とはずがたり

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エネルギー補給で脊髄損傷の治癒が促進する

2020-03-17 18:48:27 | 神経科学・脳科学
脳や脊髄などの中枢神経は一旦損傷を受けると治癒が難しいことが知られています。この理由の一つとして、軸索の再生に必要な大きなエネルギー(ATP)を得ることが難しいということが挙げられます。特に極性を持った神経細胞において、伸長した軸索の先端までATPの供給に必要なミトコンドリアを運ぶことは非常に困難であると考えられます。著者らは以前に神経終末膜蛋白質の syntaphilin(Snph)がミトコンドリアの固定に働くこと、そしてSnphのノックアウトマウスでは神経細胞内のミトコンドリアの運動が亢進していることを報告しています(Zhou et al., J. Cell Biol. 214, 103–119)。この論文で彼らは3つの中枢神経損傷モデル(第5頚髄背側半切モデル、片側錐体路切断モデル、第8胸髄全切断モデル)を用いて、Snphノックアウトマウスではミトコンドリア輸送の促進を介して損傷後の軸索再生が促進し、運動機能の回復が見られることを明らかにしました。このとき切断部のギャップを再生軸索が貫通すること、片側錐体路切断モデルでは非損傷神経の代償性sproutingが見られることが分かりました。また同様の現象は血液脳関門を通過するergogenic compoundであるクレアチンの投与によってエネルギーを補給することによっても見られることが示されました。この結果は損傷脊髄の回復のために、ミトコンドリアを介したエネルギー(ATP)供給が重要である可能性を示しています。手前味噌になってしまいますが、我々も以前に損傷脊髄の中枢測にconstitutively active MEKアデノウイルスを投与することで運動機能回復が起こることを報告しましたが(Miura et al., Exp Neurol. 2000 Nov;166(1):115-26)、この現象も神経のエネルギー産生を高めることで生じたのかもしれないなぁ、と思いながら論文を読ませていただきました。 
Restoring Cellular Energetics Promotes Axonal Regeneration and Functional Recovery after Spinal Cord Injury
Cell Metabolism 31, 623–641
https://www.cell.com/cell-metabolism/fulltext/S1550-4131(20)30061-9


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