冷艶素香

現ES21がいろんな人達から愛されていたり、割れ顎の堅物侍を巡って、藤と金の人外魔境神未満ズが火花を散らしたりしてます。

ちいさなうさこちゃんと(五芒)星の王子さま─後編

2009年07月08日 | 瀬那総受け?
「陸、陸、クリフォードさん怒らすとホント、後が大変だから……!」
「なっさけないぞ、瀬那? アメリカで何学んできたんだよ、いずれはあいつにも
リベンジするって毎年毎年誓い合ってただろ、俺ら?」

クリフォードの傍らから瀬那を勢い良く引っぺがすと、彼の居ない半年間、アメフ
トの実力のみならず身長・知性・メンタル強度に顔の精悍さと、すべての面に凄
まじい磨きをかけた甲斐谷陸@もうすぐ19歳は──早くも合格発表会場や試合
会場の多くの女性たちから、チラ見どころかガン見されまくっている彼である──
まるで今後の人生一生を共に歩むことを誓うかのように、引き寄せた瀬那の象牙
色をした滑らか(すべらか)な額に、自分の額をコツリとぶつけた。

(あー……久し振りの陸の目……やっぱキレーだなぁ……それに陸、すっごくカ
ッコ良くなった……)

エメラルドグリーンの色を映した鼈甲の瞳、その目元がポポポと仄赤く染まって
ゆくのを見て、双眸に氷の炎を点したのはクリフォードである。

こちらはアッシュブロンドの髪にベビーピンクの肌、ベビーブルーの瞳と、柔らか
なパステルカラーで構成されたクリフォードの外見は、天使と形容しても良いくら
いであるのに、その身にまとう雰囲気と、口ほどにものを言う両目に代表される
表情の苛烈さは、現在から五、六百年ほど未来の架空世界を縦横無尽に飛び
回る金髪のグリフォン(翼有る獅子)──某・常勝の貴公子も斯くやといった風情
である。(実際のクリフォードの二つ名は“不敗の勝負師”でしたよね? “勝負師”がもし“魔術師”だ
ったら危なかった/苦笑)


「ここにも目障りな青二才(サニー)がいやがったか……」

そこへタイミング良くと言うべきか、それともタイミングを計っていたと言うべきか。

「本家本元はこっちだけどな、糞トンガリ鼻」

ケケケッと、狡猾この上無さそうな笑い声にクリフォードと陸が一瞬、気を取られ
た隙を突いて。

ビヨヨヨヨヨ~ン

「あの……蛭魔さん、さっきあの特注車で帰った筈じゃ……」
「テメーの悲鳴が聞こえたんでな、助けに来てやった。泣いて感謝して俺を崇め
奉りやがれ」
(ああ、僕帰って来て早々、またどっかに盗聴器付けられてんだな……orz)

幾ら地獄耳の蛭魔とは言え、凄まじい騒音を撒き散らしながらF1も真っ青のスピ
ードであっという間に会場を後にしておきながら──でも帰り際、あの車の物見台
に立ったまんま蛭魔さんと対等に口喧嘩しながら走り去ってったまもり姉ちゃんも
ちょっと怖かったり……とは、炎馬大学今年度新入生S.K君(18歳)の証言である
──、本当に自分の悲鳴を聞き付けて来たとは思えない。

「あの……とりあえず首のこの……」

今、自分の首根っこを掴んでいる、駅で線路に物を落とした時に駅員さんが使う
アレから解放して頂けませんでしょうかと蛭魔に頼もうとして、項垂れていた首を
恐る恐る上げた瀬那は、すぐにその予定を撤回せざるを得なくなる。

(怖い……三人の目付きとか雰囲気とかもう、人間のじゃなくて超サ○ヤ人とか
のだよ……( p_q)シクシク

お願い、誰か助けて! 少年の瞳がうっすらと露を含んだかと思うと、まろい頬に
哀願の雫がきらめく。それを見て勇み立つ、試合後の瀬那に慰労の言葉をかけよ
うと未だ観客席でウロウロしていた犬馬鹿、猫馬鹿、ハムスター馬鹿ならぬ瀬那
馬鹿どもが、そこにかしこにひのふのみ──

