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No33 金融緩和の解除が消費主導型景気への転換の近道?・・No32続編

2005年12月31日 | 景気
日経12/26 <経済教室>欄 中前忠/国際経済研究所(論旨抜粋)

・・・01年から始まった量的緩和政策は家計から企業への行き過ぎた所得移転をさらに推し進め、家計消費の回復を妨げてきた。

超低金利政策の最大の弊害は、家計を利子の純支払い部門にしてしまったことだ。

92年には12兆円の利子受け取り超過だったのが金利の低下が進み03年には9兆円の利子支払い超過となった。これは支払い利子率が7.8⇒4.3%へ低下したのに対して受取利子率が5.4⇒0.6%へさらに大幅に低下したためだ。

92年の利子率を基準とすると家計はこの11年間で218兆円の利子を失った。

これに対して企業は金利支払いコスト軽減によって140兆の恩恵を受けた。この10年間の企業の経常利益総額の40%に相当する額である。

リストラが社会的に容認されたことで雇用者の所得が落ち込む一方企業収益は過去最高を記録している。

さらに、超低金利は大企業に有利だが中小・零細にはマイナス。
「資本集約的」な大企業は上記の恩恵を受けたが、全雇用の70%を占める「労働集約的」な中小企業の賃金落ち込みが消費不振の主因となっている。企業間格差も拡大したのである。

その典型、小売業では大型店が店舗設備拡大する一方地元零細店を痛めつけシャッター通りが増えていく。97年からの人件費の減少率は大企業の2.1%に対して中小11.5%零細14%。このような状況では消費が部分的に盛り上がっても全体として拡大していくことは有り得ない。

従業員一人当たりの営業利益:大企業375万円、中小45万円、零細8万円
従業員一人当たり設備投資額:大企業330万円、中小40万円、零細28万円
労働分配率(人件費の割合):大企業56.4%、中小77.6%、零細81.6%
設備投資を行えるのは大企業のみで、中小零細は付加価値のほとんどが人件費に回り設備投資できる状況にないということがわかる。

バブル崩壊で金融機関と企業は大きな痛手を負ったが家計の預貯金はほとんど無傷だった。その後ゼロ金利、リストラで家計⇒企業へ所得移転が進んだが、このままでは消費主導の経済は確立ぜず消費不況は終わるはずがない。

このままゼロ金利が続けば企業の過剰貯蓄は一段と拡大する。
国内に投資機会がないままでは余剰資金はよりよい投資機会を求めて海外へ出て行くことになる。

金利を正常化させ所得移転を逆転させることが必要。預金金利を引き揚げ家計の利子所得を復活させそれによって消費主導の経済へ。
消費増⇒企業売上増⇒賃金引き上げ・・という好循環に持ち込まなくてはならない。

ゼロ金利の下では、輸出が伸びる限りにおいて大企業を中心に景気は維持されるがこれでは海外景気が落ち込んだ時の不況化を免れない。
消費主導の経済構造に変えていく、これこそ80年代以降の日本経済の課題だったではないか。

・・・

これまでのファイル(~No32)の流れから、一エコノミスト氏の意見ではありますが当ブログが取り上げていた所に近い発想の記事だったのであえて長文にてご紹介しました。

金融緩和の解除の是非については政財界も加わっての論争が盛んですが、解除が早くとも遅くとも、いずれもメリットだけでなく副作用のリスクが生じます・・詳しい説明が欲しい方はNo22と23をご参照ください。

だとすればプライオリティ(優先順位)を決めるしかありません。仮に「消費主導型」の経済がもっとも弱いところであり今の日本に必要だということを第一優先に考えるならば上の論説は説得力を持つでしょう。

逆に多くの論調にあるように、好調な企業業績を腰折れさせないことを第一義とするならば、解除には慎重にならざるを得ないわけです。日米金利差縮小ムードがもたらす円高による企業体力の悪化や、せっかく上がった日本株による含み資産益(含み貯蓄)を減らしたくないという事情も理解できます。

この是非論は、大胆に誤解を恐れずにいえば、“預金金利を奪われた大部分の大衆庶民vs収益に貪欲な企業家・資産家”という対立軸で発想することもできます。

企業家・資産家は大衆庶民と比べれば体制寄りで、体制側には金利上昇による国の借金の利払い増加を恐れる事情もありますから、両者の利害は一致します。また現体制は勝ち組に優しく負け組に厳しいアメリカ的市場原理主義を推進していることはこのブログでも何回も明らかにしてきた通り。そして彼らがマスコミをうまく使えるビッグマウスであることは明白です。

ゆえに半ば一方的な情報の受け手である大部分の大衆庶民側にとっては、席巻する金融解除慎重論に対して色メガネで接する必要もあるわけです。ビッグマウス達の思惑を加味してジャッジしていかなければならないと感じます。

たいへん穿った見方ですが、そういう意味で金利政策を早く正常に戻したいとする日銀福井総裁は、体制側・企業家・資産家に屈しない、ある意味庶民の味方!?なのかもしれません。(もっとも日銀は体制そのもの・・ではありますが/苦笑)

上記の日経論説も、庶民がなかなか読み込むまでに至らない記事面なのが残念ですが、ビッグマウスや大方の論調と一線を画した勇気ある意見記事のひとつといえるのではないでしょうか。

提言内容の正解不正解は別問題です。正解か不正解かは後世になってみないと誰にもわかりません。

というより、これからは全ての日本人にとってこれが正解、という金融政策はもう望めないでしょう。その人の経済環境、資産防衛スタンスの取り方(ポジショニング)によって都合の良い金融政策が変化するような時代が訪れていると感じます。それだけ二極化が進行しているということだと思います。