諦めない教育原理

特別支援教育は教育の原点と聞いたことがあります。
その窓からどこまで見えるか…。

220 保育の歩(ほ)#14ノルウェーの土壌づくり

2023年12月17日 | 保育の歩
箱根八里(三島大社→小田原城) 山中城跡 秀吉の小田原遠征で北条と激戦したところ 空堀や土塁がきれいに発掘保存されています

そもそも保育所の目的は「子守」や「託児」だっただろう。
担った人たちは家庭やコミュニティでの自然に育っていく子どもたちの姿をイメージし、それに近づけようとしだろう。
それは近代の学校のもつ教育の機能的なあり方とは一線を画していた。
いわば「子ども(らいし)時間の確保」である。
そして、つかみどころのないそのイメージの中に子どもがいることこそが、子どもたちの将来の“大きなこと”になるように思われるし、実際そうだろう。
「予測困難で不確実、複雑で曖昧」の未来に対して確実にできうることともいえる。

もちろん、保育所も社会的機関である。
行わる保育は意図的に行われ、説明と評価とがあるべきである。
しかし、逆に、その中でこそ漠然としたイメージとしての「子ども(らしい)時間」が確かな形となって見えてくる可能性があるのではないか。
そんな作為的な無作為みたいなことができるのかどうか、あるべき「子ども(らしい)時間」にむけて、各国の知恵を訪ねたい。

テキスト:
秋田喜代美/古賀松香『世界の保育の質評価‐制度に学び、対話を開く‐』明石書店

ノルウェー2
ノルウェーにおいても、保育施設は公的なものであり、社会の要請に応じて公費を投入して拡充されできたものである。
したがって、監督すべき行政は(この場合、教育研修局)、保育施設が保育の質を向上し、方法を提供し、それに基づく評価が求められる。

さて、ノルウェイの理想に基づいた保育の質の向上、それを担保する具体的な方策はどのようなものだろう。
そのことを「モニタリング制度」と言うらしい。

図で全体像を表すと、以下のようになる。(不鮮明失礼!)



中心に子どもがある。
それを取り囲むように、保護者、保育者、保育施設、保育行政がかれ、いわゆるPDCAサイクル(計画→実施→小説→改善)となるのはオーソドックスである。
そしてこの循環を推進するのが、両そでの「知識情報とその普及について」、と「質向上のツール・尺度」である。

「知識情報とその普及について」とは保育機関にとって何らかのよい効果をうむための情報提供と情報収集である。
公的な機関であり、子どもたちの育成に直接関わる保育機関は、人々にガラス張りでわかりやすいこと、逆に人々からのニーズを保育機関関係者が汲み取りやすいよ工夫されていると言えるだろう。それを積極的に推進すべくホームページや機関誌まで発行している。

一方の右そで、「質向上のツール・尺度」がノルウェーの独自の工夫が際立っている。
要は、保育期間を管理する行政機構による評価システムと言うわけだが、通常考える行政のシステムとは異なっている。あくまで保育機関とは、「あくまでも子供たちの育ちを豊かにするために、保育の質を向上させること」と言う理念に貫かれた、自省的な評価がなされる。

その中で特に、1番上の「自己現状分析」、3番目の「外部評価(保育者(ピア)間による)」を見てみたい。

自己現状分析ツール

保育者やそのリーダーが自らの保育実践を振り返ることを保育の質向上の第一歩と考えているのである。
自己現状分析を行うツールは行政である教育研修局から提供される。それを使って保育者が自らの保育のあり方を考えるのである。
そして、あくまで「保育者自身への評価や監督のための評価ではない」ことが強調される。
そのことで、「保育者と保育所と信頼関係を築くこと、自己評価を率先して受ける風土作りにつなげている」という。

ツールの活用は3段階に分けて実施される。

第一段階では、保育施設が受ける社会的な要請について自ら考えてみる、また保育内容について、指導計画と共同についても同様に自ら振り返っていく。
「その他にも子どものウェルビーイング・言葉の育ちを促す保育環境・自然や環境及び技術・数や空間及び現状について、等が振り返り項目として挙げられている。」

そして、面白いことに「保育者は自分のニーズに合った項目を選んで、評価内容を設定することができる」のである。ここにも信頼性にもとづいた自主性尊重がある。

第二段階では、自ら設定した評価項目に対して、あくまで保育者自身が保育実践を振り返ることで、自己評価を行うのである。

第三段階として、「明日以降の保育に向けて、新たな目標と対策を練る総合評価を行っていく。その結果は保育者自身以外、設置者は見ることができるものの、全国的に開示されるものではない。」あくまでも保育者自身の保育実践を向上させるためのツールなのである。

多くの場合の保育の計画は子ども向けられたツールであるのに対して、ここでいう自己現状分析ツールは、あくまでも保育者自身にベクトルが向く仕組みを、信頼と自主性を担保にして行っているのである。

そして、具体的な保育の振り返りは「ドキュメンテーション」で表される。

外部評価(保育者(ピア)間評価)

これもユニークな仕組みである。
外部評価とはいっても、いわゆる監査とは全く異なる。
保育者間での対話を重視し、特に保育者がその保育機関外の保育者と話し合うことを重視するのである。外部からの保育者との相談という意味で外部評価なのである。

保育実践を保育施設外の関係者が評価する唯一の方法であるが、監査や査定の意味合いは一切持たない評価制度であり、自己現状分析ツールを始めとする他のツールによって導き出されたデータを持ちながら、保育実践の観察をベースに実践される。
評価者は保育経験豊富で評価のトレーニングを受けた保育者であり、この評価ツールが用いられている間は、常に評価を受ける保育者や関係者との対話を行うことが重視されている。

こうした仕組みに丁寧な保育実践を保育者が自立的にできるような願いが見える。

さらに、このモニタリング制度そのものも改善する余地を残す仕組みもある。あくまでもモニタリング制度は「質の循環機能」するものとして、それ自体、制度の在り方を自省するベクトルをもっている。

《「知識情報とその普及について」と「質向上のツール・尺度」の枠組み》

《見出し写真の参考》




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