(あ、すみません、助けて欲しいって、誰でもいいって訳じゃないんです;)

妄想にときめき、欲望にギラめくライバル&かつてのチームメイトたちに対し、心
の中で補足説明(哀)をした瀬那は、考えた。この危機を何とか脱することが出来
たとしても、その後は後でまた、到底無事に済むとは思えなさそうな雰囲気で近
寄ってくるのが一、二、三……(以下略)。叶うことならそれ以外の者たちを頼りた
いところだが、有難いことに厚意の割合の方が大きい者たちは、しかし同時にま
た残念なことに、前者たちの押しと強引さに勝てる可能性が極めて薄い。

「(そうだ!) ……ク、クリフォードさん、肝心の忘れ物、僕まだ受け取ってないん
ですけど……!」
“What?”

忘れ物を届けに来たと言う当のクリフォード自身、ここへ来た本来の目的と当初の
発言などすっかり忘れ、目の前の青二才どもに今日はどのようなカードを切って身
の程をわきまえさせてやろうかということで頭が一杯になっていたので、初め彼は、
瀬那の問いに面食らったほどだった。

“……Ah.”

再び注意をこちらへと戻した瀬那に、クリフォードの逆立っていた柳眉が、侵し難い
気品に満ち溢れていながらも恐ろしく鋭利な眼光が、血の気の少ない酷薄な唇が
人知れず、ほんの僅かにではあったが、フワリと柔らかなものを帯びる。

高校時代の一時、共にワールドカップユースのアメリカ代表として対日本戦を戦い
抜いた──クリフォードのそれまでの人生に於いて、初めて“辛勝”というものを知
った、今でも忘れ難い試合だ──パンサーが、高校卒業後に念願のプロ入りを果
たしたのは当然の結果であるとして、憎まれ口を叩きながらも、多種多様な酒類を
ぶっ掛けて祝福し、快くプロ世界へと送り出してやった後。

クリフォードを含め、パンサー以外のペンタグラム・メンバー達は全員、ノートルダム
大へと進学した。彼ら四人を新たに迎えたノートルダム大アメフト部の強さと名声は、
更に上昇の一途を辿り、またそれが当然と誰しもが思っていた──当の、クリフォー
ドら四人を除いては。

パンサーの抜けてしまった五芒星(ペンタグラム)は面白味のまったく無い、単なる
四角形に過ぎず、中でもとりわけ気性が激しく堪え性の無いクリフォードは、物足り
ない思いから来るイライラを持て余していたところで、ふと、“彼”の存在を思い出し
たのである。

“戦場のNijntje Pluis(ふわふわうさこちゃん)、セナ・コバヤカワ”

半年間の期間限定ではあったが、ノートルダム大アメフト部に於いて新たなペンタ
グラムが結成され、再びの伝説が語られるようになったのは、それからまもなくの
ことだった。
                         ・
                         ・
                         ・
俺は目に見えるものしか信じない。だから……うさこと接する内、だんだんあいつが
この上無く貴重なものに感じられるようになってったことが、一体何に起因するもの
なのか、正直今でもよく分からない(脚の速い男なら沢山知ってる、悪かねぇと思う
女にも時々出会う。小動物を飼いたいと思ったことなんざ一度も無いし、そもそも興
味が無ぇ。なのに、どうしてだ?)。

あいつの面倒はお前が見てやったらどうだとドンから提案された時、それこそ“面
倒”
臭ぇのを敢えて引き受けたのは、パンサーのポジションを埋められるかもしれ
ない逸材を仕込むってのは、結構いい暇つぶしになるかもしれないと思ったからだ。

そしたら──
                         ・
                         ・
                         ・
“これは、パンサーから”
「?」

大好きな友達へ、額に──smack!

“これは、ドンとタタンカから”
「!?」

可愛いルーキーへ、両頬に──smack!

