SAKURA ふるきよきうつくしきもの 

包む 結ぶ 遊ぶ いにしえに学ぶ

定家文庫

2020-07-16 00:54:00 | 
この定家文庫は女性の化粧道具入れにふさわしく盛り上がった貝の刺繍が4面に施されています。房の下にも貝は隠れていて裏は金糸で桐紋が刺され、大事に育てられた方の持ち物でしょう。
普通定家文庫はこの形ですが前回アップした定家筥の形も定家文庫と呼ばれていて混同します。
定家筥は松井家所蔵の品に「手いか箱」と墨書があるので天保の頃まで「ていかばこ」と呼ばれていた証になるでしょう。
袋形が定家筥だと名称で定家文庫と区別出来ていいですね

 この二つのルーツは違うように思います。
定家筥のルーツは上刺嚢(うわざしふくろ)で昔は宿衛袋、宿衛物(すくえものの)袋と言ったようです。源氏物語にも出てくる宿直袋又は宿直物袋と同じで御所の宿直の人が泊まりの衣料や用具を入れた嚢です。重量を支えられるよう底は紐をクロスして補強され、全体が碁盤の目のように太い糸で刺子された袋で、古くから御所で用いられていました。
 一方定家文庫は上刺し袋が廃れ、挟み箱や葛籠、櫃等に変わった江戸期に入ってからの新しい形でその原型は惣嚢又は粧(そう)袋といわれますがその形状は今の物と異なります。

左の画像が「守貞漫稿」にある粧袋を持つ女性です。

下は宿直物袋をうつした袋と思います。前回載せた定家筥の襞とそっくりでしょう。
この襞は七本あり紐には房も付いていて優雅ですが34×51センチと新聞紙ほどの大きさです。開くと20㎝ほどの高さの物が入ります。
この実用の大きいな袋を御所の女人達の手技によって女性用の袋に工夫され、さらに洗練されお姫様の化粧道具を入れる定家筥の形になったのでは、と思います。
 
 志野流の袋に底が紐でクロスされ長い房の付いた小さな袋があります。この底は上刺袋の底と同じ形ですがこれと同じ底の袋を雛道具に見つけました。後年、持主にお聞きするとその袋は目録に「上差袋」と書かれていたとお知せがありました。やはり雛道具に定家筥の原型があったのです。
 高貴な方のお道具は棚や台に置かれますが定家筥も豪華な装飾の袋が同じ装飾をほどこした台に置かれ、国立博物館に展示された事がありました。名称は「定家文庫」で、定家筥と定家文庫の区別はまだないようです。この混同は古書の説明が定家筥であるのを後の定家文庫と一緒になった事に原因があるのではと思います。
 
 図の粧袋が今のような形の定家文庫になったのは風呂敷包みが関わったと思っています。
文庫には「手文庫」帯の結方には「文庫結」があるように、文庫はもともと箱の事ですから中が箱の化粧道具入れを定家文庫としたのでしょう。 
定家文庫の蓋の形は箱を平包にしたイメージがあります。包をデフォルメした形のようでスッキリした感じですかそれを大きな菊結びでカバーしているようです。
 私的に定家筥と定家文庫のルーツの違いが分かった気がしますがなぜ「定家」なのかまだ謎です。

 SAKURAにはたくさんの画像が貼れないので宿直袋のうつしと思われる袋や「守貞漫稿」の上刺袋、粧袋の図等鮮明な写真をインスタに来月載せたいと思います。興味のある方はご覧下さいませ。

インスタグラム https://www.instagram.com/tukiyukihana5/

(写真、クリックで大きくなりました)

追記(7/17)
国立博物館蔵の定家文庫は「日本の美術館5」「女の装身具」では「定家袋」となっていました。