「第44回東急東横店 将棋まつり」(8月2日)

          

 渋谷の東急東横店西館8階催会場で開催された将棋まつりに行ってきました。こちらに来て一度千駄ヶ谷の将棋会館かどこかで棋士をこの目で見てみたいなと思っていたところ、このイベントが開催されることを知りました。

 8月2日~4日の3日間、それぞれ趣向が凝らされていて男女の人気棋手が適度にバラされて出演しています。迷いましたが初日の8月2日、羽生名人と佐藤九段の特選対局を主目的に出向きました。とはいえ、羽生対佐藤戦ばかりを観るつもりはなかったので会場内をフラフラしていました。対局はあまり内容を追った訳ではないのですが、羽生名人が早石田から僅差リードを作りそれを押し切って勝利しました。





          

 対局後の感想戦です。佐藤九段が「私は石田流破りという本を出しているのですが、昨日は久保さんに負けて、今日も負けて本が売れなくなりそうです」と自虐ギャグを飛ばしてウケていました。佐藤九段は最近不調が続いていますが、何とか復調してタイトル戦にまた登場してもらいたいです。応援しています。





          

 会場は、特選対局場、一般ファンが対戦をしているスペース、指導対局場、売り場で構成されていました。結構な賑わいです。この催しがデパートの売り上げ増に繋がっていないのでしょうか、是非、買い物も楽しんでいってくださいと宣伝されていました。例年と比較して多いのか少ないのか分かりませんがイベントを通じて将棋界が盛り上がればいいなと思います。


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「御蔵島産本黄楊 月山作 錦旗 柾目 彫埋」

          

 将棋の名人戦は羽生名人の4連勝で終わりました。横歩取り8五飛シリーズでしたが三浦八段は相性が悪かったようです。最近のタイトル戦では3連敗後の4連勝も結構あるからか、最後は容赦なしでした。
 羽生名人の相変わらずの強さも光りましたが、久保2冠や若手(豊島5段はもちろんですが、NHK杯で見た澤田4段や大石4段も鮮烈です)の台頭も激しく、これから3~4年は混戦だと思います。

 以前からいいモノが欲しいなあと思っていた将棋駒ですがようやくこれはと想像できるモノに巡り合えました。名古屋にある三輪碁盤店のHPで見つけた駒です。山形県天童市の「月山」という製作者の買値11万円(定価15万円)の駒です。

 プロのタイトル戦で使用する駒は、文字を盛り上げていてもっと高級ですが(30~50万円?)、材質としてはプロ並ということで思い切りました。

 手にすると陶器のような滑らかさがあり盤に打ち付けるとカチッといい音がします。軽く虎縞模様があるのもいい感じです。さすが値段だけあります。気に入りました。後は、腕だけです。


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「第3期マイナビ女子オープン 第2局」(倉敷市芸文館)

          

 女流棋士タイトルの一つで優勝賞金では最高額(500万円/因みに男性は竜王戦の3900万円)の「マイナビ女子オープン」5番勝負の第2局が倉敷市の芸文館で開催され、午後からホールで一般公開されるというので出向きました。
 矢内女王対挑戦者甲斐女流二段。甲斐女流二段先勝を受けての第二局です。芸文館では毎年11月に倉敷藤花も公開対局されるのですが、今回は別室で山崎七段と里見女流二冠による大盤解説があるということで一度本物、現場を見てみたくなりました。山崎七段はトークがユニークで現在最も人気のある解説者、里見女流二冠も地元中国地方出の新鋭、今回の見学者の多くは私と同じ目的で来たんだろうと想像します。

 対局は朝9時30分からで午後1時30分からホールに移動しての公開対局になります。
入場無料なのですが入口で賞品付きの勝利者当てクイズを記入、投票することになっていました。矢内女王は30歳近いですが現在の将棋界のアイドル的存在、性格もよく私も応援していますが、先日放映されたNHK杯への女流出場2棋士決定戦での2連敗の内容が良くなくて、甲斐女流二段の棋風は知らなかったのですが、甲斐女流二段に投票しました。
 関係者が列席しての開会式が終わったあと、両者が即席畳会場に座り、照明が落とされます。先手矢内女王の居飛車に対して、後手甲斐女流二段はゴキゲン中飛車です。午前中の棋譜が並べられた後、午後の部の始まりです。写真はフラッシュを焚かなければOKということだったので何枚か撮影しました。

 ゆっくり進むのかなあと思っていたところ、いきなり矢内女王の5三角打(捨て)、同金、同歩ナリがあり、緊迫しました。先手は駒損ですがと金を2枚作り玉に迫る、後手は4九角打ち、3九角打ちと斜めから玉に迫る。想定外の一気の終盤です。



