充電日記     

オフな話で一息を。

役の立ち方

2020年12月20日 | Weblog
・市島春城(謙吉)は、大隈重信のもとで改進党・東京専門学校(早稲田大学の前身)の設立にかかわり、新聞社主筆・早稲田大学図書館館長などを務めた人です。蔵書も豊かで、数々の随筆も残しました。その一つに「節用集の功徳」があります。その冒頭部分
 昔し蒙者の為めに一種の字引があつた、それは節用集と呼び慣らされ、頗る重宝な工合に作られたもので、単に字を知るのみでなく、凡そ何事でも日用必須の事は悉く書き集められ、いはゞ極めて小規模のエンサイクロペデイアともいふべきものであつた。その一冊を持てば大抵の事は間に合つたわけで、たとへば日本の年号とか、歴史の大略、色々な礼式、甚だしきは男女の相ひ性の事まで録され、字も日常使ふ字を楷書で書き、その傍らに草書の書きぶりも教へである。明治になつてからも此類の字書はやはり重宝がられたもので、博文館で明治節用と題する可なり大きなものを出したことがあつた。私は或る友人が外国へ行く時に、思ひついて此の節用を一冊買つて贈つたが、其人は十三年間欧米を廻つて、帰朝後、それが非常に役に立つたと礼を云つた
・ん~、ちょとほろりとしてしまいました。いや、まあ、ここで泣けるのはちょっとおかしいといいますか、関心のありよう次第なんでしょうが。「役に立つた」と言ってるわけですが、その実際がどうであったかに思いを馳せますとね。

・当時の外遊では、今とはことなって、心寂しい部分があったことでしょう。海外、ことに欧米を旅行したことがある人なら分かるでしょうが、建築物はじめ様々な事物に触れるにつけ、心理的に圧倒されるものです。とても日本にはあり得ないものばかりだ、と。そうした中で、日本人であることを見失わないために、また、日本にも相応の文化的蓄積があることの確認のために、『明治節用大全』は相応以上の働きをしたのではないでしょうか。まずは雑さまざまに記される日本の事物・組織・建築物の確認ができます。料理の仕方とかも書いてあるしね。日本にも相応の文化的充実はあるのだ、という自覚といいますか、アイデンティティの確認といいますか。

・また、モノとしても素晴らしいんじゃないかと思います。三段にわたって書き継がれる記事は、当然、活字に依るんですが、本文の小さい活字にもさらに小さい活字で振り仮名が添えられます。極東の島からの旅人が印刷技術を駆使した一冊を所持していることの安心感、そしてそれを見せさえすればアルファベットしか知らない異国の人間は驚嘆のまなざしで迎え、一定の畏敬の念を「或る友人」に示したのではないでしょうか。

・とまあ、そんな想像に酔うわけですが、それだけに「役に立つた」というそのありようの実際を知りたくもなりますね。

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