・国語学概論で、言語変化の話。心的態度として、自分の言葉と異なっていると、低い評価を与えがちだと指摘。自分の言葉というあやふやなものを基準に、そこから乖離するものを「言葉の乱れ」として切りまくるわけだ。
・どうしてこうも違いに敏感なのか。それは、自分とは異なるものには気をつけろ、と刷り込まれているからなんだろう。たしかに、自分と異なる外観・容姿をしているものには警戒するものである。つまり、異なる価値観を持っているから異なる外観を装うわけで、こちらとは同じようなことを考えているとはかぎらない、と判断するのだろう。
・さて、そこでいくつか実例。
・その1。ピカチュウ男。大垣に遊びに行った帰りだったろうか。東海道線に乗り込んできたのは、ちとむさ苦しげな男。メガネをかけて、無精髭。そして、着ているのが
ピカチュウの着ぐるみパジャマ。これは引く・・ やや緊張気味にスマホをいじっているのだが、誰かに追われているらしい? うーん、理解不能。
・その2。広島方面からの帰りの新幹線。前方の席に座った初老の人の服がどうも変だ。妙にテカテカしている。うーん、この質感は、スーツなどの裏地じゃないか・・・ どうやら裏返しに着ているらしい。よほど、表地を汚したくないのだろう。それにしても・・・ スラックスも同様に裏返しに履いているか確かめなかったのは、悔いとして残った。
・その3。これは講義では紹介しそびれた。名古屋からの東海道線車内。立っている男。左手には『NHK基礎英語』のような冊子を持っている。右手は、吊り革を握ってはいなかった。扇子を持っていたような気がする。揺れにどう対処する? 足は、床面に接着剤で貼り付けたように一歩たりとも動かない。そう、上半身の反動と下半身の吸収力でバランスを取りつづ けるのだ。なかなかの見物。「動画を撮ってもよいですか」と一声かけて、撮らせてもらえばよかった。
・その4。これも講義ではなし。秋田への出張、台風のために飛行機から新幹線に切り換えることになった。東北新幹線の「こまち」の隣席男、異様に汗くさい。汗の臭いならまだよいのだが、汗を含んだ衣服が蒸れるかどうかして異臭を発するのである。にもかかわらず、スーツをびっちり着こんでいる。どういうつもりなのか。我慢くらべならよそでやっていただきたい。
・ところで、ご存じだろうか、「こまち」は全車指定席。自由席に逃げることができないのだ。ならば採る手段は一つ。運良く持っていた扇子で煽ぐ。煽ぎきるしかない。そしてご存じだろうか、東北新幹線には、大宮を発すると仙台まで止まらないタイプのものがあることを。東海道新幹線でいえば新横浜を出て名古屋まで止まらない「のぞみ」のようなものだ。が、このときの私の望みは絶たれた。だれかに祟られたのかもしれないが、ここで蹈鞴を踏んでも仕方ない。煽ぎ切るしかない。
・と、隣席の男は仙台で降りてくれた。人間、1時間以上も扇子で煽ぎきることができるものなのであるよ。いやしかし、修練の場ではあった。