場所と人にまつわる物語

時間と空間のはざまに浮き沈みする場所の記憶をたどる旅

入墨

2021-10-04 13:03:28 | 場所の記憶
 
細々と居酒屋を営む姉妹には、遠い昔、自分たちを捨てて行った父親がいた。その父親が、近頃は店の前にうろついている。姉はその父を疎み、妹は親近感を抱く。ある日、店の常連で、ならず者が妹を拐かし、あまつさえ、恐喝に及ぼうとする。その時、父が渾身の力を振り絞って兇漢を倒す。「雁の声がした。空は曇ったままらしく、夜の町にぶ厚くかぶさっている雲の気配があった。雁の姿は見えなかった」危害を加えられそうになった二人の娘を救った父の後ろ姿を見送ったあとの情景である。
『闇の梯子」より

物語の舞台:本所 要:「江戸切絵図」(本所)ー国立国会図書館デジタル参照 写真:百本杙の碑
・割下水沿いに歩いていた。町は長岡町に変わり、三笠町二丁目から一丁目を過ぎて、そこから先は武家屋敷の堀
 つづきになった。・・・辻番所の前を二度通った。突き当たりに本所御竹蔵の広大な塀が黒々と浮かび上がった。
・御竹蔵の前を突き当たると左に折れ、道は割下水を渡って、左は武家屋敷、右は御竹蔵にはさまれて、真直角に伸びている。さらに亀沢町の角で、二人の男に会った。ついに、卯助は本所相生町四丁目と五丁目の間を抜け、竪川にかかる二の橋を渡った。卯助の足をとめた場所は,五間堀を渡って、長桂寺と隣り合う深川北森町の一角だった。そこに貧しげな裏店があった。裏店は長桂寺の森閑とした黒塀に寄り添うように、低い軒を聚めていた。ここにいたるまで卯助は二ノ橋を渡ってから松井町と林町の間を抜け、さらに常磐町から大名屋敷都」弥勒寺の間を通り抜けてきている。