はがきのおくりもの

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第38回  第5章 秋 ~共鳴する~   学び合う⑤

2018年09月18日 | 管理職は愉快です

心得百一 学校のよさを磨き合う

 

 2011年は神奈川県立湘南高校90周年の年でした。記念誌への寄稿依頼とともに、川井陽一校長から1都3県で校長の交流会を企画したいとの提案を受けました。どちらも快諾し、善は急げと、川井校長が日比谷高校の石坂康倫校長を、私が千葉高校の高岡正幸校長を誘い、4校で交流会を立ち上げました。初めての交流会は同年1012日、日比谷高校で行ったのですが、その日の交流会の内容はもう覚えていません。しかし、ある光景だけが鮮明に記憶に残っています。

 公式の交流会を終え、夜の街で懇親を深めようと校舎を出て「遅刻坂」にさしかかったときのことです。部活動を終えて坂を上ってきた女子生徒2人が立ち止まって「さようなら」と挨拶してくれました。その所作の美しかったこと。「さようなら」と挨拶を返しながら「女子生徒がいるのもいいものだなあ」と、男子校の校長として改めて思ったものです。素敵な立ち振る舞いを身につけた若者に出会うと、日本の未来は捨てたものではないと思えてきます。

 この交流会は、翌12年春、川井校長と石坂校長が退職したことで立ち消えになりかけたのですが、都立西高校の宮本久也校長と出会い、新たに5校で交流会を再開しました。湘南高校の羽入田眞一校長と日比谷高校の武内彰校長も喜んで参加してくれました。このとき、副校長・教頭の交流も実施し、教員や生徒たちの交流も目指すことにしました。現在は、県立船橋高校と浦和第一女子高校が加わり、7校で交流しています。英語部即興ディベートの取り組みなどを通して生徒同士の交流も始まっているそうです。

 積極的に活動している学校同士の交流は非常に刺激的です。交流の輪も広がります。よさの共有だけでなく、よさの磨き合いも始まります。他校のよさを知ることで、自校のよさを高めようと教職員や生徒たちが自ら動き始めるのです。

 この経験を県立学校全体に広げることができないかと考え、13年に埼玉県教育長になったとき、学校間の学び合いを後押しする仕組みの検討を指示しました。

 

心得百二 評価する者が最も学ぶ

 早速、13年度中に東京大学大学院教育学研究科と「学校経営の研究における連携・協力に関する覚書」を取り交わし、14年度から「教員の学びを支える学校内・学校間ネットワークの構築に関する調査研究」を始めました。同時に、学校の第三者評価システムを見直し、15年6月に「学校間の学び合いガイドライン~教育力向上を目指した学校間の学び合いに向けて~」を制定し、学校間ピアレビューをスタートさせました。

 前者では、「専門性が異なる県立高等学校等において、教員間の学び合いの現状を調査し、学び合いが起こる共通の要因が確認できれば、教員の学び合いを促進させる方策を講じることができ、学校経営の改善に繋がるであろう」という仮説の下、学び合いの成功事例の発信や共通する促進要因と阻害要因の分析、教員がチームで課題解決に取り組むプロジェクトの導入・分析について、8校の研究協力校とともに研究しました。

 聞き取り調査で収集した研究協力校の事例は、全県に発信することにより、学校経営に関するヒントになると考え、15年8月に県立学校の校長、教頭へ「学び合いに関するヒント・事例集」として配布しました。そこでは、学び合いを促進する要因として、専門性との内容的レリバンスや組織化・システム化、キーパーソンの存在、危機感の共有、コミュニケーションの場など10個の要因を抽出し、紹介しています。

 15年度末に「教員の学びを支える学校内・学校間ネットワークの構築に関する調査研究」の最終報告書を出すとともに、16年度は推進校10校を指定し、研究を深めています。