“死ぬほど忌々しいが、あいつにしては珍しい遠慮に免じて、これはバッドのスケ
コマシ野郎からの分”

「!?!」

未成熟な心を誑かしてもつまらない、恋愛はfairでなくちゃと嘯いて、口やら首筋
やらを狙わなかったのは殊勝な心掛けだが、「早く大人にな・ぁ・れvv ……って、
伝えといてな~」という、諦めの悪さ全開の伝言は完全無視の方向で、大根役者
と器用貧乏プレーヤーの兼業農家から、両の掌へ──smack!

「ななななな、何でキス!? おおお男同士ですよ!?」
「ただのコミュニケーションだろ、何そんなキョドってんだ」
「た、確かにアメリカ(あっち)で何度かされましたけど、僕にキスしてくれたのは皆、
子どもやおばさんやおばあさんたちだけでしたよ!? それに全部ほっぺただけだ
ったし!」
「大学で女どもが時々挨拶代わりにお互いやってたの見ただろ、何で男同士じゃ
駄目なんだよ?」
「日本人の僕に聞かないで下さいよ、そんなこと!」
「ピーピーうっせぇな、いいんだよ、細かく考えんな。それにこれがお前の“忘れ物”
だ。テメェの脚、マジ速過ぎてヘリ降りてからは追い付けなかったからな……まとも
な見送り出来なかった」
「あ、そういうことだったんですね……って、でもやっぱ何かおかしくありません?」
「要するに、気持ちの問題だ」
「きも、ち……?」
「大切なもんは、目に見えねぇんだよ」
「は?」

つぶらな瞳を真ん丸にして、瀬那は口をポカンと開けた。

(……っ! 何でこいつ日本人なのに「イシンデンシン」出来ねぇんだよ!? 空
気中に書いてある透明な情況説明の文字が読めるとか言う忍術が使えるんじゃ
なかったのかよ畜生! ああ言ったらうさこが俺のこの訳分かんねぇ頭のこんが
らがり状態解す答えくれるって、クソ、あいつら
(ノートルダム大アメフト部メンバーズ)
言葉なんか一瞬でも信じた俺が馬鹿だったぜ……帰ったら速攻でシメる!!!)


「……さん、クリフォードさん?」

ギン!

突然黙りこくってしまったと思ったら、一気にイライラ頂点時の顔になったクリフォ
ードさんの眼光は、縮み上がるほど怖かったけれど。

「あの、大切なものって、目に見える時も有りますよ?」
“?”
「た、例えばですよ? これから星空の綺麗な夜の日なんかは、きっと僕、その
キラキラに、ノートルダムにいた時、皆さんと走り回って掴み取った勝利の輝きを
思い出したり……或いはそうですね、きっと星が瞬く度に、またパンサー君やペ
ンタグラムの人たちが試合で、すっごい大活躍してるんだろうなぁって、想像する
と思います」
“……”
「そうそう、それに……」

フイとクリフォードを見上げ、瀬那はニッコリと笑った。

「大抵の星は、クリフォードさんの髪の毛みたいな、白っぽい金色してますよね。
それに夜の群青の空と、赤っぽい星と流れ星の尾っぽ……晴れの日の夜空っ
て、ある意味全体が、アメリカの国旗みたいだ」
(……成程ね、そういうことか)

ようやく得心がいったと、クリフォードの表情が落ち着きを取り戻した。

「……英語忘れないように、週一で手書きの手紙送って来い。添削して返事と一
緒に送り返してやる」

天空に輝く星々の数ほど、そしてその光輝の洪水の如くに溢れんばかりの想いを
込めて──

五芒星の中心に位置する小さな唇に、smack!

