漕手のやんごとなき日常

~立教大学体育会ボート部の日常を漕手目線で~

「アンニュイな日常に一石を投じよう」 3年 内山

2018-11-28 22:13:03 | 日記

ビル街を突き抜けて、スカートがはためくほどの風が吹いていた。

人のごった返す駅から迷うことなく、目的地に向かって真っ直ぐに歩いている。

 

程なくすると、雑然とした駅前とは異なる雰囲気が自分の周囲につくられていることに気づいた。

あたりを見回すと、化粧を施し煌びやかな装飾品に身を固めた女性が多く目立つ。

彼女らの服装からしてただの会社帰りでいるような様子ではない。

ふわりとしたスカートに高めのヒールを履き、髪はゆるやかなウェーブを描きながらまとめられていた。言うなれば華やかでどこかドレスコードに近いような印象を残す女性たちだ。

 

とある建物の一角、カラフルに瞬くネオンが広がるその隣に、長蛇の列ができていた。

見るとここにいる女性は皆そこへ並んでゆくようで、私もそれに倣って不安を隠すようにその列の中に身を寄せる。

 

壁面に金色で縁取られた看板には、

club eX」の文字が羅列していた。



赤いカーペットが伸びた入口には、黒のスーツに黒のネクタイ、シャープな黒の眼鏡を掛けた長身の男性が立っており、女性達の列を静かに眺めていた。

 

ほどなく、入口正面の時計の長針が、かちりと上を差した。時刻は夜7時。

 

すると今まで彫刻のように動かなかった黒に身を包んだ男性が、女性達に向かって声をかけ始めた。

 

「ただいまから開演いたします。どうぞ、前へ」

 

列が一斉に動き出した。ふと前に顔を上げると、並んでいた1人の女性が不敵な笑みを浮かべていた。その女性が随分と場慣れしていているのを見て、私の不安がさらに膨れ上がっていった。

 

自分にはまだ早かったのではないか。勢いで飛び込んでみたは良いものの、ここにいるのは20歳をとうに越えた大人の女性たちがほとんどで、自分だけ浮いている存在のようで後ろめたい気分だった。

 

そんな私の胸中を無視して、列はどんどん進んでゆき、ついに私が先頭になった。

 

ロビーの扉が開かれ、足を一歩踏み入れた。

 

 

室内は暗く、照明もほぼついておらずいかにもといった怪しげな空間だった。

そこに赤い布地に金の脚でできた椅子がずらっと並べられている。女性たちは次々と椅子に座っていった。まるで何かに惹きつけられるかのように。

 

そして何より目を引いたのは、中央に位置した黒塗りの舞台装置だった。

 

そう、ここは






舞台版『心霊探偵八雲裁きの塔』

初回公演の劇場であった。

 

 

私の昔から大好きな小説が舞台化した、私にとって初の舞台鑑賞。

さらっと演じているように見えても、ゼロ距離で見えた俳優さんたちの額には大粒の汗が見えて

お芝居のエネルギーを感じました。

人の「演じる力」は凄いなと。次元の違う世界の、別人の人生を表現することに注ぐ熱量とは一体何なんだろうか。私の知らなかった演劇は目眩がするような衝撃を受けました。

幕が下りて、私は最後まで拍手を止めることが出来ませんでした。俳優さんたちに自分の中に起こった感動の蠢きを伝えるには、それしか方法がなかったのです。

 

 

私にはまだまだ知らないことがたくさんある。

それは知識かもしれない、経験かもしれない。だから私はもっと、知りたい。

 

人間とは欲深な生き物であるから、足りないものをより求めていく。

その強欲さが今私をつくっていく一部なのだとしたら、

私は、私に無いものをもっと求めたい。

自分のなかに世界を取り込んでいきたい。

 

そのために、フライを使いたいなと思える、とある月曜の1日でありました。

何もしないんじゃ勿体無い。

じっとしているだけではつまらない!

好きに全力を注ぐ価値をより知っていただけたら幸いです。

 


 



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