朝一番の広島行きフェリー。
とりあえず、席を確保して、慌ててデッキに戻り、桟橋を探す。
しかし、そこにはキミの姿は無い。
当たり前か、今日は月曜日。
キミも仕事に行く時間だ。
慌しい旅。
押し付けられた仕事にケリを付け、上司に「休暇」を宣言。
その脚で乗り込んだ最終の飛行機。
「いま、着いたよ」
突然の電話で空港によびだされ、迎えたキミの驚いた顔が忘れられない。
それから二人で過ごした週末は早かった。
ただし、無謀な旅は、ツケもでかい。
打ち合わせの多い、週初め。
「あちら」へ戻る飛行機は満席。
何とか押さえられたのが、月曜の朝一番のフェリーで海を渡り、広島からの新幹線。
おかげで一泊伸びたけど、とても慌しい旅立ちとなる。
やれやれ、どうして「寂しさ」を素直に伝えられないのだろう。
朝、車で送ってくれるキミの運転に何かと難癖をつける俺。
もっともキミにとっては、慣れたモノ。
素直でない俺の気持ちは見透かされている様だ。
到着したフェリーのターミナルで、少し素直になった俺は、キミに伝える。
「今日は、送ってくれてありがとう。」
そして耳打ち。
「ゆうべの君、凄くて素敵だった。」
そこでもまた、悪い癖。
「俺、思い出しちゃって、今日は仕事が手に着かないかも。
・・・本当に、はた迷惑だよ。」
真っ赤になったキミを残し、俺はフェリーに飛び乗った。
なんだかなぁ。俺。
偉そうにしていても、まるで子供。
何だか意地悪をして、キミを困らせているだけの様だ。
やっぱり、ちょっと謝りを入れるかな?
でも、慌てても仕方無い。
既にフェリーは瀬戸内の海の上。携帯はとうに圏外。
ゆっくりと席に戻り、大きな鞄を開く。
頑丈なだけでなく、細やかなつくりのこの鞄。
古典的なフォルムなのに、PCを固定する場所もちゃんとある。
そう、キミの急ブレーキなんかで壊れたりしないよ。
音を立てたのは、小さなデジカメとマウス。
ふと、赤い物が目に留まる。
これは・・・ツツジ?
朝早く、あわてて飛び出した宿の生垣に、見事に咲いていたのがこのツツジ。
「持って帰るか?」と俺が聞くと、
「叱られるよ!」と答えたキミ。
そう、答えたキミなのに、これを鞄に忍ばせたのか。
思わず、俺はにやりと笑う。
意外なプレゼントに嬉しかった所為もある。
だけどそれだけではない。
毎朝キミが車から降りる時の癖。
車のサンバイザーに付いている小さな鏡で、身嗜みをチェックする癖。
全然、変わっていないよね。
だから、そのサンバイザーのその裏に、俺もそっと忍ばせたんだ。
俺も手折ったんだよ。あのツツジ。
丁度今頃会社について、ちゃんと気づいてくれたかな?
そう。
季節はもう、「さくら」から「ツツジ」に変わる頃。
俺たちにも、また、変化があるかな。
【TB】『鞄の人』 朝のフェリー埠頭 ♪お玉つれづれ日記♪
とても気に入っています。
創作のやり取りで偶然生まれたわけですが。
どんな趣味で、どんな性格で、
どんな仕事をしている人なんだろうとあれこれ考えて
肉付けしてゆくのが楽しいんです。
でも、ぷよぱぱさんの描く『鞄の人』は
子供っぽくて、なんだか憎めませんね。(笑)
今回は某所でかっこいい鞄の映像をみつけたので
その『鞄の人』をモデルに、お話を創ってみました。
私にしてはリアルな感じの描写で、照れますが
気に入っています。
ツツジのエピソードには感心しました。
色鮮やかな映像が余韻として読後に残りました。
オアシスの水を浴びて、慌ててこさえた話です。
確かに、お玉さんの書いた「鞄の男」に比べると、子供っぽいですね。
作品のキャラって、どうしても、作者に似てしまうのかもしれません。
ツツジの話は、丁度撮ったばかりの写真があって、それを見ていて思いつきました。
お玉さんちの二人も、大人に見えても、ちょっと悪戯っぽいところがあるような、そんな感じがしたのです。
それって、やっぱりお玉さんに似ている?!