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スピルバーグと映画大好き人間、この指とまれ!

カフェには、映画が抜群に良く似合います。
大好きなスピルバーグとカフェ、アメリカ映画中心の映画エッセイ、
身辺雑記。

「E.T.」

2008-02-15 05:25:21 | わたしのスピルバーグ監督作品感想集!

「E.T.」(1982)

 地球へ植物採取に来たE.T.が、仲間や家族がいる宇宙船に乗り遅れ一人ぼっちになる。エリオットが、彼と出会い守る。エリオットは、父が不在で孤独で、毎日の生活が楽しくない。E.T.も孤独。エリオットが、先に友情を示し、その後にE.T.が友情を表す。友情物語。主演にヘンリー・トーマス、ドリュー・バリモア、ロバート・マクノートン。スピルバーグは、「未知との遭遇」を撮っていたときにおもいつく。スピルバーグの原案を基に脚本を書いたのは、女性脚本家であるメリッサ・マティスン。彼女は、コッポラのプロデューサー作品「少年の黒い馬」や「マジックボーイ」を手がけているため少年の話が得意。本作は、感性に訴えかけるものをめざして「レイダース/失われたアーク」の撮影中にあたためられ1週間スピルバーグと話し合ってストーリーを膨らませた。そして、8週間かけて第一稿を書き上げた。そのため、ストーリーボードに頼らない作品となった。美術は、ジェームズ・D・ビッセル。視覚効果には、デニス・ミューレン。そして、E.Tのキャラクターの創造者は、カルロ・ランバルディという人で、名前から推測されるようにイタリアの有名な画家・彫刻家で映画では、過去にスピルバーグの「未知との遭遇」で宇宙人を手がけ、また、「キングコング」と「エイリアン」でオスカーを獲得したすごい人。

 ファーストシーンがまず良い。「フェアリテール。つまり、おとぎ話ですよ」という感じがする。これは、天空に光り輝く星が煌きこれ以上綺麗で澄みきった夜空はないと思われるほどの美しい映像をローアングルで見せ、バックにはフルートの音色が温く流れているからだ。カメラが、パンすると深い森の中に宇宙船がある。

 映画の後半、エリオットは、持ち直すがE.T.が死ぬ。ここは、私の父、母が亡くなるシーンを思い出した。心臓マッサージや電気ショックなど一生懸命に手を尽くしたにもかかわらず報われず辛いシーンを臨場観あふれる映像でとらえている。そして、スピルバーグ自身も語っているが「人は愛するものとは、いつかは別れなければならない」ことを見事に演出している。

 ヘンリー・トーマス扮するエリオットの兄、マイケルを演じるロバート・マクノートンの演技が素晴らしい。可愛い弟の良き理解者としていつもエリオットを温かく見守っている。特に印象に残るのは、「E.T.を探して」と涙ながらに訴えるエリオットに頼まれて自転車で雨が降る中を必死でE.Tを探し、川岸に横たわるE.Tを家に連れて帰る彼の表情がいい。

 そして、クライマックス。エリオットが、死んでしまったE.T.に最後の別れを告げる。「E.T.大好きだよ」といったん直後に元気を取り戻し生き返る。E.T.のそばにあってE.Tの死と同時に萎んでしまった鉢植えの花が開く。花の比喩のモンタージュの技法を使ってE.T.が生き返ったことをエリオット、そして、わたしたちに知らせる演出の素晴らしさ。E.T.が、「迎えが来た」とエリオットに話す。マイケルとエリオットは、E.T.と共にNASAの車で逃げる。ここから先、ラストシーンまではサントラの「E.T.脱出作戦~さよならエリオット」の曲が流れるが、まさにこのタイトルにふさわしい映像が展開される。E.T.が住む家に帰してあげる。その後、エリオットの仲間たちも協力して途中でエリオットとマイケルは仲間と自転車に乗り換える。ここの自転車シーンは、スピルバーグが撮影終了後、新たに追加撮影したものでヒッチコックタッチである。当局の追っ手から自転車で逃げるシーンのすごさ。ここは、ジョン・ウィリアズの音楽と本当にシンクロナイズされている。自転車の車輪が激しく音を立てて疾走する映像をクローズアップでとらえる。パトカーがサイレンを鳴らして迫ってくると2手に分かれて撹乱させたり。次の場面では、自転車の利点を生かしてパトカーやNASAの車が入り込めない道を選んで走る。また、土砂の多い場所での自転車の疾走シーンが迫力がありすごい。これは、砂埃が舞い上がるのでそうなる演出だ。さらに、自転車がパトカーを襲う。パトカーのボンネットの上を乗り上げる。次に前にいた追っ手の人々を襲う。しかし、追っ手に行く手を阻まれもうだめかとエリオットが目を瞑った瞬間、ハロウィンの夜と同じくE.T.がみんなを空に舞い上げた。ここのシーンのカット割り、エリオットとE.T.の顔のクローズアップ、3カット・ズームインで極度の緊張感とエリオットのE.T.に向けたテレパシー、「僕が心で念じればE.T.が自転車を空に飛ばしてくれる、ハロウィンの日もそうだった」とエリオットが心のなかで叫んでいるにちがいない心の内を強固な意志を表現したカメラワークを使っている。自転車は、夕日をバックに飛ぶ。このシーンのハイアングル、エリオットたちが眼下の森を見下ろす俯瞰撮影がいい。そして、自転車が着地すると迎えの宇宙船が来ている。

