今日もいつもの堤防へ、ウォーキングに出掛けました。
堤防を歩いていると、道の中ほどでカニが車にひかれて絶命していました。
カニ君は河から堤防によじ登り、高い所からいつもと違う風景を
楽しんでいたのかもしれません。こういう終わり方もあるんだ・・・
時々見かける情景なのに、この日ばかりはカニ君の終わり方を、
あわれに複雑な思いで眺めました。


実は4~5日前のことです。
私はある銀行の二つの支店に口座があり、ほとんど休眠状態になっている一つを
解約しようと思いたちました。
(そうだウォーキングがてら銀行まで歩いて行こう)
空は今にも降ってきそうな怪しい雲ゆきでしたが、傘を持ち足取り軽く
出掛けました。
いつも出掛けているスーパーの前まで来た時、ふと携帯をみると、
3時までにはまだ30分あまりありました。
(そうだ、スーパーの中をちょっとのぞいてから行こうかな・・・)
そう思って、中に入りました。
この時期には珍しい冬大根のような、みずみずしい大根がありました。
冷蔵庫の中のちりめんが頭に浮かび、
もう、すっかり銀行に行くことは忘れていました。
レジを通り過ぎて、(あっ、銀行に行くんだった・・・)と
携帯を見ると、3時まであと8分!
(あらら、たいへん、こんなものを買ってしまって!でも8分あれば間に合うぞ)
左手に傘、右手に大きな大根をつるさげて走りました。
ハア、ハア息があがります。
もう何年も、こんな風に走ったことなんてありません。
喉がカラカラになりながら走っては、歩き、また走っては歩きました。
傘も大根もじゃまです。
(なんで大根なんて買ちゃったんだ・・・帰りにすればよかったのに)
自分にあきれながら走りました。
横断歩道が見えてきて、そこを渡れば30mほどで銀行です。
信号を突っ走ろうと思ったのに、無情にも赤信号に制止されました。
携帯をみれば、2時59分!
あ~あ、間に合わない!
4車線の横断歩道の前でいらだちながら右を見れば、車はない。
左は、かなり遠くから一台走ってきます。 今だ!
魔が差しました。
赤信号を無視してしまったのです。
充分渡りきれる距離だと思いましたのに、車は猛スピードで迫ってきました。
傘と大根をつるさげ、散々走ってきた足はもつれました。
走っている猫が一瞬立ち止まるみたいに動けなくなった私の前を、
キーキーと急ブレーキ音を響かせて車は通り過ぎました。
すいません! ごめんなさい!
走り去っていく車に謝りながら、後悔と恐怖と申し訳なさに、汗は一瞬に
冷や汗に変わりました。
魔が差したとしか言いようもない愚かな行動に、後悔と恐怖にくちゃくちゃに
なりながら、銀行の下りかかったシャッターの中に飛び込みました。
「解約 おねがいします」
「これはこちらの支店の扱いではありませんので、〇〇支店に行ってください」
ガ~ン (こんなに、走ってきたのに・・・)
「同じ銀行なのに他の支店のものは、解約できないのですか?」
「申し訳ございません」
「転勤なんかで引越した時も、ここまで戻ってこないと解約できないのですか?」
空しい抵抗でした。
解約なんて、いつでもよかったのに・・・
大根なんて、帰りに買えばよかったのに・・・
自分の脚の衰えも忘れ、目測も判断も誤り、
一瞬 魔が差しました。
あの車の方に迷惑をかけなくてよかった!
あやうくカニ君と同じ運命をたどるところでした。
思い出すと冷や汗が流れます。