 後者の学校間ピアレビューは、埼玉県が取り組んできた外部有識者による第三者評価を発展させたものです。学校自己評価システムにより各学校で積み上げてきた成果を県立学校全体の共有財産とすることを狙った取り組みです。学校間のネットワークを構築して学び合いを行い、学校間ピアレビュー(学校間の学び合い報告)において「自校で評価できる取組(グッドプラクティス)」などを共有することにしたのです。

 まず、同じような課題を有する3~5校で編制したグループにおいて学校間ネットワーク会議を実施し、学校間ピアレビューをはじめとする学校間の学び合いを行います。その後、各学校は「ピアレビュー報告書」を完成させます。この報告書により、それぞれの学校が何に力点を置いて教育活動を展開し、その背後にどんな優れたマネジメントがあるのかを知ることができます。新たな角度からの第三者評価となるとともに、グッドプラクティスを県立学校全体の共有財産とすることが可能です。今後は、共有財産の流通をさらに促進する仕組みを工夫していきます。

 学校間ピアレビューは、学校間の学び合いの始まりを告げる仕掛けの1つにすぎません。

 「評価する者が最も学ぶ」という法則があります。この法則に従えば、自校の学校評価だけではなく、他校の学校評価も教員が行うとよいでしょう。他校を評価することで、深く学ぶことができます。「教える者が最も学ぶ」という法則もあります。自校のよさを他校に教えることで、自校のよさを深く学ぶことができます。これらの法則を活用して、学校間の学び合いを広め、かつ深めていきたいと考えています。

 

心得百三 「学習者は誰か」を見つめる

  本県では、03年から実施してきた「教職員施策提案制度」を14年から「教職員提案制度」と改め、従来の「施策提案」だけでなく、学校における課題を教職員がチームを組んで解決した実践事例をもとに、他校でも活用できる方策等をまとめた「実践提案」も募集することにしました。「学び合い」や「よさの共有」、「よさを流通させる仕組みづくり」の視点からの改革です。「教職員提案制度」は県内の小学校や中学校、高校、特別支援学校の教職員が参加できる制度ですから、「学び合い」や「よさの共有」などの考え方を全県に浸透するよい機会となると考えました。

 16年からは提案の審査の改革に取り組んでいます。二次審査を過去の提案制度表彰者やはつらつ先生(優良教員)などにお願いすることにしました。将来的には、10年次や20年次研修の受講者に一次審査に参加してもらい、二次審査を管理職候補者や教頭・校長年次研修受講者等にお願いすることを考えています。法則「評価する者が最も学ぶ」を活用し、「県教委が種を蒔く」から「有用性を自覚した教員自らが種を運び、蒔く」への転換を目指しています。現場の教員や管理職が多数審査に参加することで、他校の実践のよさを知り、よさの共有が進むと期待しています。

 第三者評価を行い、外部有識者が最も学びました。教員評価を行い、校長や教頭が最も学びました。提案の審査を行い、教育局職員が最も学びました。このように、これまでは最も学ぶべき人が学ぶ仕組みではありませんでした。学習者は誰かという視点を大事にして、最も学ぶべき人が学ぶ仕組みを考えていかなければなりません

 これは日々の授業にも言えることです。学習者は児童生徒です。しかし、指導法の研究をする教員が最も学んではいませんか。もちろん教員は大いに学ぶべきですが、最も大切なことは児童生徒が学ぶことです。「『授業者中心の授業から学習者中心の授業』への転換」(小山英樹・峯下隆志・鈴木建生著『この一冊でわかる!アクティブ・ラーニング』より)というパラダイムシフトを意識しなければなりません。「アクティブ・ラーニングは指導法ではなく、学習法である」と言われる所以ですし、その意味を理解しなければ、現在進行している変化の本質は見えてこないでしょう。

 学習者は児童生徒か、教職員か、それとも自分自身か。「学習者は誰か」という一点を見つめることで変化の本質が見えてきます。変化の本質が見えれば、管理職として打つべき手が見えてきます。管理職が愉快に思えてきませんか。


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