はがきのおくりもの

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第40回  第5章 秋 ~共鳴する~   自立する①

2018年09月20日 | 管理職は愉快です

極意十三 自立する

 

 現在、学校教育は3つの大きな危機を抱えています。

 1つ目の危機は、「教員が教える」だけの一斉指導型授業から「児童生徒が学ぶ」話し合いの授業へ授業観や教育観を転換することができるかという危機です。アクティブ・ラーニングはその端緒にすぎません。

 2つ目の危機は、教員の質が多様化しているなかで学校全体の教育力を上げることができるかという危機です。教員が互いの良さを活かし合い、チームとして協働し、学校全体の教育力を向上させなければなりません。

 3つ目の危機は、財政破綻という最悪の事態を想定して対応を考えていくことができるかという危機です。国や県に依存せずに学校を経営する気概を持たなければなりません。

 「自分が対応することではない」「誰かが回避してくれるだろう」と待っていると、知らぬ間に置いてけぼりになってしまいます。自分で考え、判断し、行動しなければ、危機を乗り越えることはできません。子供たちに「自ら考え、判断し、行動せよ」と教えているのですから、管理職や教員が自ら範を示さなくてはなりません。

 サミュエル・スマイルズ著『自助論』にある「天は自らを助くる者を助く」を思い出します。与えられた裁量を存分に活用して最善を尽くすことにしましょう。それが真の意味で「自立する」ことですし、子供たちに見せたい姿です。

 

心得百七 「児童生徒が学ぶ」話し合いの授業への授業観の転換を推進する

  2016年8月、埼玉県東松山市で中学生3人を含む少年5人が16歳の少年を殺害する事件が発生しました。大変重大な事件であり、極めて根の深い事件でもあります。県教委として相当の覚悟を持って臨まなければ、同様の事件を根絶することはできません。現在、東松山事件に関わっている2市教委と県教委とで合同の検証委員会を立ち上げ、少年をどうしたら救うことができたかという視点から事件を検証し、今後の対策について多方面から検討しています。

 16年9月23日付の埼玉新聞や産経新聞によると、有識者が「周囲の大人は諦めずに関わり、『いつも見ているよ』というサインを出し続けることが大切」「元不良少年たちと専門家が各家庭に足を運び、家族を含めた対話を持つことが手間がかかるが一番効果的だ」「不良グループに対し、学校や地域、専門機関、警察が具体的に対応を考えなければ、同じ事件が起こりかねない。彼らが輝ける場所、出番を社会の中で持てるよう支援していくことが必要」「これまで関わってきた大人たちが子供たちの行動背景を理解する努力をし、成長をサポートしてあげることが大切」などと、大人の関わりや居場所づくりの必要性を訴えています。社会全体で少年たちをサポートする仕組みや風土の構築に向けて、県教委が率先して動く必要があるでしょう。

 一方で、小学校や中学校、高校の各段階でできたことやしておくべきことがあったのではないかとの思いがあります。勉強がわからなくて学校に行きたくなくなったのかもしれません。子供たち同士が互いをよく知らず、学校は安心して学習できる場ではなかったのかもしれません。「一人も見捨てない」授業や、互いを知り、関わり合うクラスづくりが必要だったのではないでしょうか。「児童生徒が学ぶ」話し合いの授業への転換が急務であると強く感じています。

  若者の自殺が増えています。15歳から39歳までの死因のトップは自殺です。健康社会学者の河合薫氏は日経ビジネス(16年9月27日)に、「『自分がいなくても』から喪失感が始まる」「『あなたが大切だ』『あなたがそこにいることはちゃんと分かっていますよ』という価値あるメッセージを他者から繰り返し受け取ることが生きる力をもたらす」「たった一言『ありがとう』と感謝されたり、『がんばってるね』と認めてもらえるだけで『自分の存在価値(意味)』を見いだすことができ、有意義感が高まっていく」「『自己有用感』が自殺リスクを抑え、『自分の死を悲しむ人がいる』という確信が、暗闇に一筋の光になる」「私たちは価値あるメッセージの送り手になれているか」などと書いています。「価値あるメッセージの送り手」を育てるクラスづくりを進めていかなければならないのではないでしょうか。