 E.T.とエリオットの別れのシーン。E.T.が、「行こう」その問いかけに対してエリオットは「行かないで」と言う。再度E.T.に誘われるがエリオットは「僕は、行けないよ」と応える。これは、実はハロウィンの夜、E.T.がエリオットと自分が置き去りにされた森でレーダーをいっしょに作り自分がまだ生きていることを仲間に知らせるシーンで2人で夜空を眺めながらエリオットが「ここにいて僕といっしょに暮らそうよ。僕が守ってあげる」しかし、E.T.は「お家に帰る」と言う。友情が育まれてもやはり「家」、それも本当の家族のいる所へ帰りたい。このシーンの逆パターンである。状況が裏返った感じがする。しかし、エリオットは「未知との遭遇」のロイのように宇宙船には乗り込まず、思いとどまった。E.T.と同じように自分の家、家族の大切さが身にしみて感じられ、家族を置いては行けないことに気ずいたのだ。家族の絆が大事という点では、E.T.もエリオットも同じ心情である。それに対して、E.T.は2人の友情は永遠だよという気持ちを込めて「僕は、いつでも君の中にいるよ」と告げ、エリオットも別れが悲しくて涙があふれているが僕もそうだよと感じ、2人抱き合う。そして、E.T.は去ってゆく。

 スピルバーグ言わく「自分の映画が、自分個人と何の関係もないと言う人々は信用しない。ある意味ですべての映画が自伝なんだ。映画を通して自分の感情を表現し、自分の経験を伝えるからさ」と語っているが、「E.T.」は、スピルバーグ自身の少年時代の自伝的色合いが濃い作品で家族を持ち父親になりたくて撮った。スピルバーグ少年が好きだったディズニー映画のファンタジー、ヒッチコック的冒険を演出面の柱にして、父親のいない孤独な少年がE.T.と出会い最終的には別れがあったにせよ友情を深めたことで人間として成長してゆく物語。それは、スピルバーグ自身の心の成長物語でもあった

 また、私がこの作品を始めて見たのは公開当時の高校3年生だったが、その後、両親の死を若くして経験して家族のいない寂しさを味わい、その後、結婚、2児の父となって現在に至っているがこのような人生の節目の時に見直すと新たな感動を与えてくれる。そして、殊に家族を持ってからは、家族みんなでエリオット一家の家族のキャラクターの誰かに自分を各自あてはめて楽しでいる。これからも歳を重ねるごとに見たくなる名作である。


「レイダース失われたアーク」

2008-02-14 05:27:00 | わたしのスピルバーグ監督作品感想集!

「レイダース失われたアーク」(1981

 

監督スピルバーグ(「ジョーズ」)、製作ジョージ・ルーカス(「スター・ウォーズ」)主演ハリソン・フォードこれは、映画ファン夢のゴールデントリオの誕生映画。共演カレン・アレン

 原案は、ルーカスと「アメリカン・グラフィテイ」のフィリップ・カウフマン。脚本は、「スター・ウォーズ/帝国の逆襲」を担当したローレンス・カスダンで監督した作品に「白いドレスの女」「わが街」がある。撮影は、大ベテランのダグラス・スローカムがあたった。彼は、元ジャーナリストで1940年代から映画の仕事を始め「冬のライオン」や「ジーザス・クライスト・スーパースター」、「ジュリア」などが代表作にありイギリスを代表するカメラマンである。美術には、「スター・ウォーズ/帝国の逆襲」のノーマン・レイノルズがあたりロケ地を探しセットをつくった。

 007シリーズやヒッチコックの作品のように世界各国の異国情緒あふれる文化、風土を1930年代を舞台に大いに感じさせ楽しませてくれる作品。ペルーから始まりネパール、カイロ、ドイツへとインディの旅が展開される。

ハリソン・フォードは、スター・ウォーズと違って渋さに加えて陽気さを出していたようだし、相手役のカレン・アレンの男勝りの演技が良かった。

 

 絶対的な神の力を持つといわれるアークを探し世界征服を企むナチス・ドイツの手に入らないように指令を政府から受けてアメリカの考古学者であるインディは、手がかりを求めてネパールへ飛ぶ。そこでは、かつての恋人マリオンと再会するが、その直後にマリオンがナチに命を狙われる。そこは、マリオンが経営している酒場。暖炉の炎が燃え盛るなか壁に帽子を被った人影がうつる。インディである。この登場シーンがいきである。再会をマリオンと果たすインディだったが手がかりとなる情報は得られずすぐに店から締め出される。入れ代わりに入ってきたのがナチの一味。彼らもアークのありかを探そうとやってきたがマリオンから拒否されると彼女を捕まえその中の1人ナチのエージェントのトトが、強引にありかを白状させようと木の棒の上に暖炉の火をつけマリオンの顔に近つ゛けた。まさにその時、インディからの鞭がはなたれる。すると、火がついた木の棒は、中を飛び近くのカーテンに落下しカーテンに火がつく。インディ、「彼女を放せ、さもないと撃つぞ」と銃を向ける。ここのインディの銃の持ち方、構え方、相手を見る目線は西部劇のヒーローのようにこの上なくかっこいい。そこから銃撃戦が始まる。酒場のカウンターにあるウィスキーをインディが撃つ。それがもとで酒場は大火災となりやがて木っ端微塵になる。インディとマリオンは脱出する。