          

 途中でホールからアイシアターという別棟で行われている山崎七段と里見女流二冠の大盤解説会場に移動しました。広いホールにバラバラと40~50名いるのに対して、狭いアイシアターには150名近いファンがいて熱気ムンムンです。やはり皆さん、この二人目当てです。山崎七段はいつもどおりの惚けた雰囲気でかつ的確な解説、笑いを適宜絡ませて盛り上げていました。5三角は驚きましたね・どうでしょうか、5三歩・同金・4二角、てっきり6六角だと思っていましたみたいな解説があり・・・楽しかったです。現況までの解説が進んだところでホールへ戻りました。

 今回の見学は雰囲気を味わうくらいのつもりだったのですが、乱戦で両者の狙いが比較的分かりやすかったこともあり、棋士と一緒になって次手を考えながら見学しました。静かな会場で時間があると頭の中でいろいろと考えたり、両者の手に賛同したり首を傾げたり、結構感情移入して観戦できました。大盤解説を観るつもりがほとんどの時間を静かなホールで一緒に考えていました。
 公開対局ならではのこととして・・・棋士が飴の包みを開ける音までマイクが拾います。老年ファン二人組が互いに解説している声が結構聞こえます。途中爆睡したおじいさんのイビキが断続的に響き渡ります(長くは続かなかったので誰も注意せずに済みましたが)。残り時間が10分近く、緊迫した局面で矢内女王が一手指し、次手までの間に所用のため退席しますが、甲斐女流二段がノータイムで指したので、矢内女王の時間消化となりました、あまり時間はないけど大丈夫だろうか、このまま帰ってこなくて時間切れなんてことは・・・いろいろとあって結構面白かったです。午後1時30分から午後5時近くまであっという間で楽しめました。

 結局、2枚角の甲斐女流二段が押し切りました。最近の矢内女王は若干前のめり気味で最後は息切れしてしまいます。持ち時間3時間のところ両者残り時間10分を切り、時間切れで秒読みの中での早差しを期待していたのですが、秒読みまでいかずに終了したことは少し残念でした。
 最後は負け確定後も公開対局でのお約束なのか、完全に玉が詰みとなるまで10手近く指してから終局となりました(敗戦者の矢内女王は感想戦も含めて大人の対応をしていました)。

 終局後の感想戦は聞かずに退出しようとしたところ、入口脇に棋士のものらしき色紙が10枚近く並べられていて、もしかしてもしかすると当たるかもしれないと思い引き返しました。感想戦、閉会式後にクイズの抽選会です。賞品は棋士の色紙12枚、本8冊にソフトなど2つで22名に当たりますとのこと。
 甲斐女流二段勝利に投票したのは三十数名、矢内女王に投票したのは八十数名、色紙と本は甲斐女流二段に投票した方の中から抽選しますとのアナウンス、これは高確率、期待大です。頼む、当たれ!山崎七段と里見女流二冠が箱から投票券を取り出していきますが・・・残念ながら色紙はスルー。あぁダメかと思っていたところ、「矢内理絵子の振り飛車破り」5名様に当たりました。とりあえず良かった。三十数分の二十だと当たらないほうがショックです。



          

 サインはありませんでした(残念)。本局は振り飛車破りとならなかったのは皮肉ですが、じっくり読んで勉強しようと思います。



          

 その他、将棋関連では4月8日から2日間、名人戦第一局がありました。大接戦、それでも渡辺竜王はじめ錚々たる解説陣が挑戦者の三浦八段優勢と判断していたのに数手で逆転するとは・・・羽生名人は凄い、バケモノです。
 今回分かったのですが、名人戦の佳境、一番面白いところは1日目、2日目午後と放映したあと、2日目の18時以降です。ここを生放送してもらえないのでしょうか。4時間帯に亘る生放送+終局総集編の放送はうれしいのですが、どうせなら一番いいところの生放送もお願いしたいです。

 そして4月9日(金)に待ちに待った「3月のライオン 第4巻」が発売されました。しみじみと堪能できました。3巻までは登場人物や状況の紹介が中心でしたが、第4巻から本格的に将棋のストーリーが始まりました。「あとがき漫画」に将棋連盟での取材の様子が紹介されていますが、将棋の対局、人物描写がリアルで真実味・迫力があります。羽海野チカは(女性作家なのでどちらかというと)人物間・家族間のやり取り、触れ合いのシーンでは若干甘ったるい面もあるのですが、主軸となる将棋関連が本格化してバランスよくなってきました。この漫画は面白くて期待大です。


