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香山リカ『貧乏クジ世代』

2006年05月13日 | 読書
貧乏クジ世代―この時代に生まれて損をした!?

PHP研究所

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ここで言う「貧乏クジ世代」とは、いわゆる団塊ジュニアを中心とした70年代生まれのことで、わずかに遅く生まれたために上の世代のようなバブルの恩恵を受けられず、また、わずかに早く生まれたために少子化の進む下の世代のよりも苛烈な世代内での競争を強いられた世代のことである。

1985年に成立した男女雇用機会均等法の一期生にあたる女性についても同じ「貧乏クジ世代」という括りで論じてはいるが、分量的にも少ないので70年代の団塊ジュニア(第二次ベビーブーム世代)がメインだろう。

なかなか示唆に富んだ面白い本なのだが、惜しむらくは客観性に乏しい。これは上掲のリンク先でレビュアーの多くが指摘していることだ。本書の終盤に『「甘え」の構造』が客観的データ性に乏しかったことを指摘しているために、余計そのことが強く意識されるのだろう。

また、団塊ジュニアが主たる対象のはずなのに、70年代生まれと風呂敷を広げ過ぎている点も気になる。いわゆる団塊ジュニア(※)とは71-74年生まれを指すのだが、考察・論考の対象を70年代生まれとしてしまうと、論旨がぼやけてしまう。
※団塊世代の子供が1番多くなるのは、この後であるという点は特に気にする必要はない。

なぜなら、「貧乏クジ世代」を特徴づけるのがバブルの経験(リアルタイムの直接的な経験とは限らない)、より正確には、バブル以前・バブル以後の両方をを知っていることなのに、79年生まれではバブル崩壊時点(91年)でまだ12歳(小6)だし、75年生まれでも16歳(高1)だからだ。個人差はあるにしても、70年代後半生まれがバブル以前・バブル以後を明確に経験しているとは考えづらい。

また、団塊ジュニアであっても、高卒以下は明らかに対象にならない。より正確には都市部の有名大学出身者のみが対象であるはずなのに、そのことを明言していない。「貧乏クジ世代」の着想自体が、いわゆる「勝ち組」に属する人たちを診察した経験に基づいていることは明らかだし、実例として持ち出されるものも大手企業や中央省庁に属する人たちがほとんどなので、ちゃんと読めば、この点は明らかなのだが、意識的にか無意識的にか、あまり深くは言及されていない。

以上をまとめると、この本の考察・論考の対象は71-74年生まれの団塊ジュニアで都市部の有名大学出身者であるが、必ずしも客観的データに基づいたものではない。

じゃぁ、読む価値がないかというと、必ずしもそうとは言い切れない。少なくとも、主たる対象である71-74年生まれの団塊ジュニアで都市部の有名大学出身者のうち、不遇感を拭えない人は読むべきだろうし、論考・考察の対象がかなり限定されていることを承知していれば、書名に騙されたとは思うまい。

以下余談。

世代論というのはなかなか難しくて、論じられることの多い団塊の世代にしても、単純にその時代に生まれたという括りで論じてしまうとおかしなことになる。少なくとも、全共闘世代、すなわち、大学へ進学した者と、それ以外は区別しなければならない。

同じ世代の中でも様々な階層が存在することを意識しないと、いわゆる2007年問題で団塊の世代のうちホワイトカラーに属する人たちの定年まで問題であるかのような誤った議論がまかり通ることになる。2007年問題で問題になるのは基本的に熟練工の技術の継承であって、ホワイトカラーは対象にならない。また、継承が危惧される熟練工の技術は、それほどには多くないと思われる。したがって、2007年問題は存在しないというのが私の認識。ただし、「2007年問題」問題は存在する。