「え、え、え、えぇぇぇぇぇ!?」

標的の驚愕の叫びに今一度、ニヤリと不敵な笑みを浮かべると、王子さまはファ
ッション・モデルのようにクルリと優雅に踵を返し、スタスタと出口に向って歩き去
って行かれた。

「え、あの、今のって、その、ちょ、クリフォードさん待っ……!」
“(お前が)真っ赤になるくらい、色々教えてやるから覚悟しとけよ?”
「(ムッ)つ、綴りは前ほど間違えなくなりましたよっ、おかげさまで! だからそっ
ちから返って来る便箋にだってちゃんと、絶対、余白有りますよっ!」
“そりゃ楽しみだな、ククッ”
「「「「「「「何が楽しみだ、覚悟すんのはテメーの方だぁぁ!」」」」」」」
「な、ここここっちはこっちで一体何なの~!?」


                            ★☆★おしまい☆★☆

ちいさなうさこちゃんと(五芒)星の王子さま─前編

2009年07月08日 | 瀬那総受け?
“Hey, Nijntje”
「え!?」

瀬那曰く“走ってばかりの人生”、アメリカから帰国したその足で炎馬大学の
入試合格発表を見に行き、某悪魔の陰謀で更にそのまま恋ヶ浜大学との突
発練習試合に出場させられたものの──入学手続きはおろか、アメフト部へ
の正式入部もまだというのに! ……と、嘆くだけ無駄なのは、蛭魔を知る誰
しもが承知の通りだ──、とりあえずは帰国後初の勝利を無事手にした。

少憩を取った後、新しいチームメイト達と共に改めて、諸々の手続きをしに一
旦大学へ戻ろうということになり、スポーツドリンクを飲みながら皆と、今後の
ことについて話し合っていたところへ。

「あ~っ、あんた確か、アメリカのペンタグラムの……!」

驚いた時でも決してバナナを食べる手は止めない、相変わらずのモン太が目
を真ん丸にして叫べば。

「「「「「「「クリフォード(さん/君)!!!!!!!」」」」」」」

残りのメンバー達も瞠目して、一斉に驚きの声を上げる。

“チッ”

人々から注目されるのには慣れっこのクリフォード・D・ルイス氏──さる筋に
よれば、どこぞの国の王家に連なる高貴なお生まれと、専らの噂の通称「王
子」──であったが、指差されたことが気に障ったのか、彼は淡青(うすあお)
の両目の内の片方を、さも不機嫌そうに眇めた。

“うさこ、忘れ物”
“え、わ、忘れ物? ススススミマセン、僕、普段着とかあらかたの荷物はち
ゃんと一昨日の夜に全部、スーツケースに詰めといたつもりだったんですけ
ど……”
“何が「ちゃんと」だ。帰国前後はぜってぇ慌しくなるに決まってるから一週間
前くらいから早め早めに準備始めとけよって、あんだけ言っといただろうが。
トに鈍臭ぇ上に抜けてるな。ドンに後できっちり礼言っとけよ、電話で。あい
つが空港に指示出して飛行機足止めさせてる間に自家ヘリ飛ばしてくんな
かったら、絶対間に合わなかったんだからな”
“も、勿論ですよ、すっごく感謝してますもん……って、いや、でもそもそもフ
ライトの一時間前までみっちり練習と試合のスケジュール組まれてた訳で
すし、それに……”
“黙れ”
“……ハイ”


ピシリと鞭打つような物言いと、氷柱のように冷たく高圧的なクリフォードの一
瞥の前に、瀬那は飼い主に叱られて耳のションボリと垂れ下がった仔犬──
例えて言うなら豆柴(´・ω・`)だろうか──のように、シュンと項垂れる。そんな
瀬那を見下ろす王子さまは、嗜虐的とまではゆかないにしろ、ニヤリと何やら、
大層御満悦の御様子である。

「す、すっごーい! 瀬那、英語ペラペラになってんじゃない!」

いよいよ大学生ということで、両親からの化粧解禁及び私服通学の開始に伴
い、モン太曰く、「高校時よりは多少、女として見られるようになった」鈴音が、
目をパチクリさせながらも、キャアキャアとはしゃぐ。

