ダイヤモンドオンラインからhttp://diamond.jp/articles/-/6080 続きです。
富士山は噴火しない?
行政とメディアの情報隠蔽は昔も今も 上杉隆
半ばその忠告に呆れながらも、再びNHKに、行政による解せない「忠告」を報告した。すると思いもよらないことが起こった。今度は当のNHK記者から忠告が入ったのだ。
「おまえ、山梨に住めなくなるぞ」
住民の生命・財産よりも、観光の方が大事――。だが、住む人間がいなければ、観光業ですら成立しないではないか。当時の筆者は、地域住民を守るためのハザードマップ作りが、タブーだとは露とも知らなかった。
低周波地震が頻発し
ようやく現実を直視
つまり、1990年代前半、いまから約15年前、富士山は「風説の流布」という勝手な理屈に守られて、決して噴火をしない〈火山〉に認定されていたのだ。
だが、残念ながら、有史以来、富士山は何度も噴火している。それは隠しようのない事実である。政治や行政、そしてメディアはその現実を伝えなければならない。
生命・財産を守るため、噴火の際の溶岩流出ルートや降灰エリアなどの特定は、地域住民が知っておかなければならない最低限の情報である。しかし、危機意識の低い日本ではこうしたことは放置されがちだ。大抵、危機が眼前に近づいてきてはじめて慌て始めるのである。
案の定、2000年10月、富士山で低周波地震が相次ぐと、いきなり状況が変わりはじめた。半年間で数百回にわたる地震が鈍い危機意識をようやく呼び覚ますことになる。
地震は、火山性のものではないという見解が述べられるが、年が明けてもなお続いていた。さすがに住民も不安に陥る。提供される情報の不足がますます不安に拍車をかける。
ここにきて「風説の流布」を強調していた自治体もやっと動きだした。そしていつものように共犯関係にあるメディアも連動する。
国民から情報を覆い隠す
行政とメディアの共犯関係
2001年1月、読売新聞の正月スクープ「富士山ハザードマップ検討委員会の設置決まる」という報道をきっかけに、NHKはじめ各メディアは、一斉に「富士山噴火時の防災マップの早急な作成」と「行政の準備不足」を訴えるニュースを報じ始めたのだ。
2003年9月には、北東斜面で噴気が確認され、微小ながらも火山性活動が認められた。こうなると自らの不作為の記憶など遠い過去に消えている。追い詰められた末に、ようやく現実を直視しようということになったのだが、もちろんそんなことは認めない。
2004年、防災マップの試作版が完成し、内閣府に報告された。現在は協議会を設置し、常時の監視体制がとられている。結果としては良いことだ。
だが、今回の週刊新潮の記事を読んで、改めて思い出してしまった。
行政とメディアが共犯関係を結んで、知らせなければならない情報を国民から覆い隠す、こうした行為はこれまでに繰り返し行われている。
それは富士山の事例に限らない。たとえば、現在の政治状況を軽く振り返ってみても――。
5000万件の消えた年金、防衛省と武器専門商社との利権、道路特定財源の時限性など、行政がひた隠し、一部の記者クラブメディアが知り得ていたにもかかわらず表沙汰にしてこなかったことばかりである。
行政はいつでも都合の悪い情報を隠し、記者クラブはそのお供をする。だが、いったん疑惑が明らかになると、メディアだけは一転して手のひらを返し、逆にかつての「共犯者」たちを攻撃するのだ。
いったい日本でのこうした状況はいつまで続くのだろうか? 少なくとも筆者の知る限り、15年前となんら変わっていない