
「ジョーズ」(1975)
製作費800万ドル、ピーター・ベンチリーの原作のベストセラーの映画化。
この作品はスピルバーグが、20代の後半という若き年齢にして映画の歴史を塗り替える大ヒットを飛ばし、スター監督となった記念すべき映画である。平和な島に突如、サメが現れ海水浴客の人々を襲う。前半は、なかなか姿を見せないサメの恐怖をヒッチコックタッチで演出しスリルとサスペンスが味わえ、後半は、打って変って海洋アクション・アドベンチャーになりサメ退治に向う男達の活躍が存分に堪能できる。それは、ハワード・ホークスタッチである。主演にロイ・シャイダー、ロバート・ショー、リチャード・ドレイファス。音楽ジョン・ウィリアムズ。ヒットの要因は色々あると思うが、私は次の要素が挙げられると思う。恐怖・アクション演出、カメラワーク、編集、俳優の演技、練りに練られた脚本、そして、忘れてならないのがジョン・ウィリアムズの作曲した音楽だ。
原作を書き換える上手さ。3部構成にした。脚本にスピルバーグを始め5人が加わった。そこから作り上げたストーリーボードを基本に撮影が行われた。「恐怖の館」のスタッフが参加している。カメラマンのビル・バトラー、脚本のカール・ゴットリーブらは、大学時代からの友人。
美術監督のジョー・アルベスの貢献度もある。 彼は、10代のころからディズニースタジオでアニメのアルバイトを始め、「禁断の惑星」でモンスターを作った。その後、ヒッチコックの「引き裂かれたカーテン」の美術助手を経て、テレビシリーズ「ナイト・ギャラリー」で美術監督となる。その頃にスピルバーグと出会い、「続.激突!カージャック」、本作、「未知との遭遇」を担当した。スピルバーグはロケにこだわったためアルベスは、ロケ地をあちこち探し回りとうとう素晴らしい場所を見つけた。マーサズ・バインヤード島にあるエドガータウン。そして、彼は作りものサメのスケッチを作りあげた。
実物大のサメを作ったのはロバート・マッテイ。彼を起用したのはスピルバーグ。ディズニーが大好きなスピルバーグは、1954年のディズニー映画「海底二哩」でノーチラス号を襲う巨大なイカを作ったボブの業績を買ってのこと。
過酷な撮影を担当したのは、ビル・バトラー。彼の代表作にコッポラ監督の「カンバセーション・・・盗聴」がある。
俳優陣に主役の3人以外では、市長役のマレー・ハミルトンやブロディ署長の妻役のロレイン・ゲイリー(彼女は、スプルバーグを世に送り出したシャインバーグの妻でもある)がいる。
ここでは、その練りに練られた脚本、言い換えるならば、これこそ娯楽映画のお手本とも呼びたい脚本に基つ゛いてこの作品の素晴らしさを語ってみたい。
ファーストシーンは、真っ暗な画面ではじまる。海底が映し出される。JAWSのタイトルが出る。暗闇とジョン・ウィリアムズの「ジョーズ」のテーマ曲が恐怖を暗示させる。カメラは、サメの眼にすでに最初からなっている。舞台となるアミティの町。ロケ地となったのはリゾート地として有名なアメリカはマサチューセッツ州ボストン近海のマーサズ・バインヤード島この風景が素晴らしい。それは、スピルバーグが好きな画家である古き良きアメリカを描いたアンドリュー・ワイエス的な風景を彷彿させる。少年を襲ったサメ。息子をサメに殺された犠牲者の母が、海が危険であることを知りながら遊泳禁止にしなかったブロディ警察署長をなぐる。町の利益のためだけしか考えない市長の指示のもと、強引に本格的な海開きが始まる。近郊から海水浴を楽しみにやってくる人々。海水浴を楽しむ人達。サメが入り江に現れ若い男性がサメに殺されパニックになる。そして、とうとうブロディの息子に黒いサメの鰭が接近し危うく殺される危機にブロディがみまわれる。