 カイロの魂の井戸のシーンでは、ナチス側のアーク発掘隊は、フランス人の考古学者であるベロックを味方につけて砂漠でアークのある埋蔵場所を探し始めていた。インディは後手にまわっていたがその場所をつきとめる。その発見過程が面白い。マリオンが持っていたメダルをヒントにインディが三脚付小型望遠鏡を駆使してアークのある場所を探すシーンのカメラワークが素晴らしい。望遠鏡が私たち観ている側の視線になっている。そして、魂の井戸の中にインディが侵入しアークを探す。この時必要なものは、井戸の外から降り注ぐ太陽の光、長い棒の柄の先についた水晶のようなガラス球である。太陽の光に長い棒の先についたガラス球をあてる。それも決まった時刻に。すると、アークのある場所が光で照らされる。このアイデアを映像化したスピルバーグが上手い。太陽の光は、まさしく映画的であるし冒頭でインディが勤めている大学の講堂で考古学の書物を参考に黒板に図式化しているのでわかりやすい。

 砂漠の追跡のシーン。ここのアクションシーンは、この映画のなかでも一番の見せ所である。インディが仲間らと発見したアークはその後、すぐにドイツ軍が奪う。そこでインディが白馬にまたがって軍用トラックを追跡。砂漠でアークを積んだトラックを乗っ取りアークを奪い返すこのシーンは、ジョン・ウィリアムズの心憎いばかりのカッコイイ曲をバックに展開される。「乗り物はどうする?」という友人のサラーがきくと、インディは「何か見つけるさ」と楽天的。そこで映像が変る。白馬をどこからか調達してドイツ軍を追う。ここからは、カメラワーク、編集、ジョンの音楽、そして、インディ扮するハリソン・フォードの演技の素晴らしさが堪能できる。ドイツ軍が前を走ってゆく、インディがそれを追う映像が映しだされる。ドイツ軍とインディを同時並行でとらえるカメラ。大きな崖までインディがくる。カメラは、俯瞰でドイツ軍をとらえる。インディが崖を降りる。インディが追う。近距離になるとインディが馬から飛び降りトラックに乗り移る。運転手を外へ放り出しトラックを奪うインディ。だが、今度はドイツ軍の後続トラックから次ぎ次とインディが乗っているトラックのボンネットに飛び移ってくる。この時、インディはサイドミラーを通して彼らが運転席に向かってくるのを察知する。そこで、振り落とそうとトラックを左右に走らせる。ボンネットから落ちるドイツ軍。今度は、後ろにいたドイツ軍のトラックが猛スピードを上げてインディのトラックに並行して走ってきた。インディは車体を隣にやってきたドイツ軍のトラックに衝突させて崖から落とす。ところが、残っていた1人のドイツ軍が運転席までやってくる。インディは、車のスピードを上げる。ドイツ軍の被っている帽子が風圧で飛ぶ。やがて、ドイツ軍が銃を片手に持ってインディを運転席の外から撃つ。インディ、腕に負傷を負う。今度はドイツ軍が運転席に乗り込み、インディはトラックのフロントガラスに投げつけられトラックの前にへばりつく。その後の展開は、「スピルバーグのアクション」のところで申し上げた横移動撮影を駆使してインディがこのドイツ軍を倒しアークを奪い返す。

 スピルバーグが尊敬するジョン・フォード監督の演出を手本にした冒険活劇の復活。明るい太陽の光が燦々と輝くイメージ。「1941」の興業的失敗をはねかえし大ヒットをとばした。また、インディ・ジョーンズシリーズの中で一番完成度が高い。ヒロイン像は、これまた尊敬するハワード・ホークス監督作品のキャラへのオマージュであり、ハワード・ホークス監督タッチは、このシリーズの基本である。


「1941」

2008-02-13 06:10:48 | わたしのスピルバーグ監督作品感想集!

1941」1979)

 

 日本海軍の潜水艦が、真珠湾攻撃から6日後の1941年12月13日カリフォルニアの沖に浮かび上がる。司令官が、同乗のドイツ士官をののしりハリウッドを攻撃しようとする。日本軍襲来の噂が広まる。そんな中、軍人のダンスクラブ会場ではコンテストが開催され、ひょんなことから陸軍伍長シタルスキーを中心に大乱戦。ハリウッド大通りにまで広がる混乱が起きトリー軍曹が戦車で来る。空では、戦闘機乗りのワイルド・ビル・ケルソーが日本軍と間違えて米軍機を追い、ハリウッド大通りは収拾がつかなくなる。製作費をたっぷりと注ぎ込み豪華さがあるが全体として騒がしさが目立ち、まとまりの無い作品で批評も芳しくなく、興行的にもそれまでの作品の中でもっとも成績の悪い結果になってしまった。私は、映画の舞台がハリウッド大通りであること、スピルバーグ作品のパロディ満載の映画であることで楽しめた。脚本は、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の監督ロバート・ゼメキスとボブ・ゲイルが原案とともにあたっている。受けなかったのは、あまりにも時代を先取りしたせいだ。彼自身の言葉、「僕は、残りの人生をこの映画は僕の作品ではないと否定するために費やすだろう」と語っているが、そんなことはない。

