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スペインのイメージ 版画を通じて写し伝わるすがた

2023-05-05 | アート

(観に行ってるのは4日なんですが取れ高の関係で5日更新にします)

スペイン。
欧州半島の西端であり、海峡を南下すればすぐアフリカ大陸。
西には大西洋が広がる国。
一時は無敵艦隊で海を制した海洋帝国でもありましたが
フランスやイギリス、オーストリアが中心となるヨーロッパ社会においては
「エキゾチズム漂う辺境」というイメージを持たれる場所、でもあります。

今展覧会は国立西洋美術館の企画で、版画を中心として
この国のイメージが変容していく流れを示した展覧会となっております。

まず最初に展示されるのは、スペイン文化を代表するふたつ、
「批評性をもった近代文学の祖」ともいわれる「ドン・キホーテ」と
その表現力で世界に知られるベラスケス。

そもそも、「ドン・キホーテ」は当時流行していた騎士物語のパロディとして
「騎士物語を読みすぎておかしくなった男が自分を騎士だと思い込んで冒険する」物語であり
最初はドン・キホーテとサンチョ・パンサが
旅先でおかしな事件を起こすのを楽しむギャグ小説という受容をされてきました。
現代日本で例えるならば
「異世界転生ラノベを読みすぎて自分が主人公だと思い込んでる人を主人公にしたラノベ」
といったくらいの立ち位置でしょうか。
しかし100年が過ぎたあたりから
「パロディというのは元の物語への批評なのでは」という読まれ方をされはじめ
ヨーロッパ近代文学を代表する作品、という評価が定着していくのです。

そして、この物語の受容のされ方の変化は、小説に添えられた挿絵の変化も促します。
初めのうちに刊行された版はアクションシーンや笑えるシーンを中心としたものになりましたが
評価が変質していくごとにキャラクターの内面を描くものへと変化していったわけです。
そして20世紀においては、サルバドール・ダリによって抽象化された絵画作品にもなっていったり。

一方、ベラスケスの作品はスペイン画壇を代表するものとして
多くの作家に模写され、解釈を加えられていくとともに
写真発明前にその絵を書籍に掲載するために模写されたものが版画として印刷されていきました。

続いては、旅行者の眼を通したスペイン。
南の太陽とイスラム文化の影響をうけたエキゾチズム、
マハやロマ(ジプシー)といった美しく情熱的な女性像。

そんな19世紀の「辺境」スペインのどこか観光ポスターめいた
商業的な匂いも強い姿を映した作品の、その向こうで
フランシスコ・デ・ゴヤが描いた、残酷でどこか幻想的な戦争画は
ドラクロワやマネといった後進たちに影響を与えていきます。

そしてスペインを代表するスポーツといえば、の闘牛。
つねに生と死が隣り合うこの人間と牛の戦いは、
ゴヤからピカソ、そして現代の作家に至るまで幾度となくモチーフにされ
ある種の寓意を含んだ作品として結実していった印象があります。

そんな19世紀も後半になると、カタルーニャやバルセロナといった地域から
新しい芸術運動が起こり、20世紀の初頭にはそんな中に
まだ何物でもなかったピカソ青年が加わっていきます。
豊かになる社会から発生した格差の拡大などがその画題として用いられ、
それは20世紀の前半において古い因習などと結びついたスペインという国の色濃い影…
エスパーニャ・ネグラとなっていきます。
この国の暗い部分でもがき苦しむ人々を描いたのが、ホセ・グティエレス・ソラーナなどの画家であり
その画風には「黒」の深さを感じることが多い印象です。

フランコ将軍によるクーデターが発生し、内戦状態となった1936年以降。
ピカソやミロといった芸術家の応援も空しくフランコによる独裁政権が樹立され
多くの芸術家はフランス等に逃れることになりました。
しかし諸外国との融和が進んだ70年代以降には
国内から政治的メッセージを含んだ多くの作品が生まれることとなったわけです。

ここ長崎県美術館が所蔵しているスペイン絵画たちも展覧会の中心となり
(特にゴヤの「戦争の惨禍」シリーズ)
さらには常設展でもスペインで暮らし、いくつもの代表作を生み出した鴨居玲の企画展示を行うなど
スペインの美術…それもどちらかといえば闇の深さを感じやすい展示となっております。

前期展示は5/7までですが、後期展示は5/9から6/11まで。
遠いですが日本とのかかわりも決して小さくはない国の美術史を、
ぜひ体感してほしい展覧会です。

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