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体系的「場」つくり理論シリーズ その26 ニューノーマル時代の「働き方トランスフォーメーション(WX)」を加速させる 『ヒューマン・コミュニティオフィス』の展望と課題

2022-09-05 11:07:00 | 日記

                                   
JFMAの『人と場へのFM投資価値研究部会』での活動論文を寄稿したものです。

少しまとまったボリュームとなっていますがお時間あるときにご覧ください。

【サマリー】

コロナパンデミックは、「決められた時間と決められた場所で、人間が集合し交流しながら働く場所」を『オフィス』とした概念意識を変質させている。
「仕事」にフォーカスされた「オフィス」から、「人間」にフォーカスした『ヒューマン・コミュニティオフィス』へ移行してゆく未来。私たち人間一人ひとりが、組織定年までの「仕事人生時間」の範囲だけで「オフィス」を語るのではなく、人生100年時代の「生涯人生時間」を充実して幸福に暮らせる「コミュニティ社会場」として「オフィス」の在り方を探る。

【活動内容】
メインテーマ
「ワークプレイス」へのFM投資価値評価を、金銭的視点での定量評価のみならず、人間の「感性」や「心情」といった心理的視点、また、「働き心地」や「快適性」など身体的視点での定性評価にも焦点を当て、FM投資意義とその投資効果等を、経営者にとっても納得感のある「定性評価手法」を研究し、戦略経営FMの普及を目指す。特に、コロナ禍におけるワークスタイルの変化に着目し、リモート・テレワークの功罪についての研究を深めている。

【本文】

1. 「働き方トランスフォーメーション」がもたらすオフィス概念のパラダイムシフト 

コロナパンデミックは、人々の経済活動のスタイルや社会常識感を変えてゆく変節点となった。この変節点を起点として、働き方自体も大きく変わり始めた。オフィスに出社して、長時間労働を強いられていた時代から、新型コロナ感染を制御することを目的として、オフィスに出社しない「在宅テレワーク」の働き方が定着することとなった。しかしながら、2020年始めから、多くの組織で導入された「在宅テレワーク」の期間が長期化している昨今、労働者の在宅執務環境の問題や心身疲労などの精神的負荷、そしてオンライン仕事の限界が露呈しつつあり、単純在宅テレワーク・リモートワークの見直し気運が醸成されつつある。
社会では、サードオフィス構想やワーケーション・ワークスタイル、そしてコ・ワーキングやコ・クリエイション型シェアオフィス、そしてバーチャルオフィスなどに代表される、多様でフレキシブルな仕事スタイルへの変移「働き方トランスフォーメーション(WX)」が触発されている。
この結果、「決められた時間と決められた場所で、人間が集合し交流しながら働く場所」としての「オフィス」の在り方や価値評価が変質しつつある。
一部の企業経営者は、WXとデジタル・トランスフォーメーション(DX)を掛け合わせれば、「物理場リアルオフィスなどなくても、在宅ワーク等を組み合わせて仕事はできる」との経営判断をするケースもあるようだ。
企業経営者にとって「オフィスの費用」は、大きな「コスト」との意識を持つ傾向があることから、「コスト削減」に直結するオフィス空間スペースを減床させる「誘惑」に、多くの経営職階の人たちは直面している。
既に、現行オフィススペースの面積を半減させる方針を示している大手企業もあり、日本社会での「オフィスの概念」は正にパラダイムシフトの渦中にあると言える。
今まで社会が思い込んできた常識感の中で、オフィスの在り方、そしてオフィスを利用する人の視点から、人生における「働く」と「生きる」を人間の在り方の視座から考察してみたい。

