音を立てないように、こっそりと階段を上り、会堂を抜け、工事用のメッシュカーテンを開いて外に出た。
やはり朝である。冷たい風がよぎっていく。
なんだか、まだ夢の続きを見ているようだった。
どんな夢を見ていたのか、まったく思い出せない。しかし、見ていたことは確かだ。
長かったような気もするし、あっという間に見終わった気もする。
私は歩道に立って、教会を振り返った。
おそらくは、戦後すぐか高度成長期に建てられたのだろう。
母と私が通っていた頃もそうなのだが、木造教会には独特の匂いがある。ギイギイと音を立てる入口扉ではうっすらとペンキの匂いがするし、中で座ると茶葉を焦がしたような酸味のある匂いがある。
そんな中で、私は「実の父親とはどんな男だったのか」とか「母は本当に私を産んだのか、連れ子ではないのか」とか余計なことばかり考えていた。そして、儀式が終わりに近づくにつれて、猛烈な空腹を感じた。
終わったら、裏庭のベンチで、母が持参した弁当かサンドイッチを食べ、同年代の子供と遊ぶのが習慣になっていたのだ。
母も教会通いも嫌になり、高校の途中で家出をして以来、母や祖父母とはいっさい連絡をとっていないし、存命なのかどうかも知らない。しかし、またもや猛烈な空腹を抱えて教会に戻ってくるというのは、わが人生ながら皮肉というか阿呆臭い。
私は歩き始めた。
しかし、ここがいったい池袋のどの辺りなのか、さっぱりわからない。
たぶん西口から少し歩いた場所であることは間違いなさそうだ。
うろうろしながら、ようやくたどり着いたのが西口公園の広場だ。