はがきのおくりもの

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第47回  おわりに

2018年09月28日 | 管理職は愉快です

 ~ヒトやモノ、コトとの関わりを豊かに~

 

 私は大変な思い違いをしていました。

 管理職の楽しみ方を伝えても、管理職を志望する人は増えません。思いを込めて「管理職は愉快です」を綴っても、管理職志望者不足は解消されません。最後の最後になって思い違いに気づくとは、私はなんと迂闊な人間でしょうか。

 埼玉県の小中学校の2017年度教頭候補者選考では、志願者407人中、登載者が238人の1・7倍の倍率でしたし、県立高校及び特別支援学校の前期選考では、志願者47人中、登載者が36人の1・3倍の倍率でした。2年前はそれぞれ1・8倍、1・4倍でしたから、倍率は依然として低下し続け、事態は悪化しています。「管理職は愉快です」の効果はまったく見られません。

 

心得百二十三 管理職になることを勧める

 小中学校の教頭候補者1年目の者にアンケートを実施し、志願者を増やす方策を探ったところ、教員は勧められてから管理職になることを考え始める傾向があることが明らかになりました。

 志願の動機やきっかけについては、「学校の管理職や教育委員会の職員から勧められたから」が64%強、「尊敬する管理職がいてその影響を受けたから」が56%弱でした。「子育てや介護等の家庭の事情に目途がついたから」が女性は20%強、男性1%弱、40歳以上は10%弱でしたから、40歳を超えて育児から解放されてから管理職を目指す女性が一定程度いることがわかります。

 管理職になることを躊躇した理由については、「自分に管理職の資質や能力があるか不安だった」が66%強、「教員としての仕事にやり甲斐を感じていた」が52%弱でした。若いうちからグループのリーダーや委員会の長などを経験させることが重要です。

 登用猶予制度(候補者になっても管理職への登用が猶予される制度)については、制度の認知率が女性83%弱、男性75%、「制度を知っていて管理職選考を受考しやすくなった」が女性30%強、男性10%強、「制度を知らなかった」が23%でした。登用猶予制度は女性だけでなく男性に対しても少なからず有効なようです。制度を周知徹底することにしましょう。

 教員は教員としての仕事にやり甲斐を感じており、管理職になることを勧められなければ教員を全うする傾向があります。どういう人にはどういう勧め方が有効かを研究し、共有するほうが、「管理職は愉快です」の執筆よりも格段に効果が大きいことがわかりました。

 

心得百二十四 原理原則を自分のものにする

 私の思い違いは明らかになりました。しかし、思い違いの原因を明らかにしないままでいると同じ間違いを繰り返します。原因を究明する必要があります。そこで、あれこれ自問したところ、3つの原因が見えてきました。

 「愉快そうだなあ」と思ってもらえればやりたくなるに違いないと考えて執筆を始めました。好奇心を刺激することを目指したのです。しかし、多くの人は好奇心よりも不安のほうが強いことに気づきませんでした。不安を取り除き、「大丈夫、あなたならできる」と背中を押すことが大切でした。しかも、それができるのは身近な人であって教育長ではありません。このことに思い至らなかったことが、原因の1つ目です。

 2つ目の原因は、愉快とは「やっているうちに愉快になる」もので「やり始める前には愉快は見えない」ことを忘れていたことにあります。「こんな愉快があるよ」と紹介することは「愉快の見える化」のようですが、愉快とは、人によっても出来事によっても異なる一期一会ものであって「見える化」できないものだったのです。つまり、愉快を紹介しても、その人の愉快にはならず、やる気を喚起するものにはなりませんでした。