「当然だ、ノートルダムに着いたその日から俺が一日も欠かさずに勉強見てや
ってたんだからな」

もっとも、それでも試合や部活中の意思疎通と日常会話以外が全然進歩しな
かったってのにはある意味、かなり驚かされたがなと、高く、ツンと綺麗に筋の
通った鼻梁が特徴的な顔を僅かに、しかしかなり挑発的な印象を受ける角度
に傾けたクリフォードが、傲慢と紙0.1重の口調で尚且つ皮肉を満遍なく散り
ばめて放った科白は驚くべきことに、訛りのまったく無い、極めて正確なイント
ネーションと明瞭な発音の日本語であった。

「ええ、ええ、文字通り“叩き込んで”くれましたもんね……感謝してますよ、そりゃあもう……orz」
「……うさこ、今、何か言ったか?」

それまでの耳触りの良いテノールとはまったく違う、そして端整に過ぎる容貌と
やや細身の体付きからはどうにも連想出来ない、ドス低い声の問いかけを瀬那
が認識するよりも早く、彼の両頬──早ければ十歳前後で髭が生えてくる者も
いるほど、発育のスピードや筋肉の付き方が日本人とはまるで異なる本場アメ
リカの学生アメフトマンたちの中に在って、そのスベスベぷよぷよ感は日本語で
表現するならそれこそ「アリエナイィィvv!」と、毎日つついてはその触感と少年
(と言っても、同級生な訳だが)の「ふぇ~ん(T○T)」という初々しい反応が、ご
っつい野郎どものメンタル・サプリメント(?)とされていたという、曰く付きのもの
である──は、(←説明長いよ)よく手入れされたクリフォードの細く長い指でブニブ
ニむにぃっ!
と、伸びることrice cakeの如くに弄ばれていた。

「ヒッ……め、滅しょうもゴジャいまふぇんへふ、ハイ!」
「フン、ならいい」

ピン、ピロリロリロリーン♪ 王子の顔の満ち足り度が+100アップした!

「えー、ちょっと何々、アンタ日本語話せんの!? ってか俺も瀬那のほっぺた
プニプニしてぇ!!!」

未だ着替え途中の水町がTシャツをブンブン振り回しながら興奮気味に尋ねれ
ば。

「パンサーに出来て俺に出来ない筈無ぇだろ。(←酷!) ところでこっちも聞きた
いんだが、日本では今、半裸でアメフトすんのが流行ってんのか?」

あとコイツの頬は俺の私有地だ勝手に手ぇ出したらそのスカスカ箒頭の脳天(ド
タマ)カチ割んぞゴルァと、立て板に水の流れの返事が、本日の王子のお勧め・
“切りまくりメンチの片手立て中指添え”と共に返された。

「うおぉこれまた日本語!? しかも何かハードロックって感じじゃねえか!(←絶
対違う)
 外人のくせに大したもんだ、(ってかまずハードロック自体、日本生まれじゃないだろ)
スマートだぜ!!!」

大学進学を機に本当の、しかしとても良い意味で、清々しい決別をした紅毛赤眼
のエロリスト in football fieldsを除けば、頭の良い奴は本当に凄いと素直に認め
ることが出来るコータローの、無邪気な賛辞に対しては。

「ありがとよ、but you think you're pretty smart, don't you? Don't
get smart with me, smartass!!!”
(←もんの凄い大雑把な意味としては、「ガキがナマ
言ってんじゃねーぞ、あ゛?」みたいな???)

“ち、違うんですクリフォードさん、コータローさんは相手が年上の人でも年下の
人でもいつもあんな感じですし、「くせに」ってのも別に差別とかそんなつもりで
言ったんじゃなくて……!”


クリフォードは決して人格者という訳ではないのだが、最後にはチームJAPAN
の実力を認めたMr.ドンのように、広い度量と視野という前提の下に実力を誇る
のならまだしも、モーガンのような歪んだアメリカ唯我独裁主義者に対しては、
「反吐が出るぜ」だの、「弱い犬ほどよく吠える、か……特に体どころか脳味噌
まで観賞専用筋肉だけで構成された、“M”で始まって“O”、“R”、“G”、“A”と
続く最後に“N”が入る名前の、アフロヘアしたチワワとかな」だのと、痛烈な面
罵の言葉を露骨な冷笑と共に隠そうともしない王子さまには、半年間の留学中、
アメフト関連のイベントや学校主催の外賓を招いてのレセプションなどに於いて
いつもパンサーと共に、ヒヤヒヤさせられていた瀬那としては──ペンタグラムの
他三人は一向気にするでもなく、いつも慣れた風であったのだが──、クリフォ
ードのとどめの一言を耳にして、先程拭った試合後の熱い汗とは別種の、冷たい
汗がダラダラと背中に伝うのを、嫌でも感じない訳にはゆかなかった。

