ウクライナ・ザポリッジャ州ロボティネ村近郊でドローンを操作するウクライナ兵(8月25日)
ウクライナの将官たちは、同国南部でロシア軍の手ごわい「第1防衛線」を突破したと主張している。今夏に開始したロシア軍に対する反転攻勢が加速する可能性がある。
反転攻勢を開始した6月以降、ウクライナ軍が獲得した領土はごくわずかだが、ウクライナはついに転換点を迎えたのだろうか。
ウクライナのユーリ・サク国防相顧問は、同国南部でロシア軍の「第1防衛線」を突破したのかと尋ねられると、「そうだ、それは事実だ」と答えた。
「少しずつだが、私たちは勢いを増していると思う」
ウクライナ軍の南部前線を指揮するオレクサンドル・タルナフスキー司令官は、「我々は現在、第1防衛線と第2防衛線の間にいる」と、英紙オブザーヴァーに語った。
米ホワイトハウスのジョン・カービー戦略広報担当調整官も同様の発言をしている。カービー氏は1日、ワシントンで記者団に対し、「ウクライナ軍は(ロシアの)第2防衛線に対して一定の成果を上げた」と述べた。
ここ数週間、ザポリッジャ市の南東約56キロにある小さな村ロボティネ周辺で橋頭堡(きょうとうほ、橋のたもとに設ける陣地)を拡大することが、反転攻勢の焦点となっていた。
ウクライナ軍は8月23日、ロボティネに青色と黄色のウクライナ国旗を掲げた。そして現在、より大規模な歩兵部隊や装甲部隊をロシアの砲火を浴びることなく進めようとしている。
これが達成できれば、第2、第3の防衛線へ向かうウクライナの攻勢は勢いを増す可能性がある。第2、第3の防衛線は第1防衛線ほど強固ではないかもしれない。
ロボティネの東にある、より大きな村ヴェルボヴェの端で戦闘が起きていると報告されている。これまでのあらゆる戦闘と同様、速度の遅い、つらい戦闘だ。
地図に目をやると、地雷原や対戦車障害物、塹壕など、ロシア軍の複雑な防衛線が重なり合っていることがわかる。そのうちのいくつかはヴェルボヴェに集中している。
空からの援護もなく、時にはロシア軍の猛烈な砲撃にさらされながら、ウクライナの小部隊はこうした危険地帯で道を開き、大規模な攻撃のための地固めをしている。
「こうした道が開けば、当然、我が軍は前進しやすくなる」と、サク国防相顧問は述べた。
「戦場の霧」
ウクライナ側の最新の主張の重要性を評価するのは困難だ。ウクライナ政府関係者は正確な詳細を尋ねられると固く口を閉ざす。「戦場の霧」(不確定要素)がウクライナ政府の意図を覆い隠すことを好み、機密情報が公になることを極端に嫌っているからだ。
前線で何が起きているのかについて、戦闘に最も近い部隊がまったく異なる説明をすることもある。
ウクライナの第46独立空中強襲旅団は2日、BBCの取材に対し、ロシアの第1防衛線付近で戦闘が続いているが、「まだ誰も第1防衛線を越えられていない」と述べた。
これはそれほど驚くべきことではない。前線のあちこちで多数の部隊が活動しており、それぞれが狭い範囲と特定の任務に集中しているため、ほかの場所で何が起こっているのかを必ずしも把握しているわけではない。
そうした部隊の1つに、「スカラ」というコールサインで知られる司令官率いる義勇大隊がある。「スカラ」は同大隊の兵士が8月26日にロシアの第1防衛線を突破したと、ロイター通信に語った。
兵士はいまも前進を続けていると、「スカラ」は2日に述べた。
同司令官は音声メッセージで、「文字通り、我々はザポリッジャ州を沿岸部に向かって進んでいる」としたが、それ以上の詳細は明らかにしなかった。
「先を急ぎたくはないが、我々も(ウクライナ軍の)参謀本部も最速で勝利するためにあらゆる手だてを尽くしている」
ウクライナ側の最近の勝利について、正確な本質と方向性を測るのは難しい。ただ、クレムリン(ロシア大統領府)が警戒しているのは明らかだ。
クレムリンは最近、ロボティネと、21キロ南にある主要道路と鉄道が通るトクマクとの間の防衛強化のため、長い前線のほかの地域から精鋭部隊を送り込んだ。
米ワシントンに拠点を置くシンクタンク「戦争研究所」(ISW)によると、こうした動きは6月以降3度目だという。
ISWは9月1日付の評価の中で、「数週間のうちに2度目の水平展開が行われたことは、ロシアの防衛の安定性に対するロシアの懸念の高まりを示唆している」と報告している。
ウクライナの専門家たちは、ロシア政府に前線部隊をあちこちに移動させ、消耗させようとするウクライナ政府の計画の一部だと主張している。
「我々はロシアの予備兵力を巻き込んで疲弊させようとしている」と、ウクライナ軍と密接な関係にあるウクライナ安全保障協力センターの共同設立者兼会長セルヒィ・クザン氏は話す。
ウクライナの次の任務は、ロシアのぜい弱性の兆候を利用することだという。
「重要なのは橋頭堡の拡大だ」と、クザン氏は言う。「それができない限り、さらに奥へと進めという命令は出ないだろう」。
6月以降、ウクライナ軍の反攻は遅々として進んでいないように見えるが、南部の制圧という基本的な目的は変わっていないと、クザン氏は話す。
冬の到来までに戦況がどうなるのかはわからない。
ウクライナ政府は理想としては、自軍がアゾフ海に到達し、クリミア半島に続くロシアの「陸橋」を寸断することを望んでいる。
そうならなかったとしても、ウクライナは、ロシア軍がドニプロ川とクリミアに挟まれたヘルソン州南部でのプレゼンスを維持するための補給路を断つ決意を固めている。
トクマクを通る鉄道を含む補給路の一部は、ウクライナが獲得している高機動ロケット砲システム「ハイマース」などの長距離兵器には非常にぜい弱だ。
重要な鉄道路線
クリミアと、ロシア本土を結ぶ主要交通路となっているケルチ大橋を渡る重要な鉄道路線は昨年10月以降、ウクライナの度重なる攻撃の標的となっている。そのためロシアは、沿岸部を走るM14高速道路を使って物資の70%を輸送していると、クザン氏は指摘する。
「我々は陸路を(中略)射撃統制下に置かなければならない」とクザン氏は言う。これは、ウクライナがこの道路を銃器で狙える位置にまで接近する必要があることを意味する。
しかし、実現まで時間がかかる目標だといえる。
ウクライナ軍はM14から80キロ以上離れた場所にいる。その道のりにはロシア軍の防衛線が複数あり、一歩進むごとに地上と上空から攻撃されることになる。
地図を見てみると、6月以降にウクライナが獲得した領土はごくわずかであることがわかる。
ウクライナ軍がロシア軍の強固な防衛線と初めて直面するのは、最も困難な局面の最中にあるときのはずだ。ロボティネでの突破が転換点であるかどうかを知るには、まだ時間がかかるかもしれない。
「今後も厳しい戦いが予想される」と、クザン氏は付け加えた。
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