はがきのおくりもの

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第35回  第5章 秋 ~共鳴する~   学び合う②

2018年09月15日 | 管理職は愉快です

心得九十 昨日の自分より一歩前に進む

 

 人工知能やロボットは、私たちの想像をはるかに超え、凄まじい勢いで進化しています。子供たちが大人になる頃には、現在ある仕事の半分が人工知能やロボットに取って代わられると言われています。そうした時代を生きる子供たちにどんな学校教育を提供すればよいでしょうか。

 私は「人と人との間に価値が生まれる」「関係性の中に自分の役割がある」と考えています。具体的な場面で人と関わることで「この人に私はこれであればしてあげられる」と自分の価値を見いだすことが大切だと考えています。

 絶対的に秀でた才能は必要ありません。相対的に秀でた才能があれば、自分の価値が見えてきます。実は、相対的に秀でた才能がなくても大丈夫です。自分の中でより優れた才能を見いだし、それを活かせばよいのです。このことは、以前お話しした「比較優位の原理」から明らかです。

 大企業は人工知能やロボットを駆使し、人々の雇用を減らしていくでしょう。したがって、人々の多くは中小企業等において、具体的に人と人、人ともの、ものとものとの間をつなぎながら、新たな価値や意味を生み出す仕事に従事するようになるのではないかと想像しています。

 これらのことから、学校教育を「よさを引き出す」「関わりの中から価値を創造する」「学び合う」などの観点から見直していく必要があると考えるようになりました。

 埼玉県では平成27年度から小学校4年生から中学校3年生までの県内全児童・生徒(政令指定都市のさいたま市を除く)を対象に、埼玉県独自の新たな学力・学習状況調査を始めました。この調査の目的は、「各教育委員会の施策や各学校の指導」と「子供たちの学力」との関係を客観的なデータに基づいて分析し、より効果的な施策や指導を全県で共有することで、子供たち一人一人の学ぶ力を引き出し、伸ばそうとするものです。

 この調査には、2つの大きな特長があります。1つは、項目反応理論(IRT)と呼ばれる試験理論を活用したテストを取り入れたことです。もう1つは、全児童・生徒のデータを経年で蓄積したパネルデータを分析し、活用することです。

 IRTを活用したテストには、2つの特長があります。1つ1つの問題について難易度が設定されていることと、様々な難易度の問題を多く出題し、それに対する正答や誤答の状況を見ることで学力を判断すること、の2つです。このテストにより、小学校4年生から中学校3年生まで経年で子供たちの学力がどう伸びたかを測ることができるようになりました。これまでは受検者全体の中での相対的な位置でしか変化を捉えることができませんでしたが、これからは一人一人の子供たちの伸びを、他者の成績と比べることによってだけではなく、本人の過去の成績と比べることによって捉えることができるようになったのです。

 他者との比較の中で自分の立ち位置を客観的に見つめることも大切です。競争心が向上心に火をつけることもあります。しかし、他者と比較してばかりいると自分を見失う危険もあります。伸び悩んでいるときや挫折したとき、周囲の人たちが先に行ってしまったと思い、劣等感に苛まれることがあります。こうしたときには、歩みは遅くても昨日の自分より一歩前に進むことが大切です。一歩ずつ前に進んでいると、周囲の人たちがそれほど前に進んでいるわけではないことに気づきます。そうした気づきへうためにも、IRTを活用したテストは有効であると考えています。

 

心得九十一 よさを共有する

 一人一人の学力の伸びを測ることができると、様々な分析が可能となります。教員の指導法との相関や学校の取り組みとの相関、家庭での過ごし方との相関などを分析することにより、どんな指導や取り組みがどんな子供にどんな効果があったのか、なかったのかがわかります。

 しかし、分析は容易ではありません。

 学力が伸びたという結果は、IRTを活用したテストでわかりました。しかし、原因の特定は非常に困難です。教材や指導法といった授業の工夫が原因かもしれませんし、クラス替えで安心して学べるクラスになったり楽しく学ぶ仲間ができたりしたことや、家庭学習の習慣などの学校外の状況が変化したことが原因かもしれません。

 そのような分析は到底無理だと思われる方が多いでしょう。一つの学校だけでは困難です。しかし、多くの学校が学び合えば、分析は可能となります。各学校では「ある方策がこのような児童生徒に対して学力のこの部分を伸ばす」という仮説を一つでよいので提示します。多くの学校が自校での実践をもとに様々な仮説を提示してくれれば理想的です。次に、各学校は仮説をいくつか選んで試します。成果が上がれば、その仮説は検証されたことになります。仮説を複数組み合わせた新たな仮説を立て、検証することも可能です。仮説とその検証結果を共有し、それを積み重ねていけば、各教員や学校の指導が充実し、埼玉県の子供たちの学力は向上するはずです。

 すぐれた教育財産を共有し、積み上げていく文化を埼玉県全体に根づかせたいという無謀な願いを抱いています。戦後70年間にすぐれた実践がたくさんあったにも関わらず、継承してこなかった後悔と、現在もすぐれた実践がたくさんあるにも関わらず、共有できていない反省から、よさを共有する文化を何としても築かなければならないと考えています。

 教員も学校も教育行政も理論家ではなく、実践家です。よさを共有する文化を築く具体的な手を繰り出し、実現に向けて一歩ずつ前進するのみです。具体的な手立てやその考え方については次回以降にご紹介しましょう。

 その前に、子供たちにどんな学校教育を提供すればよいかについて、もう少し考えてみたいと思います。

 

心得九十二 非認知能力の育成を重視する

 志木高校長のとき、「規律と節度のある学校文化」づくりに努めました。規律ある生活態度や基本的な生活習慣は教育活動の基盤ですから、どの学校でも力を入れて取り組んでいます。遅刻指導や清掃指導、身だしなみ指導などに取り組まない学校はありません。しかし、全国学力テストやPISAなどで測ることのできる認知能力は注目されますが、自分を律する力や勤勉性などの非認知能力はあまり注目されてきませんでした。

 ところが、近年、就学前教育で非認知能力を高めることが有効であるとか、非認知能力が労働生産性によい影響を与えるなどと言われるようになってきました。ようやく日本の学校の実践に学問の世界の研究が追いついてきたようです。この機会を逃しては「もったいない」です。日本の学校が地道に取り組んできた非認知能力の育成が日の目を見る絶好の機会です

 そこで、学力向上の視点から非認知能力の有用性を明らかにする戦略を採る予定でいます。学力向上については、①教材や指導法などの改善、②やり抜く力などの非認知能力の育成、③間違えた問題をできるようにするなどの習慣の獲得、④学習に集中できるクラスづくりなどの環境の整備、等の対策を複合的に講じる必要があります。①~④を組み合わせることによって成果を出し、②~④の視点を強調する戦略です。

 非認知能力については、自分を律する力、やり抜く力、助けてもらう力、教わる力、聴く力、リスペクトする力、共感する力などとわかりやすく表現することをお勧めします。このように表現しても育成は容易ではありません。強要すると、つけたい力ではなく、言われたとおりにやる力だけが身についてしまいます。子供たちが自ら身につけるよう、どう仕掛けていけばよいでしょうか。

 非認知能力の育成は困難であるからこそ、プロである教員の出番です。その教員をやる気にさせるところに管理職の出番があります。管理職はプロ中のプロです。何と愉快なことでしょう。

 ところで、幸せになるには幸せになる力を身につける訓練が必要だと聞きました。非認知能力を身につける努力はその訓練になるでしょうか。


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