ハラボジの履歴書

祖父が日本に渡って来なければならなかった物語を記憶に基づき
在日100年が過ぎようとしているいま書き留めておく。

ハラボジの履歴書  11

2013年07月10日 | Weblog
雨がさらに強く降ってきた。
土嚢を積み上げた隙間からどんどんと水が流れ出してくる
水路をすでに越えた水かさを下げることができないと思った。しかし、動きをやめれば
田んぼが水につかってしまう。
 もう力が尽きてしまいそうになった。
「もう少しだ、もう一段だけ土嚢を積めば何とか持つ」。と大完が皆に告げるように
大声で言った。
 
小一時間してから幾分雨が小降りになってきたかと思えば、それまで重く雲で覆われた空が
幾分明るくなったかと思うと、くもの隙間から日がさしてきた。
雨も上がった。
雲がどんどん切れ、それまでの雨がうそのような、強い日差しが照りだした。
「なんとか持ったな」。泥だらけの手の甲で顔を拭ったが気にもならない。
田んぼを守った安堵の気持ちの方が大きかった。

 「大完、ありがとう。おかげで助かった」。
「約束だったから、当然のことよ」。少し誇らしげに胸をたたいて見せた。
「道具を片づけて、俺のうちに皆と一緒に来ればいい」。
「わかった、しかしもう少しだけ水路の補修をしておこう、いつまた雨が
ふるやもしれんので、お前はさきに行って、人夫たちの飯の準備でもしておいてくれ
昼過ぎには終わるので」。

 ピョンオンは先にもどり、飯の支度をすることにした。
そして、その日の夕方には務安に行った兄様が家に帰ってくる日でもあった。