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「愛蔵版 第67期 将棋名人戦七番勝負」(毎日新聞社)

          

 昨年の将棋の名人戦はNHKBSで7局とも全て見ました。その後、雑誌の「将棋世界」でも棋譜と解説を数号に亘って読みました。

 それでもですがこのような単行本が私のような素人には必要です。一局を14譜に分割して解説してもらうと本当によく分かります。毎日新聞社伝統の(好手◎ 悪手× 疑問? 作戦▽ !勝負手)の表記は勝負のポイントが明確で理解を助けてくれます。
 この解説を読んで初めてあの7戦で起こったことがよく分かりました。途中で差が開き始めたことは大盤解説や控室の評価の紹介でテレビでも分かるのですが、どの一手が勝負の分かれ目だったのか、それがどういう意味を持つ一手だったのかはこの本を読んで初めて納得できました。実力伯仲しているように見えたのに実は力の差があることも明確です。
 特にテレビでは冷静に見えた郷田九段の気持ちの揺れ動き、侍のように泰然としている強さと一方での想定と異なる展開・駒位置での脆さが臨場感溢れるタッチで再現されていて改めてドキドキしました。これは楽しかったです。


 さて今年の名人戦が4月8日から始まります。羽生名人対三浦八段です。三浦八段については正直あまり知りません。居飛車党で重厚な棋風と読みました。首を捻って盤面を睨んで考え込んでいる仕草の印象が強いです。羽生名人は先週のNHK杯決勝も勝って健在です。振り飛車の久保棋王に王将戦は負けましたがオーソドックスな棋風の居飛車党にはまだまだ強いのではないでしょうか。入れ替わりがあるほうが面白いので三浦八段応援ですが、羽生名人の4勝2敗での防衛予想です。


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「将棋界の一番長い日」(NHKBS2)

 郷田 真隆 九段 VS 三浦 弘行 八段
 佐藤 康光 九段 VS 丸山 忠久 九段
 森内 俊之 九段 VS 藤井  猛 九段
 木村 一基 八段 VS 井上 慶太 八段
 谷川 浩司 九段 VS 高橋 道雄 九段

解説:先崎 学八段/阿久津 主税七段
コンピュータ解説:勝又 清和六段/聞き手:上田 初美女流二段/司会:長野 亮アナウンサー

衛星第2テレビ
3月2日9:45~11:53/15:00~18:00/23:05~26:00


 「将棋界の一番長い日~第68期A級順位戦最終局~」がNHKBS2で生中継されました。ライブでは観られないので録画しての観賞です。
 三浦八段が6勝2敗でリード、5勝3敗の谷川九段、丸山忠久九段、高橋九段がプレーオフに望みをつないでいます。どちらかといえば谷川九段応援ですが、三浦八段も面白そうだし比較的立場中立です。降級者については藤井九段も好きですが、今回は井上八段応援です。さて、どうなるでしょうか。

●郷田 真隆 九段 VS 三浦 弘行 八段〇
〇佐藤 康光 九段 VS 丸山 忠久 九段●
〇森内 俊之 九段 VS 藤井  猛 九段●
〇木村 一基 八段 VS 井上 慶太 八段●
●谷川 浩司 九段 VS 高橋 道雄 九段〇

 深夜の部から生放送で観ました。25:07まで、三浦八段が挑戦権を獲得しました。執念の粘り勝ちです。井上八段は残念ながら降級、こちらは両者入玉確実で明らかに点数の足りない中で150手まで踏ん張りました。無念の後半5連敗。いずれの局も文字通り長い1日になりました。
 今期のA級は全般的に力が拮抗していて誰かが勢いで抜けるということもなく微妙な接戦でした。先の見えない目の前の戦いの積み重ね、プロ棋士の世界、戦いは厳しいです。僅かなチャンスをどう掴むか。今日の最終局も力戦5局でした。


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「倉敷市大山名人記念館」


 先日、倉敷駅周辺を散策した際、倉敷市芸文館の一角にある「倉敷市大山名人記念館」に入ってみました。倉敷市出身の将棋の大山康晴十五世名人の記念館です。岡山にいる間に一度は行っておこうと思っていました。

 館内は大山名人の記念品が飾られている他、将棋図書館、将棋交流場となっていて、その日も先生らしき人と生徒さん3名が将棋を指していました。

 ざっと見学して出ようとしたところ、販売コーナーで良さそうな将棋盤を見付けました。OO製作の桂材、高さ6cmの将棋盤9500円です。実物を出して触らせてもらい、気に入ったので購入しました。

