諦めない教育原理

特別支援教育は教育の原点と聞いたことがあります。
その窓からどこまで見えるか…。

147「学び」と私たち#2 記憶のドライブ

2021年08月01日 | 「学び」と私たち
絵地図 八ケ岳 硫黄岳山頂 連峰のほぼ中央には、様々なルートが集まります。

時々私たちは「学び」という言葉を口にしますが、本シリーズでは、このことについて少し立ち止まって考えて見ます。

テキスト:佐伯 胖『「学び」の構造』東洋館出版

その佐伯さんは、「第二章 「「おぼえる」ことと「わかる」こと」の中で、記憶のメカニズムについて、こんな洒落た比喩で説明します。
このメカニズムが「おぼえる」こととは?、「わかる」こととは?、につながってきます。
本シリーズは引用が長くなりそうです。

きわめて比喩的に、中期記憶のはたらきを説明しよう。
ここに広大な国立公園があったとする。(米国やカナダには自動車で文字通り振るスピードで一周するだけで何日もかかるような公園があるが、まずそのぐらい広いと考えていただきたい。)その広大な公園の中を、さまざまな旅行者が自動車にのって駆けめぐっている状況を思いうかべていただきたい。公園の要所要所には「管理事務所」があり、公園の玄関口にある本部とインターホンで連絡がとれるようになっており、管理人がひとり駐在している。この管理人が大変なまけもので、本部からの呼出しがあまりないときや、旅行者が通りかからないときは、すぐに昼寝するクセがある。しかも、インターホンは大変原始的で、本部からの呼び出しは、公園内すべての管理事務所に同時的に放送され、管理人は自分の名前が何度も呼ばれないかぎりヒルネしており、何度も呼ばれると、やっとおきて返事をする。
 本部からの連絡はいつも「…さん、あなたのところに…という標識はたってますか」であり、それに答える場合は、(もし目覚めていたとして)もしその標識がある場合には「ありますよ」と答え、自分のところに関係がない場合にはだまっている。似たような標識がある場合には「ありますよ」と答え、似たものはないが、自分のところに「関係がある」標識についての問い合わせに対しては、「ある」といったり「ない」といったり適当に答える。あまりしつこく何度も問い合わせてきたときには、ヨッコラショと腰をあげて、新しい標識を立てる。
(下線、引用者)

この「国立公園への旅行者」、「公園の玄関口にある本部」、「要所要所の管理事務所」、そして、なまけものの管理人とその仕事っぷりが、それそれ、短期記憶、中期記憶、長期記憶に対応し、その関係性が記憶の構造を示しているという。

短期記憶から入ってきた情報は「本部」の中期記憶でまとめられ、長期記憶との対応づけがなされる。そのとき本部は全管理事務所(そこが長期記憶内の個々の「概念」にあたる部分)に問いあわせ、関連する「意味標識」があるかを問いあわせる。その部分の脳細胞が「活動している」(「目覚めている」)ならば、マッチしておれば返答がある。「関連」している標識がない場合、新しくその標識が立てられる(つまり新しい情報が「記憶」される)。

つまり、短期記憶からの旅行者は「本部」(中期記憶)で要件内容(意味概念)としてまとめられ、「皆さーん!」と無数の長期記憶の管理事務所に向かって呼びかけると、任意の長期記憶が「関係あるかも」と思って手をあげる。そこに取りあえず、旅行者を案内し、とにかく、短期記憶と長期記憶とをつなぎ合わせるということだろう。そうしているうちに、

ここで旅行者がみな自動車にのっていると想定していただきたい。このことは同じ道を何台もの自動車が何度も通る、「道」ができてしまい、ますます通りやすくなることを意味する。

これで道ができ、旅行者は通り安くはなるが、案内は順調であるばかりではない。
「本部」と「管理事務所」の関係も曖昧で、旅行者は「本部」に案内されたいくつかの「管理事務所」に行ってみるが、当てが外れたりして、そもそもの旅行の目的を何度も思い起こしながら、駆けめぐることになる。つまり、

人間が様々な「問題」を解決すべく、「思考」するということに対応する。
人間は、そのようにして「期待」や「予想」を生み出し、また、もとの「期待」へいきつもどりつしているうちに、その人の「思考パターン」や「パーソナリティー」が形成されるのであろう。

脳が「生きている」というとは、このように、常に内部で活動しつづけ、新しく変貌しつつ、新しい概念を自己生成しつづけることを意味し、単にオートメーション工場内のように、ギッタンバッコンと装着が「動いている」というような意味だけではない。


頭の中では絶えずこうした営みが行われいるのなら、これは「学び」を考える上で、重要な手がかりである。

流石名著、先が楽しみです。






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