とはずがたり

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ダイヤモンドプリンセス号乗船者における無症状感染者についての報告

2020-06-13 09:48:28 | 新型コロナウイルス(疫学他)
藤田医科大学および厚生労働省名古屋検疫所からのダイヤモンドプリンセス号乗客・船員に関する報告です。ダイヤモンドプリンセス号では当初は症状のある患者のみPCR検査が行われましたが、その後検査の対象は乗客、船員全員に広げられました。その結果3月5日の段階で410人の「無症状感染者asymptomatic confirmed cases」が見つかりました。その中で79人(19%)はその後COVID-19症状が出現したため「未発症患者presymptomatic patients」であったと考えられました。4月30日の段階でやはりasymptomaticであった感染者が310人いました。その後96人の無症状感染者および32人の同室者(乗船中はPCR陰性)が藤田医科大学の未稼働の病棟に隔離されました。連続2回陰性になるまで繰り返しのPCR検査や症状の観察が続けられ、COVID-19症状が出た場合には急性期病院に転送されました。また同室者についても検査および観察が行われました。
96人の無症状感染者のうち11人(11%)が中央値4日(3-7日)で発症し、未発症患者であったと診断されました。発症のリスクは高年齢ほど高いことがわかりました(1歳ごとにOR 1.08, 95% CI 1.01-1.16)。32人の同室者のうち、病院についてから72時間以内に8人がPCR陽性になりましたが、無症状のままでした。結果として90人はPCR陽性後、感染がおさまるまで無症状のままでした。無症状感染者であった58人の乗客、32人の船員の年齢の中央値は59.5歳(IQR 36-68歳; 範囲9歳―77歳)でした。24人(27%)は高血圧(20%)、糖尿病(9%)といった併存症を有していました。初回PCR陽性だった時から2回連続で陰性になるまでの日数は中央値で9日、8日目、15日目で陰性だった人は48%, 90%でした。やはり年齢が高くなると陰性化までの日数が長くなり、グラフを見ると特に50歳以上になると直線状に延長していることがわかります。
Supplementary dataとして詳細なPCR検査の経過も記載されています。また発症した患者11人のPCR陽性から発症までの日数や発症時の症状などのデータも記されており、大変丁寧な報告だと思います。
この報告のメッセージはいくつかあると思いますが、1つ重要な点は全く無症状で経過する感染者がかなり多いということです。これらの患者がどの程度周囲への感染性を有していたのかはわかりませんが、同室者のうちPCR陽性になったのが25%程度(8/32)だったというデータは、感染性が非常に高い訳ではないと思われます(それこそ三密の状態だったでしょうから)。発症するかどうかは、どの程度のウイルス量に曝露したかによります。したがってやはり発症者の方が(咳もするし)、排出するウイルス量も多く、それだけ周囲の人への感染リスクも高いと考えられます。
第2波のリスクなどが叫ばれる中、社会としての対応に苦慮しているわけですが、同室者で陽性になった8人は全員が発症しなかったことを考えると、私としては無症状感染者との接触は、飲食を伴わず、特にマスクを着用している場合には感染リスクは少なく、万一感染した場合でも曝露ウイルス量が少ないことから、発症するリスクは少ないのではないかと考察しました。皆さんのご意見はいかがでしょうか?
Natural History of Asymptomatic SARS-CoV-2 Infection
DOI: 10.1056/NEJMc2013020


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