シャープの液晶パネル生産子会社の外観(5月、堺市)
9月までに稼働停止を予定するシャープの液晶パネル工場(堺市、敷地面積=約80万平方メートル)が、IT(情報技術)業界の注目の的になっている。
広大な工場の敷地と建屋を人工知能(AI)向けのデータセンターにしたいソフトバンクとKDDIから協力を求められ、シャープはそれぞれと「合意した」と公表した。
シャープは液晶パネル事業の不振により、2023年3月期〜24年3月期の2年間に合計約4100億円の連結最終赤字を計上した。テレビ向けの大型パネルを生産する堺工場の稼働を止め、建屋をデータセンターにする取り組みは、業績改善のための目玉の施策に位置づけられる。
シャープは3日にKDDIと、7日にソフトバンクと異なる枠組みを発表した。KDDIとの連携策では共同出資会社の設立を視野にいれ、データセンターの共同運営を検討しているもよう。ソフトバンクと練る構想は、工場の敷地面積全体の約6割の土地と液晶パネルの生産棟などをソフトバンクに売却し、シャープは運営に関わらない方針だ。
シャープは7日に堺工場の土地や建物の売却に関する独占交渉権をソフトバンクに与えたと発表した後、日本経済新聞の取材に「売却する敷地とは別の敷地をKDDIなどに提案する」と説明した。
シャープのような大企業が1週間のうちに、ライバル関係にある2社と同じ事業に関し合意したと公表するのは珍しい。業績改善を期待する株主には朗報だが、通信大手2社をてんびんにかけるかのような動きは、取引先などに違和感を抱かせるリスクがある。
シャープ関係者は「ソフトバンクとKDDIのそれぞれと同時並行で交渉し、『より良い条件を引き出したい』などという考えはない。そのための独占交渉権でもある」と話す。
その上で、一連の合意の経緯について「必要に応じて、交渉相手に丁寧に説明していく」とした。
背景にはシャープの親会社である台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業とシャープが、それぞれ個別に通信大手2社と交渉を進めた経緯があるとみられる。
KDDIとの枠組みはデータセンターの整備費用の一部を自社でまかなう必要があるものの、テレビ向けパネルの生産停止でなくなる売上高の一部を新事業で補える利点がある。
世界中で獲得競争となっている米エヌビディアの画像処理半導体(GPU)を搭載したサーバーの調達にツテのある企業が陣営にいる点も魅力だ。
一方、シャープは5月に発表した中期経営計画のなかで、家電製品が中心の「ブランド事業」を軸とした事業構造に切り替える方針を示した。
ソフトバンクに堺工場の土地と建物を売却する場合、売却で得る資金をブランド事業の強化に振り向ける可能性がある。売却額次第では10%を割った自己資本比率の回復にもつながる。
(坂本佳乃子、松田直樹、桜木浩己)
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日経記事2024.06.10より引用