2.オフィスの在り方と人間の在り方
「働く事」と「生きる事」 人生における働く意味と価値

「オフィスの在り方」を未来定義するには、オフィス機能を活用して価値創造行動に携わる「働く人々」の意識の変遷を鑑みながら、「人間の在り方」をベースとした考察と、時代や社会事情に適応させてゆくイノベーティブ思考が必要と考えている。「人と場へのFM投資価値研究部会」での研究主題でもある。
さて、オフィス機能の一つは「働く」場所である。そこで「働く」主体は人間「個」であり、企業等の組織は、人間「個」の集合体としての概念的な「器」であるとともに、人間「個」の相互知的交流を通じ「集合知」を蓄積増幅させて、新価値結合たるイノベーションや付加価値を創出してゆくインキュベーション「場」である。
「場」に集う人間「個」の「働くこと」の本質は、人間が持つ脳力や能力ともいえる「付加価値創出力」と「新価値創造力」の創発的活動により、幸福社会を希求し実現してゆく行動・行為である。
社会の常識は、雇用されて働いている労働者(被雇用者)は、労働関連法に基づき、雇用者に管理されて働くことへの当然意識がある。雇用者側には、労働衛生管理責任や、労働基準法に定められている「労働時間」規定等の法令により、労働者を適正な時間労働で働いてもらう責任がある。よって、働く人々の暮らし時間である「生活時間」は、非労働時間と認識されることとなっており、一般的社会常識では、仕事と暮らしは別軸で考えられている。「働き方改革」とした、過剰労働の是正化の流れの中で、適正な仕事時間と暮らしの時間を「均衡」させる「ワークライフバランス」なるコンセプトが社会に浸透しつつある。この理念は首肯されるものではあるが、知識労働等に従事している一定割合の労働者にとっては、「仕事時間」と「生活時間」が明確に区別出来ない働き方をしているケースも多い。筆者は、「仕事時間」と「生活時間」を「調和」させてゆく「ライフ&ワークハーモナイゼーション」との認識をすべき時代の流れを感じている。
この視点で、「オフィス概念」を考えてみると、オフィスとは、働く為の空間・時間に限定された「仕事場」だけではなく、人間が充実して豊かな人生を創造してゆく為の「人生の暮らし場」的な観点を考慮してゆくことも必要である。

3.現代組織社会における「オフィス概念」の思い込み感と「管理・監視マネジメント意識」からの解放

組織社会の常識や通念として、オフィスとは「働く場所」と認識されている。
企業等組織は、働き方の形態やミッションの違いはあれど、組織に共通している点は、「人間が担う価値創出活動」への期待値であり、組織はその創出された価値に対する「相応の報酬」を支払う資本主義社会の当たり前の構図がそこにはある。
この組織意識の背景には、「報酬」の妥当性を評価し、「価値創出活動」が適正になされているか、そしてその行為・行動が、組織価値の向上と発展に資するものでもあるかの「判断」をするために、組織側が、働いている人々を「管理・監視」する意識構造が定着している。
それ故に、働く場所としてのオフィスにおいて働いている人々は、経営管理職階のレイヤーから「管理・監視」されるのが当然と考えている。就業時間内では、働く誰もが「雇用契約」条件に従い、仕事に集中する事が是とされ、就業時間中に暮らし事(いわゆるプライベート)の時間を費やす事は「サボタージュ」ととらえられてしまう組織スティグマが依然として存在する組織は多い。
しかし、長年継続されてきたこの窮屈な「常識」のパラダイムが変質しつつあり、組織側の経営管理職階層の人々にとって、働く場所としてのオフィス概念への思い込みを再認識してゆくことが必要となりつつある。
「経営」は、企業等組織の中で働く人々を「管理監視」統制するだけでは無く、働く人々の創造力を誘発させる「心知の交流場」として、また、「暗黙知のスクランブル交差点」的な「形式知の創発場」としての企業等組織の「場」つくりをしてゆくことが求められる。更に、人間集団としての組織が、歴史を重ねながら醸成してきた「良き文化や風土」は継承しつつ、「悪しき慣行や文化」そして体育会気質的な「根性風土」は適正に改善してゆく事が必要である。組織のリーダーや企業等経営者は、労働者たる働く人々が集うオフィスを「新価値共創に向けた実験場」としての視点を考慮しながら、労働者が「遊びの如く働く」、謂わば、労働者をホモルーデンスの集合としてとらえ、「創造性を高める幸福なオフィスの在り方」を探求してゆくことが重要である。

