Doll of Deserting

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人形即興曲:Ⅱ(乱菊+イヅル?)

2005-07-19 17:14:59 | 過去作品連載(パラレル)
Ⅱ:深窓の人形
 乱菊は、元々の柔軟性もあり暫くするとすぐに屋敷での生活に慣れていった。少し前に背筋が凍るほどの不安を感じていたことなど、遠い昔のように感じられる。しかし未だに顔を合わせたことのある住人は吉良イヅルと市丸ギンの二人だけだ。そこに疑問を抱かないわけはないが、余計な詮索が後々自分の身にどんな恐ろしいことをもたらすか知れないと思うと、そこまで立ち入ってはいけなかった。それは乱菊が臆病というよりも、この屋敷自体がどこか人に不信感を持たせるような雰囲気を携えていたのだ。
 ある時、まだ見ていないところを把握しようと屋敷内をうろついていたところ、奥に朱格子に囲われた部屋があるのを見つけた。まるでどこぞの遊郭のようだと訝しんでいると、イヅルが僅かに焦るようにして乱菊を止めに来たのを覚えている。
「駄目ですよ、松本さん。ここに入ってはいけません。」
「あら、どうして?」
 屋敷内ではどこでも自由に見て回っていいと言われていた。だからこそ乱菊はここへ来たのだ。そうでなければ誰がいるのか分からない屋敷内を、了解もなしに歩き回るのは気が惹ける。しかしこのイヅルの慌てようは何なのだろう、とまた不信感が募った。
「申し訳ありません、あなたにこちらの説明をするのを忘れておりました。ここには入ってはいけませんよ、松本さん。ここは主人専用なんです。」
「…吉良、ここには何があるっていうの?」
 イヅルは、金色の長い睫毛に縁取られた目を軽く伏せ、ためらうかのように控えめに答えた。その様子はまるで、口に出すのも恐るべき罪だとでも言うようだった。
「主人に飼われたお姫様が住んでいるんですよ。殺したくなるほどに無垢で、可愛らしいお姫様がね。」
 乱菊はゆっくりと息を呑んだ。人を買う、ということは別段この時代に珍しいことではない。違法ではあるが、裏の世界でならば幾らでも金銭での取引は可能だ。
「それは明らかに違法じゃない。…あんたは、その子を見たことがあるの?」
「ええ。出来上がった時に主人が見せて下さいますから。松本さん…一つ、良いことを教えて差し上げましょう。彼女を飼うことは、何ら違法ではないんですよ。」
「…何ですって?」
「全て合法的なものです。あなたはここに来た時、何か感じませんでしたか?」
「思ったわよ。あんた達皆、人形みたいに綺麗なのねって。」
「…そう、全てが人形かもしれない。いえ、私はもう答えを知っているんです。人形なんです。私も、市丸さんも、そして…あなたもね。」
 ひどく、馬鹿みたいに思えて笑った。確かに乱菊は、幼い頃から美貌を賞賛されることがよくあった。豊かで美しい肉体に、髪に顔。その全てが周囲の女の憧れだった。しかし自分を造りもののように美しいと思ったことはない。
「馬鹿じゃないの?あたしはあんた達とは全然違うじゃない。」
「そうですね。あなたは私や市丸さんのように肌の色も病的に白くはない。病的に痩せても
いない。髪の色もうんと濃い。でもそれが成功作の姿なんですよ。あなたは成功作だから…。いえ、これ以上はやめておきましょう。まだ言うべきことではありませんから。」
 乱菊が何かを言い出す前に、イヅルはふわりと去っていった。後にはただ、呆然とした乱菊だけが残された。


 ええと乱菊さんの素性はまた今度。成功作がどうなるかというところは伏せておきます。いやバレすぎですけども。(泣)ていうかイヅルと乱菊さんの絡み多すぎです。一応深窓の姫君(笑)はええっと…とりあえず今一番何も明かせない場面なのでそうだなあ…兄様とでも言っておきます。(マテ)


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