 まず、当時のキャストが魅力的。トゥリー軍曹役のダン・エイクロイド。この作品が映画デビューとは知らなかった。その後「ブルース・ブラザース」「ゴースト・バスターズ」などに出演しコメディ作品にはなくてはならない俳優となる。また、TV「サタデー・ナイト・ライブ」で人気者になり共演のジョン・ベルーシーとザ・ブルース・ブラザースというデュエットを組んだ。本作では、超愛国的なアメリカ陸軍軍用自動車係。いつのまにかM3の戦車の司令官となりハリウッド大通りに現われUSO(慰問班)パーティの混乱ぶりを見て「アメリカ人同士が争ってはいけない」と演説。日本軍が攻めてくると信じている。ハリウッド大通りの明かりを機銃で連射。ウォード・ダグラス役のネット・ビーティは、私の好きな作品「スーパーマン」でジーン・ハックマン扮するルーサーの子分を熱演していたが、本作ではサンタモニカの海を臨む丘に家を持つ民間人で、娘のベティの父。陸軍の高射砲を庭に置かせたりして協力的。ところが、自宅前に潜水艦が現れたので大変。彼の小柄ながらハチャメチャぶりの演技がおもしろく大いに笑いをそそる。ワイルド・ビル・ケルソー役のジョン・ベルシーは、破壊男「アニマルハウス」でスターになった怪人。天才コメディアンとして高く評価されたが、薬中毒になり惜しくも若くして亡くなった。本作では、荒削りで狂った性格の戦闘機乗りを演じている。ダグラス夫人役のロレイン・ゲイリーは、スピルバーグの「ジョーズ」でロイ・シャイダーの妻を演じ印象に残る。クロード役のマーレイ・ハミルトンは、遊園地のゴンドラの上で日本軍の襲来を監視する役。いつもは、生真面目なキャラクターが多いのにコミカルな演技を披露してかえっておかしかった。他の作品では、「ジョーズ」のアミティの市長役や「卒業」「追憶」などがあったが、惜しくも亡くなった。ドイツ仕官フォン・クラインシュミット役のクリストファー・リー。日本軍の潜水艦になぜか乗っているドイツ軍を演じている。ドラキュラ役者№1として有名でその後、「007/黄金銃を持つ男」。記憶に新しいところでは、スピルバーグの友人ルーカスの「スター・ウォーズ/エピソード2.3」でドゥ-ク伯爵を演じている。司令官ミタムラ役の三船敏郎。黒澤明の名作「羅生門」「用心棒」「椿三十朗」「七人の侍」「ミッドウェイ」「グランプリ」などに出演。世界のミフネがスピルバーグのためにコメディに出演したのが驚き。潜水艦司令官を三船らしく存在感のある演技を披露して笑いもさそう。今は亡き大スター。ドナ役のナンシー・アレンは、スティルウェル将軍の秘書で飛行機を見ると欲情的になる性格の持ち主を好演。操縦桿を握るだけで感じてしまう。また、P-40に追撃されている時もブラジャーで操縦桿を固定しコトに及ぶセクシーぶりを発揮している。エロティックな雰囲気を感じさせる女優で、プロポーションも抜群で特に豊満なバストはとても魅力的。その他の作品では、スピルバーグの友人ブライアン・デ・パルマ監督の「キャリー」「殺しのドレス」「ミッドナイト・クロス」がある。ちなみに1979年1月そのデ・パルマ監督と結婚。最近は顔をスクリーンで見ないのが残念だが、「ロボコップ」のマーフィ刑事の良き同僚役の演技が記憶に残っている。太平洋を泳ぐ女の子役のスーザン・バックリニーは、「ジョーズ」で最初の犠牲者クリシーを熱演。この作品でも冒頭で「ジョーズ」のパロディを演じている。

 また、ハリウッドの大通りの大セットが素晴らしい。それもそのはず「未知との遭遇」の視覚効果でオスカーにノミネーされたグレゴリー・イーエンが、ミニチュア製作を担当している。彼は、バーバンクスタジオでハリウッド大通りや遊園地をつくった。さらに、撮影を担当したのが「未知との遭遇」も担当したウィリアム・フレイカーである。彼は、「天国から来たチャンピオン」や「ミスター・グッドバーを探して」でアカデミー賞にノミネートされている人で他にも「カッコーの巣の上で」、「ローズマリーの赤ちゃん」、「ブリット」、「エクソシスト2」、「イルカの日」、「ペンチャー・ワゴン」などの名作を手がけている。彼の力量も本作で充分発揮されている。特にダンスクラブのシーンとラストの家の俯瞰撮影のカメラワークが素晴らしい。これは、彼がラウマ・クレーンというカメラをのせると360度どこでも映せる機材を開発したためである。効果部門は、「トラ・トラ・トラ」、「ポセイドン・アドベンチャー」でともにオスカーを受賞したA・D・フラワーズとL・B・アボットである。

 そして、ダンスクラブのシーンは、1940代から1950年代のMGMのミュージカル映画を見ているかのように華麗で統一された動きがジョン・ウィリアムズが、ビッグ・バンド(グレン・ミラー)の曲、とりわけ「シング・シング・シング」をもじって作曲した「スイング・スイング・スイング」が流れるなか展開され目を見張るものがあり素晴らしい。

 「1940年代」に特別な愛着をもつスピルバーグらしい作品。そして、特に、1941年は、スピルバーグの思い入れの年である。ディズニーアニメの「ダンボ」公開の年。1940年代は、MGMを中心とするミュージカル映画全盛の時代。そして、その頃の映画は、ハリウッド黄金期で大スターが映画の主役。音楽に関しては、ビック・バンドのスイングジャズが大流行した。スピルバーグは、そのような時代に思いを馳せて父の時代である第二次大戦のゼメキス脚本による戦争コメディをつくった。


「未知との遭遇」

2008-02-12 06:01:09 | わたしのスピルバーグ監督作品感想集!

