不条理み○きー

当面、きまぐれ一言法師です

「移る季節」

2005年04月24日 20時52分00秒 | Story


 朝一番の広島行きフェリー。
 とりあえず、席を確保して、慌ててデッキに戻り、桟橋を探す。
 しかし、そこにはキミの姿は無い。
 当たり前か、今日は月曜日。
 キミも仕事に行く時間だ。

 慌しい旅。
 押し付けられた仕事にケリを付け、上司に「休暇」を宣言。
 その脚で乗り込んだ最終の飛行機。
「いま、着いたよ」
 突然の電話で空港によびだされ、迎えたキミの驚いた顔が忘れられない。
 それから二人で過ごした週末は早かった。

 ただし、無謀な旅は、ツケもでかい。

 打ち合わせの多い、週初め。
「あちら」へ戻る飛行機は満席。
 何とか押さえられたのが、月曜の朝一番のフェリーで海を渡り、広島からの新幹線。
 おかげで一泊伸びたけど、とても慌しい旅立ちとなる。

 やれやれ、どうして「寂しさ」を素直に伝えられないのだろう。
 朝、車で送ってくれるキミの運転に何かと難癖をつける俺。
 もっともキミにとっては、慣れたモノ。
 素直でない俺の気持ちは見透かされている様だ。

 到着したフェリーのターミナルで、少し素直になった俺は、キミに伝える。

 「今日は、送ってくれてありがとう。」

そして耳打ち。

「ゆうべの君、凄くて素敵だった。」

 そこでもまた、悪い癖。
「俺、思い出しちゃって、今日は仕事が手に着かないかも。
 ・・・本当に、はた迷惑だよ。」

 真っ赤になったキミを残し、俺はフェリーに飛び乗った。

 なんだかなぁ。俺。
 偉そうにしていても、まるで子供。
 何だか意地悪をして、キミを困らせているだけの様だ。
 やっぱり、ちょっと謝りを入れるかな?

 でも、慌てても仕方無い。
 既にフェリーは瀬戸内の海の上。携帯はとうに圏外。
 ゆっくりと席に戻り、大きな鞄を開く。

 頑丈なだけでなく、細やかなつくりのこの鞄。
 古典的なフォルムなのに、PCを固定する場所もちゃんとある。
 そう、キミの急ブレーキなんかで壊れたりしないよ。
 音を立てたのは、小さなデジカメとマウス。

 ふと、赤い物が目に留まる。
 これは・・・ツツジ?
 朝早く、あわてて飛び出した宿の生垣に、見事に咲いていたのがこのツツジ。
「持って帰るか?」と俺が聞くと、
「叱られるよ!」と答えたキミ。

 そう、答えたキミなのに、これを鞄に忍ばせたのか。

 思わず、俺はにやりと笑う。
 意外なプレゼントに嬉しかった所為もある。
 だけどそれだけではない。

 毎朝キミが車から降りる時の癖。
 車のサンバイザーに付いている小さな鏡で、身嗜みをチェックする癖。
 全然、変わっていないよね。

 だから、そのサンバイザーのその裏に、俺もそっと忍ばせたんだ。
 俺も手折ったんだよ。あのツツジ。
  
 丁度今頃会社について、ちゃんと気づいてくれたかな?

 そう。
 季節はもう、「さくら」から「ツツジ」に変わる頃。
 俺たちにも、また、変化があるかな。

 【TB】『鞄の人』 朝のフェリー埠頭  ♪お玉つれづれ日記♪

最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
『鞄の人』のキャラクター (お玉)
2005-04-25 19:53:43
ハートマンの鞄を愛用している『鞄の人』のキャラクターが

とても気に入っています。

創作のやり取りで偶然生まれたわけですが。



どんな趣味で、どんな性格で、

どんな仕事をしている人なんだろうとあれこれ考えて

肉付けしてゆくのが楽しいんです。



でも、ぷよぱぱさんの描く『鞄の人』は

子供っぽくて、なんだか憎めませんね。(笑)





今回は某所でかっこいい鞄の映像をみつけたので

その『鞄の人』をモデルに、お話を創ってみました。

私にしてはリアルな感じの描写で、照れますが

気に入っています。



ツツジのエピソードには感心しました。

色鮮やかな映像が余韻として読後に残りました。







返信する
子供っぽい男 (ぷよぱぱ)
2005-04-26 01:07:03
★お玉さん

 オアシスの水を浴びて、慌ててこさえた話です。

 確かに、お玉さんの書いた「鞄の男」に比べると、子供っぽいですね。

 作品のキャラって、どうしても、作者に似てしまうのかもしれません。



 ツツジの話は、丁度撮ったばかりの写真があって、それを見ていて思いつきました。

 お玉さんちの二人も、大人に見えても、ちょっと悪戯っぽいところがあるような、そんな感じがしたのです。



 それって、やっぱりお玉さんに似ている?!
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。