炎と水の物語 2013 Apprehensio ad Ignis et Aquarius.

広大な宇宙を旅する地球。私たちは今、どの辺にいるのでしょう. 

多発する日米の無差別殺人事件 その背景 ウォレスとラッフルズ、プラムデイア アナンタ トウールの考察

2009-10-21 | 人災社会学!
 銃乱射事件の凶弾に倒れた13人の犠牲者を追悼する式典が開かれ、オバマ米大統領や遺族、兵士ら約1万5000人が参列した。大統領は「この悲劇の論理は理解しがたい。残忍で臆病な行為を正当化する理由はない」と演説。 対テロ戦争に派遣予定だった米軍人が引き起こした事件は米社会に大きな衝撃を与え、大統領は追悼式典出席のため、日本訪問の日程を1日遅らせた。

日経ニュース
http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20091111AT2M1100J11112009.html
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 アメリカ各地で、頻発する無差別大量殺人事件、乱射事件、オバマ大統領も犯人の論理は理解しがたいと述べています。いったいどうして、こうした無差別大量殺人事件が、くり返し起きるのでしょうか.
今日は、オバマ大統領も少年時代を過ごしたというインドネシアの、古い二つの記録を元に、考えてみましょう。

 19世紀の博物学者、アルフレッド ラッセル ウォレスは、その著書 The Malay Archpelago. 1890 『 マレー諸島 』で、この地域の無差別殺人について、鋭い観察を行っています。

 当時のマレー諸島( 現在のインドネシア~シンガポール)では、5人~20人もの人々が、路上で無差別に刃物で殺される事件が、頻繁にあったと記しています。 路上で手当たり次第、クリスと呼ばれる短剣で、次々に通行人に襲いかかり、人々が殺される事件がよく起こると記しています。
 
 その記述は、最近の日本で起きている無差別殺傷事件とよく似ていて驚かされます。
特に、例の秋葉原や大阪の小学校で起きた事件などと、似ているように思います。
また、科学の進んだアメリカでは、それが銃に置き換わっているようにも思えます。

 ウォレスの『 マレー諸島 』第11章、「 ロンボック 人々の習慣 」の章では、19世紀のロンボック島(バリ島の東隣)と、マカッサル(スラウエシ島)での例が記載されています。
通り魔大量殺人犯に共通するキーワードは、奴隷状態であり、絶望の状態です。

 当時の東南アジアでは、人間を奴隷として売り買いしていました。奴隷にされてしまい、自由を失い絶望状態の人や、妻子が奴隷に陥ってしまった家族が、こうした大量殺人を起こすことが珍しくなく、こうした行為や状態を、「 アモック 」と呼ぶと書き記しています。

 ウォレスはマレー諸島では、おもに鳥類、哺乳類、昆虫の採集と分類を行い、アジアやオーストラリアの種との微妙な違いについて、変化の原因を考察していますが、専門の領域だけではなく、人間の心についても、するどい観察を行っています。

 ウォレスに先立って、「 アモック 」の本質を捉えたのは、スタンフォード トーマス ラッフルズでした。
ラッフルズは、1811年ヨーロッパでのナポレオン戦争に乗じて、イギリスがオランダ・フランス領ジャワを占領時の行政副長官です。 彼が見聞した「 アモック 」の例を見てみましょう。

「 奴隷として捕らえられた不幸な犠牲者は、友人・家族や祖国から、暴力によってひきさかれてしまった。 手かせ足かせを付けられ、生きた人間の売買業者に渡され、船で運ばれて行く。航海中、彼は縛られていた。
その奴隷船の航海中に、次のような事が起きた。 
生け捕りにされ、縛られていた男が、一瞬、手足が自由な状態になった時、彼は武器を奪い取り、出会う者すべてを刺し殺し、船から飛び降り、追手からの救いを水中の墓場に求め、その命を閉じたのである。。。」

 1811年、ラッフルズが赴任した当時のジャワの社会は、圧政のため人々は困窮し、海賊がはびこり、人間を拉致し、これを売り買いする奴隷制度が普通に行われていました。
ジャワの社会を綿密に調査したラッフルズは、奴隷制度を禁止し、奴隷制度がもたらす悲惨な事件を防ぐ人道的な社会改革に着手しました。

 現在、シンガポール最大の観光名所に、ラッフルズという高級ホテルがありますが、シンガポールはもともとは、ひなびた村々が点在する島でした。ラッフルズホテルは、ラッフルズが赴任し、商業と教育の振興と人道的政策で一躍大発展させたことにちなんだ名です。 一泊、5万円ほどでなかなか泊まれたものではありませんが、ハイテイーの時間はいつも、日本からのご婦人方で大混の雑状態と聞きます。でも、ラッフルズの業績について知っている人は、どれくらいいるんでしょうね(^^;。

 ちょうど、APECの首脳会議が開かれていますが、現代のアメリカの銃乱射事件の本質や、日本でも最近増えている無差別殺傷事件について、先人の知恵に学んでもらいたいものです。皆さんも、先人の人となりを足跡からたどってみてはいかがでしょうか。
 
*追記/ 現代インドネシア文学者の最高峰と賞される、プラムデイア アナンタ トウール氏の傑作『 すべて民族の子 』にも、こうした無差別大量殺人のアモックについての場面があります。20世紀初頭、オランダ支配下のジャワ島ので、砂糖産業の搾取と、詐術に追い詰められた農民の”アモックについて記載がありました。

 「彼らがアモックという行動に出るのは、自己防衛とか復讐とか、相手を攻撃したいとか、そんな理由からではない。何よりも、自分たちの生活の最後の機会さえ奪われてしまって、もはやどうしてよいかわからない、そんな心理状態が彼らをしてアモックにはしらせるのです...」 『 すべて民族の子 』上巻 p295

 日本でもトヨタ系の自動車組み立て工場の「派遣労働者」による、秋葉原での無差別殺人事件がありましたが、19世紀の植民地なみの社会環境がもたらした、災禍と言えましょうか・・・

参考書.
・『ラッフルズ伝』信夫清三郎.1989 東洋文庫、『アブドゥーラ物語』アブドゥーラ ムシン(彼の秘書)東洋文庫 
・Thomas Stanford Raffles. ”History of Jawa ”. 1817.London
・Sophia Raffles. ”Memoir of the LIFE AND PUBLICK SERVICES OF SIR STAMFORD RAFFLES "
・『ラッフルズ-その苦悩と栄光』 M.コリンズ1982
・ プラムデイア・アンタ・トールの傑作 『 すべて民族の子 』 めこん社
  ( 私もいろんな小説を読みましたが、これほどおもしろい小説ははじめてです。肩の凝らない恋愛小説としても読めますし、推理小説としても手に汗握るものがあり、現代史資料としても・・・、どんな目的で読んでも、物語の中に引き込まれ、全7巻をあっという間に読んでしまうこと、請け合いです。 映画すれば大ヒットまちがいないなあ。

拙ブログ参考記事.  ラッフルズ


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