Doll of Deserting

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人形即興曲:Ⅳ(乱菊+日番谷)

2005-07-30 10:36:32 | 過去作品連載(パラレル)
Ⅳ:鋭利な光
 乱菊は結局くずおれたまま声を出すことが出来なかったが、それすらも構わず少年は近付いてきた。乱菊が少年の顔を見る間もなく、少年は声を吐き出した。
「松本 乱菊だな。話は聞いてる。」
 少年は、外見に似合わない不遜さをもっていた。身の丈は乱菊の四分の三ほどしかないのにも関わらず、話す言葉は目線が高い。しかしそれに違和感を持たせないところは、感心すべきことなのだろうか、と思案した。少年はまるで大人のようだ。子供という印象を少しも与えない。それもこの屋敷ならではのことなのだろうか。
「言っておくが成長しねえからこの身体なだけで、歳はお前と幾つも変わんねえぞ。」
「…成長しないって、じゃあ、あなたも…?」
「ああ、まあ成長出来る奴もいるし頼めばでかくなれるんだろうが…今はこれで構わん。」
 眉間に皴を寄せてはいるが、秀麗な造りは寸分も損なわれない。翡翠色の瞳は全てを見透かすように澄んでいる。乱菊は、必死に声を絞り出しながら、この前イヅルの言った「成功作」という言葉を思い出していた。「成功」「失敗」という区別があるのなら、彼はどちらなのだろう、と。
「松本、お前、まだ自分のこと何も分かっちゃいねえんだろ?」
 乱菊は、おもむろに頷いた。自分が人形だとは言われたが、それすらもまだ信用出来ない。ただ、ここに住む人々が人形だということは何となく納得出来た。あまりにも人間離れした美しさをたたえているだけではなく、この少年の外見と精神の違いなどを見ていると、不思議と信じさせられるのだ。
「まあでも、俺の口から言えることでもねえしな。」
 乱菊は、その言葉を残念に思う。今出会ったばかりなのに、なぜか彼の言うことが一番信用出来るような気持ちになっていたのだ。誰よりも、説得力を持っていると。
「何か、教えて下さることがあれば、教えて下さいませんか?」
 自分より幾つも年下に見える少年に、敬語を使うのは初めてだった。しかし何となく彼の方が年上かのような錯覚を覚えてしまうのだ。
「ああ…まだ名乗ってなかったな。俺は日番谷 冬獅朗だ。あと、これだけは言っとくぜ。」
[神なんて血生臭いもんを信じてんなら、ここから出て行け。]
 乱菊は、なぜかぞっとした。それを言う彼の視線に射抜かれるような強さを感じただけではない。改めて、この屋敷の恐ろしさを思い知ったのだ。おそらく、ここでの「神」は主のことなのだろう。しかしそれを信じることは、あまりに残酷なことのように思えた。
「神なんて形のないもんに祈るより、さっさと自分の身の振り方を考えた方が得策だ。どうするかはお前の勝手だけどな。」
 彼の足音が、ゆっくりと遠ざかる。その一見頼りなく見える背中に、一筋の光を感じて、乱菊はゆっくりと目を閉じる。その光は、何もかもを許すような温かみを持っており、それでいて何もかもを射抜くような鋭さをたたえていた。


 日乱出会い編、やっと更新です。長らくお休み致しましてすみませんでした。まだ日乱という感じではありませんが、何となく出会ったそばから思いの通い合っているような雰囲気をかもし出したかったのです。(笑)次は「姫」との出会い編かもしれません。

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