放射能被害の陰で深刻化する 被災地のアスベスト飛散問題|Close Up|ダイヤモンド・オンライン 続き
やはり震災で被災した協同組合仙台軽印刷センターの解体工事で起きたアスベスト飛散事故は、「ある意味もっと深刻」と前出の除去業者は言う。仙台市が発注した工事だったからだ。
1月25日、仙台市内のがれき置き場で測定をしていた環境省の委託業者から、「鉄骨に吹き付けがある」と連絡が入ったのが発端。翌日にはアスベストと判明し、出所を調べたところ印刷センターだった。工事を停止させた時点で、建物の半分以上が解体済みだった。
あらためて市環境対策課が調べたところ、3階建ての建物のうち、1階部分にはアスベストが含有していなかったが、2~3階の吹き付けには茶石綿が使用されていた。
分析業者や除去業者の間では、階層ごとに吹き付け材が違うことなど基本の“キ”で、「各階の調査をすることは常識」だ。
ところが、発注者である震災復興対策室は「階ごとに吹き付けが異なる場合があることを知らなかった」と明かす。そのため、「事前調査はしたが、1階の吹き付けの分析だけでアスベストなしと判断」(環境対策課)、分析業者にも階ごとの調査を求めていなかった。
その結果、アスベストが飛散し放題の状態が12日間続いたのだ。
予算規模も人員の充実度も突出している東北最大の都市、仙台市ですらこんなありさまなのだから、「被災地の他の地域では、吹き付けアスベストでさえきちんと除去されないケースが無数にあるはず」と前出の除去業者は指摘する。
にもかかわらず、「監視する行政には、解体工事すべてを見るような人員はない」(関係者)ような状況で、違法な工事が野放しということも少なくない。
「特にひどいのはスレートなど(労働安全衛生法の石綿則で)レベル3の石綿含有成形板の扱いです。破砕しないよう手ばらしすることが決まっていますが、現実には守られていないことが多い。解体では手ばらししても、自治体の仮置き場で袋に入れて持ってくるよう言われ、わざわざ後で(袋に入るよう)破砕してしまうこともある」(外山氏)
環境省なども問題を放置
「すでに手遅れ」の声も
石綿含有成形板の扱いの悪さについては、環境省と厚生労働省の合同パトロールでも一部確認されており、パトロール後に被災県の担当者が「レベル3建材の解体状況があまりにもひどい。現実にどこまで、どう対応すべきヵ国で明確にしてほしい」と要望した。
ところが、両省とも形式的な回答しかせず、その直後に開催された被災地のアスベスト対策を検討する両省の合同会議では、そうした要望があったという報告すらされなかった。
県の担当者はこう明かす。
「はっきり言って今回被災地のアスベスト対策は完全に失敗しました。すでに手遅れの状況ですが、これから先の災害に備えるためにはいまから対応を始めなくてはまた同じことが起こります。そういう気持ちで言ったのですが、検討もされず残念です」
現在、環境省はアスベストの飛散防止を義務づけた大気汚染防止法の改正に向けた専門部会を設置する方針。ところが、NPO「中皮腫・じん肺・アスベストセンター」事務局長の永倉冬史氏は、検討前の現時点ですでに批判の声を上げている。
「今回検討する法改正は、すでに実施されているアスベスト測定の義務化や性能に問題のある測定器の導入など、本質からはずれていたり、利権づくりとしか思えないものばかり。本当に必要なのは監視強化と厳罰化、きちんとした業者を育成・認定する制度です」
もはや国は、被災地を見捨てたのではないか。被災県の切実な声を無視して、本質からはずれた法改正に狂奔する姿からはそうとしか思えない。
(ジャーナリスト・井部正之)