 これまで駒は以前泊まった山形県天童市で本場モノ(山上作)を購入して使ってきたのですが、将棋盤は折式のモノで我慢してきました。いつか一枚モノをと思っていたのですが脚が4本付いた本格盤は何となくイメージに合いませんでした。大山記念館で見付けたものは琴線に触れるものでこれだと思いました。

 家に持ち帰って実際に駒を並べてみたのですが、駒音がカチンと高く響くのではなく、響きが木の中に吸収されるような何ともいい音がします。気に入りました。後は腕だけです。

 ところで、結婚直後に妻と参加した東北4大祭りツアーで泊まった天童市ですがとてもよい印象を持っています。そのツアーには天童観光は含まれていなかったのですが、空き時間を利用して登った芭蕉の「閑さや岩にしみ入蝉の声」で有名な山寺、板そばが旨かった「水車生そば」、気に入った将棋駒などなど半日(1泊)滞在くらいでしたがよい思い出だらけです。関東以北に住むことがあれば是非再訪したい街です。


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「将棋世界」


 最近の趣味といえば将棋です。4年前に子供が生まれてからは子供中心の生活になり、趣味だった音楽を聴くのも本を読むのもどうも集中できない生活(それでも幸せな毎日です)が続いていましたが、久しぶりに趣味といえるものを持つことになりました。

 その中でも楽しみなのが名人戦のテレビ観戦です。羽生名人と挑戦者郷田九段の対戦がBS2で生中継されていて、それを録画して帰宅後に観ていました。名人戦は持ち時間が9時間と最長の設定がされているので決着まで2日ががり、生中継も断続的に1~2時間が4回と2日目の深夜に終局の様子がダイジェストで放映されます。それをビールを飲みながら観るのが楽しみ。といっても長考の連続で1時間見ていても一手も指さないなんてこともあります。それでも解説陣による愉快な解説が続き厭きさせません。
 今年は最終局の第7戦まで全て観ることができました。羽生名人も郷田九段もどちらも好きなのですが、気持ち挑戦者の郷田九段応援で観戦、ハラハラしましたが最後はここぞの大勝負に強い羽生名人が押し切りました。

 また、名人戦とは逆にテレビ用に持ち時間がほとんどないNHK杯も楽しみです。毎週日曜日に1局ずつ放送されていますがもう直1回戦が終わり、2回戦からは強豪も登場して厳しい対戦が予想されます。1回戦の終盤に登場する番組司会も務める矢内女流名人が勝ち上がると盛り上がるんですがどうなるでしょうか。

 テレビ観戦だけでなく、普段は入門書を読んだりしていますが、難しすぎたり簡単すぎたりと丁度よいのがあまりなく、なかなか上達しません。「バリュー将棋4」という無料ソフトをダウンロードして、コンピューター(?)相手に対戦するのですが、初級には勝てるようになったものの中級に設定するととたんに勝てません。序盤の定跡はなんとか真似できるのですが、いかんせんその後の中盤が全くダメです。特に駒を交換するとぐさっと急所に打たれるので駒交換だけは避けるという対処法なんかを覚えています。それでも焦らずゆっくり勉強していくつもりです。この無料ソフトには形勢グラフというものも付いていて(普段は表示しないで対戦していますが)、ちょっとしたミス手ですぐにコンピューター有利になり、その差を逆転するのは難しいです。一手も無駄にできないところは本当にリアルです。

 入門書以外にも日本将棋連盟が出版している「将棋世界」という月刊誌を毎月楽しく眺めています。戦術面の記事は正直私には難しいというか、もっと先に読むべき本があるのでじっくり精読はしないのですが、タイトル戦の情報からイベントまで様々な情報満載で軽く眺めるだけでも面白いです。月刊誌を購入するなんて一時期走っていた頃の「ランナーズ」以来かもしれません。

 どのくらい時間がかかるのか分かりませんが、半人前くらいに習熟し、いつか人間を相手に将棋をプレイできたらいいなと考えています。


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大崎善生著「聖の青春」


 「聖の青春」は29歳で夭逝した村山聖(むらやまさとし)八段の将棋人生を描いたノンフィクションです。

 将棋のルールは知っていて遊びで指すことはできますがド素人、小学生か中学生の時に誰かと対戦して以来、少なくともこの25年はやっていないと思います。ただ、昔から新聞に毎日掲載される観戦記はちょっとした読み物として独特の面白さがあり好きで、特に大一番での緊迫したやり取りは素人が断片を読んでも大いに楽しめるものでした。
 それがキッカケは何だったか思い出せないのですが、もう少し詳しく将棋のことを知りたくなりました。観戦記ファンとして、振り飛車、棒銀といった戦術や美濃囲い、穴熊などの囲い方の名称、配置の特徴くらいは知っていてもそれぞれの効果、具体的な展開方法などは??どうせならもう少し詳しく承知していたい・・・その勉強中の将棋教本探しの中で「聖の青春」に出会いました。