4.オープンイノベーションを志向した解放型コミュニティオフィス  

一般的にオフィスの区画は、「共通目的」を持ってスペースを使用する、同一組織や人間集団が、情報セキュリティの観点から、他の組織や外集団とは隔離させて、限定された人々により利用されるのが通常の形であり、何ら「疑問」にも思われていないが、組織自体の情報資産管理へのセンシティブな思い込みが、組織の「意識サイロ化」を助長している側面も否定できない。
こうした意識風土は「隔離型オフィス」を志向させる傾向がある。しかしながら、一方ではオープンイノベーションを志向したオープンオフィス概念も併存している社会の中で、オフィス概念を再考してゆく事も必要である。
果たして、働く場所としてのオフィスは、同一組織の関係者だけが集い、空間を占有し、時間を共有することだけで「機能」を果たしていると言えるのだろうか。
この問いに対する社会意識の変化の顕れが、組織社会の共創志向やオープンイノベーション期待感を背景として、「コ・ワーキングスペース」型のオフィス提供事業が拡大していることの顕れであろう。しかしながら、現時点では組織社会側の「期待価値」を充足させるまでには至っていないように映る。それは、組織社会側が保守的なオフィス概念から脱却できていないことも理由の一つかもしれない。
では、どのような道筋を示せば、未来型オフィス概念への進化適応が促進されてゆくのであろうか。次節では、この問いを考えてみよう。

5.「未来型オフィス」の機能と役割を担う「コミュニティ・オフィス」の概念と考察

組織社会では「オフィス」を、働く人々にとっての仕事場所たる「物理的な器」としてとらえる見方が一般的である。そこには、人間の気持ちや心など、人間コミュニティにおける「意識の場」の要素は考慮されず、専ら「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」(ビル管理法)に遵法した、スペースや環境配慮が優先される傾向がある。
一方、オフィスを人間が新価値創造と付加価値創出をしてゆく「知的活動場所」ととらえた場合は、より人間オリエンテッドな要素たる、感性・情動や認知心理など、人間の深淵な精神性や尊厳に配慮した「想いの場」としての機能要素を実装してゆくことが必要である。
筆者は、この「想いの場」の概念こそが未来型オフィス概念のキーファクターになると考えている。
「想いの場」の概念オフィスの在り方とは、組織を越境した人々が集い、 お互いの息遣いを感じ、ノンバーバルコミュニケーショ ンができる「気」(活気、熱気、意気、才気、士気)や「オーラ」を交信しながら、安心、安全そして「人間愛」を直接感じられる時空間でのリアルタイム交流により、価値創出の喜びを共感できる「場」といえる。

6.「コミュニティ・オフィス」に不可欠な要素「安心・安全・安定・クリエイティブ、そして、わくわくハピネス」コンセプトデザイン思考

筆者は、「コミュニティ・オフィス」をデザインするにあたり、5つの要素を意識している。
それは、①安心 ②安全 ③安定 ④クリエイティブ ⑤ わくわくハピネスという要素。
個々の要素の意味合いについて敷衍しよう。
まず「安心」とは、集う人々が仕事と暮らしの調和を図りやすい心地良い環境と、ストレスフリーでリラックス感を醸し出す「空気感」を演出すること。いわば、「心理的安全性」に満ち溢れた時空感の創造である。
「安全」は、コロナパンデミックの中、空間スペースにおける密を回避し、一定のディスタンスを確保できる空間や動線設計の工夫、そして、空間のクリーンエアー・マネジメントの可視化を演出すること。
「安定」とは、安心・安全環境を持続的に継続運用をしてゆくこと。設備や装置を適切に設置した上で、「適正運用」を実践してゆくこと。総務FM部門の管財力が問われる。
「クリエイティブ」とは、人間の感性を刺激し、人間の潜在意識を誘発または触発させて、人間個の持つ「脳力」や「能力」そして「センス」を顕在化してゆく「場」の演出を意味する。具体的には、五感アプローチ手法やマインドフルネスアプローチ手法などを織り交ぜながら、サイエンス&アートをウェルバランスさせて、心地感とユーフォリア感、そして人間のセレンディピティを誘う「場」の要素と言える。
そして「わくわくハピネス」とは、人間のモティベーションやエンゲージメントレベルを、無意識のうちに向上させ、仕事や暮らしの中での活動を、「楽しさ」や「喜び」あるいは「感動」や「共感」のレベルに感受力を昇華させてゆく演出である。この効果は、仕事に対しては、集中力をフロー(ゾーン)状態にトランスフォームさせて、価値創出行動の練度や閃きの頻度を高めるとともに、人生暮らし時間の充実と「多幸感」に浸れる機会を創出する。