未知との遭遇」1977)

 自分の宇宙観を出した最初の作品。自分の原案で脚本を書いていることからとても思い入れの強い作品。リチャード・ドレイファス、フランソワ・トリュフォー、テリー・ガー、メリンダ・ディロン主演。

メキシコのソノラ砂漠で第二次大戦中に消息をたった戦闘機が姿を現す。インディアナポリスでは、航空路管制センターで未確認飛行物体が確認され小さな町では少年バリー(ゲイリー・グッフィク)が不思議なオレンジ色の光に誘われ暗闇に向って走る。一帯には原因不明の停電事故が発生。

主人公である電気技師のロイ・二アリー(リチャード・ドレイファス)が夜中に会社から電話で呼び出され調査に出かける。そこで、UFOと出会う。北インドでは、フランスのUFO学者ラコーム博士(演ずるは、フランソワ・トリュフォー監督)がヒンドゥ教徒たちが天から聞こえてきた謎の5音階を分析したところアメリカのワイオミングが問題の場所である事がわかる。

バリ­­ーは、シロフォンで5音階を弾く。ジリアン、変な山の絵を描く。その夜、雲の中から突然、異様な光があらわれる。ジリアンの家を襲う。バリーは光に吸い込まれるように去ってゆく。ロイ、マッシュポテトの山をつくる。部屋の中に土を盛り山をつくる。妻(テリー・ガー)は、夫の態度に呆れ果てて、子どもを連れて家を出て行く。鮮やかな光を発して巨大な宇宙船が降りてくる。宇宙船の下部から第三種接近遭遇を体験した人々が帰ってくる。バリー少年もでてくる。母との再会。胎児のような姿態をした異星人たちがでてくる。ロイをはじめ地球人のあらたな代表がゲストとして宇宙船に招かれてゆく。地球人が抱く宇宙への夢。異星への夢。異星人と地球人の友好という願いをこめた。ユニバーサルとの契約が切れて、フリーになっての少年時代からの念願の題材。父と見た流れ星の思い出から空想が拡がった。作品に不満が残り1980年、「未知との遭遇・特別編」を撮る。これは、ラストでロイが異星人と共に宇宙船の内部に入ってからの特撮を追加。

 メキシコのソラノ砂漠、アメリカのインディアナポリス、北インドの各地に異変な出来事が同時に発生している様子を一度期に緊張感をもった映像で見せている。これは、アメリカ映画の父、デビットワーク・グリフィス監督が「国民の創生」や「イントレランス」でみせた映画技法を上手く取り入れている。しかも、グリフィス監督の今、挙げた映画はその最後には同時期に別の場所で発生していた出来事が1つの同じ意味を持つ重要な出来事としてクローズアップされ、結末はそのうちのある場所が主要な舞台になる。スピルバーグもこの映画のなかでその手法を使って観客の目をスクリーンに釘つ゛けにさせている。一連のUFO目撃の出来事が発生している問題の場所をアメリカのワイオミング州のデビルズタワーに集約させているところが素晴らしい。また、これらの地をスピルバーグの指示のもとにロケ地を探した美術担当は、ジョー・アルブスである。特にワイオミング州のデビルズタワーやアラバマ、インドの丘陵などの風景は映像とマッチしている。

 リチャード・ドレイファス扮するロイの家庭、メリンダ・ディロン扮するジリアンの家庭をアメリカの郊外に住むごくどこにでもある平凡な中流家庭として描いているところに共感が持て感情移入できる。私は、映画でアメリカ郊外を舞台にしたもののうちこれほどまでに夜空が美しいと感じた作品はない。とりわけ星の光が明るい。また、田園風景の中をUFOが飛んでいるシーンは宇宙にロマンを感じさせる。

 この映画が最初に怖いと感じさせたシーンは、バリーがシンフォンで5音階のシグナルを弾いた直後、母親のジリアンが家から外にゴミを出しに行った夕暮れ時、空を見上げると台風や竜巻や雷でも起きそうな煙幕のような雲の中から突然、異様な光りがあらわれジリアンの家を襲いバリーが光に吸い込まれるように去っていってしまうシーンだ。家の外の異様な空の風景は、撮影監督の功績が大きく、家の中が襲われるシーンは、スピルバーグの演出の賜物である。

 素晴らしい撮影監督たち。中心的な役割をしたビルモス・ジグモンドを始め後で付け加えられたアメリカの撮影監督にウィリアム・フレイカー、インドの特別なシークエンスは、ダグラス・スローカム、特殊なシーンの撮影には、ジョン・アロンゾとラズロ・ヴアックスの5人が担当している。

 特殊撮影の素晴らしさを挙げたい。特に宇宙船が降りてくるデビルズタワーを実写と特撮撮影を使い上手く合成させている。しかも、大規模なセットを造っておこなっている。この特殊効果の視覚効果部門を担当しているのは、ダグラス・トランブルである。彼に関してスピルバーグは「次のウォルト・ディズニー」と言わしめ人で、「2001年宇宙の旅」を手がけている人物。宇宙に詳しくスピルバーグが、この人でなければだめだとして選んだ人。デビルズタワー上空の夜空の美しさ、星の美しさ、流れ星の美しさには息がとまるほどだ。また、 この上空に宇宙船がやってくる前にやはり雲が煙幕化した様子をみせている。そして、宇宙船を様々な角度から撮影しているのでその見せ方に脱帽。

 ジョン・ウィリアムズの音楽の貢献度も「ジョーズ」と同様大きい。彼が作曲した宇宙人との交信をテーマにした5音階の曲を始めとして前衛的なスコアは未知なる飛行物体との遭遇に恐怖を、そして、人間が宇宙に対して夢を馳せる姿を美しい曲で表現している。

