白)銀の弾丸ならぬ三叉の槍に返り討ちにされてしまったのか。

答えはジャック・オー・ランタンと、月夜に飛び交っていた蝙蝠たちだけが
知っている……?

Do you need sugar?

2006年04月20日 | 陸×瀬那
人間の体に糖分は必要不可欠なものだけど、別にそれをお菓子から摂取する
必要は無い。
果物、錠剤、点滴……今の世の中に糖分摂取の手段はいくらでもある。
じゃあどうして、この世にお菓子というものが存在するんだろう?
俺は思うんだ。
お菓子っていうのはその存在に感謝や愛情、祝福、称賛といった「いい」想いが
たくさん込められていて、人々を幸せな気持ちにさせるからなんじゃないかって。

「陸、お誕生日おめでとう!」

満面の花のような笑みと共に差し出された、中くらいの箱。白地に銀色の砂粒の
ようなものが所々にキラキラ光っている特殊な紙で出来たそれには、緑色をした
絹地のリボンが結ばれていた。心なしか、微かに甘い匂いが漂ってくる。

「ありがとう、瀬那。開けてみていいか?」
もちろん!と快諾してくれた瀬那から箱を受け取り、丁寧にリボンを解く。
中から出てきたのは……焦げ茶一色でシンプルではあるが、上品な感じのチョコ
レートケーキだった。

驚いた表情で見やれば、ちょっと恥ずかしそうな表情の瀬那。
「瀬那、これもしかして……お前が?」
「まもり姉ちゃんに教わって作ったんだ。陸はそんなに甘いもの好きじゃないっ
て知ってるけど、僕はお誕生日にはやっぱりケーキがあった方が、それらしくて
いいと思って……」

それに……陸にはお金で買えるものじゃなくて、僕の“気持ち”を受け取って
ほしかったから……

俯いた顔はほんのりと赤く染まり、最後の方は消え入りそうな声だったけど、その
部分に限って俺の心に一番強く響いた瀬那の言葉。

嬉しい!心の底からそう思った。手を洗うのももどかしく、一緒に入っていたプラス
チック製のフォークで一切れ、ケーキを口に放り込む。

美味い……甘さ控えめだけど、濃厚なカカオの味がしっとりと口内に絡み付く。
まも姉の指導のおかげもあるんだろうけど、このケーキの美味しさの理由はそれ
だけじゃない筈だ。その理由に思いを至らせると、ケーキの食感や香りとも相俟って、
何だか凄くエロティックな気分になった。

「陸?どうしたの?」
知らず知らずの内に俺の口元はだらしなく緩んでいたらしい。自分では見えなかっ
たけれど、目尻もみっともなくヤニ下がっていたに違いない。

美味しくなかった?という瀬那の不安そうな声で、ハッと我に返った俺は、慌てて
表情を引き締めた。いけないいけない、危うく瀬那の俺に対するイメージが崩れる
ところだった。

「いや、あんまり美味いもんだからビックリしちゃって……」
ニッコリと、「瀬那が憧れている甲斐谷陸」の微笑みを顔に浮かべ、瀬那に返事を
する。

瀬那は俺の言葉にホッとしたようで、よかった!と嬉しそうに声を弾ませる。
可愛いな。
こんな可愛い恋人と素敵なプレゼント、今年の誕生日は今まで生きてきた中で
間違いなく最高のものだ。

「なあ瀬那、俺、お前にお返しがしたいんだけど……?」
ゆっくりと呟きながら、もう一切れケーキを口に放り込み、少しだけ味わう。
瀬那が、え?と不思議そうな顔をして無防備になった瞬間、彼の両頬を強く自分の
両手で挟み、可憐な唇に口付ける。

「○×△□★♯♪†~¥@※!!!???」

驚きのあまり、瀬那が金縛り状態なのをよいことに、口に含んだチョコレートケーキ
を瀬那の口内に押し込んだ上で、俺は瀬那の口内を舌で存分に弄った。
むせ返るように濃艶なカカオの香りと口端から零れる銀糸が、いやが上にも気分を
昂揚させる。
                        ・
                        ・
                        ・
ずっとこうしていたいと思いつつも、俺の胸を両の拳で叩いて抗議する苦しそうな
瀬那に、俺はしぶしぶ彼を解放した。口元を拭いながら、潤んだ目で睨み付けて
くる瀬那。
……怒った顔も可愛いとはよく言ったもんだ。

「り、陸っ!」
「なぁ、瀬那……?」

抗議と誘惑の声が重なる。だが誘惑の声には相手の頬を指先でゆっくりと辿ると
いうオプションが付いていた。途端、瀬那の瞳に弱々しいながらも、妖しい光が
宿る。

君という甘い甘い「お菓子」が、幸せな気持ちで一杯にしてくれた僕の心。
ねぇ、お願い?
今日一日は、僕だけのものでいて?
他の人に食べられちゃダメだよ。その代わり僕も、君以外の「お菓子」は
絶対に食べないから。
人間が生きてゆく上で必要不可欠な糖分。
僕達はそれをわざわざお菓子から摂取する必要は無い。
でも僕は叶うことなら、これから先の糖分摂取は全部、
君から摂りたいんだ……。