“日本では「チョーヨーノジョ」とか「センパイ・コーハイ」ってのが今でもスポーツ
の世界で幅利かせてんだろ?”
“え?”
“こっちの実力主義に慣れちまったお前が日本帰ってから人間関係で困んねぇ
ように、今日からは俺がそれに付き合ってやる”
“え……?”
“返事は「はい」だけだ”
“えぇぇぇぇ!?”
“五月蝿い”


ブニィィィ(←両頬やられた)


と、いった遣り取りの後は、日本での蛭魔との関係を再現したかの如き六ヶ月
間を過ごしてきた瀬那が、慌ててクリフォードに説明したのはつまり、こういうこ
とである。

通常の会話には殆ど不自由しないが、漢字を伴う読み書きや和語の微妙なニュ
アンス、日本の歴史的・文化背景まではまだ完全に理解しておらず、しかし何の
書物から得てきたのかそれともワット辺りがまた要らぬ知識を吹き込んだのか、
上述の如き日本の(?①)一部慣習(?②)を曲解した上で持ち出してくる、愛用
Tシャツには「天上天下唯我独尊」とダイナミックな筆文字が墨痕鮮やかに躍り、
瀬那の帰国数日前には、

“ノートルダム(うち)のアメフト特待生入学のオファーを蹴ってまで帰るだと……?
チッ、んならこういうの一万着送ってこい。そしたら特別に“一ヶ月だけ”帰国さ
せてやる”


と、煌びやかな金糸銀糸で背中に「喧嘩上等」と華麗に刺繍されたファー付きジ
ャンパーのオンライン・カタログがプリントアウトされた紙を手に、瀬那を脅……い
やいやいや、瀬那にせがんでいたクリフォードにしてみれば、「~のくせに」という
言葉を己に対して使われるのは、自分が相手にナメられているからだとしか思え
ないのだ。何しろこの連語の例文として彼が覚えたのは、未来から来た某・青色
猫型ロボットが活躍する日本製アニメの中でよく聞かれる、「の/び/太/のくせに
生意気だぞ!」なのであるからして。(北部出身のヤンキー王子か……洒落にならんわぁ)

閑話休題(それはさておき)。

「「……??(でもちょっとムカっ)」」

幸い、コータローと水町の英語力では、クリフォードの言葉を理解出来なかったこ
とに加え、多少喧嘩っ早いところは有るにせよ、本気の悪意以外に対してはそこ
そこに感情の抑制も出来る二人である。

問題はむしろ──

“ねぇ、瀬那を自分の所有物みたいに扱うのやめてくんない? あとついでにそ
のメンチビーム出すためだけに使われてるっぽい目もサングラスか何かで隠し
てもらえると有難いんだけど? はっきし言ってウザいんだよね”


傲岸不遜が服を着て歩いているようなクリフォード王子に対し、これまたどこかの
王子さまを彷彿とさせる──もっともその王子さま、お得意のスポーツはアメフト
ではなく、テニスなのだが──クールな物腰で、悠々と挑戦状を叩き付けたのは。
(↑だってりっくんも「スピードの貴公子」って紹介されてたし、対白秋戦で……/苦笑)


                                    →後編へ続く

蓋頭紅 (ガイトウホン)