エンディングのシーンもいい。エンド・クレジットが流れる。スピルバーグ監督の名前が出る。そして、映画「ピノキオ」”星に願いをが流れる。

 この映画のことを今のこの時点で振り返る時に一番感じることは、この映画は宇宙人と地球人の友好を描いている作品で、主人公を通して夢を持ち続ければいつかは叶う。夢を追い続けることは素晴らしいこと。しかし、一家の父親として家庭を顧みず宇宙船に乗り込んでしまう姿に二児の父である私は罪悪感を覚える。そして、何も宇宙船に乗らなくても家庭の中にも夢はあると思うのである。

 スピルバーグの映画の中でこれほどまでに日常生活の平凡な描写にこだわり、そのデティールを積み重ねてゆくものは他にない。だから宇宙人との遭遇が本当のように感じられる。前作のジョーズ同様の「恐怖」と同時にこの映画には、人間が宇宙に抱く「美しさ」や「夢」がある。


「ジョーズ」

2008-02-11 04:03:13 | わたしのスピルバーグ監督作品感想集!

「ジョーズ」(1975

 製作費800万ドル、ピーター・ベンチリーの原作のベストセラーの映画化。

この作品はスピルバーグが、20代の後半という若き年齢にして映画の歴史を塗り替える大ヒットを飛ばし、スター監督となった記念すべき映画である。平和な島に突如、サメが現れ海水浴客の人々を襲う。前半は、なかなか姿を見せないサメの恐怖をヒッチコックタッチで演出しスリルとサスペンスが味わえ、後半は、打って変って海洋アクション・アドベンチャーになりサメ退治に向う男達の活躍が存分に堪能できる。それは、ハワード・ホークスタッチである。主演にロイ・シャイダー、ロバート・ショー、リチャード・ドレイファス。音楽ジョン・ウィリアムズ。ヒットの要因は色々あると思うが、私は次の要素が挙げられると思う。恐怖・アクション演出、カメラワーク、編集、俳優の演技、練りに練られた脚本、そして、忘れてならないのがジョン・ウィリアムズの作曲した音楽だ。

 原作を書き換える上手さ。3部構成にした。脚本にスピルバーグを始め5人が加わった。そこから作り上げたストーリーボードを基本に撮影が行われた。恐怖の館」のスタッフが参加している。カメラマンのビル・バトラー、脚本のカール・ゴットリーブらは、大学時代からの友人。

美術監督のジョー・アルベスの貢献度もある。 彼は、10代のころからディズニースタジオでアニメのアルバイトを始め、「禁断の惑星」でモンスターを作った。その後、ヒッチコックの「引き裂かれたカーテン」の美術助手を経て、テレビシリーズ「ナイト・ギャラリー」で美術監督となる。その頃にスピルバーグと出会い、「続.激突!カージャック」、本作、「未知との遭遇」を担当した。スピルバーグはロケにこだわったためアルベスは、ロケ地をあちこち探し回りとうとう素晴らしい場所を見つけた。マーサズ・バインヤード島にあるエドガータウン。そして、彼は作りものサメのスケッチを作りあげた。

 実物大のサメを作ったのはロバート・マッテイ。彼を起用したのはスピルバーグ。ディズニーが大好きなスピルバーグは、1954年のディズニー映画「海底二哩」でノーチラス号を襲う巨大なイカを作ったボブの業績を買ってのこと。

過酷な撮影を担当したのは、ビル・バトラー。彼の代表作にコッポラ監督の「カンバセーション・・・盗聴」がある。

 俳優陣に主役の3人以外では、市長役のマレー・ハミルトンやブロディ署長の妻役のロレイン・ゲイリー(彼女は、スプルバーグを世に送り出したシャインバーグの妻でもある)がいる。

 ここでは、その練りに練られた脚本、言い換えるならば、これこそ娯楽映画のお手本とも呼びたい脚本に基つ゛いてこの作品の素晴らしさを語ってみたい。

 ファーストシーンは、真っ暗な画面ではじまる。海底が映し出される。JAWSのタイトルが出る。暗闇とジョン・ウィリアムズの「ジョーズ」のテーマ曲が恐怖を暗示させる。カメラは、サメの眼にすでに最初からなっている。舞台となるアミティの町。ロケ地となったのはリゾート地として有名なアメリカはマサチューセッツ州ボストン近海のマーサズ・バインヤード島この風景が素晴らしい。それは、スピルバーグが好きな画家である古き良きアメリカを描いたアンドリュー・ワイエス的な風景を彷彿させる。少年を襲ったサメ。息子をサメに殺された犠牲者の母が、海が危険であることを知りながら遊泳禁止にしなかったブロディ警察署長をなぐる。町の利益のためだけしか考えない市長の指示のもと、強引に本格的な海開きが始まる。近郊から海水浴を楽しみにやってくる人々。海水浴を楽しむ人達。サメが入り江に現れ若い男性がサメに殺されパニックになる。そして、とうとうブロディの息子に黒いサメの鰭が接近し危うく殺される危機にブロディがみまわれる。

