ネアンデルタール人Homo neanderthalensisは約40万年前に出現し、2万数千年前に絶滅したホモ属ですが、DNAの解析から現生人類Homo sapiensの祖先ではなく別系統のHomo属であると考えられています。しかし最近の研究から、 現生人類の遺伝子にネアンデルタール人類特有の遺伝子が 1~4 %混入していることから、両者の混血が存在したことが明らかになりました(Green et al., Science. 2010 May 7;328(5979):710-722)。両者に共通した遺伝子の中で、現生人類遺伝子の変異につながっているものがいくつか存在し、中でも1つの遺伝子中に数個の変異があるものは、変異に何らかの意味が存在すると考えられています。そのような遺伝子の1つが電位依存性ナトリウムチャネルであるNav1.7をコードするSCN9A遺伝子です。ネアンデルタール人のNav1.7にはM932L; V991L; D1908Gという3カ所のアミノ酸変異が100%存在し、共通した変異であったと考えられます。Nav1.7は末梢神経に発現しており、疼痛刺激の脊髄や脳への伝達に関与していますが、ネアンデルタール型Nav1.7はヒト型Nav1.7と比較して活性が高い、つまり疼痛刺激に対する閾値が低い可能性が示されました。このような変異は現代人にも見出され、すべての変異を有するヒトでは1.16倍疼痛の訴えが強いことが示されました。ネアンデルタール人がなぜ全員このような変異を有していたのかはわかりませんし、実際にネアンデルタール人の方が痛覚過敏であったという結論にはなりませんが、ちょっとしたことで痛がっているネアンデルタール人の姿を想像すると可笑しくなりますね。
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