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第39回  第5章 秋 ~共鳴する~   学び合う⑥

2018年09月19日 | 管理職は愉快です
心得百四 自らの「学校経営の教科書」を作る
 
 学校間ネットワーク会議推進委員から感想が届きました。「学力層の異なる学校の取り組みを知ることができたことは大変価値のあることで、ありがたく感じた」「学校ごとの学力向上に向けた情報を入手できたことが最大の収穫だった」「どの学校もやれることをやっている。これを継続させ発展させるための組織づくりや組織運営が課題と感じた」などの感想です。
 
 学校間ピアレビューがいくらか有効に機能し始めたらしいので安心しましたが、同時に、相変わらず学校経営方策の積み上げや共有が浸透していないことを痛感しました。学校経営方策を共有する改革は始めたばかりですので、あせらずにじっくりと共有する文化を築いていくことにします。
 
 学年主任や教務主任等の経験がなく、教頭も2年間しか経験しなかった私は、実地で学校経営を学ぶ機会があまりありませんでした。そこで、ジョン・コッターやピーター・ドラッガー、ピーター・センゲ、稲盛和夫氏などの経営や組織に関する本を読んで学校経営に取り入れようと試みました。しかし、なかなか上手くいきません。「学校経営の実践知を積み上げ、皆で共有する文化があったらいいなあ」「学校経営に関する本がほしい」「民間には経営コンサルタントがいるけれども、学校にも経営コンサルタントがいたら助かるな」などと思ったものです。
 
 こうした思いから、学校経営の実践知の積み上げとその理論化を目指しました。担当に「経験則による学校経営ではなく、大学や研究機関と連携し、学校経営を理論化し、活用していこう」と指示し、学校経営に関する理論的分析や学校経営方策の積み上げ等の研究を始めました。2014~15年、筑波大学学校経営研究室の浜田博文教授と県高等学校長協会と県教委の3者の共同で、「直面する状況や課題に応じた学校経営の在り方に関する調査研究」を実施しました。
 
 浜田教授から「校長が学校を変えたいという思いを抱き、その実現を図ろうとしても一人でできることには限りがある。長期的な視野に立って前任の校長の良さを引き継ぎながら、自己の取り組みを発展させ、次代の校長へと襷を繋いでいくようなイメージをもって、自分の果たす役割を考えることが重要である」との示唆をいただき、研究協力校2校の過去10年にわたる取り組みについての調査を実施しました。その結果、「組織文化の把握」から「共有ビジョンの形成」へ、さらに「行動化」、「組織文化の再構築」へという学校改革のプロセスを明らかにすることができました。
 
 校長協会学校管理運営部会では、「各高校長の優れた取り組みに学び、よりよい学校経営の実現に向けて、これまでの各校長の学校経営方針等を積み上げ、活用していく」ことを目的に校長アンケートを実施し、①学校経営にあたって大切にしようと考えたこと、②もっとも良かった取り組み(ベストプラクティス・成功事例)について、分析を行いました。
 
 16年3月、両者の調査研究を報告書としてまとめました。この報告書は、学校改革のプロセスのポイントやキーワードなど、学校経営の核となるものを抽出して体系化し、「学校経営の教科書」と言えるものに仕上がりました。
 
 調査研究を行い、報告書を出すと、終わった気になります。しかし、報告書は終わりではなく、始まりです。教科書の作成は、教科書を用いて学ぶための出発点です。そこで、報告書から抜粋して「校長であるためのノート」を作成しました。調査研究のまとめを手がかりとして、校長自らの実践知を加えながら自らの「学校経営の教科書」を作り上げていただきたいと考え、(株)PHP研究所発行の柳井正著『経営者になるためのノート』の「自分で完成させていくノート」というコンセプトを参考にさせていただきました。
 
 この「校長であるためのノート」は、担当の発案です。担当が、自ら学び、自ら考え、主体的に判断、行動した結果として生まれたものです。このように誰もが主体的に行動しなければ、激動の時代を乗り切ることはできません。
 
 実践知や理論知、あるいは暗黙知や形式知を活用しやすいように整理することはとても大切なことです。しかし、それ以上に実際に活用することが重要です。知を収集することより、知が流通することのほうが困難ですから、知恵をしぼらなければなりません。流通を促す仕掛けの一つが「学校間ピアレビュー」であり、「校長であるためのノート」ですが、まだまだ十分とは言えません。一過性に終わらない、「学校間ピアレビュー」のような継続する仕掛けをいくつも講じる必要があります。
 
 「学び続ける教師」「学習する学校」「学習社会」を実現するには、後押しする仕組みをもっともっと工夫しなければなりません。
 
心得百五 「贈与」の文化を醸成する
 
 「学校経営コンサルタントがいたらいいな」という発想から生まれたものが「拠点校参与」という制度です。13年度から県立学校3校に、15年度からは4校に配置しました。
 
 拠点校参与は、年に2~3回各学校を訪問し、学校の特徴的な取り組みについて校長から話を伺うとともに、課題や困りごとなどについても相談に応じています。校長就任1年目の学校には必ず年に3回訪問しています。校長からの相談内容については拠点校参与止まりとして、教育委員会には報告しないこととしており、校長が遠慮や躊躇することなく相談できる体制にしています。拠点校参与には様々な経験を積んだ退職校長を充てており、その豊富な知見や経験は後進の管理職にとっては大変勉強になります。
 
 知が流通するのは、人と人との間です。知の流通を促すには、人と人のつながりが多様であり、深いものである必要があります。そのつながりを豊かにするものが「贈与」という行為ではないでしょうか。
 
 拠点校参与は職務として各学校を回っていますが、校長からの相談に応じるときには「贈与」の気持ちで接しているのではないかと想像しています。先人からいただいたものを後人にお返ししていくという営みが教育ですから、管理職としての知見もまた後人にお返ししていく文化を築く必要があります。そうした「贈与」の文化を拠点校参与が醸成してくれている気がしています。
 
心得百六 難題を愉快、痛快、爽快に振り払う
 
 学び合う学校文化づくりへの挑戦のお話はいかがでしたでしょうか。多様な取り組みを工夫していますが、すぐに成果は見えてきませんし、次々と難題が降りかかってきます。
 
 国もアクティブ・ラーニングという形で学び合いを推進しています。そのために大学入試制度の改革にも取り組んでいます。しかし、ここにも難題が襲いかかっています。
 
 中央教育審議会答申では、「『一点刻み』の客観性にとらわれた評価から脱し」「段階別表示による成績提供を行うことで」、高校が受験対策の授業を減らし、アクティブ・ラーニングに力を注げるよう、改革を打ち出しました。しかし、高大接続システム改革会議「最終報告」では、大学入学希望者学力評価テスト(仮称)のマークシート式問題の「結果の表示については」「多様な情報(例えば、素点だけでなく、各科目の領域ごと、問いごとの解答状況も合わせて提供するなど)を各大学に提供する」とし、一点刻みの選抜を可能にしました。「段階別表示による成績提供」は、一定ラインを超えればそれ以上の得点は必要ないということを意味します。知識の詰め込みではなく、自ら考え、行動することを重視する学びへの改革を意図していたはずです。当初の理念を覆す、この難題にどう対処すればよいでしょうか。
 
 学び合う学校文化づくりは難題を振り払いながら進む茨の道です。しかし、困難だからこそ、志をともにする多くの仲間を得ることができます。仲間とともに難題を乗り越えるからこそ、喜びも大きいのではないでしょうか。後から来る人たちに学び合う学校文化を「贈与」できるよう頑張ってみることも、愉快、痛快、爽快です。

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