 村山聖は広島県に生まれた普通の少年でしたが、5歳の時に難病の腎ネフローゼを発症しました。腎臓の機能が低下した結果、顔や手足がむくみ、高熱が出るので絶対安静にしてとにかくじっと寝て回復を待つ。この体調不良を繰り返す人生を送ることになります。入院生活の暇つぶしの中で知ったのが将棋。将棋への異常な関心が高じて大量の関連本を病床で読み漁るようになるのですが、実際に対戦を始める頃には既にかなりの実力を蓄積していました。

 そして地元の同年代では無敵となった村山聖は将棋プロへの登竜門である大阪の奨励会に入り、プロ(4段以上)をめざし、最終目標である名人への道を駆け上り始める・・・。

 このノンフィクションをとてつもなく面白くしているのは、病気に打ち克って将棋に取り組む村山聖の真摯さを主軸とするとサブシーンとして散りばめられている師匠である森信雄4段(現7段)との交流です。この森4段は若い頃にインドなどを放浪した変わり者で、雀荘通いを日課とするようなだらしない生活を送っているのですが、それが将棋さえできれば他のことはどうでもよい村山聖と妙に相性がよくて、風呂、掃除はたまで部屋は散らかし放題、食事は決まって駅ガード下の食堂という戦後の混乱期でも思わせるような生活を送ります。勝った者だけが残って奨励会で将棋を続けられるといういわば殺し合いのような緊迫感と時代が何十年か違うんではないかと思わせるほのぼのとした日常生活とのギャップが何とも可笑しくてこの2人の二人三脚での戦い、生活に楽しみつつ喝采を送るようになります。
 一方で病気は思わしくなく入退院の繰り返し、日々の生活の中でも大事な一戦を前にして高熱発症、体が動かなくなるということも頻発し、村山聖は順調にクラスを勝ち上がる中で自分には時間がないという意識を強くしていきます。

 著者の大崎善生が遭遇した2人の関係を物語る次のようなやりとりが紹介されています。
<われわれと青年は公園のほぼ中央で出会った。森が飛ぶように、青年に近づいていった。「飯、ちゃんと食うとるか?風呂入らなあかんで。爪と髪切りや、歯も時々磨き」機関銃のような師匠の命令が飛んだ。髪も髭も伸び放題、風呂は入らん、歯も滅多に磨かない師匠は「手出し」と次の命令を下す。青年はおずおずと森に向けて手を差し伸べた。その手を森はやさしくさすりはじめた。そして「まあまあやなあ」と言った。すると、青年は何も言わずにもう一方の手を差し出すのだった。
 大阪の凍りつくような、真冬の夜の公園で私は息をのむような気持ちでその光景を見ていた。それは、人間のというよりもむしろ犬の親子のような愛情の交歓だった。>

 村山聖の写真は表紙の1枚の他、本中にもいくつか掲載されていて、その朴訥とした愛らしい表情から、どうして多くの人間が村山聖を愛したかが想像できます。
 村山聖は名人への挑戦権をかけたA級リーグ(トッププロ10名の総当たり戦で最高勝率者が名人に挑戦する)まで上り詰めますが、新たな病魔が村山聖を襲い、命を賭けた壮絶な戦いを続ける中で最後は道半ばで倒れます。

 感動して読了したとはいえ直接は知らない人物にこれほどの喪失感を覚えるのはどうしてなんでしょうか。誰もが青年期に経験する好きなものへの一途な思いを20歳を超えて多くのお金を稼ぐようにもなっても持ち続けた村山聖という男への感情移入の深さ故なんだろうと思います。

 村山聖の死に際して出された谷川浩司9段のコメントが引用されていて、(死の前年である平成9年)7月14日の丸山7段(現9段)との激戦は絶対に盤に並べて彼の名人に懸ける執念を感じ取って頂きたいとあります。本の巻末に載っている棋譜を並べてみました。村山の執念を深く読み取れる棋力は私にはまだありませんが、その凄さを実感できる程度まで将棋が上達できればいいなと思います。


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