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三郎さんの昔話・・・古狐おさん(一)

2010-09-16 | 個人の会員でーす
古狐おさん(一)


 本山の上町公園は、昔土佐の殿様から派遣の侍が三人で詰所と居り屋があり、御殿場と言いよった。
 その前の道は、町からお伊勢坂を上り御殿場の前を通り抜け、一本松から天神前の方へ、その道幅は広うて昔の大通りであった。

 道の脇を兼山掘りのゆ溝が流れ、春の宵は蛍が多く子供の頃よく取りに行ったが、一本松はなにせ怖い話のところで、長居はようせず、暗くなったらさっさと帰りよった。

 おまん等まだ生まれちょらん前の話じゃがの、おさん言うて人を化かして、てこにあわん古狐がおったと。

 春のおそ月の夜中に、安いうて、にえきらん男が一本松へ通り掛かった。大松の枝影で月明かりもまばら、その下に娘が立ちっちゅう。こわごわ近う寄ってみたら、それは器量良しの可愛らしい娘、安さんうっとりしちょったら、にやりっと愛嬌顔で、「安やん、わたしゃーちょっと用があってその先まで行っちょったが、ここへ来てから寂しゅうて、よういなんが。家はほんのそこじゃが、連れて行ってもらえまいか。」

 安さんえつにいって、「おお、楽なことよ。」言うて、その娘について行ったらなかなかに立派な構えの家じゃ。

 「さあ、上がって」言うので入ったら、「もうおそいけ、みな寝よる。風呂がまだ沸いちゅう。だれたろ、早ようはいって。」風呂場に案内されて、安さんえつにいり、風呂に入る。

 そしたら娘は尻からげて赤いお腰の下は白い足、素足で来て背中を流してくれる。
 安さんこんな結構なことに遇うのは生まれて初めて。えつに入りきっちょったら、娘は床のべてくるけ、言うて出て行った。なんでか安さん、眠とうなって風呂の中で寝てしもうた。

 そのうちに夜が明け始め、あたりがうっすらと明るくなった。
 安さん寒うてうつろに目が覚めたら、春田の泥の中で体も着物も泥もぶれ。安さんなんだかさっぱりわからん。ぶるぶる震えよる。

 古狐のおさん、こえ山からそれを見て、安の間抜けをこじゃんとだましちゃったと、喜びこけて跳ね回りよったと。

 てこにあわん=手に負えない。


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