
「激突!」 (1971)
テレビドラマ「警部マクロード」の主役で有名なデニス・ウィバーが主演。ウィバーは、スピルバーグが尊敬するオーソン・ウェルズ監督の「黒い罠」に出演している。妻子がいるサラリーマンが主人公。そのサラリーマンが朝、自宅から車に乗って仕事へ向かう途中で何気なく1台のタンクローリーを追い越したことからやがて、タンクローリーに必要に追いかけられる恐怖を描いている。この題材は、車を運転する人ならいつなんどき体験するかもしれないものなのでいっそう身近に感じられるぞ。
脚本を書いたのは、原作者でもあるテレビシリーズ「トワイライトゾーン」で有名なリチャード・マシスンとロッド・サーリング。カメラマンは、ジャック・A・マルタで、音楽は、ビリー・ゴールデンバーグで、2人とも「刑事コロンボ」の第1作である「構想の死角」も担当している。この作品は、もちろんスピルバーグが演出している。そのため、この「激突!」でもこの2人を起用している。音楽は、バーナード・ハーマンの「サイコ」のようなスコア。ジャック・A・マルタのカメラは、タンクローリーをアップとロングショットを効果的に使用している。編集は、フランク・モリス。ロケ地が、魅力。美術を担当したのは、ロバート・S・スミス。
タンクローリーの運転手の姿が最後まで見えない。見えるのは、体の一部だけ。足、手等。それを象徴するシーンは、カフェで一服していた主人公の前にタンクローリーの運転手らしき人物が、カウンター越しに数人腰をかけてビールを飲んでいるシーンだ。皆、横1列に後ろを向いていて、カメラは、このシーンの直前で運転手が紺のジーンズと薄茶色したウェスタン風な靴を身に着けていることを主人公と私たち観ている側に知らせているが何と主人公に対して後ろ向きに腰掛けている人たち全員が同じそのジーズンと靴をはいていることをクローズアップでとっている。そのため主人公のサラリーマンは、誰が自分を容赦なく追いかけてくる人物かわからない。しかも、恐ろしい事にスピルバーグは、タンクローリーの運転手らしき人物全員を主人公に向かって顔を振り向かせている。どの人物も同じカウボーイハットを被っている。ここで、いよいよ主人公の堪忍袋の緒が切れた。誰が、自分を殺そうとしているのか怒りあまって席を立ち確かめに行った。彼とカウンターに座っている客たちの乱闘が始まる。そして、とうとう店員から店から主人公が追い出されようとしているとき彼の目に例の自分を追いかけてくるタンクローリー車がエンジンをかけ走りだそうとしていた。ここにいた客たちは、別人だったことがわかる。心憎い演出だ。
次に、このサラリーマンが乗る赤のプリムス・ヴァリアントとタンクローリー車のトラックの恐怖の追っかけシーン。スピード感溢れる映像が素晴らしい。これは、スピルバーグがカメラ5台を使っていろいろな方向、角度から撮っているのと編集の成果である。また、このトラックに恐怖感をもたせるためにこのトラックに決めるまでに何台も時間をかけて検討している。そして、決めたトラックの前面をわざと汚すなどのこだわりようである。ワンカットごとに主人公のドライバーの怖い顔を連写したり、主人公の車のサイドミラーやバックミラーを利用して後ろから襲ってきるトラックを撮っている。
そして、ラストシーンの対決である。いちかばちかの捨て身の作戦に主人公が出る。自分の車を反転させてトラックに向かって体当たりでぶつかる。
タンクローリー車がモンスター化する。それを普通の人が恐怖に慄きながらも退治する。スピルバーグの知名度を上げた衝撃のデビュー作で、ヒッコック監督の演出を手本にして手に汗握るスリルとサスペンスを堪能できる。そして、物語を単純にわかりやすくして、余計なものを全部剥ぎ取る。「映画は娯楽である」とスピルバーグも語っているように素直に楽しめる作品だ。
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