池袋犬儒派

自称「賢者の樽」から池袋・目白・練馬界隈をうろつく老人の日常

空間の歴史(3)

2024-03-20 09:47:51 | 日記

私は歩き出した。細い道である。誰ともすれ違わない。人がいないのだ。

両側には炭屋だの畳屋だのが目につくが、大部分は民家である。門も扉も固く閉ざされているのか、何の物音もしない。

さきほどまで、冬の陽が強く照らし、ガラス窓がキラキラしていたはずなのに、もう夕方になったらしく、周囲は薄暗い。

空腹を抱えた身には、次第に強まる寒さが応えた。

私は、背を丸めて、とぼとぼ歩いていく。

すると、目の前に、工事用の白い幕で囲われた建物があった。

メッシュの向こうに見えている正面玄関が私の記憶に訴えた。

どこかで見たことのある建物だ、と思った。

しかし、具体的なことは何も思い出せない。

ともかく、とっさに「立ち入り禁止」の看板を通り過ごし、保護シートの裾をめくって中に入った。

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