2007年04月15日 | 瀬那総受け?
「よお」
「生きてたんですね」
「残念だったな、この通りピンピンしてるぜ」
「お腹にナイフぐっさり刺された状態のまま火に巻かれててもですか?」
「俺がそう言うからにはピンピンなんだよ、このファッキンチビが」
「蛭魔さんらしいや……」
「てめーこそ何こんなとこでグズグズしてやがんだ。もーすぐ天井崩れ
んぞ」
「……」
「復讐済んだんだろ? あのファッキン坊主の墓に報告しに行かなくて
いいのかよ?」
「天国からきっとこの情景を見てくれてるでしょうから、必要有りません」
「あ?」
「もう二度とお会い出来ないのは辛いけど……」
「訳分かんねぇ。もーいーからとにかく失せろ。俺ぁ眠いんだ」
「お断りします」

瀬那はペタリと床に屈みこみ、両膝を両腕で抱え込む。端荘な雰囲気、
深い思慮と理知の光をたたえた双眸の、今でも泣き出したくなるほどに
慕わしいかの僧侶亡き後、彼に向けていたのとは正反対の質の、しか
し思いの強さはそれに匹敵するほど激しい感情を向けてきた諸悪の根
源を、一点の曇りも無い澄み切った静かな眼差しをもって瀬那は、まっ
すぐに見つめた。

「ファッキン吊り目がよく許したな」
「一服盛って、屋敷の皆に運び出してもらって……そのまま船に押し込
んでもらいました。そろそろ目が覚める頃かな? ああでもしないと逆に
僕が、薬盛られてアメリカ連れてかれるところでしたから」
「何でついてかなかった」
「彼は……駿君は、光差す道を歩むべき人ですから」
「なるほど、自覚はある訳だ。生っ白いツラに血塗れの両手、真っ黒な
中身……」

俺と揃いだなと、ふてぶてしくケケケと笑う蛭魔に、瀬那もクスリと小さ
な苦笑を返す。緋色の旗袍(チャイナドレス)のスリットから切り傷・擦り
傷だらけの白い脚が覗く。茨の垣根に有刺鉄線、てんこ盛りのトラップ
を、俊足だけを頼りに乗り越えてきたのだろう。

「ええ、まあ……」

ふと蛭魔は目を眇めた。珍しい、こいつが俺に対してこんな素直な反応、
こんな笑い方すんなんて……。だがそれ以上深い詮索をする時間と気
力・体力はもう、彼には残っていなかった。

「さって……常々殺したがってた奴の無様な最期も見れたことだし、気ィ
済んだろ?んじゃーな」

まるで犬にするように、はよ去ねとばかりヒラヒラと片手を振り、両目を
閉じた蛭魔の周囲をふわりと、柔らかな質感と茉莉花(ジャスミン)の
甘い香りが包む。最早目を再び開ける力の残っていない彼には、自分
を抱き締める相手がどのような表情をしているのか、皆目見当がつかな
い。

「何の……真似だ……」
「僕、空っぽになっちゃったんです。もうこの世に好きなものも嫌いなもの
も、何にも未練が無くなっちゃって……」
「ならどっか別んとこで独りで首吊って、涎と糞垂れ流すなり、身投げして
パンパンに、膨れきったドザエモンになんなり、好きにすりゃー、いーじゃ
ねぇか……よ……」

突如、ゴフッと吐かれた大量の血に眉一つ動かさず、瞬きすらせず、小
柄な体はピタリと吸い付くように、蛭魔の体に密着をより一層深めた。

「勘違いしないで下さい。今だって僕は、あなたが大っっっ嫌いですよ、
蛭魔さん。直接手を下したんじゃなくっても、やっぱり雲水さんを殺した
のは貴方です」

温かで、穏やかで、優しくて。今でも鮮明に思い出せる。仄かな抹香の
匂いに包まれて、僕を取り巻く世界が一番光に満ち、この心が最も素直
に輝いていた、幸せな時。

「でも知ってるでしょ? 僕ももう、天国行けないんですよ。あれだけ沢山
悪いことしたんだから、当然ですよね。でもだからこそ、どうせなら、地獄
の底まで貴方にへばり付いてって、永遠に嫌がらせしてあげようかなっ
て思って」