 埼玉県では、県学力学習状況調査を用いて学力向上に向けた指導法や教材などの改善・蓄積・共有を図っています。東京大学CoREFとアクティブ・ラーニングの一つである協調学習(知識構成型ジグソー法)の共同研究を進めて七年目になります。どちらも全国に先駆けた取り組みで、成果が期待されています。

 初期の段階では、意欲のある教員や学校が先導するので、目に見える成果が出ます。ピグマリオン効果です。意欲のある教員は授業の土台となるクラスづくりを無意識的に行っていますし、そもそも児童生徒の教員に対する信頼度が高いので、教育効果が上がります。しかし、全体に広げる段階になると、成果は現れにくくなります。したがって、全体に広げる段階に入ったときには、クラスづくりや信頼獲得を同時に進めなければ成果は現れてきません。

 クラスづくりとは、互いを知り、異質性を認め合い、成長し合う関係を作ることです。「価値あるメッセージの送り手」となる、言葉を大切にする言語活動が重要です。表面的にしか知らずに群れているだけで、自分の考えを持ち、表現するといじめに遭う関係では、アクティブ・ラーニングは成立しません。群れの集まりをいかにして自立した個が集う集団にするか。それがクラスづくりです。

 このクラスづくりへの希望を菊池省三氏や木村泰子元校長の実践に見ました。『蘇る教室 学級崩壊立て直し請負人』『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡』『挑む』『菊池省三の学級づくり方程式』『「みんなの学校」が教えてくれたこと』『「みんなの学校」流・自ら学ぶ子の育て方』などを読みした。「児童生徒が学ぶ」話し合いの授業への授業観の転換には、言葉によるコミュニケーション能力を鍛えるクラスづくりが不可欠です。指導法とともに授業観を共有しなければ、学力向上もアクティブ・ラーニングも海の藻屑と消えます。

 東松山事件を二度と起こさないためには、「児童生徒が学ぶ」授業観とその指導法への転換が必要不可欠です。この事件で、埼玉県は天から「ターニングポイントを超えられるか」と試されています。踏ん張りどころです。危機直面すると元気が湧く本能を全開にして、明るく元気に危機に向かっていくことにします。

 

心得百八 授業観の転換プロセスを先頭に立って指揮する

 授業改革、教育改革の方向性がはっきりと見えてきました。ここからが管理職の醍醐味です。どうやって学校全体や県全体に授業観の転換を実現するか。管理職としての腕の見せ所です。

 ジョン・コッターの8段階組織変革プロセスを確認しましょう。第1段階の「危機意識を高める」では、東松山事件や若者の自殺問題、アクティブ・ラーニングの普及などの観点から、教育長の私から危機を訴えていきましょう。第2段階の「変革推進のための連帯チームを築く」では、2市教委や県教委に連帯チームを築きましょう。第3段階「ビジョンと戦略を生み出す」では…と考えていきます。

 学校における授業観の転換は、校長が先頭に立って指揮します。連帯チームを築く際には、管理職以外の2名の協力者獲得に全力を尽くすとよいでしょう。パレートの法則でいう協力的な2割と協力体制を築き、中間層の6割を味方に取り込んでいきます。次に…と、熟慮、祈念、放下、断行していくのは、なんと心躍る経験でしょうか。ターニングポイントに立ち会うことのできた管理職は幸運です。自らが先頭に立って皆とターニングポイントを超えたとき、どんな未来が見えるでしょうか。学校全体の授業観の転換もクラスづくりと同様に、互いを知る関係性づくりから始めることが大切かもしれません。


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