 サメ退治に出航する3人の男達、ブロディ、海洋学者のフーパー、漁師のクイント。この主人公3人たちのキャラクターとそれを演じる俳優、ロイ・シャイダーリチャード・ドレイファスロバート・ショーの演技が素晴らしく上手い。まさに適役で、ブロディを演じるロイ・シャイダーは、警察署長とはいえごく平凡な家庭人でどこか気弱な役どころを、フーパーを演じるリチャード・ドレイファスは、頭脳明晰で陽気な海洋学者の役を、そして、クイントを演じるロバート・ショーは、これこそ男の中の男と呼びたくなるような豪快で野性味溢れるサメ退治に異様な執念を燃やす役を演じている。また、この男たちをスピルバーグは彼が好きなジョン・フォード、ハワード・ホークス、クロサワ監督の登場人物たちを彷彿させる感じに演出している。しかも、3人のコンビが良く、おたがいに対立しあいながらもサメという怪物を退治する目標に向かっていく男たちの姿が素晴らしくかっこいい。

 ブロディが餌を撒くなか突如サメが現れる。オルカ号の漁船の右側面を這う様にサメが大接近するがこのシーンのサメの見せ方がうまい。このシーンにかかるジョンの音楽が印象的である。戦闘開始。戦闘シーンをスピルバーグは、クローズアップとロングショットを交互に巧みに活用している演出が素晴らしい。姿を見せたサメにクイントが樽つきの銛をサメに撃ちこむ。カメラは、丸まったロープをクローズアップでとらえ激しい音をたてて甲板から海へ投げ出され、海を走り廻る樽が海中へ消える姿を映す。夜、樽が静かに船に近ずく。3人の男達が子どものように酒を酌み交わしながら楽しく語り合っている最中にサメの襲撃。船の側面を激しく音を立てて攻撃する。海水が船内に入り、船の中の照明器具が回転し、暗くなりやがて船内が真っ暗になる。

 2回目の反撃にでる。朝、突然樽が浮かぶ。2本目の樽つき銛を撃ちこむと猛然と勢いよく樽が走りだし消えた。2つの樽が浮き上がり船に急接近。クイントは信じられない様子。フーパーとブロディ、ロープを手繰り寄せ船にしばる。サメが船を引っ張りはじめ船が傾く。クイントが、3本目の銛をサメに撃ち込む。船がサメを引っ張りサメの大きな顔が現れる。クイント、ロープを切る。樽が再び浮かび猛然と船に接近する。そして、サメは船底から船を襲う。そこで、クイントは次の作戦に出る。帰路を選らんで船の速度の限界までスピードを上げサメを浅瀬へ追い込んでまいらせようとしたが、エンジンが出火し船が停止してしまう。戦いの限りを尽くし勝つ手立てが無く失望感が3人に漂う。このときの3人の表情が真にせまっていて共感できる。そして、ブロディとサメの最後の戦い。実は、ここのシーンが私のなかでは一番かっこよく大好きなシーンである。スピルバーグの絵コンテの力とジョンの音楽の賜物である。ジョンのスコアは、有名になったサメの登場シーンにかかる「ジョーズ」のテーマとアクション音楽を見事にブレンドしたものでサメの恐怖と敢然と立ち向かうブロディ署長の活躍に大きく貢献している。水浸しの船室を逃げるブロディ。そこへ船の壁を食いちぎって現れたサメ。ここは、伏線が2重に張ってあり上手い。小道具とセリフの伏線である。マストが次第に海面に沈みはじめるなか絶体絶命のブロディの運命はいかに?

大空港」、「ポセイドン・アドベンチャー」、「タワーリング・インフェルノ」、「大地震」などがある中でパニック映画不朽の名作となった。また、海水浴のシーンでオリビア・ニュートン・ジョンの「愛の告白」がBGMとして流れていた。70年代という時代を感じさせるし、個人的にもオリビアのファンなのでうれしかった。

 スピルバーグの出世作であり、娯楽映画の王道をいく作品。恐怖の演出に加えて3人のメインキャストを始めとして人間描写や伏線の張り方が上手い。特に後半部のサメの登場から3人の男達とサメの闘いは、この映画の一番の見所である。サメ退治の方法が面白くわかりやすい。そして、サメと3人の男達がシーソーゲームのような感覚で闘い、死闘を繰広げ最後に一番頼りないブロディ署長が、サメと最後の闘いをすることになる。スピルバーグ言わく「ジョーズを監督したいと思ったのは、ストーリーが激突!の続編のようだし、激突!の原題DUELの文字数は4文字、偶然だがジョーズもJAWSで4文字で興味をそそられた」とのこと。海を舞台に置き換えた「激突!」の続編だ。ヒッチコックとディズニーを始めとするアニメが好きなスピルバーグだからこそ大成功を収めた作品だ。


「続.激突カージャック」

2008-02-10 05:17:52 | わたしのスピルバーグ監督作品感想集!

 .激突カージャック」(1973

 

 スピルバーグ、最初の劇場映画作品で、彼の原案である。脚本は、ハル・バーラッドとマシュ・ロビンズ。主演には、かわいいコメディアンヌのゴールディー・ホーン969年3月に実際に起きた事件がもとのネタである。実際は、囚人が妻の助けで脱獄し州警察のパトカーをハイジャックして逃げまわるのをパトカー数十台が追った事件。アメリカ・ニューシネマの頃でカントリー・ロードムービーのため全編がのんびりした感じで見られる。そして、映画音楽作曲家ジョン・ウィリアムズとの初めてのコラボレーションである。そのスコアは、ハーモ二カを中心とした哀しく愁いを帯びた曲調が中心。

