法科大学院(ロースクール)は2004年に発足し、この図にあるように、今では裁判官・検察官・弁護士になるための主要なルートとなっています。
この制度発足に合わせ、司法試験の内容も理論中心の旧司法試験からより実務的な新司法試験になっています。
さて、政府の行政刷新会議の「提言型政策仕分け」は2日目の11月21日、大学改革の議論が行われ、合格率の低迷などが問題になっているこの法科大学院(ロースクール)制度について、「抜本的に見直すことを検討すべきだ」との提言を以下のようにまとめました。
仕分け人の民主党の階 猛衆院議員(弁護士出身)は、
「法曹志願者が激減しているんですね。法科大学院の失敗なんですよ。本当に抜本的見直しをしないと、国家の危機になります」
と述べ、法科大学院の廃止に言及しました。
説明者(文科省担当)は、
「(入学者数)6,000人規模が、すでに3,600人規模に縮まっているということは、非常に大きな改革だと思います」(下の図参照)
と説明しました。
階衆院議員は、「改革ではなくて、追い込まれただけなんですよ」と語りました。
下のグラフのように、合格率の低迷や入学者の定員割れなどの問題を抱える法科大学院制度について、「定員の適正化を計画的に進めるとともに、制度の在り方を抜本的に見直すことを検討すべきだ」との提言がまとめられました。
この議論を受けて、中川文部科学大臣は記者会見で
「私もそうした問題意識を持っている。法科大学院を含め、大学の在り方をしっかり検証する体制を取っていきたい。今年中に 構想を検討し、来年に議論を始めたい」
と述べ、大学の在り方を議論する場を設け、改善策を検討する考えを示しました。
この問題を語るときに誤解しないでいただきたいのは、下のグラフのように、法科大学院修了者で今年の新司法試験に合格したのは2063人で、合格率23・5%は過去最低で、「修了者の7~8割の合格」を掲げた当初目標に遠く及ばない、ということをもって、ロースクールや卒業生の質が悪くなったのだという判断はしないで頂きたいと言うことです。
現在、ロースクールの合格者数は以下のように毎年約2000人であるのに対して、当初、20校程度と想像されていたロースクールの数が全国で74校になり、卒業生の数が予定よりはるかに多くなったことと、徐々に受験者が溜まって増えてきたことから、合格率が下がっているだけのことなのです。
私の法曹養成制度改革試案
もっと根本的に、ロースクール制度については、以下のような問題が指摘されてます。
1 以前の4倍になる2000人という合格者数が多すぎて、司法試験に合格したけれども、裁判官・検察官・弁護士になれない人が、下のグラフのように1~2割もいる
2 それでも、合格率は2割強であり、しかもロースクール卒業後5年・3回以内の受験で合格しないと司法試験の受験資格を失うという「三振制度」があり、毎年多数の三振者が出て、惨いことになっている
3 ロースクールの学費が高すぎて2~3年の在学中に数百万円もするので、学費の問題では入れない人や入っても多額の借金を負ってしまう人が多数いる。今年から、司法研修所の給与がなくなり貸与となったので、多くの人が司法研修所を出るときの借金がさらに莫大になる
4 以上のような制度の矛盾の結果、法科大学院制度開始直前に、旧制度で司法試験の合格者数が1500人にまで増えたときには、受験者数が4万5000人もいたのに、今年は7000人余りとなってしまい、社会から広く優秀な人材を集めようというロースクールの理念に全く反した結果になっている
と言うことです。
市民のための司法にしていくために必要不可欠な司法修習生の給費制維持
このような現状に鑑みて、弁護士会に所属する弁護士達の中では、階議員と同じく、法科大学院制度を廃止すべきであるという人がどんどん増えて、過半数になっているのではないかという勢いです。
私個人は、開学当初から去年までロースクール教授でしたし、それ以前から現在に至るまで司法試験予備校なのですから、普通の弁護士よりも現在の司法試験受験の実態は知っています。
かつて、司法試験予備校の実態を知らずに予備校教育批判が行われ、法科大学院制度が導入されたのと同じように、今、法科大学院制度の廃止を唱える弁護士達は、ロースクール教育の素晴らしさを知らないと思いますね。
旧制度のように、独学か司法試験予備校を使って勉強しているのでは絶対に得られないさまざまな学びがロースクールにはあります。
名残惜しい関学ロースクール最終授業
関学ロースクール愛
関学ロー少年法クライマックス 野口善國ご講演3 達人への道険し
しかし、法科大学院教育に携わっている、特に実務家教員と言われる弁護士の教授から、ほとんどと言っていいほど、「我々はこんな素晴らしい教育をしているんだ!」という情報発信がありません。