 3つめの原因は、「意味や価値はヒトやモノ、コトとの間に生まれる」という原理原則を完全に自分のものにしていなかったところにあります。愉快は追い求めるものではありません。愉快は目標にはなりえません。愉快は意味や価値と同様に行動した結果として、ヒトやモノ、コトとの間に生まれるものであって、あらかじめわかっているものではありません。原理原則を自分のものにしていれば、「管理職は愉快です」を執筆する方策ではなく、教員を様々なヒトやモノ、コトに出会わせて、管理職になろうという気持ちを起こさせる方策を考えることができました。

 

心得百二十五 ヒトやモノ、コトとの関わりを豊かにする

 教育の未来を考え、行動する際には、「意味や価値はヒトやモノ、コトとの間に生まれる」という原理原則は非常に重要な指針となります。

 これまでの教育は、積み上げられてきた意味や価値を理解し、活用できるようにすることがメインでした。これからの教育は、新たな意味や価値を生み出し、活かすことがメインとなるでしょう。「様々なヒトやモノ、コトと関わり、意味や価値を生み出す経験をどう積ませるか」が教育のメインテーマとなっていきます。アプリオリには生きる意味を有しない人間にとって、この原理原則は生きる意味を生み出すために何をすればよいかの道しるべになります。

 次期学習指導要領はこの原理原則に沿った改革であると私は捉えています。アクティブ・ラーニングもカリキュラムマネジメントも開かれた教育課程もすべて、ヒトやモノ、コトとの関わりの中から新たな意味や価値を見出そうとする取り組みです。「何を学ぶか」から「どう学ぶか」へ踏み出したのもそのためです。

 しかし、それは学習指導要領の終わりの始まりです。学習指導要領は「何を学ぶか」の基準を定めたものです。「どう学ぶか」は一人一人で異なりますので、共通の基準を定める学習指導要領にはなじみません。人工知能による教育が広まると、あらかじめ基準や目標を定めて行う教育は、人工知能に取って替わられるでしょう。「どう学ぶか」や「どんな意味や価値を創造するか」が教育のメインテーマとなったとき、輝かしい栄光を背負った学習指導要領は日本の教育にとって大きな足枷となります。私たち教員は学習指導要領や教科書を超えて先へ進まなければなりません。とてつもなく愉快な時代が到来しつつあります。

 急激なグローバル化に直面し、私たちは多様な価値観と共生することができず、自分たちだけの価値観に閉じ籠もりたくなっています。外交や経済だけでは対応できず、スポーツや教育への期待が高まりつつあります。学校や地域、企業という枠や、国内と国外という枠を超えた教育が求められつつあり、自助の気概と共助の知恵、公助の慈悲を総動員して対処しなければなりません

 こうお話しすると、大きな物語のように思われるかもしれません。現象は大きな物語ですが、具体的な対策は小さな物語の中にしかありません。ヒトやモノ、コトとの関わりは一人一人で異なりますし、そこに生まれる意味や価値もまた多様です。小さな物語は一人一人の近傍で紡がれていきます。その近傍がたくさん集まり、学校や社会、世界を作っていきます。一つ一つの近傍にある小さな物語がヒトやモノ、コトとの豊かな関わりに満ちたとき、学校も世界も人々が生きやすい場所になっているのではないでしょうか。

 ヒトやモノ、コトとの関わりを豊かにすることに多く関与できる愉快な職が管理職です。そんな管理職を大いに楽しんでください。

 5の3倍の極意と5の3乗の心得を綴ってきました。5とは「悟」でしたでしょうか。それとも「誤」でしたでしょうか。周りを見れば同じような思いや難題を抱えた仲間「伍」がたくさん(3)います。気楽に管理職を楽しみましょう。

 思い違いから始めた「管理職は愉快です」でしたが、私の思い違いに「内外教育」の編集長が共感し、応援してくださり、連載を続けることができました。ファンレターはありませんでしたが、熱心あるいは気まぐれに愛読してくださった読者の皆さんに、心より感謝申し上げます。誠にありがとうございました。

 最後に……私の示した極意や心得を信じてはいけません。心に留めず、忘れることが肝要です。


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