冷艶素香

現ES21がいろんな人達から愛されていたり、割れ顎の堅物侍を巡って、藤と金の人外魔境神未満ズが火花を散らしたりしてます。

珠玉 2

2006年04月10日 | 珠玉
泥門は小国ながらも豊かな国だった。ほどほどの耕地に恵まれ、また国内を流れる
大小幾つもの河川からは、常に一定量の砂金が産出し、国庫を安定させていた。
加えて東の大国・王城と、西の大国・西部の間に位置していたことから、二国間の
勢力均衡を保つという重要な役割を果たしており、両国にしばしば話し合いの場を
提供することで、双方から様々な優遇措置や保護を受けていたのである。それらの
恵まれた条件の下、泥門は東西の文化・物資が一堂に集まる商業国家としても
栄えていた。

その泥門の平和に最近、暗雲が垂れ込め始めてきていた。国に水資源と砂金、
交通の便といった恵みをもたらす河川は、そのどれもが皆、最終的には必ず、
北か南の海へと繋がっている。浅瀬から10海里程度までなら泥門の船も漁に
行くことが可能だったが、そこから先は蛮族として恐れられる海洋民族、巨深の
勢力範囲であった。

巨深は10にも満たぬ小さな島々を除いて、領土らしい領土は持たず、もっぱら船の
上を生活の場とする民族であった。彼らの生活手段は漁と、北海・南海に接して
いる国々からの略奪が主なものである。過酷な自然環境に暮らす彼ら、巨深の民に
とって略奪は、犯罪ではなく、農耕民族の収穫作業と同じように重要なものであった。
それ故に巨深の民─特に男性の間では高い戦闘能力と、造船術及び操船術が
大変に重視されており、言い換えればそれらが彼らにとっての、絶対の強さと正義で
あった。

しかし皮肉なことに、その価値観は個々人の自信を不必要なまでに過大化させ、
民族の団結を阻んでいた。彼らの行動は常にまとまりを欠いており、そのおかげ
で、海に接した国々は皆、いつもギリギリのところで巨深の侵略を食い止められて
いたのである。

しかし、その巨深が最近になって、今までとは比べものにならない程のまとまりを
もって勢力を増しつつあると、北の海、南の海にそれぞれ接する国家の間で、恐怖を
もって語られるようになったのが去年の春頃のこと。二人の若者を中心として、巨深
は急速に力をつけ始め、先日にはとうとう中規模国家である柱谷と賊学が、巨深の
攻撃に抗しきれず、併合されてしまったという。
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