多面体F

集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

ミツバチの羽音と地球の回転

2011年09月26日 | 映画
祝島の町民の上関原子力発電所建設反対運動を描いた「ミツバチの羽音と地球の回転」(鎌仲ひとみ監督 2010年 135分)を観た。祝島は瀬戸内海の周防灘に面する面積7平方キロの島である。半農半漁の島で、人口はかつて5000人だったが、オレンジの輸入自由化でみかんが暴落し、現在は人口500人平均年齢75歳で推移している。

1982年末、祝島から直線で3.5キロの対岸に中国電力の上関原子力発電所が建設されることが明らかになった。それ以来、上関町は推進派と反対派で二分されている。
育鵬社の公民教科書は「国家と私」で「市に原子力発電所の開発計画がもち上がった!」という事例(p33)を取り上げている。「1960年代に原子力発電所の建設計画が明らかになり、その後長い間、住民が賛成派と反対派の二つに分かれて住民運動を行ってきました」と書かれている。60年代ではないが、まるで上関町を取り上げたような話になっている(この教科書では「原子力発電は、国の方針として強力に推進されてきました」、とある)
反対派は「上関原発を建てさせない祝島島民の会」(以下島民の会、山戸貞夫代表運営委員)を結成し、(映画撮影の時点で)28年ものあいだ闘い続けている。
この映画の主人公は山戸氏の息子、孝氏(映画のなかでは孝君なので以下孝君)32歳である。孝君は2000年に島に戻り、05年に結婚し、もうすぐ2人目の子どもが生まれる。この島の特産品、浜のヒジキを採り、ビワを育ててビワ茶をつくりネット通販している。そのほか自家用の野菜も畑でつくるが、まだ駆け出しなのでおばちゃんたちに教えを乞うている。
この映画では祝島のくらしがたくさん紹介される。映画もヒジキ採りではじまり、ヒジキ採りで終わる。豊後水道と接する位置にあるので魚も多く獲れる。一本釣りでチダイやマダイを釣る漁師もいる。豊後半島と地理的に近く、国東の神主を招いて行う1000年以上続く神舞という祭りも紹介される。4年に一度の大きな祭りだが、原発反対の対立の余波で8年間祭りができなかったそうだ。
宮本常一は祝島から30キロほど東の周防大島の生まれで、「忘れられた日本人」には村の女性や祖父の話が出てくる。50年前は祝島でも、同じような村の生活を送っていたのだろう。
祝島には、きれいな砂浜があるので、海底にスギモクの群落があり魚が卵を産みつける。生物多様性のホットスポットになっていて、スナメリ、カンムリウミスズメ、カサシャミセン、ナメクジウオなど稀少な動植物が多い。ちょうど沖縄の辺野古と同じような場所だ。発電所建設で埋立が始まれば環境は一変するし、運転が始まれば大量の塩素処理水排出で水温は上がる。水温が1度上がれば魚が絶滅するという。

この映画では原発に代わる代替案が提示される。
スウェーデンの北方オーバートーネオ市アプア村は自前でエネルギーを調達している。この村には古い森と製材所がある。それを活用し廃材チップをつくり、燃やして温水を各戸に供給し暖房にしている。廃材チップ工場は7人の村人が手作りでつくった。また牛のし尿でメタンガスを発生させ発電に利用している。さらに風車を7基つくり風力発電している。資金は投資会社が出資した。投資会社は10基つくると採算がとれるとアドバイスしたが、環境裁判所の許可が下りなかった。10基つくるとトナカイが食べるコケを減少させるからだ。なおスウェーデンでは1999年に環境法典を制定したが、これが判決の基準になっている。また再生可能エネルギー転換のポイントは、電力を自由化し、エコマークの電気を選んで使えるようにすることだそうだ。
日本でも、同じような取り組みをしている地域がある。青森県の六ヶ所村では風車で風力発電を行っている。またエネルギーではないが、再生可能のリサイクル、地産地消という点では、祝島でも、35年間北海道で酪農を行い2年前に祝島に帰ってきた氏本長一さんが豚の放牧をして休耕田を開墾したり残飯のリサイクルを行っている。
島民の会は、毎週月曜、島内デモを実行し、28年ですでに1000回を超えた。漁業補償金5億4000万円がいったん振り込まれたが、送り返した。09年9月には中国電力の埋立て工事のための灯浮標設置を阻止するため海上封鎖を行った。町議会の傍聴、山口県庁前の座り込み、広島の中国電力本社前の行動、東京の経済産業省へ61万筆の反対署名提出(その後2010年に80万筆を追加署名)などを繰り広げる。行動の中心になっているのは高齢の女性たちだ。反対の動機は「生活の場をなくされたくない」ことであり、これからもがんばり続けるのは「信念もってやっとるけん、負けるわけにはいかん」からだ。
山戸貞夫氏は、「島の人ができるのは原発建設を引き延ばすことだけだ。その間に原発が必要なくなる日がくるかもしれない。その日のために、一日でも引っ張る」と方針を述べる。映画完成後3.11が起こり、たしかに「その日」が近づきつつある。

映画のタイトル「ミツバチの羽音と地球の回転」は「ミツバチの羽音はどんなに小さくても、地球の回転にすら影響を与えているかもしれない 一匹一匹の働きは小さくても、その働きが集まると「ブーン」という大きな共鳴を生み出していく」という意味だそうだ。そしてミツバチは蜜を花から取るが、花と蜜の関係は持続可能である。再生可能エネルギーすなわち、風力、波力、太陽光などはたいてい地球の自転から生まれるという意味もある。

2時間以上ある映画を見終わったが、残念ながらこの作品はドキュメンタリー映画としての完成度はもう一歩だった。
まず28年の闘いの歴史が描かれていない。それに原発推進派が画面にいっさい現れないので、反対派と二分されている対立状況も不明である。その結果、高齢女性たちが長年反対し続ける思いの深さが画面に表れることがなく、甘い仕上がりになっている。
また監督が孝君にインタビューしている声は聞こえるが、たとえば原一男監督のように被取材者に肉薄し追い詰める執拗さは皆無だ。これでは緊張感のある画面など生まれるはずがない。編集面でも、まだまだカットし映画にメリハリをつけることができたはずだ。
ただ、多くの人に持続可能なエネルギーや上関原発の問題を知らせたいということが監督の意図ならその点では成功している。ひとことでいえば、1960年代の岩波映画のような意味の「啓蒙」映画だった。
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