7.人間にフォーカスした価値創造空間としての「未来型モデルオフィス」のデザインと実現可能性

筆者が、未来型オフィスの形態の一つとして提唱する、人間にフォーカスした価値創造空間としての「ヒューマン・コミュニティオフィス」の在り方と「場」つくりスタイルを具現化、普遍化し、近未来の実社会に実装してゆくためのディレクションと方法論と実践的デザインコンセプトを示してみたい。
先ず、「ヒューマン・コミュニティオフィス」に求められるオフィスの在り方と機能を次のように仮定義する。
「ヒューマン・コミュニティオフィス」概念のベースラインにある理念は、
・人間の集い場
・人間の夢中創造の場
・自他の区別無く人生時間を共有する場
・心身健康に配慮されている場
・心理的安全性に満たされた場
・知の創造を促進するSECIモデルオリエンテッドの場
・コーポレート・ウエルビーンク(組織事業の成功)とエンプロイー・ウェルビーング (働く人々の幸せ)が調和されている「場」
・SDGsコンセプトにコンプライする「人類幸福実現の場」

これら理念は「超理想」として見えるかもしれない。しかしながら、オフィス概念を「働き方」のみにフォーカスさせるのではなく、人間一人ひとりの「暮らし方」、つまり「人生の生き方」の観点をも抱合させたゆとり(遊び)「場」としてとらえてみると、斯かる「超理想」は決して絵空事ではなく、人類として真剣に取り組んでゆけば実現可能な挑戦と考えている。
8.未来型ヒューマン・コミュニティ・オフィスコンセプトが繋ぐ人類知共創の世界とソーシャル・ハピネスの実現

オールドノーマルでのオフィス定義は「決められた時間と決められた場所で、人間が集合し交流しながら働く場所」的な解釈がされていた。筆者の私見ではあるが、このオフィス概念は、ニューノーマル社会では、多様でフレキシブルな「人間の活動場」としての概念にトランスフォーム進化を続けてゆくと考えている。いわば「フレキシブルオフィス」への進化ともいえる。
その新概念は、人間社会の多様なコミュニティを繋ぐ「社会場」としての機能、そして、働き暮らす人間個々の集団が、人生幸福意識(わくわく)を共有しながら共存・共生し、社会価値を創造してゆく「共創意識の場」としての役割、更には、働き集う人々が、快適で想像性に富む空間の中で、人生の「居場所」としての「喜びや安心感」を感じられる「心の交流場」としての存在となることにある。
現場や現業で働くエッセンシャルワーカーは、原則的に「組織単位」や「業務単位」で区分された「指定場所」で働く事が一般的である。一方で、非現業型でナレッジ事務職仕事に携わる人々は、パンデミック環境での「在宅勤務」が浸透した事に加えて、かならずしも、同一組織や集団が「占有」ないし「指定」する「固定場所」で、仕事(価値創造活動)をする必要性が薄れてくることも予想される。
ワークスタイルは、よりフレキシブルになり、「社会の仕事観」にバリエーションを与えるであろう。しかしながら、忘れてはならない重要な事がある。それは、共通する組織目的や社会目的を持つ人間同士が、リアルに意識交流し、個々人の暗黙知を、組織レベルで形式知化させてゆく知的コミュニケーションを促す「社会場的リアル時空間」が不可欠であるということ。人間意識交流場がウェルバランスされた「人間×時空概念」が、広義のソーシャルオフィスといえる概念であり、「ヒューマン・コミュニティオフィス」は具体的形態の一つといえる。
一般的に、非現業型でナレッジ事務職仕事に携わる人々にとっては、自分自身のパフォーマンスが最大化できるワークスタイルや、ワークプレイスの選択を、臨機応変かつ自律的にセルフデザインする事は簡単ではない。
そこで、組織(雇用者)側または社会が、ナレッジ型事務職仕事に携わる人々が、潜在的な能力を発出できる「心理的安全性」に満たされた「場」を提供できたとしたらどうであろう。 また、組織に於いて、事業創造やイノベーティブ価値を創出する労働者(クリエイター等)にとって、「最高のパフォーマンス」を発揮できる「共創的な場」を演出できたとしたら、組織の創造的生産性は格段に向上することが期待できる。更には、働く人々の「心身健康」と、「健康で幸福を意とする「健幸人生」を醸成してゆく「ウェル・ビーングの場」を、安心・安全性に配慮しながら実現してゆく事は、SDSsフィロソフィーに合致した理念とアクションプログラムでもある。
「人と場へのFM投資価値研究部会」での研究に関与している実務家の一人として、これからもソーシャル・ハピネスを共創してゆく「ヒューマン・コミュニティオフィス」をプロデュースしてゆきたいと考えている。