二階堂黎人氏の「名探偵の肖像」(講談社文庫)という一冊がある。有名ミステリ作家へのオマージュというか贋作が並んでいるのだが、「赤死荘の殺人」というディクスン・カーの雰囲気で一杯の作品も収録されている。カー・ファンには一読の価値があるとお薦めしたいが、見逃せないのが「地上最大のカー問答」という二階堂氏と芦辺拓氏による対談、そして「ジョン・ディクスン・カーの全作品を論じる」という二編である。
前回にブックバードで購入したカーのハヤカワ・ポケミスについて紹介したが、それについて触れている箇所がある。それらをまとめると、カーの多くの作品はポケミスで訳されたが早い時期に絶版になっていたこと、特に悪名高い幾人かの訳者がいること、そのため全訳ではなく抄訳となっているものがあること、あるいは直訳調すぎる訳者もいて非常に読みづらい印象を与えること、など。つまり、こうした状況が不幸にも初期の日本にカー作品の面白さが浸透しなかった要因なのではという指摘である。もしそうなら、先日私が購入したポケミスの中に、まさにそうした訳者のものもあるので、これは心して読まねばならないようだ。
本問答では、その他カー作品の魅力について両作家が白熱したトークを展開しており、もう一編の「…の全作品を論じる」と併せ読めばますますカーが好きになること間違いなし。そして何よりもうれしいのは、この文庫本が発行された2002年から後、カーの新訳が次々刊行されていることだ。ありがたい時代になったものである。