サメ退治に出航する3人の男達、ブロディ、海洋学者のフーパー、漁師のクイント。この主人公3人たちのキャラクターとそれを演じる俳優、ロイ・シャイダー、リチャード・ドレイファス、ロバート・ショーの演技が素晴らしく上手い。まさに適役で、ブロディを演じるロイ・シャイダーは、警察署長とはいえごく平凡な家庭人でどこか気弱な役どころを、フーパーを演じるリチャード・ドレイファスは、頭脳明晰で陽気な海洋学者の役を、そして、クイントを演じるロバート・ショーは、これこそ男の中の男と呼びたくなるような豪快で野性味溢れるサメ退治に異様な執念を燃やす役を演じている。また、この男たちをスピルバーグは彼が好きなジョン・フォード、ハワード・ホークス、クロサワ監督の登場人物たちを彷彿させる感じに演出している。しかも、3人のコンビが良く、おたがいに対立しあいながらもサメという怪物を退治する目標に向かっていく男たちの姿が素晴らしくかっこいい。
ブロディが餌を撒くなか突如サメが現れる。オルカ号の漁船の右側面を這う様にサメが大接近するがこのシーンのサメの見せ方がうまい。このシーンにかかるジョンの音楽が印象的である。戦闘開始。戦闘シーンをスピルバーグは、クローズアップとロングショットを交互に巧みに活用している演出が素晴らしい。姿を見せたサメにクイントが樽つきの銛をサメに撃ちこむ。カメラは、丸まったロープをクローズアップでとらえ激しい音をたてて甲板から海へ投げ出され、海を走り廻る樽が海中へ消える姿を映す。夜、樽が静かに船に近ずく。3人の男達が子どものように酒を酌み交わしながら楽しく語り合っている最中にサメの襲撃。船の側面を激しく音を立てて攻撃する。海水が船内に入り、船の中の照明器具が回転し、暗くなりやがて船内が真っ暗になる。
2回目の反撃にでる。朝、突然樽が浮かぶ。2本目の樽つき銛を撃ちこむと猛然と勢いよく樽が走りだし消えた。2つの樽が浮き上がり船に急接近。クイントは信じられない様子。フーパーとブロディ、ロープを手繰り寄せ船にしばる。サメが船を引っ張りはじめ船が傾く。クイントが、3本目の銛をサメに撃ち込む。船がサメを引っ張りサメの大きな顔が現れる。クイント、ロープを切る。樽が再び浮かび猛然と船に接近する。そして、サメは船底から船を襲う。そこで、クイントは次の作戦に出る。帰路を選らんで船の速度の限界までスピードを上げサメを浅瀬へ追い込んでまいらせようとしたが、エンジンが出火し船が停止してしまう。戦いの限りを尽くし勝つ手立てが無く失望感が3人に漂う。このときの3人の表情が真にせまっていて共感できる。そして、ブロディとサメの最後の戦い。実は、ここのシーンが私のなかでは一番かっこよく大好きなシーンである。スピルバーグの絵コンテの力とジョンの音楽の賜物である。ジョンのスコアは、有名になったサメの登場シーンにかかる「ジョーズ」のテーマとアクション音楽を見事にブレンドしたものでサメの恐怖と敢然と立ち向かうブロディ署長の活躍に大きく貢献している。水浸しの船室を逃げるブロディ。そこへ船の壁を食いちぎって現れたサメ。ここは、伏線が2重に張ってあり上手い。小道具とセリフの伏線である。マストが次第に海面に沈みはじめるなか絶体絶命のブロディの運命はいかに?
「大空港」、「ポセイドン・アドベンチャー」、「タワーリング・インフェルノ」、「大地震」などがある中でパニック映画不朽の名作となった。また、海水浴のシーンでオリビア・ニュートン・ジョンの「愛の告白」がBGMとして流れていた。70年代という時代を感じさせるし、個人的にもオリビアのファンなのでうれしかった。
スピルバーグの出世作であり、娯楽映画の王道をいく作品。恐怖の演出に加えて3人のメインキャストを始めとして人間描写や伏線の張り方が上手い。特に後半部のサメの登場から3人の男達とサメの闘いは、この映画の一番の見所である。サメ退治の方法が面白くわかりやすい。そして、サメと3人の男達がシーソーゲームのような感覚で闘い、死闘を繰広げ最後に一番頼りないブロディ署長が、サメと最後の闘いをすることになる。スピルバーグ言わく「ジョーズを監督したいと思ったのは、ストーリーが激突!の続編のようだし、激突!の原題DUELの文字数は4文字、偶然だがジョーズもJAWSで4文字で興味をそそられた」とのこと。海を舞台に置き換えた「激突!」の続編だ。ヒッチコックとディズニーを始めとするアニメが好きなスピルバーグだからこそ大成功を収めた作品だ。
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