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東岩瀬駅という、瀟洒な駅に降りたち、少し歩くと、目の前に閑静な古町があらわれる。街道(旧北國街道)の両側に古風な商家風の建物が立ち並び、いかにも、ここがかって北前船で賑わった地であることをうかがわせる。
ゆっくりと、通りの左右に注意を払いながら歩を進める。かつて、この通りには廻船問屋が立ち並んでいたというだけに、格式を感じさせる建物群が並んでいる。いずれも二階建ての町家で、東岩瀬廻船問屋型町家とよばれるものである。
なかに往時の廻船問屋の家屋をそのままに残している森家という建物があった。明治初年に建てられた、国の重要指定文化財になっている建物である。
平入りの表構えは、屋根はむくりのついたコケラ葺き、一階はスムシコのはめられた出格子づくり。二階の卯建のついた壁にはこれまた横組みの竹製のスムシコ(格子)が設えられている。
「むくり」というふくらみのある屋根は、雨水の流れをよくするようにつくられた日本の伝統的屋根のつくりのひとつである。そして、一、二階の窓のスムシコ。内側から外は見えるが、外からは内が見えない構造になっている。
内部は前庭を備えた三列四段型で、家屋の裏手にある船着場に通じる通り庭(土間廊下)があり、それに沿って、表から順に母屋、道具蔵、米蔵、肥料蔵と続いていたが、今は、母屋と道具蔵だけが残る。オイとよばれる母屋(居間)は、吹き抜け天井にはむき出しの梁が行き交い、重厚な雰囲気を醸し出している。
森家の家屋構造を見学して気づいたことがある。そこにつくられている独特の空間概念というものである。それは奥と隙間にあらわれている。人と物との関わりが合理的につながるような空間のつくりである。
この森家だけでなく、馬場家、米田家、佐藤家、佐渡家、宮城家などといった旧家が今も残り、家の形を残したまま、カフェやギャラリー、土産物店などを営んでいる。
時が止まったような界隈ではあるが、往時、この通りは人馬行き交う賑やかな通りであったのだろう。そんなことを想像しながら、店を覗きながら、そぞろ歩いていると、なんとも楽しい気分になってくるのである。
街並みは町の歴史や文化を、そこを訪れる者に語りかけてくれる最良の表現体だ、ということをどこかで聞いたことがあるが、なるほど頷けることである。
昔町はなぜか懐かしい。どこか床しい。
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