 母親を演じたゴールディ・ホーンが適役。服役経験のため赤ん坊を養子にだされてしまったルー・ジーン役を見事に演じている。母性愛に満ち溢れ、しかも男まさりのように元気がいい。一方、夫は妻の尻に引かれているようで気弱。妻は、服役中の夫を脱獄させ、赤ん坊を取り戻すために車を盗み、さらに、パトカーも盗んでシュガーランドへ行く。

 ジョン・フォード映画の脇役で印象的な俳優ベン・ジョンソン扮するタナー警部の指揮するパトカー数10台が出勤するアクションシーンは緊迫感があり、また、報道陣の車が道路を走るシーンは躍動感があって印象に残る。

 タナー警部とルー・ジーンらとの警察と犯罪者という立場でありながらも奇妙ではあるが温かい人間的な心の交流が生まれる。これは、犯罪の動機が赤ん坊にあることが起因しており、しかも、彼らが凶悪でなく町行く人々から同情が集まる。さらに、このタナー警部が、顔が厳しく図体はごつく背が高いがその人柄は、温厚で心の優しさを持った人物であり、ルー・ジーンを実の娘のように父親的立場でいるからだ。それは、まるでスピルバーグが尊敬する監督ジョン・フォードの分身であるジョン・ウェインのようだ。

 また、この映画にはコミカルなシーンもあることが特筆に値する。人質にとられているのが同僚である警察官であるため下手な手出しが出来ずに鳥の糞のように犯罪者のパトカーにゆっくりぞろぞろ付いて行くのだ。

 母親と赤ちゃんという人間関係の原点となる題材を劇場第1作に選んだのはスピルバーグらしい。


「激突!」

2008-02-09 05:44:33 | わたしのスピルバーグ監督作品感想集!

 「激突!」 (1971)

 

 テレビドラマ「警部マクロード」の主役で有名なデニス・ウィバーが主演。ウィバーは、スピルバーグが尊敬するオーソン・ウェルズ監督の「黒い罠」に出演している。妻子がいるサラリーマンが主人公。そのサラリーマンが朝、自宅から車に乗って仕事へ向かう途中で何気なく1台のタンクローリーを追い越したことからやがて、タンクローリーに必要に追いかけられる恐怖を描いている。この題材は、車を運転する人ならいつなんどき体験するかもしれないものなのでいっそう身近に感じられるぞ。

 脚本を書いたのは、原作者でもあるテレビシリーズ「トワイライトゾーン」で有名なリチャード・マシスンとロッド・サーリング。カメラマンは、ジャック・A・マルタで、音楽は、ビリー・ゴールデンバーグで、2人とも「刑事コロンボ」の第1作である「構想の死角」も担当している。この作品は、もちろんスピルバーグが演出している。そのため、この「激突!」でもこの2人を起用している。音楽は、バーナード・ハーマンの「サイコ」のようなスコア。ジャック・A・マルタのカメラは、タンクローリーをアップとロングショットを効果的に使用している。編集は、フランク・モリス。ロケ地が、魅力。美術を担当したのは、ロバート・S・スミス。

 

 タンクローリーの運転手の姿が最後まで見えない。見えるのは、体の一部だけ。足、手等。それを象徴するシーンは、カフェで一服していた主人公の前にタンクローリーの運転手らしき人物が、カウンター越しに数人腰をかけてビールを飲んでいるシーンだ。皆、横1列に後ろを向いていて、カメラは、このシーンの直前で運転手が紺のジーンズと薄茶色したウェスタン風な靴を身に着けていることを主人公と私たち観ている側に知らせているが何と主人公に対して後ろ向きに腰掛けている人たち全員が同じそのジーズンと靴をはいていることをクローズアップでとっている。そのため主人公のサラリーマンは、誰が自分を容赦なく追いかけてくる人物かわからない。しかも、恐ろしい事にスピルバーグは、タンクローリーの運転手らしき人物全員を主人公に向かって顔を振り向かせている。どの人物も同じカウボーイハットを被っている。ここで、いよいよ主人公の堪忍袋の緒が切れた。誰が、自分を殺そうとしているのか怒りあまって席を立ち確かめに行った。彼とカウンターに座っている客たちの乱闘が始まる。そして、とうとう店員から店から主人公が追い出されようとしているとき彼の目に例の自分を追いかけてくるタンクローリー車がエンジンをかけ走りだそうとしていた。ここにいた客たちは、別人だったことがわかる。心憎い演出だ。

 次に、このサラリーマンが乗る赤のプリムス・ヴァリアントとタンクローリー車のトラックの恐怖の追っかけシーン。スピード感溢れる映像が素晴らしい。これは、スピルバーグがカメラ5台を使っていろいろな方向、角度から撮っているのと編集の成果である。また、このトラックに恐怖感をもたせるためにこのトラックに決めるまでに何台も時間をかけて検討している。そして、決めたトラックの前面をわざと汚すなどのこだわりようである。ワンカットごとに主人公のドライバーの怖い顔を連写したり、主人公の車のサイドミラーやバックミラーを利用して後ろから襲ってきるトラックを撮っている。

 そして、ラストシーンの対決である。いちかばちかの捨て身の作戦に主人公が出る。自分の車を反転させてトラックに向かって体当たりでぶつかる。

タンクローリー車がモンスター化する。それを普通の人が恐怖に慄きながらも退治する。スピルバーグの知名度を上げた衝撃のデビュー作で、ヒッコック監督の演出を手本にして手に汗握るスリルとサスペンスを堪能できる。そして、物語を単純にわかりやすくして、余計なものを全部剥ぎ取る。「映画は娯楽である」とスピルバーグも語っているように素直に楽しめる作品だ。