今や、下のグラフのように法曹人口が過多となり、過当競争による弁護士の違法行為や、若い弁護士の就職難などの問題が山積しており、法曹人口を増加させてこの国に「法の支配を貫徹する」と唱えた「司法改革派」は、弁護士会で叩かれまくっています。
しかし、これまで日弁連の執行部を握ってきた彼らは、表だって理念を語り、正々堂々と議論するのではなく、弁護士会内部では政治的な駆け引きに終始してしまっているようです。
いやしくも、自由と正義の司法改革を主張するのであれば、法曹人口減少派に対して、合格者人数拡大派・法科大学院擁護派は、法律家らしく、事実と論理で説得すべきだと思います。
司法制度は国民のためにあるのであって、法科大学院のためにあるのではありません。法科大学院はじめにありきという議論では国民には通用しません。
しかし、ロースクールの教授の皆さんは、もう準備段階を含めると10年近く、過労死になりそうになりながら、良い授業を目指して頑張ってきたのです。
自分たちの作り上げた教育にもっと自信を持って、真正面からアピールしてください。必ず事実と証拠を持って語れるはずです。
「こんな国民にお役に立つ、良い法曹を作れる授業をしているのだから、ロースクールには、国民のための積極的な存在価値があるのだ」と、教え子に恥じないような法科大学院擁護の運動をしてください。
その上で、国民の判断を仰ぎましょう。
事業仕分けと文部科学省の制度見直しに対して、各大学の政治的影響力を利用して、圧力団体と化するようなことだけは、止めて欲しいと思います。
関西学院大学ロースクール 少年法公開講義 井垣元判事
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政府の行政刷新会議は21日、重要政策の見直しの方向性を議論する「提言型政策仕分け」の2日目の作業を行った。教育分野では、法曹人口拡大を目 指して04年に導入された法科大学院が取り上げられ、司法試験合格率が低迷していることなどに対し、仕分け人から「明らかな失敗」などの批判が続出。「抜 本的な見直しを検討すべきだ」と提言した。
法科大学院修了者で今年の新司法試験に合格したのは2063人で、合格率23・5%は過去最低。「修了者の7~8割の合格」を掲げた当初目標に遠く及ばない。文部科学省の担当者は合格実績が低迷している法科大学院への補助金を削減する方針などを説明した。
これに対し、仕分け人で弁護士出身の民主党・階(しな)猛衆院議員は「早くやめるべきだ」と主張。提言では、当面の定員適正化の必要性も指摘した。
地方財政分野では、地方自治体が独自に税目・税率を定められる「課税自主権」の強化を、仕分け人6人全員が提唱。国が自治体に配分している地方交 付税制度の見直しも求めた。情報通信分野では、携帯電話向け周波数の割り当ての透明性、公平性を高めるとともに財源を確保するため、高い金額を提示した企 業を選ぶ「周波数オークション制度」の早期導入を提言した。
3日目の22日は、医療や介護サービス、公共事業を取り上げる。午後には野田佳彦首相が東京・池袋の会場を視察する。【木村健二、中島和哉】
毎日新聞 2011年11月22日 東京朝刊
税金の無駄遣い。
僕も会社を辞めて、ローに行った大馬鹿もので、2回落ちて、2回見送り、来年最後になります。
先生のお勤めだってローの近くにあるローに行きました(笑)
僕の出身ローも刑事系にはとくにスバラシイ実務家教員の方々もいて、研究者教員も弁護士資格を得て、実務を熟知しようと努力する先生たちもいて、ローの内容は国立等とは比べものにならないくらい、スバラシイものでした。
が、残念ながら、やはり試験に受からないと、失業したままのキビシイ現実があります。
今は非正規というキビシイ立場で勉強していますが、おカネと努力を投入したロー生活も結局貧乏になるままでおわっちゃった僕の人生みたいな(笑)
ローのスバラシイ講義や経験を活かすには、やはり、ローの入学者数を絞って、ほぼ9割は受かるようにした方がお互いのためだと思います。
上納金を取られて、なんだか社会的な弱者になっちゃった三振制度の犠牲者たち
「自己決定の自己責任」って片づけられちゃうとは思いますが、なんだかさびしい気もします。
合格者を増加できないのなら、分母を減らすしかありません。
その観点から、この学校制度と法律分野の法学部、その他の領域の大学院制度などを、学際的、統合的に検討する必要性があって、遅りばせながら、社会的ニーズと専門業種の職域について、調査して検証することが、必要です。
日本では、制度改革で、何時もこのような矛盾した改革を矛盾を犯すので、特に教育では長期レベルの見通しを持って、2-3年の本格調査を、予め行うことが大切ですが、何時も疎かにする傾向がある。
要注意!