クスクスと楽しげな、鈴を転がすように軽やかな瀬那の笑い声につられ、
蛭魔も思わず笑い出す。最後の力を振り絞って、いかにも彼らしい、狂
気じみた哄笑。

「おんもしれぇ……あのピーピー泣き喚いてばっかだったファッキンチビ
が随分と面白ぇこと言うようになったじゃねーか……」
「それって褒められてんですか、僕?」
「ああ、馬鹿も突き抜けりゃある意味、感嘆に値すんぜ」
「ひっど……ま、いっか。純粋に蛭魔さんが褒めてくれるなんて気持ち
悪いだけだし。とりあえず結婚式も挙げちゃったことですし、これからも
どうぞ宜しくお願いしますね?」
「おう、離れんなよ」

愛が人を盲目にした時
人はその身を犠牲にする事すら厭わなくなる

愛は誰を虜にしたのだろう?
愛は誰に屈服したのだろう?
業火渦巻く永遠の孤独の中へと
揃って飛び込む程までに!

もしも唇を重ねた時に
感じた温度がすべての怨恨と憎悪を征服出来たならば

誰が愛に対して乞い願えよう?
誰が愛のためににさすらおう?
人は痛みを経ることでしか
自由になれないの?

愛は言葉で説明出来るものじゃない
それは心と骨身に刻み込まれるもの
愛は言葉で言い表せるものではない
それはあまねくすべてに刻み込まれるもの

あの誓いに背き
貴方を愛してしまった痛苦が
この身と貴方を
灰燼に帰す


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

最新の雑記にも書いたように何かと忙しいのですが、やっぱり遊びに
来て下さる皆様方に申し訳無いのと、自分自身、「何でもいいから何か
瀬那受けの話UPしたい、しないとストレス溜まって勉強にも集中出来
ない、死んでも死にきれねえ(はひ?)」と、ある意味クールにプッツン、
ハ○パー死ぬ気モードでUSBメモリを浅蜊……じゃなくて漁ってみまし
たら、去年の冬に拍手用に書きかけていたものの、ロサキネが長くな
り過ぎたので、一旦凍結させたままその存在をすっかり忘れていたSS
を見つけたので、サッと死/ぬ/気/の/炎で炒めてUP(笑)。

詳細は省いてありますが、舞台設定としては1912年~1949年の中華
民国時代、租界・租借地文化華やかなりし頃の上海とか天津とか、香
港とか広州とかで、瀬那(男の子)は雲水さんが営む仏教系の孤児院
(租界内部でばかりストーリー展開していた訳ではないので、寺院も存
在させてた)で育ち、長ずるに及んで密やかに彼を恋い慕うようになる
んですが、紆余曲折を経てやっと両思いになりかけた時、ある豪商(西
洋人か中国人か或いは混血にするかで悩んだ挙句、結局決められな
くて名前はそのまま“蛭魔さん”)の強欲のせいで雲水さんが死んでし
まい、瀬那は復讐目的で蛭魔さんに近付いて……みたいな、そんな感
じ(?)。いかにも東アジアのメロドラマというかsoap operaというか。

“蓋頭紅”というのは漢族の伝統的な結婚式で花嫁の頭をすっぽり覆う
赤い絹のヴェール(透けてないです)。お式が終わって初夜の寝室に二
人っきりになった時初めて、花婿がそれを取り去ります。ここではドロド
ロとした強烈で様々な感情が混ざり合ってるので、紅蓮の炎の色。筧さ
んは蛭魔さんの異母兄弟で、瀬那に一目惚れ。何とか復讐を思い止ま
らせようとと四苦八苦します。瀬那も筧さんの事を憎からず思うようにな
り、かなり心が揺れるのですが、また色々な事が起きて、最後はあんな
感じになったという訳です。

緋色で書かれているのは、執筆意欲を刺激されたこちらの連続サスペ
ンスドラマのEDの歌詞(うろ覚え)を、日本語に訳したものです。凄ぇ暗
くて半ばホラーでしたが、悪女になり切れないヒロインの哀しい美しさと
哀婉な音楽の数々が深く印象に残りました。かなりの好評を博していた
ようで、今も各地で再放送流してるみたいです。